<本文>
1.改良標準化と高度化
1991年6月に三島良績東京大学名誉教授を委員長とした総合エネルギー調査会原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会)
軽水炉技術高度化小委員会で軽水炉の改良標準化の評価および今後の軽水炉高度化のあり方に関する報告書がまとめられた。今後の軽水炉技術高度化のあり方の基本的な考え方は以下のとおりである。
・これまでの経験を積極的に活用して技術基盤を固め、安全性確保の原則を再確認しながら、新しい技術や知見を取り入れていく。
・安全性確保は
多重防護の考え方を基本とし発電システムとしての信頼性向上を図る。 ・技術者、熟練工等の人材確保を配慮する。
・今後ともウラン資源の有効利用を推進する。
・今後の様々な展開に対して、柔軟に対応できるよう技術開発を進める。
これらの考えに基づき、次世代のBWRを担うABWR(
図1参照)の改良発展炉を2010年代後半には運転を開始することを目指して開発を行っている。
2.改良発展炉の要素技術とプラント概念
電力会社は改良発展炉の開発理念と性能目標をRequirement Documentとして示し、BWRメーカーは要求に対して要素技術、プラント概念として以下のような候補を示した。
2.1 システム設計
原子炉および原子炉格納容器除熱のための静的格納容器冷却系、原子炉隔離時復水器、給水駆動ジェットポンプ利用の原子炉水再循環システム、および重力落下式 ECCS(非常用炉心冷却システム)の採用。
2.2 機器設計
大型
燃料集合体と新型制御棒/制御棒駆動機構、スチームインジェクター、炉内流体慣性管、非常用ガスタービン発電機、炉内中性子束計測用ガンマサーモメータ、低圧損気水分離器、シュラウドレス炉内構造物、および改良型自己動力隔離時冷却系の採用。
3.原子炉構造の検討
3.1 自然循環流量の向上
原子炉容器の長尺化は、炉内の自然循環水頭を大きくとることができることから、原子炉内の自然循環流量を増加させることができる。自然循環水頭の増加は、
再循環ポンプの負荷軽減やポンプトリップ時の自然循環状態の改善などができ、さらには、炉心条件の変化に対応できるように設けられた選択制御棒挿入システムも削除することができる。ただし、原子炉容器を長くすることによる経済的、技術的な欠点もでてくるため、フローダイオードなどの他の技術と組み合わせることが必要である。
3.2 高慣性流体案内管
チャンネル安定性は一般的に単相流での圧力損失および流体慣性が増加すると安定化する。現行のBWRでは、燃料集合体下部にオリフィスを設け、単相部の圧力損失を適切に設定している。これに対して
図2に示すように、長い流路を持つ構造を考えると、流体慣性は流路の長さが増加するほど、あるいは流路面積を減少させるほど増加し、チャンネル安定性の減幅比は小さくなり、安定性の余裕を増加させることになる。また、流路構造が、従来の
制御棒案内管の代わりとなるため、燃料集合体の大型化への対応を可能なものとする。
3.3 短尺炉心
炉心の高さを短くすることで圧力損失を小さくし、原子炉水位の変動幅を広げることができるので、炉心の安定性を向上させるとともに制御棒および制御棒駆動機構を短くすることができる。さらに短尺炉心は、耐震設計上のメリットも十分持っている。ただし、炉心の長さを短くすると炉心直径を大きくする必要がある。
3.4 給水ジェットポンプを用いた再循環系
再循環系のジェットポンプのM比(被駆動水と駆動水の比)が従来よりも高いものを開発すれば、
図3に示すような給水を再循環流量の駆動水として利用するシステムが可能となる。これにより、再循環ポンプを格納容器内から原子炉建屋に移すことができ、予備機を備えることでオンラインメンテナンスが可能となる。
4.炉心設計
4.1 ボイド(
反応度)係数等のパラメータの見直しと燃料サイクルコスト
過渡変化時の原子炉出力応答に影響を与える主要なパラメータには、
ボイド係数と
ドップラー係数がある。これらは、水対ウラン(燃料)比で調整できるが、水対燃料比を変えるとプラントの燃料サイクルコストと保守費用に影響を与える。
ボイド係数は絶対値を小さくすると、過渡特性には有利になるが、逆に、運転員は、原子炉流量で運転を制御することが難しくなり、負荷追従機能が低下する。また、相対燃料サイクルコスト対ボイド係数の関係から最適燃料サイクルコストはボイド係数が0.06から0.09の範囲で得られることがわかっている。したがって、改良発展炉は、ボイド係数やドップラー係数などの基礎的パラメータの検討や燃料サイクルコストも含めて総合的な検討を行っている。
4.2 炉心設計の単純化
燃料格子と制御棒概念について、通常の炉心設計(C格子)、K格子の設計、クラスター制御棒などの設計検討を行っている。
図4にC格子、K格子、BWRクラスター制御燃料体の形状を示す。
(a)K格子の設計
K格子設計は、燃料体ごとの制御棒数を4燃料体ごとに2本増やしたものである。
炉停止余裕の問題が在来型より軽減されるが、制御棒の数は2倍になり、同じ数の制御棒駆動機構を維持するためには、燃料体サイズを40%以上増やす必要がある。炉停止余裕はクラスター概念より若干効率的である(
図5参照)。
(b)クラスター概念
炉心上部から挿入する方法をとり、チェッカーボード形式で適用されるもので、K格子と同様な制御棒密度としている。制御棒機構およびスクラム機能に利点がある。
4.3 シュラウドレス炉心
図6に示す炉心のシュラウドレス炉心化により、ABWR原子炉の炉心出力密度を変えることなく、150万kW級電気出力の炉心を内蔵できる見通しを得ている。
5.システム概念
5.1 制御計装システム
ABWRの改良発展炉の制御計装システムの設計目標を以下のように設定した。
運転にやさしく自動化の推進、過渡変動を自動的に緩和、運転員や保守・検査員の負担を軽減、設計をモジュラー化しオンラインメンテナンス性の向上、制御性能と情報伝達システムの向上、および
被ばくの低減。
これらを達成するため、以下の研究開発項目を取り上げた。
(a)統合化中央制御室 (b)高度制御システム
(c)教育・訓練システム (d)プラント異常および過渡管理システム
(e)点検・保守支援システム (f)非常時対応支援システム
(g)炉内核計装改良システム (h)新型センサの適用
5.2 安全システム
安全系は、人に優しい、単純化されたわかりやすいシステムが望まれる。そのためには、
マンマシンインターフェースの改善、安全系の一系統追加などが考えられるが、システムが複雑にならないようにする必要がある。今後の方向性として、重力落下式非常用炉心冷却系や静的格納容器冷却系のような静的安全系の利用も考えられている。
6.フルMOX−ABWRの開発
電源開発は、青森県大間町に予定されていたATR実証炉のかわりに、フルMOX燃料のABWRとすることで発電所周辺住民と調整を行っている。このフルMOX−ABWRの主な仕様は、以下のとおりである。
MOX燃料集合体の設計は高燃焼度8×8燃料と同一設計、
燃料棒はMOX燃料棒と一部Gd入りウラン燃料棒、取り出し平均燃焼度は約33GWd/t、および運転期間は13か月とする。現在の計画では、フルMOX−ABWR(大間原子力発電所、出力138.3万kW)は、1997年3月に電源開発調整審議会(現総合資源エネルギー調査会電源開発分科会)に上程、1999年9月着工、2005年運転開始を予定していたが、発電所配置計画の変更があり再度2004年3月18日付けで原子炉設置許可を受けた。
7.ABWR−600,ABWR−900、およびRBWRの炉概念
最近の設計研究の成果を示す。日立製作所は、米国GE社が開発したSBWR(Simplified BWR)の受動安全性概念のIC(隔離時復水器)およびPCCS(静的格納容器)を設計に採り入れ、設備投資の分散性と投資額の抑制を図った中型ABWRのABWR−600(600MWe)とABWR−900(900MWe)を開発中である。
表1にABWR−600、ABWR−900およびABWRのプラント仕様比較を示す。さらに燃料格子を六角格子集合体に稠密化するとともに水対燃料体積比を減らし増殖比1を実現して、エネルギー長期安定供給と長寿命放射性廃棄物を炉内で有効活用し
環境負荷を軽減するRBWR(Resource−Renewable BWR)を開発中である。
8.ESBWR(革新型単純化BWR:Economic,Simplified BWR)の開発
ABWRで大型炉の、SBWRで受動安全設計の経験を積んだGE社グループは、受動安全設計に基づく大型炉ESBWR(
表2参照)を開発した。この炉では、自然循環炉心、重力落下式非常用炉心冷却系(GDCS)、静的格納容器冷却系(PCCS)などを採用しながら、短尺炉心(炉心上部プレナム(chimney)を大きくする)で自然循環能力を高め、大型化(1590MWe/4500MWt)とLOCA時冠水維持に成功した(
図7参照)。炉心損傷確率もABWR(1E−7)より低く(3E−8)なっている。規制委員会(USNRC)からは安全評価報告書(SER)が2007年に提出される見込みで、その後3基の建設・運転一括認可(COL)が申請され2015年には営業運転される予定である。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
沸騰水型原子炉(BWR) (02-01-01-01)
原子力発電技術の開発経緯(BWR) (02-03-01-01)
改良型BWR(ABWR) (02-08-02-03)
SBWR (02-08-03-03)
原子力発電拡大を目指す米国の動き (14-04-01-36)
<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部(編):原子力ポケットブック2006年版(2006年7月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改訂版)(2002年6月)
(3)日刊工業新聞社:原子力工業 VOL.38、No.11、p.23−40(1992年4月)
(4)尾本彰ほか:次世代BWRの研究状況、原子力誌、37(9)、768−775(1995)
(5)東京電力:改良型BWRの概要(1996年11月)
(6)木村詳一郎ほか:設備投資の分散性と投資額の抑制を可能にする中型ABWR「ABWR-600」、日立評論、2004年2月号、
http://www.hitachi.co.jp/Sp/TJ/2004/hrn0402/hrn02a07.html
(7)日立製作所電力・電機グループ業務企画部:「ABWR出力シーリーズ」ABWR-900の開発、電機、2004年3月号、p.38−39、(社)日本電機工業会、
(8)日立製作所電力・電機開発研究所:将来の原子力システム、日立製作所、
(9)General Electric-ESBWR:(as of Aug.2007)
(10)J.Alan Beard:ESBWR Overview(Sept.15,2006),(as of Aug.2007)