<大項目> 原子力発電
<中項目> 原子力発電所の事故・故障
<小項目> わが国の原子力発電所の事故・故障・トラブル
<タイトル>
軽水炉(PWR)燃料の損傷 (02-07-02-16)

<概要>
 初期の加圧水型原子炉(PWR)では、燃料集合体やその構成要素である燃料棒に様々な原因による破損が発生した。破損の機構は、燃料被覆管水素脆化、燃料ペレットの焼しまり、ペレットと被覆管との相互作用、物理的拘束下にある燃料棒の曲がり、フレッティングに起因する被覆管の損傷などであり、多くはBWRと共通である。破損防止のために適切な技術的改良が行なわれ、使用条件が厳格に定められたことによって、今日では燃料損傷の問題は激減し、日本のPWR燃料破損率(リーク発生頻度)は10のマイナス5乗(10万本に1本)以下のオーダーであり、現在ではリーク発生は皆無である。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.日本におけるPWR燃料の改良の経緯
 日本におけるPWR炉心・燃料の改良と進歩を表1に、PWR燃料集合体の基本仕様を表2に、PWRの17×17燃料集合体の構造図を図1に示す。日本でPWR燃料の研究開発に着手したのは1957年まで遡るが、ここから国内商用炉運転開始までの15年が開発期である。1970年代に入ると美浜1号機以降炉心の大型化が図られ、先行プラントの経験などに基づいた改良・標準化が進められ、燃料の性能向上と信頼性向上が図られた。
 1980年代に入ると燃料技術は円熟に至り、1980年代前半は燃料濃縮度の引き上げやガドリニア入り燃料が採用になった。1980年代後半からは燃料集合体あたり最高燃焼度は48GWd/t(高燃焼度燃料ステップ1)に引き上げられ、さらに現在では55GWd/tの高燃焼度燃料(ステップ2)が使用されている。ステップ2燃料ではステップ1燃料に比べて炉心での使用が長期になり(3サイクルから4サイクル)、これにともない、ウラン235濃縮度(最大)が約4.1%から約4.8%になり、ペレット密度が理論密度の約95%から約97%になり、ガドリニア濃度が約6wt%から約10wt%に、被覆管がジルカロイ−4からジルコニウム基合金などに変更になっている。なお、PWR燃料の詳細についてはATOMICAデータ「PWR用ウラン燃料<04−06−03−02>」を参照されたい。
2.PWR燃料損傷の原因と防止対策
 米国におけるPWR燃料破損原因の推移を表3に、日本におけるPWR燃料の破損実績を図2に示す。初期のPWRで見られた燃料棒の損傷は、製造ミス、水素脆化による損傷、ペレットの焼しまりと被覆管の扁平化、フレッティング(擦過)による損傷、燃料棒の曲り、燃料ペレット・被覆管相互作用などであり、被覆管の扁平化による破損を除き、BWRの場合と同様な現象によって損傷が発生している。このような損傷は、燃料棒や集合体設計の改善、化学的環境条件の厳格な設定などによってほとんど解消し、近年の国内の燃料破損率(ピンホールからのリーク発生頻度)は10万分の1(10万本に1本)以下のオーダーになっている。表3によると、米国では、グリッド(支持格子)フレッティングが多いことを示している。日本では、輸入燃料が使用されていた初期の時代には少数の不具合が生じていたが、国産燃料に徐々に切り替わって、設計上の改良、燃料加工における高い品質管理などにより極めて良好な結果となっており、現在ではリーク発生は皆無となっている。
(1)フレッティング(擦過)による破損と防止対策
 バッフルジェットによるフレッティングと防止対策について図3に示す。一次冷却材が原子炉容器下部プレナムから炉心に流入する主流のほかに、旧プラントでは、炉心槽側面の穴を経て炉心槽とバッフル板の隙間を流れるバイパス流が存在した(図3の左;熱効率の有利さのため)。この炉心槽内側ダウンフローのため、バッフル板内外の一次冷却材による圧力差が生じ、その結果バッフル板の隙間から炉心へ横方向の急速な流れ込みが生じて、燃料棒同士のフレッティングが起こって破損したことがあった。バッフル板の隙間をなくしたり、図3の右に示すように、アップフローに改良設計することで解決された。燃料棒を支持する支持格子の不適切さ(支持格子の製作や集合体への組立てでミスが多かった)による損傷が初期には発生していたが、現在では設計上の対策も進みこれに起因する破損は起こっていない。
 異物とのフレッティングでは、原子炉構成部品の一部や作業員が誤って落とした異物、またステンレス鋼等の金属小粒子によるものがあった。防止対策としては、一次冷却系への異物混入防止と、燃料側での異物対策用下部ノズル、異物捕獲用最下部グリッド、燃料棒下部端栓を長くする、などの設計変更がとられている。
(2)被覆管の水素脆化による損傷と防止対策
 燃料棒の製造段階で燃料棒内に水分が混入していると、水分が被覆管内表面と局部的に反応して水素化物を形成する。水素化物は非常に脆いので、水素化物形成の成長によって被覆管が破損することがある。水素化の防止策としては、ペレット密度を上げて吸蔵する水分を少なくして(理論密度の約95%)、ペレット充填時の乾燥を充分に行うことで、これ以後この現象は発生していない。
(3)ペレットの焼しまりと被覆管の扁平化と防止対策
 初期のPWR燃料では、ペレット密度が低い上、燃料棒内が非加圧あるいは低加圧であったので、一定期間使用後にペレットが焼きしまりを起して縮み、被覆管の内外の圧力差等によって被覆管が徐々にクリープし著しい扁平化を起し破損に至ることがあった。その後燃料は理論密度95%に高められ、加圧したヘリウムを充填した燃料が採用されることにより、以降この現象は発生していない。
(4)燃料棒の曲りと防止対策
 燃料棒の曲がりと防止対策について図4に示す。燃料棒曲りは冷却性能を変化させ、過熱によって燃料破損を起こすことが考えられる。わが国でも燃料棒の曲りが発見されているが、破損に至った例はない。燃料棒の照射成長のために集合体ノズルと接触し曲がったものがある。制御棒案内管と燃料棒との熱膨張の差に起因する場合は、支持格子を介して応力を及ぼし合うので、その防止対策としては、支持格子ばね形状を改良し、拘束力を最適化させた。また支持格子の段数を増加させて支持格子の間隙を短くした。燃料棒の照射成長よる燃料集合体ノズルとの接触による曲りについては、ノズルと燃料棒の間隙を大きくする防止対策がとられた。
 燃料棒自身に起因する場合としては、燃料ペレットと被覆管との相互作用による被覆管変形が周方向に不均一に起こったために生じた曲り(PCMI曲り)がある。防止対策としては、被覆管の扁肉を少なくし、支持格子の個数を増やして支持格子の間隔を短くすることで対処している。
(5)燃料ペレット・被覆管相互作用(PCI)と防止対策
 原子炉出力上昇時にペレットが膨れ、被覆管に応力がかかり、かつ核分裂生成物のヨウ素等による腐食性雰囲気中では被覆管の応力腐食割れ(SCC)を起すため破損に至る現象がある。応力腐食割れは、引張応力、腐食性雰囲気、応力腐食割れ感受性の高い材料の存在によって起こる現象なので、この3つの因子のうちの1つを除けば防げる。現在は、過大な応力防止と被覆管の集合組織の向きを調整して耐PCI性を高めた改良被覆管を用いることで対処している。過大な応力防止の方法としては、ペレットが照射にともない鼓型に変形するので、ペレット上下面に凹み(デッシュ)を付けたり、面取り(チャンファー)したり、ペレット長を直径と同じ程度に短くすることによって、被覆管にかかる応力を低下させている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 日本におけるPWR炉心・燃料の改良と進歩
表2 PWR燃料集合体の基本仕様
表3 米国におけるPWR燃料破損原因の推移
図1 PWRの17×17燃料集合体の構造図
図2 日本におけるPWR燃料の破損実績
図3 バッフルジェットによるフレッティングと防止対策
図4 燃料棒の曲がりと防止対策

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<関連タイトル>
PWRの水質管理 (02-02-03-05)
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)
軽水炉(BWR)燃料の損傷 (02-07-02-17)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会(編・刊):軽水炉燃料のふるまい 第4版(平成10年7月、平成15年7月第2刷)
(2)原子力安全研究協会(編・刊):軽水炉発電所のあらまし 改定第3版(2008年9月)
(3)九州電力:玄海発電所1号機および2号機における高燃焼度燃料の使用および炉内構造物の取替え計画の概要、http://www.kyuden.co.jp/press_030829b-2.html
(4)R.L.Yang et al. ’Current Challenges and Expectations of High Performance Fuel for the Millennium’, Proceedings of 2000 International Topical Meeting on LWR Fuel Performance, April10−13,2000
(5)K.N.Woods and W.Klinger, ’Siemens Fuel Performance Overview’, Proceedings of 1997 International Topical Meeting on LWR Fuel Performance,Portland,March 2−6,(1997),p.272−279.
(6)D.H.Locke,’The Behaviour of Defective Reactor Fuel’,Nucl.Eng.Design.21(1972)、p.318−330.
(7)G.Roberts et al.,’An Investigation of the Cladding Collapse Phenomenon in Betznau I PWR’ Proceedings of ANS Topical Meeting Water Reactor Fuel Performance,St.Charles,May 9−11,(1977), p.92−101.
(8)D.O.Pickman,’Design of Fuel Elements’,Nucl.Eng.Design.21(1972)、p.303−317.
(9)越後谷寛法ほか:「最近の米国軽水炉燃料の信頼性」,日本原子力学会35(1993)、p.718−724
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