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<概要>
 高速増殖炉プラントの異常時に崩壊熱を除去する方式には、原子炉容器内に直接熱交換器を浸漬する方式(DRACS)、主中間熱交換器に冷却器を組み込む方式(PRACS)および二次主冷却系から分岐して設置した冷却器を用いる方式(IRACS)の3つがある。原子力機構ではこれらに関して縮尺モデルを用いた伝熱流動試験と解析コードの開発を行ってきた。IRACS体系の成果は、原型炉もんじゅ」に反映された。原子炉容器内の自然循環を活用するDRACSとPRACS体系の試験では、今後の実用化炉への適用のため、試験データの収集と過渡時の伝熱流動解析コードAQUAおよびSSCの検証と高度化が行われた。また高速実験炉「常陽」で行った試験により、電源喪失を想定した際にも自然循環によって崩壊熱を除去できることを実証した。
<更新年月>
2007年01月   

<本文>
 高速増殖炉プラントの冷却系統は、一次ナトリウム主冷却系、二次ナトリウム主冷却系および水−蒸気系で構成される(図1)。炉心で発生した熱を外部へ取り出す一次ナトリウム冷却材は放射化されているが、放射化ナトリウムは一次主冷却系内に閉じ込められ、その熱のみが主中間熱交換器を介して二次ナトリウム冷却材に伝えられる。二次ナトリウム冷却材の熱は蒸気発生器で水に伝わり、水を蒸気に変えている。
 高速増殖炉で軽水炉には無い二次主冷却系(中間系)を設けているのは、万一蒸気発生器の伝熱管が破損し、ここで水−ナトリウム化学反応が発生した時に、
(イ) 一次系の放射性ナトリウム化合物を環境へ放出しない
(ロ) 化学反応の影響を炉心に及ぼさない
ためである。
 高速増殖炉プラントの安全を確保するためには、プラントが異常になった時に確実に原子炉を停止し、さらに燃料などの崩壊熱を除去する必要がある。崩壊熱を除去する方式には、図1に示すように、原子炉容器内に直接熱交換器を浸漬して炉心を冷却する方式(直接炉心補助冷却方式;DRACS, Direct Reactor Auxiliary Cooling System) 、主中間熱交換器に冷却コイルを組み込んで一次主冷却系を介して炉心を冷却する方式(一次系炉心補助冷却方式;PRACS,Primary Reactor Auxiliary Cooling System)、二次冷却系から分岐して設置した冷却器を用い、一次および二次主冷却系の一部を共用して炉心を冷却する方式(二次系炉心補助冷却方式;IRACS,Intermediate Reactor Auxiliary Cooling System) 、の3種類がある。
 原型炉「もんじゅ」は、信頼性、運転操作性、保守性の観点からIRACS方式を採用している。一方で、原子炉容器内での自然循環を活用し、主冷却系と独立したシステムであるDRACS方式は、二次主冷却系以降を非安全系として設計できる。この方式はプラントの固有の安全性の確保と経済性の向上の観点から有望であり、今後の実用化炉への採用が検討されている。
 「もんじゅ」の設計のため、IRACS方式について実施された崩壊熱除去に関する研究は、引続きDRACSおよびPRACS方式に関して行われている。さらに高速実験炉「常陽」において全動力電源喪失を想定して、プラントの全ての動的機器を停止させ、自然循環により崩壊熱を除去し炉心を冷却する実証試験が行われた。一方、プラント異常時の過渡状態における原子炉容器内およびプラントシステムの、単相多次元伝熱流動現象を解析できる安全解析コードAQUAおよび一次プラント動特性解析コードSSCを開発し、試験データに基づく検証と高度化が図られている。
(1)IRACSに関する研究
 旧動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の50MW蒸気発生器試験施設に「もんじゅ」実機の5分の1スケールのIRACS を設置し、系統機器の伝熱流動、運転・制御性など広範囲にわたる試験研究が実施された。
 IRACSシステムの主要機器である空気冷却器の伝熱性能、放散熱量、圧力損失特性などを明らかにした。また運転・制御性を確認するため、システムの待機時および運転時の制御特性、自然循環特性などの試験を実施した。これらの成果は「もんじゅ」のIRACSの設計に反映されるとともに、運転マニュアルの作成にも役立てられた。
(2)DRACS およびPRACS に関する研究
 DRACS 方式のように、原子炉容器内の自然循環現象を活用する場合、原子炉容器は内部構造が複雑であるため、自然循環流の状況は複雑なものとなる。この現象を解析する多次元熱流動解析コードAQUAを開発し、試験データに基づく検証が行われた。
 電気出力100万KWクラスのタンク型炉の1/8スケール水流動試験装置(DELTA) を用いて自然循環時の熱流動特性に関する試験が行われた。この装置はDRACS方式とPRACS方式の両方の体系を模擬することができる。それぞれの方式について行われた自然循環除熱特性実験における燃料集合体の出口および入口の冷却材温度変化を図2図3に示す。AQUAコードは実験結果をよく再現していることがわかる。
 自然循環時の炉心内部の熱流動特性については、ナトリウムを用いた試験が行われた。DRACS方式では、炉内に浸漬した熱交換器から低温のナトリウムが炉容器上部プレナムに供給される。試験により、この低温ナトリウムが炉心を構成する燃料集合体と燃料集合体の間の領域に侵入し、集合体を外側から冷却する効果がみられた。図4に、模擬燃料集合体の中心部を通る軸方向温度分布とAQUAコードによる解析結果を示す。最高温度位置を含めて発熱部の上部で集合体外側からの冷却による温度低下が見られ、解析によりその効果を再現できることがわかる。
(3)プラントシステムでの自然循環による崩壊熱除去の研究
 高速実験炉「常陽」において、定格出力で運転中に全動力電源喪失を想定した時に、原子炉システムの自然循環により崩壊熱を十分に除去でき、固有の安全性を有することを実証した。この成果は「もんじゅ」の自然循環解析コードNATURALの整備および検証に役立てられた。
 同様の試験がアメリカの高速実験炉FFTFにおいても行われているが、「常陽」およびFFTFの試験結果やフランスのフェニックス炉の解析を通じて、プラントの安全解析用に開発された一次元プラント動特性コードSSCの検証も行われている。
 図5に「常陽」の自然循環試験における中心部の燃料集合体出口の冷却材温度の時間変化を示した。図には、原子炉容器内の自然循環現象を解析できる単相多次元熱流動解析コードAQUAと一次元プラント動特性解析コードSSC の解析結果も示されている。何れのコードも自然循環現象を再現しているが、原子炉停止後の時間が経過すると自然循環流量が過大評価となり、冷却材温度が過少評価になる。
 異常な過渡状態におけるプラントの熱流動特性を解析するコードは、多くの試験データの解析を通じて、より一層の高度化が図られている。
<図/表>
図1 高速増殖炉における崩壊熱除去系の基本構成例
図1  高速増殖炉における崩壊熱除去系の基本構成例
図2 炉心中心部燃料集合体の出入口端での冷却材温度の長時間変化(試験装置によるDRACS冷却方式の検討)
図2  炉心中心部燃料集合体の出入口端での冷却材温度の長時間変化(試験装置によるDRACS冷却方式の検討)
図3 炉心中心部燃料集合体の出入口端での冷却材温度の長時間変化(PRACS冷却方式の検討)
図3  炉心中心部燃料集合体の出入口端での冷却材温度の長時間変化(PRACS冷却方式の検討)
図4 DRACS冷却方式における炉心燃料集合体軸方向温度分布(Na試験)と解析結果
図4  DRACS冷却方式における炉心燃料集合体軸方向温度分布(Na試験)と解析結果
図5 高速実験炉「常陽」の自然循環試験の結果
図5  高速実験炉「常陽」の自然循環試験の結果

<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
崩壊熱除去システム (03-01-02-12)

<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団:動力炉の実用化をめざして(1990年年3月)
(2)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状(1990年2月)、(1991年2月)
(3)動力炉・核燃料開発事業団:動燃20年史(1988年10月)
(4)二ノ方 寿:原子力工業 Vol.35 No.12(1989)
(5)溝尾 宣辰:高速増殖炉工学基礎講座、高速増殖炉工学概要、原子力工業 Vol.35 No.3,59 (1989)
(6)H. Kamide, K. Hayashi, et al., Investigation of core thermohydraulics in fast reactors − Interwrapper flow during natural circulation, Nuclear Technology, Vol.133, pp.77−91(2001)
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