<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子炉の物理
<タイトル>
原子炉物理の基礎(7)種々の体系における中性子の減速 (03-06-04-07)

<概要>
 中性子減速理論を用いて減速材からなる無限に広い水素体系中での中性子束φ(E)を定める場合の考え方をまとめた。ここでは中性子が原子核との衝突でエネルギーを得ることのない〜1eV以上の領域を対象とする。次に質量数A>1の任意の無限に大きい体系中で弾性散乱により中性子が減速される場合を取り上げた。
<更新年月>
2006年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.無限に広い水素体系中での中性子の減速
 ここでは中性子減速理論(原子力百科事典 03-06-04-06参照)を用いて減速材からなる無限に広い水素体系中での中性子束φ(E)を定めることとする。中性子が原子との衝突でエネルギーを得ることのない〜1eV以上の領域を対象とする。中性子の減速を検討する際に用いられる用語を表1にまとめた。(本文中の式の表示については表2参照)
1.1 吸収のない場合
 水素の場合、熱エネルギーでσas〜0.014で、σaは1/vに比例するのに対し、σsはほぼ一定なので、吸収がないという近似は十分妥当である。
 今、エネルギーE0に単位体積あたり毎秒S個の割合で中性子を放出する中性子源がある水素体系を考える。すると、エネルギーEにおける衝突密度は、それより高いエネルギーE’〜E’+dE’で衝突(散乱)されてEにやってくる中性子数に等しいので
  Σt(E)φ(E)=Σs(E)φ(E)=∫EE0[Σs(E’)φ(E’)/E’]dE’+S/E0 ・・・(1)
である。第2項は中性子源での衝突で直接やってくる中性子を示す。この方程式を中性子減速方程式という。衝突密度F(E)を用いると
  F(E)=S/E0+∫EE0[F(E’)/E’]dE’ ・・・(2)
となる。この式を微分して書き直すと、dF(E)/F(E)=−dE/E ・・・(3)
 これを積分すれば
  ln(F(E)・E)=C もしくは F(E)=C’/E ・・・(4)
が得られる。式(2)でE=E0とするとF(E0)=S/E0なので定数はC’=Sと定まる。すなわち、
  F(E)=S/E ・・・(5)
 また、中性子束は、次式のようになる。
  φ(E)=S/EΣs ・・・(6)
 もし中性子源が単一のエネルギーでなく、分布S(E)を持っていたとすると、
  φ(E)=[∫EE0S(E’)dE’]/EΣs(E)+S(E)/Σs(E) ・・・(7)
1.2 吸収のある場合
 次に水素減速材中に238Uのような吸収性の原子核がある場合を考える。吸収核の散乱断面積はゼロでなく、吸収核による散乱も考えられるが、吸収核の中性子散乱断面積は水素のそれと比べて十分小さくまた原子核を「無限に重い」と近似できるので吸収核による散乱では中性子のエネルギーが変らないとして、吸収核による中性子の散乱を無視する。この場合の減速方程式は
 Σt(E)φ(E)=[Σs(E)+Σa(E)]φ(E)
   =∫EE0 dE’[Σs(E’)φ(E’)/E’]+(S/E0)[Σs(E0)/Σt(E0)] ・・・(8)
積分の部分をΣs(E’)=Σt(E’)−Σa(E’)を用いて書き直し、
F(E)=Σt(E)φ(E)を用いると
              Σs(E’)  F(E’)   Σs(E0)・S
 F(E)=∫EE0  dE’ ————・——— +——————  ・・・(9)
              Σt(E’)   E’    Σt(E0)・E
これを微分して
  dF(E)/dE=−[Σs(E)・F(E)/Σt(E)・E]=−F(E)/E+[Σa(E)/Σt(E)](F(E)/E) ・・・(10-1)
すなわち
 dF/F(E)=−dE/E+[Σa(E)/EΣt(E)](dE/E) ・・・(10-2)
これを積分して、
 lnF(E)|EE0+ln(E)|EE0=∫EE0[Σa(E’)/Σt(E’)](dE’/E’)+C ・・・(11-1)
すなわち、
  E0F(E0)             Σa(E’)   dE’
  ———— = C’exp[−∫EE0 ————・——— ] ・・・(11-2)
   EF(E)              Σt(E’)   E’
となり、F(E)は
  F(E)=C’’[E0F(E0)/E]exp[−∫EE0{Σa(E’)/Σt(E’)}(dE’/E’)] ・・・(11-3)
で与えられる。さらにE=E0のときF(E0)=[Σs(E0)/Σt(E0)](S/E0
であるから、これを式(11-3)と比較することによりC’’=Sとなり
  F(E)=[Σs(E0)/Σt(E0)](S/E)exp[−∫EE0{Σa(E’)/Σt(E’)}(dE’/E’)] ・・・(11-4)
となる。この式でΣa(E)=0とすればF(E)=S/Eとなり、前の結果に一致する。
 また、中性子束は
  φ(E)=[S/Σt(E)]・
  [(Σs(E0)/Σt(E0))(1/E)exp[−∫EE0{Σa(E’)/Σt(E’)}(dE’/E’)] ・・・(12)
となる。これが吸収体を含む水素減速材中での中性子スペクトルを与える。
 減速材が水素の場合、表1の(b)式で与えられる減速密度(図1参照)は、
  q(E)=EF(E) ・・・(13)
となる。吸収のない場合、式(5)を用いるとq(E)=S=q0となり、これは中性子源からでた中性子数とあるエネルギーを減速されていく中性子数は等しいので当然である。
 吸収のある場合、式(13)に、式(11-4)を代入すると、
  q(E)=[Σs(E0)/Σt(E0)]Sexp[−∫EE0{Σa(E’)/Σt(E’)}(dE’/E’)] ・・・(14)
となる。q(E)/q0という比は源中性子がE0からEまで減速される間に吸収されない確率を表わす。吸収が殆ど重い核の共鳴吸収で起こることを考えると、これを「共鳴吸収を逃れる確率p(E)」と考えることができる。すなわち共鳴吸収を逃れる確率が次式で表される。
  p(E)=q(E)/q0=exp[−∫EE0{Σa(E’)/Σt(E’)}(dE’/E’)] ・・・(15)

2.A>1の減速材体系中での中性子の減速
2.1 吸収のない場合
 エネルギーE0で単位体積、単位時間あたりS個の中性子が発生しているとすると、この場合の減速方程式は次のようになる。
 Σt(E)φ(E)=Σs(E)φ(E)=∫EE0[Σs(E’)φ(E’)/(1−α)E’]dE’+S/(1−α)E0
   αE0<E’<E0 ・・・(16-1)
Σs(E)φ(E)=∫EE/α[Σs(E’)φ(E’)/(1−α)E’]dE’  E<E’<αE0 ・・・(16-2)
 この場合、水素減速材のときと同じようにF(E)=Σs(E)φ(E)と置いて微分すると
  (dF/dE)=[1/(1−α)E]・[F(E/α)−F(E)] ・・・(17)
となり、F(E/α)という項が入る。またF(E)、またはその微分は中性子がn回の衝突で減速されるときの最低のエネルギーであるαnE0で不連続となるため、解法は複雑となる。
 そのため、中性子源から遠く離れ、中性子源からの影響が無視できるようになった領域での(16−2)の解についてのみ考えることとする。この領域を漸近領域という。(16−2)において(F(E)=Σs(E)φ(E)とした後) F(E)=C/Eとおいて右辺に代入すると
  ∫EE/α[1/(1−α)E’](C/E’)dE’=C/E=左辺 ・・・(18)
となるので、これが解であることが分かる。定数Cは次のようにして定めることができる。
 図2のようにE’のまわりのdE’内で散乱された中性子がE以下のエネルギーに減速される確率は
(E−αE’)/(1−α)E’であるから、単位時間、単位体積あたりにdE’からE以下のエネルギーに減速される中性子の数、すなわち減速密度は
 q(E)=∫EE/α[(1−αE’)/(1−α)E’]F(E’)dE’=C/(1−α)∫EE/α[(E/E’2)−(α/E’)]dE’
   =C[1+{α/(1−α)}lnα]=Cξ ・・・(19)
ここでξについての表1の(d)式を用いた。
 吸収のない無限に広い体系中での減速密度はq=Sであるから、
  C=S/ξ ・・・(20)
となり、衝突密度F(E)、中性子束φ(E)はそれぞれ次のように与えられる。
  F(E)=S/ξE ・・・(21)
  φ(E)=S/ξEΣs(E) ・・・(22)
2.2 吸収のある場合の減速
 式(16−2)に吸収を導入すると、
  [Σa(E)+Σs(E)]φ(E)=∫EE/α[Σs(E’)φ(E’)/(1−α)E’]dE’ ・・・(23-1)
または
  F(E)=∫EE/α[Σs(E’)/Σt(E’)][F(E’)/(1−α)E’]dE’ ・・・(23-2)
となる。この式は[Σs(E)/Σt(E)]という因子があるため、一般的に解を得ることはできず、数値解法によるか、φ(E)に近似を行うこととなる。
<図/表>
表1 中性子減速で用いられる用語の定義
表2 本文中で使用した式の表示一覧
図1 水素による減速密度解析のための概念図
図2 漸近エネルギー領域における減速密度計算のための概念図

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<関連タイトル>
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<参考文献>
(1)平川直弘、岩崎智彦:原子炉物理入門、東北大学出版会(2003年11月)
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