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<概要>
 平成7年(1995年)12月8日、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)の高速増殖原型炉「もんじゅ」において、40%出力状態でのプラントトリップ試験のための出力上昇中に、2次主冷却系Cループ配管部からナトリウム(以下「Na」)が漏えいする事故が起きた。原因は配管に挿入して取り付けられたナトリウム温度計(熱電対温度計)ウェル(さや管)の細管部が折損し、折損によって生じたさや管太管部と熱電対との隙間を通って当該配管の外へ漏えいした。この漏えいにより、Naの酸化物が2次主冷却系配管室(C)床面に堆積し、一部エアロゾルとなって当該配管室(C)周辺に飛散した。当該温度計さや管の折損原因は破断面の調査の結果、流力振動に起因していることがわかった。その後、必要な対策を行い安全面について改善が図られた。
<更新年月>
2009年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.漏えい事故の経緯と現場状況
 動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構、以下「動燃」という。)の高速増殖原型炉「もんじゅ」(熱出力714MW、電気出力280MW;主要目値は表1参照)は平成6年(1994年)4月5日に初臨界を達成し、「原子炉等規制法」の規定に基づく使用前検査として出力試験を実施していた。この試験の一環として、電気出力40%でのプラントトリップ試験を行うため平成7年12月6日22時頃に原子炉を起動し、熱出力約45%に向けて出力上昇操作を行っていた。
 12月8日19時47分、「Cループ2次主冷却系中間熱交換器出口ナトリウム温度高」の警報(事故発生)と火災報知器が同時に発報、その1分後に「Cループ2次主冷却系ナトリウム漏えい」警報も発報した。事故発生時の原子炉出力は約43%、電気出力は約40%であった。現場確認のため2次主冷却系配管室(C)の扉を開けたところ、白煙の発生が確認され、さらに火災報知器の発報が拡大したことから、ナトリウム(以下「Na」)漏えいと判断し原子炉を手動停止することとし、19時59分から出力を降下させた。再度同配管室の扉の隙間から確認したところ白煙の増加が認められたため、21時20分手動で原子炉を停止した。原子炉停止後は、Na漏えい量を抑えるため、22時46分に2次主冷却系Cループ配管部のNaをNa貯蔵タンクに移す作業を始め、12月9日0時15分に完了した。
 2次主冷却系配管室(C)を調査した結果、中間熱交換器2次主冷却系出口配管のNa温度計(熱電対温度計、以下「温度計」という。)挿入取り付け部付近とその周囲にNa漏えいに伴う固化物が認められ、配管の下方にある換気空調用ダクトなどが損傷していた。
 このNa漏えい事故による原子炉の安全性や周辺環境への影響はなかった。なお、国際原子力事象評価尺度(INES)では「異常な事象」のレベル1運転制限範囲からの逸脱にランクされた。
 図1に「もんじゅ」の原子炉冷却系統概略図を示す。
2.漏えい現場における作業
 漏えい箇所の特定と原因の究明のため、12月14日から漏えい現場において以下の作業が行われた。
(1)堆積物の除去・回収と漏えい箇所の特定
 漏えいしたNaの反応化合物は床面に白く半円状(約1立方メートル)に堆積しており、一部エアロゾル状となって周囲の壁や床面に粉状に飛散していた。また、2次主冷却系配管室(C)以外の部屋にも換気系を介してNa化合物の飛散がありこれらを除去した。漏えい箇所におけるNa化合物は配管保温材の外表面に付着しており、保温材内部にはその塊は認められなかったので、Naは温度計挿入取り付け部の内部を通って外部に漏えいした可能性が高いと考えられた。Na漏洩事故の状況を図2に示す。
(2)温度計挿入部のX線調査
 漏えいの可能性が高いと考えられた温度計挿入取り付け部近傍でのNa化合物の付着状況と温度計内部の状況を把握するために、当該部のX線撮影を行った。その結果、温度計のウエル(以下「さや管」という。)の細管部が太管部より折損していることが確認された。
(3)温度計の配管からの切り出し
 温度計さや管部の折損状況を詳しく調べるため、温度計を2次主冷却系配管から切断して取り出し、日本原子力研究所東海研究所(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所、以下「原研」という。)に送られた。その後、金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構、以下「金材研」という)に移してさらに詳細な調査が行われた。
3.動燃及び関係機関の対応
(1)動燃の取り組み
 平成7年12月14日に動燃は理事長を本部長とする「もんじゅ事故対策本部」を設置し原因究明や対外的な対応を行ってきた。
 原因の究明に当たっては、これまでに蓄積した技術開発成果や経験を基に、動燃の技術者が主体となりメーカの協力も得て取り組んできた。
(2)原子力安全委員会の動き
 原子炉安全専門審査会に平成7年12月20日付けで高速増殖原型炉「もんじゅNa漏えいワーキンググループ」を設置し、原因究明と再発防止のための調査・審議を行ってきた。
(3)科学技術庁(現文部科学省、以下同じ。)の動き
 平成7年12月11日付けで原子力安全技術顧問等で構成される「もんじゅNa漏えい事故調査検討タスクフォース」を設置し、原因究明と再発防止策の検討を行ってきた。平成8年2月9日にはこれまで行ってきた調査、検討結果を取りまとめ発表した。また、5月23日には詳細調査結果、事故の原因、今後の対応と改善策について発表した。
4.事故原因等調査結果のまとめ
 「もんじゅ」2次主冷却系配管で発生したNa漏えい事故の原因等について調査結果を以下に述べる。
(1)ナトリウム漏えい量
 今回の事故により、約0.7トンの2次系Naが「もんじゅ」の原子炉補助建物の2次主冷却系配管室(C)内に漏えいしたと推定された。
(2)Na漏えい箇所
 漏洩箇所の保温材を撤去した配管周辺にはNaが漏えいした痕跡はなく、温度計に取り付けられていた電線管が外れ温度計と電線管の接続部はNa化合物で埋められていた。配管と温度計の取り付け部の溶接部に異常は認められなかった。図3に当該温度計の折損状況を示す。
(3)温度計さや管細管部の探索調査
 温度計近傍のX線撮影の結果、2次主冷却系配管内に差し込まれていた温度計さや管の細管部分が見当たらず、その中に組み込まれていた熱電対部が、図3に示すように、下流側へ約45度の方向に曲がっていることがわかった。その後、温度計さや管の細管部分は当該温度計の下流側にある蒸気発生器の過熱器内のNa分配器の中で発見(図1参照)、回収され、太管部の破断面と共に突き合わせて折損の原因解明が行われた。
(4)温度計さや部破面の詳細調査
 金材研における光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡などの観察結果から、専門家の一致した見解では、折損原因は、配管内Naの流れによる流力振動と温度計さや管細管部の固有振動との共振現象に起因した高サイクル疲労によるものと考えられた。また、動燃と原研が行った流力振動解析によっても確認された。すなわち、流れの中で、温度計さや管の太管と細管における段付き部の応力集中による高サイクル疲労が生じてき裂が発生し、それが徐々に進展して最終的にさや管細管部がひきちぎれる形で破断したものと推定された。
(5)温度計の設計、製作、施工等の調査
 温度計さや管はステンレス鋼で製作されていて、太管部から細管部に急激に太さが変わる段付きの構造である(図4参照)。
 当該温度計さや管部の強度等の評価検討の結果、この曲率半径の小さい段付き部に応力集中が起こり、高サイクル疲労によってき裂が発生したと推定された。なお、温度計の構造については、「原子炉等規制法」に基づく「原子炉施設についての設置許可」ならびに「設計および工事の方法の認可」において、審査の対象にはなっていない。
(6)動燃大洗工学センター(現日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター)において事故時の状態を模擬した「Na漏えい燃焼実験」を実施した。その結果、Na漏えい燃焼下で床ライナーが腐食されるメカニズムがあった。
5.事故の教訓を踏まえた対応と改善策
 この事故を踏まえ、動燃はすべての2次系の温度計について改良を行い(図5参照)取替えることとした。また、漏えい早期検知対策として漏えいの早期検出と監視、漏えい停止対策として緊急ドレン、影響緩和対策としてエアロゾル影響抑制、Na燃焼の抑制、コンクリートからの水分放出抑制、重要機器の保護を考えた種々の設備改善策がとられることとなった(図6参照)。さらに、運転マニュアルの整備、教育訓練等を適切に行い、事故時の対応のための体制整備および自主保安の強化を図った。
 科学技術庁は、温度計の健全性の確保について審査および検査を行い、2次系温度計以外の「もんじゅ」施設の設備類について安全性総点検を実施するとともに、運転管理の評価、事故時連絡体制の強化および本庁の体制整備を図った。また、国民に対して客観的で信頼感のある情報を提供することとし、平常時はもとより事故時における関係地方自治体との連携を強化し、原子力に対する国民的合意形成のための努力を一層強化することとした。
 「もんじゅ」は平成17年9月に改造工事に着手し、平成18年12月から工事確認試験、平成19年8月からプラント確認試験が行われている。平成20年9月に屋外排気ダクトの腐食孔が見つかったため、再発防止策を検討し、平成21年5月末を目途に補修が行われることとなった。その後に性能試験の開始(運転再開)を予定している。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 高速増殖原型炉「もんじゅ」プラント主要目値
表1  高速増殖原型炉「もんじゅ」プラント主要目値
図1 高速増殖原型炉「もんじゅ」の原子炉冷却系統概略(ナトリウム温度計の折損場所および折損さや部発見場所)
図1  高速増殖原型炉「もんじゅ」の原子炉冷却系統概略(ナトリウム温度計の折損場所および折損さや部発見場所)
図2 ナトリウム漏えい事故の状況(平成7年12月8日)
図2  ナトリウム漏えい事故の状況(平成7年12月8日)
図3 ナトリウム温度計の折損状況
図3  ナトリウム温度計の折損状況
図4 ナトリウム温度計およびウェルの構造と形状
図4  ナトリウム温度計およびウェルの構造と形状
図5 温度計改良の考え方
図5  温度計改良の考え方
図6 「もんじゅ」の設備改善
図6  「もんじゅ」の設備改善

<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
蒸気発生器(ナトリウム−水)に関する研究 (06-01-02-04)
ナトリウム燃焼挙動に関する研究 (06-01-02-06)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム取扱い技術 (03-01-02-10)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)
海外諸国の高速炉におけるナトリウム漏えい事故 (03-01-03-08)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局:動力炉・核燃料開発事業団 高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏洩事故の調査状況について(平成8年2月9日)、エネルギー、29(4)、202-208(1996);原産マンスリー、No.7,18?39(1996)
(2)科学技術庁原子力安全局:動力炉・核燃料開発事業団 高速増殖原型炉「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故について、エネルギー、29(4)、209-205(1996)
(3)動力炉・核燃料開発事業団:「もんじゅ」事故パンフレット、No.2 、漏えい状況と回収作業(1996年3月)
(4)原子力産業新聞、第1835号(1996年4月4日)
(5)日本原子力産業会議(編):「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故をめぐる動き、原産マンスリー、No.5、27-58(1996)
(6)科学技術庁:動力炉・核燃料開発事業団 高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏洩事故の報告について、平成8年5月23日
(7)文部科学省:「もんじゅ」がひらく未来、2次ナトリウム漏えい事故
(8)日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖炉研究開発センター、高速増殖原型炉もんじゅ、もんじゅのあゆみ
(9)日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖炉研究開発センター、高速増殖原型炉もんじゅ、運転再開に向けて
(10)日本原子力研究開発機構敦賀本部ホームページ:「もんじゅ」の運転再開に向けた工程の見直しについて、http://www.jaea.go.jp/04/turuga/monju_site/index.html
(11)経済産業省原子力安全・保安院ホームページ:「国際原子力事象評価尺度」とは?
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