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<概要>
 高温ガス炉は、1000℃近い高温ガスを取り出し、高温の熱利用を可能とする原子炉である。高温工学試験研究炉(HTTR)は試験研究炉として、高温ガス炉の技術基盤の確立と高度化に関する試験、さらに高温炉心を用いた照射試験を行うことを目的として、日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)に建設された原子炉であり、1998年11月10日に初臨界を達成した。その後、2001年12月7日に定格出力30MWおよび原子炉出口冷却材温度850℃を達成し、2004年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。2007年5月には30日間の定格連続運転(850℃)、2010年3月には50日間の高温連続運転(950℃)を達成した。HTTRでは、高温ガス炉の固有の安全性に関する安全性実証試験や核熱利用技術の開発研究等を進めてきた。また、高温環境下で大型試料の照射が可能であるという機能を活かした高温ガス炉技術の高度化および先端基礎研究としての燃料・材料の照射試験が可能である。
<更新年月>
2015年10月   

<本文>
 高温工学試験研究炉(HTTR:High Temperature engineering Test Reactor)は、熱出力30MWt、ヘリウムガス冷却、ピン・イン・ブロック型国産燃料を用いる。原子炉出口ヘリウム温度は850℃(高温試験運転時は950℃)、入口ヘリウム温度は395℃である。基本仕様を表1に示す。
 HTTRは、建設終了後、原子炉設備・機器の系統別・総合機能試験を実施した。その後、燃料装荷を開始し、1998年11月10日に初臨界を達成した。引き続き出力を段階的に上昇させ、2001年12月7日に定格出力30MWと原子炉出口冷却材温度850℃を達成した。その後定常運転を行い、2004年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。HTTRの建設および試験・運転工程を図1に示す。2004年6月に使用前検査合格証、2006年9月に冷却材喪失試験等の許可を取得した。
1.原子炉施設の概要
 原子炉施設の全体の配置を図2に示す。原子炉建家を中心に、その周囲には冷却塔、機械棟等が配置されている。更に、将来に向けて、熱利用施設のための敷地を確保している。
 原子炉建家を図3に示す。地上2階、地下3階で高さ約24m、平面約48m×約50m、ほぼ正方形である。内部には原子炉本体、原子炉冷却系統施設、工学的安全施設、計測制御系統施設、電気施設、放射性廃棄物廃棄施設、実験設備等が設置されている。
2.原子炉本体
 原子炉本体を図4に示す。 原子炉本体は、炉心を構成する燃料体や制御棒案内ブロック等のほか、炉心支持黒鉛構造物等の炉内構造物および反応度制御設備を鋼製の原子炉圧力容器内に納めたものである。通常運転時および運転時の異常な過渡変化時に核分裂生成物(FP:Fission Product)の1次系への放出を防止するため、被覆燃料粒子の被覆層の破損および劣化を抑える必要がある。このため、通常運転時の燃料最高温度1495℃が定められ、これを超えないように設計されている。また、燃料の許容設計限界として燃料温度1600℃が定められ、運転時の異常な過渡変化に対して燃料最高温度がこれを超えないように設計されている。
2.1 炉心
 燃料温度分布を平担化して燃料最高温度を極力低く抑えるため、炉心を径方向、軸方向ともに4領域に分けた領域別燃料装荷方法を採用している。軸方向については、燃料温度分布を平担化し、燃料最高温度の低減化を図るため、炉心上部のウラン濃縮度を高くし、冷却材温度の低い炉心上部の出力を相対的に高くしている。径方向については、中性子の漏れによる炉心外周部の出力低下を補償して、径方向燃料温度分布を平担化するため、炉心外周部のウラン濃縮度を高くしている。また、燃焼期間を通して反応度を適切に保つため、反応度調整材を各々の燃料体に装荷している。炉心構成説明図(ウラン濃縮度および反応度調整材の炉内配分)を図5に示す。基準炉心の主要核熱特性を表2に示す。
 熱流動設計では、炉心構成要素、炉内構造物等の寸法諸元と、核設計計算で得られた炉内出力分布および中性子照射量分布によるそれらの形状の変化を基に、炉心内の冷却材流量配分を定め、これに基づいて燃料温度の計算を行っている。
 通常運転時の燃料最高温度を極力低くするために、燃料の冷却に直接関与しない冷却材流量を低減して、燃料体の冷却材流路を流れる流量を確保するように、制御棒案内カラム上の上部遮へい体ブロック上面にシールリングを設けている。
2.2 燃料
 燃料体には、A型燃料体(標準燃料体)と、照射試験燃料として標準燃料体の一部と交換して装荷するB型燃料体(試験燃料体)がある。標準燃料体および試験燃料体は、対面間距離360mm、高さ580mmの六角柱であり、燃料棒とこれを挿入・保持する黒鉛ブロック等から成る。標準(A型)燃料体説明図を図6に示す。
 A型燃料体の燃料棒は、外径約34mmの円筒形の黒鉛スリーブ中に燃料コンパクトを14個封入したもので、1燃料体あたり31本または33本挿入する。燃料コンパクトは、二酸化ウラン(UO2)の燃料核を熱分解炭素(PyC)および炭化ケイ素(SiC)の薄い層で四重に被覆した被覆燃料粒子を、黒鉛と炭素の混合物から成る素地(黒鉛素地)に分散した円筒形状である。
 B型燃料体は、A型燃料体と同じ外形寸法を有する六角形状の黒鉛ブロックに試験用の燃料棒を挿入する構造になっている。
3.冷却系統
 原子炉冷却系統を図7に示す。 原子炉冷却設備は、通常運転時に原子炉を冷却する主冷却設備、異常な過渡変化に伴う原子炉スクラム時と強制循環による炉心の冷却が可能な事故時に原子炉から残留熱を除去する補助冷却設備、および強制循環による炉心の冷却ができない事故時に原子炉を冷却する炉容器冷却設備からなる。1次冷却材(ヘリウムガス)は、原子炉出口で約950℃、原子炉入口でも約400℃と高温であるため、主冷却設備および補助冷却設備の一部の機器は高温で使用されることになる。これらの高温機器の設計では、使用温度を可能な限り低くするとともに、負荷荷重を極力低減するように工夫されている。
3.1 1次冷却設備
 1次冷却設備は、中間熱交換器(IHX:Intermediate Heat Exchanger)と1次加圧水冷却器(1次PWC:Pressurized Water Cooler)の2種類の熱交換器を並列に設置し、原子炉で発生した熱を最終的に加圧水冷却設備の加圧水空気冷却器により大気へ拡散する設備である。
 本設備の運転方法には、1次冷却設備で約20MWおよびIHXで約10MWの除熱を行う並列運転と、IHXは使用せず1次冷却設備のみで約30MWの除熱を行う単独運転とがある。IHXは1次冷却材出口温度が約950℃であり、また、2次冷却材(ヘリウムガス)出口温度も約900℃という高温で使用される。しかし、1次冷却設備を構成するその他の機器は、二重胴構造および二重管構造にして耐圧部の使用温度を約400℃に下げている。
3.2 2次冷却設備
 2次ヘリウム冷却設備は、IHXを介して1次冷却材から2次冷却材へ伝達された熱を2次冷却設備を介して加圧水冷却設備に伝達する設備である。IHXからの高温の2次冷却材を導く配管および2次冷却設備は、それぞれ二重胴構造および二重管構造として耐圧部の使用温度を約300℃に下げている。
3.3 加圧水冷却設備
 加圧水冷却設備は、1次冷却設備および2次冷却設備を介して加圧水に伝達された熱を加圧水空気冷却器により大気に放散する設備である。
4.工学的安全施設
 工学的安全施設は、原子炉施設の事故時に、燃料の破損や原子炉施設外への放射性物質の放散を防止または抑制して、原子炉施設周辺の一般公衆の安全を確保するためのものであり、補助ヘリウム冷却系、炉容器冷却設備および原子炉格納施設からなる。
4.1 補助ヘリウム冷却系
 補助ヘリウム冷却系は、原子炉からの残留熱を補助冷却器を介して補助冷却水系に伝達する。通常運転時には補助ヘリウム循環機は停止しているが、原子炉圧力容器からの配管(二重管)および補助冷却器は、1次ヘリウム純化設備への少量の1次冷却材を流すことにより予熱されている。これにより原子炉スクラム時に補助冷却設備による冷却を開始した時に生ずる熱衝撃を緩和している。補助ヘリウム冷却水系は、補助冷却器を介して補助冷却水に伝達された熱を補助冷却水空気冷却器により大気に放散する。
4.2 炉容器冷却設備
 炉容器冷却設備は、減圧事故および1次冷却設備の二重管破断事故等補助冷却設備により1次冷却材を炉心に強制循環させて冷却することができない事故時に、原子炉圧力容器の外面より主に輻射を利用して原子炉圧力容器、炉内構造物、炉心構成要素等の残留熱を除去し、原子炉の健全性を維持する設備である。
4.3 原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、原子炉格納容器、サービスエリアおよび非常用空気浄化設備から成る。原子炉格納容器の最高使用圧力および最高使用温度は、HTTRにおいて想定される最も厳しい事象となる1次冷却設備の二重管破断事故を基に設定している。また、漏えい率は、原子炉格納容器内の空気重量の0.1%/d以下としている。
4.4 非常用空気浄化設備
 非常用空気浄化設備は、微粒子フィルタ、ヨウ素除去フィルタを含む排気フィルタユニットおよび排風機から成り、放射性物質の放出のおそれのある減圧事故時等に原子炉格納容器隔離信号により起動し、サービスエリアの負圧を維持しながら排気フィルタユニットを通して放射性物質を低減させ、排気筒に沿って設ける排気管(地上高さ約80m)から大気へ放散する。
5.照射設備
 HTTRは照射場として、1)照射雰囲気が高温である、2)照射雰囲気がヘリウムガスである、3)広くて多彩な照射スペースを有する、等の特徴をもつ試験研究炉である。
6.今後の開発計画
 HTTRは、高温ガス炉技術の基盤の確立と高度化を図ることを目的としている。そのため、HTTRの運転データの蓄積や、高温ガス炉固有の特性を明らかにするため反応度印加事象を模擬した制御棒引き抜き試験や冷却材流量減少を模擬した流量低下試験等の安全性実証試験を進めてきた。また、熱利用技術基盤の開発として、水を原料として水素を製造するISプロセスの研究開発、原子炉と熱利用プロセスを接続するためのシステムインテグレーション技術の研究開発等を進めてきた。
 2011年3月の東日本大震災後の運転再開の取組として、原子炉施設の点検作業を実施し、2012年9月、健全性確認報告書が監督官庁に提出され、報告書に係る官庁ヒアリングが行われている。再稼働後は、米国、仏国等7カ国が参画している国際共同研究共同プロジェクトのための試験が計画されている。二国間(二機関)国際協力として、日本−カザフスタン、日米、日中、日韓の協力が行われる計画である。表3に国際協力の一覧を、図8に世界における高温ガス炉の研究開発状況を示す。
(前回更新2006年8月)
<図/表>
表1 高温工学試験研究炉の基本仕様
表1  高温工学試験研究炉の基本仕様
表2 高温工学試験研究炉の基準炉心の主要核熱特性
表2  高温工学試験研究炉の基準炉心の主要核熱特性
表3 高温ガス炉に関する国際協力一覧
表3  高温ガス炉に関する国際協力一覧
図1 高温工学試験研究炉の建設および試験・運転工程
図1  高温工学試験研究炉の建設および試験・運転工程
図2 高温工学試験研究炉の原子炉施設全体配置図
図2  高温工学試験研究炉の原子炉施設全体配置図
図3 高温工学試験研究炉の原子炉建屋説明図
図3  高温工学試験研究炉の原子炉建屋説明図
図4 高温工学試験研究炉の原子炉本体説明図
図4  高温工学試験研究炉の原子炉本体説明図
図5 高温工学試験研究炉の炉心構成説明図
図5  高温工学試験研究炉の炉心構成説明図
図6 高温工学試験研究炉の燃料体説明図
図6  高温工学試験研究炉の燃料体説明図
図7 高温工学試験研究炉の原子炉冷却系統説明図
図7  高温工学試験研究炉の原子炉冷却系統説明図
図8 世界の研究開発状況
図8  世界の研究開発状況

<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
日本における高温ガス炉技術の開発と国際協力 (03-03-06-01)
日本原子力研究開発機構 (13-02-01-35)

<参考文献>
(1)斎藤伸三ほか:高温工学試験研究炉の建設と研究開発、原子力誌、32(9)、847−871(1990)
(2)日本原子力研究所高温工学試験研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状1998年、日本原子力研究所(1999年3月)
(3)日本原子力研究所高温工学試験研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状1996年、日本原子力研究所(1996年10月)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック1998/99年版(1999年2月17日)
(5)山下清信ほか:高温工学試験研究炉(HTTR)の臨界試験、(I)試験計画、燃料装荷及び核特性試験、原子力誌、42(1)、30−42(2000)
(6)藤川正剛ほか:HTTR(高温工学試験研究炉)の出力上昇試験、日本原子力学会和文論文誌、1(4)、361−372(2002)
(7)S.Fujikawa et al.:Achievement of reactor−outlet coolant temperature of 950℃ in HTTR,J.Nucl.Sci.Tech.Vol.41,No.12,1245−1254(2004)
(8)橘幸男ほか:高温工学試験研究炉(HTTR)の安全性実証試験計画、JAERI−Tech 2002−059(2002)
(9)日本原子力産業会議:原子力年鑑2005(2004年10月)、p.282
(10)(独)日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター原子力基礎工学部門:高温ガス炉パンフレット(2006年2月)、p.16
(11)日本原子力研究開発機構ホームページ:http://httr.jaea.go.jp/
(12)日本原子力研究開発機構高温ガス炉水素・熱利用研究センターホームページ、http://www.jaea.go.jp/04/o-arai/nhc/index.html
(13)日本原子力研究開発機構高温ガス炉水素・熱利用研究センターホームページ
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