<本文>
1.はじめに
核燃料が原子炉内で
核分裂反応を起してエネルギーを出す過程で、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)の
同位体のほかに、マイナーアクチニド(MA)とよばれるUやPu以外の重元素(ネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)等)や、核分裂生成核種(FP)が生成する。そのため原子炉から取り出された使用済燃料は強い放射能をおびる。放射能の強さは、使用済燃料中の放射性核種の量とその放射性核種の半減期によって決まる。放射性核種が多いほど、またその核種の半減期は短いほど放射能は強い。半減期(
表1 )はその核種に固有の性質であるが、放射性核種の量は原子炉や燃料のタイプ、使用済燃料の燃焼度等によって大きく異なる。ここでは、現行の原子炉を代表する加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)の軽水炉2タイプ、原子炉内のウラン
燃料集合体の1/3をプルトニウム燃料集合体と置き換えた軽水炉(プルサーマル炉)、全燃料にプルトニウムを用い燃焼度も高い高速炉、やはり燃焼度は高いが軽水炉よりも、
235Uの割合の高いウラン燃料を用いる研究炉について、使用済燃料中にどのような核種が生成し、どの程度の放射能を持つか試算した。
2.計算モデル
計算モデルは、PWRとBWRについては現行型炉の燃料集合体に基づいて設定し、45GWd/tの燃焼度を仮定した。プルサーマル炉についてはPWRと同じモデルを用い、燃焼度も45GWd/tとした。高速炉の場合は特に参考にした炉はないが、ナトリウム冷却、ウラン−プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を想定し、燃焼度100GWd/tを仮定した。また、研究炉は日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)のJRR-3Mに基づくモデルを、
235Uの燃焼割合にして45%(およそ80GWd/t)まで燃焼させた。これらの計算は、セル計算といって原子炉中心付近の平均的な
燃料ピン1本(研究炉の場合は燃料板1枚)のみを扱う計算法で行った。ただしBWRの場合は、原子炉の炉心内の位置によって燃料ピンの状態が大きく異なるため、平均的なピンのモデルを作ることができない。通常BWRの特性を計算する場合は、単ピンセル計算ではなく集合体計算あるいは全炉心計算により評価するが、ここでは簡単なセルモデルを作るため、代表的な燃料ピン条件として冷却水ボイド率40%、可燃性毒物添加なしの条件を仮定し、
制御棒の影響は考慮しなかった。また、プルサーマル炉の場合は、UO
2燃料ピンのセル計算と
MOX燃料 ピンのセル計算結果を2:1の割合で混ぜあわせて、プルサーマル使用済燃料の放射能とした。
3.放射能の比較(原子炉から取り出し後1年)
現行炉では、使用済燃料は、半減期の非常に短い短寿命の放射性核種の放射能(と
崩壊熱)がなくなるまで1年〜数年原子炉建屋内のプールに保管して冷却される。
図1 では、この冷却の後の時点として原子炉の炉心から取り出し1年後を選び、各炉型の放射能(原子炉に装荷した燃料核種(UとPu)1gあたり)を比較している。
この図からわかるように、各炉型とも使用済燃料の放射能に占めるFPの割合が非常に大きい。特にJRR-3Mではほとんど全放射能がFPによるものである。FP核種は核分裂反応の数(発生エネルギー量)に比例して生成するので、燃焼度の高い高速炉やJRR-3Mの放射能がPWR、BWR、プルサーマル(Pu-th)炉よりも高い。もちろん装荷燃料核種1gあたりのことであり、炉内に数十トンの燃料を持つ軽水炉や高速炉と、数十kg程度のJRR-3Mとでは放射能の総量には大きな違いがある。PWRとBWRではFPの放射能に多少違いが見られるが、今回の試算の計算精度、特にBWRの計算モデルが炉心全体の状態を必ずしも表現できていない簡易的なものであることを考えると、ほぼ同程度の放射能と見ることができる。高速炉ではFPの他にPuの放射能も高くMAの寄与も見られる。PuはPWRやBWRの使用済燃料中にも多少存在し、プルサーマル炉ではPWR、BWRの2倍ほどの放射能となる。U同位体の放射能は、これらに比べてわずかであり、
図1に見ることはできない。
これらの放射能をさらに、個々の核種に分けてみる(
図2 )。
144Ceと、
144Prは全炉型を通して高い放射能を持つ一方、
106Ruと
106Rhのように高速炉で放射能の高い核種や
95Zr、
95NbのようにJRR-3Mで目立つ核種もある。
図2に見られるFP核種には、数百日から3年程度の半減期を持つ核種(
106Ru、
144Ce、
147Pm等)や、さらに長い半減期の核種(
90Srと
137Cs)の他に、
90Y、
106Rh、
137mBaや
144Prのように半減期の非常に短い核種も含まれる。炉心から取り出された後、短寿命核種はすぐ崩壊してなくなってしまうはずであるが、これらの核種については、より半減期の長い親核種(
90Sr、
106Ru、
137Csおよび
144Ce)が存在するため、親核種が存在する間その崩壊により生成され続ける。その他の短寿命FP、あるいは半減期の極めて長いFPの放射能の寄与は小さい。PuおよびMA核種の放射能はFPよりも低い。Pu同位体や
237Np、
241Am、
243Am、
244Cm等の生成量は少なくないものの、これらの半減期もFP核種と比べて長いためである。取り出し後1年の時点では、
241Puの放射能がほとんどである。
4.放射能の比較(原子炉から取り出し後50年)
図2に示されているFP核種の半減期はあまり長くなく、最大30年程度しかない。
図3 にはPWR、プルサーマル炉、高速炉、JRR-3Mそれぞれの使用済燃料の放射能の時間変化とU、Pu、MA、FPの寄与を示している(BWRはPWRとほとんど変らない)。炉型にかかわらずFPの放射能は原子炉取り出し後50年を過ぎたあたりから大きく減少することがわかる。現在の使用済燃料処分のシナリオでは、使用済燃料(あるいはそれを
再処理した後の高レベル廃棄物)は50年程度の冷却時間をおいた後、深地層に処分される。そこで、原子炉から取り出し後50年での放射能も比較してみる(
図4 )。FP核種の放射能が依然として高いものの、その割合が大きく減少している。特にJRR-3Mは、もともとFPの放射能の割合が高かったため、全放射能の減少割合が他の炉型と比べても大きい。個々の核種毎の放射能を
図5 に示す。半減期から予想される通り、FP核種では
90Srと
137Cs(およびこれらの娘核種)以外の放射能が減衰してしまっている。重元素では、
241Puの崩壊により生じる
241Amの放射能が増えていることもわかる。
5.放射能の比較(原子炉から取り出し後1000年)
図3においてさらに年数が経過した時点を見ると、FPの放射能はおよそ500年後以降長寿命FPと呼ばれる
99Tcや
129I等だけが残り、使用済燃料中の放射能の主役はMAとPuに移っている。原子炉から取り出し1000年後時点での各炉型の放射能の比較をを
図6 に示す。1000年という期間は、地中処分した使用済燃料を格納する金属容器の健全性が損われ容器内の放射性核種が地層を通って環境中へ移行し始める時期として想定した。
図6に見られるように、1000年後の時点での放射能はPuとMAが同程度ずつ寄与していることがわかる。もし、使用済燃料を再処理してPuを分離するのであれば、残る放射能はほとんどMAとなる(Cmの崩壊によりPuが生成するので、Puの寄与が零にはならない)。Pu燃料を用いMA核種の生成量も多い高速炉使用済燃料の放射能が、他の炉型に比べて高い。プルサーマル炉の使用済燃料もウラン燃料のPWRやBWRと比べると倍程度の放射能を持つ。核種別の放射能に分けてみると(
図7 )、
239Pu、
240Pu、
241Amの寄与が大きい。原子炉から取り出し後50年の時点まで高い放射能を持っていた
241Puは、
241Amへと崩壊してなくなってしまっている。
<図/表>
表1 U、Pu、MA核種および主なFPの半減期
図1 原子炉から取り出し1年後の使用済燃料中の放射能
図2 使用済燃料中の放射能に対する核種別の寄与(取り出し1年後)
図3 PWR使用済燃料の放射能の原子炉から取り出し後時間による変化
図4 使用済燃料中の放射能(取り出し50年後)
図5 使用済燃料中の放射能に対する核種別の寄与(取り出し50年後)
図6 使用済燃料中の放射能(取り出し1000年後)
図7 使用済燃料中の放射能に対する核種別の寄与(取り出し1000年後)
<関連タイトル>
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
高速増殖炉 (03-01-01-01)
JRR-3(JRR-3M) (03-04-02-02)
<参考文献>
(1) 奥村 啓介、金子 邦夫、土橋 敬一郎:SRAC95;汎用核計算コードシステム、JAERI-Data/Codeレポート、96-015(1996)、日本原子力研究所
(2) T.Nakagawa,K.Shibata,S.Chiba et al.:Japanese Evaluated Nuclear Data Library Version 3 Revision-2:JENDL-3.2,J.Nucl.Sci.Technol.,vol.32,p.1259 (1995)