<大項目> 原子力発電
<中項目> 原子力発電所の事故・故障
<小項目> わが国の原子力発電所の事故・故障・トラブル
<タイトル>
軽水炉(BWR)燃料の損傷 (02-07-02-17)

<概要>
 初期のBWRでは、燃料集合体やその構成要素である燃料棒に様々な原因による破損が発生した。BWRでの燃料破損の原因は、燃料被覆管水素脆化ペレットと被覆管との相互作用、フレッティング(擦過)に起因する被覆管の損傷、クラッド(水垢)の付着による過度の腐食などに分類される。これらの破損については、諸原因が明らかとなり、適切な技術的改良が行なわれた。今日では燃料損傷の問題は減少し、近年の日本の軽水炉燃料破損率は10のマイナス6乗台になっている。
 しかし、経済性向上のために使用上の制限を緩くすることが求められており、更なる燃料の性能改良が必要である。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 1.軽水炉の燃料棒と燃料集合体
 BWR燃料構造の変遷を 図1に示す。
 BWRの燃料棒は、多数の低濃縮二酸化ウラン焼結ペレットを、ジルカロイ−2製の被覆管に装填し、両端を溶接密封したものである。二酸化ウランは融点が高く、化学的に安定であり、ウランの核分裂によって生じた核分裂生成物の保持能力も高い。またジルカロイ製の被覆管は、高温でも大きな強度、優れた耐食性、小さな中性子吸収率を持っている。
 BWR用の燃料集合体は、多数の燃料棒を8行8列(8×8と省記)の正方格子、最近では9×9の正方格子に配列し、燃料棒束の長手方向を何組かのスペーサーで拘束し、その下端をタイプレートで支持し、かつ全体(燃料棒束の周囲)をジルカロイ製のチャンネルボックスで覆ったものである。
2.BWR燃料損傷の原因(発生例)と対策
 初期のBWRでは、燃料の炉内使用中に数多くの燃料破損が見出された。破損原因の幾つかは部品の欠陥または製造工程のミスであり、管製造法の改良と厳格な検査によって激減しているが、現在も希ではあるが、これが原因で破損が起こっている。これ以外の原因による燃料破損は、燃料棒表面への「クラッド(水垢)の付着による被覆管の腐食加速」、「フレッティング(擦過)による被覆管の損傷」、「被覆管の水素化(水分破損)」、「燃料ペレットと被覆管との相互作用」がある。 表1は、1989〜1999年に米国で発生したBWR燃料の破損本数をまとめたものである。
(1)クラッドの付着による被覆管の腐食
 この現象は、原子炉冷却水の水質に起因したものである。代表的なものは1960年代後半のBig Rock Point炉の例である。BWRではクラッド(水垢、冷却系からでる鉄基の酸化物)が燃料棒表面に付着するが、通常のクラッドは熱伝達を阻害しない。しかしながら、このプラントでは「給水加熱器」の伝熱管に銅合金が使用されていたため、酸化銅が給水とともに炉心内に運ばれ、被覆管の表面に熱伝導を低下させるクラッドとして固着し、問題を生じたのである。
 1979−90年頃に、CILC(Crud Induced Localized Corrosion:クラッド誘発局部腐食)と呼ばれる燃料破損が起こっているが、これも上記のクラッドに起因する現象で、給水加熱器に銅合金を用いた炉で、燃料被覆管にノジュラー腐食(レンズ状または球形の不均一酸化物が形成される腐食)が発達して破損に至ったものである。図2図3 にCILCによるノジュラー腐食と腐食が進行してほとんど貫通しかけた被覆管断面を示す。CILCは、ガドリニア入り燃料棒に多く発生し、この燃料棒は熱流束が低いので高酸化性物質(H2O2,HOなど)が被覆管表面に長時間滞留するためと推定されている。ノジュラー腐食は、ジルカロイ中の金属間化合物を微細に分布することによって改善されるので、製造中の熱処理で耐ノジュラー腐食性のよい被覆管を作ることにより、ノジュラー腐食を防止している。また、給水加熱器にはステンレス鋼が採用され、さらに水質管理が厳重に行われていることによってCILCの問題は解決されている。
(2)フレッティングによる被覆管の損傷
 機械的な振動により金属同士がこすれて、一方がえぐれる現象をフレッティング(擦過)という。これに腐食が重畳したものをフレッティング腐食(擦過腐食)という。燃料棒とフレッティングを起こす相手は、他の燃料棒、異物(デブリ:Debris)等であり、表1に見られるように、異物フレッティングが燃料破損の主な原因の一つになっている。この場合の異物は、主に機器補修の際に1次冷却材に持ち込まれた小さな金属異物であり、燃料集合体最下部の支持格子に捕獲され、ここでフレッティングを起こす。このため、異物混入の防止や下部タイプレートの形状改良等の対策を行っている。
 ワイヤーによるフレッティングとしては、1960年代後半の西ドイツKRB炉の初期運転で生じた被覆管の損傷が代表的な例である。この炉の「気水分離器」では湿分除去のためにワイヤー網が使われ、その一部が欠損して燃料集合体中に侵入し、被覆管を機械的に傷つけてしまった。また、被覆管とスペーサーとの間で、フレッティングが生じる可能性があるが、これはスペーサーの接触圧に依存する。現在のBWR集合体では適切な接触圧が設定されており、これによる問題は発生していない。
(3)被覆管の水素脆化(製造時の水分管理に起因する水分破損)
 燃料棒の製造段階で、燃料棒内に湿分が混入していると、水分が被覆管内表面と局部的に反応して水素化物を形成する。水素濃度が高い場合には、水素はジルカロイ母材内部に侵入し「ジルコニウム水素化物」を生成する(形状が日の出に似ているのでサンバーストともいう、図4参照)。水素化物は非常に脆いこと、水素化物形成によって体積が増加すること、およびこの反応が被覆管の内面から外面に向かって進行することによって、被覆管が破損することもある。
 水素化の防止策としては、ペレット密度を上げて(理論密度の約95%)吸蔵水分が少ないものにすること、被覆管にペレットを充填するとき乾燥を十分に行うこと、水分と反応し易いジルコニウム合金をゲッターとして燃料棒上部のプレナム部に封入することなどである(最近は、ペレットの水分管理を十分低い値に抑えているため、ジルコニウム・ゲッターはBWR燃料でも使用しなくなっている)。
(4)燃料ペレット・被覆管相互作用(PCI)
 核分裂によって燃料ペレットが発熱すると、熱応力のためにペレットに割れが発生し、ペレットがつづみ形に変形する(図5参照)。そのため、ペレットの端部が被覆管の内面と接触して、被覆管を上下に積まれた各ペレットの端面相当位置ごとに、局所的に変形させる(リッジングという:「節くれ」の意味)。観察された局所的変形量は、腐食性雰囲気でなければ被覆管破損に至るほどの大きな量でないが、被覆管内面には核分裂生成物のヨウ素が存在するため、応力腐食割れを起こすことがある。
 応力腐食割れを防止するためには、応力または腐食環境を限界値以下にするおよび材料の応力腐食割れ感受性を改良する方法がある。応力低減の方法としては、ペレット形状の改良と原子炉運転方法がある。ペレット改良方法として、a)燃料ペレットの長さを直径と同程度まで短くする、b)ペレットの角を切り落とす(チャンファ付きペレットの採用)、c)ペレットの上下面に凹みをつけて中心部の熱膨張の逃げ場を作る、d)被覆管の内側に柔らかくPCI破損を起こしにくいジルコニウム層(約0.1mm厚さ)を内張りするライナー被覆管の採用等がある。何れも鼓型に変形するペレット端部の張り出しをすくなくする効果がある。運転モードの改善方法として、運転開始時に出力上昇速度を緩くして、ペレットの膨張に時間をかける「ならし運転」が行われていたが、ライナー管採用後は、この運転上の制限が撤廃された。
 これまで述べたように、様々な燃料破損対策を施すことによって燃料破損率は低下しており、現在の破損率は10のマイナス6乗台を達成している。2001年以降の燃料体からの漏洩は、2001年の1件、2002年の2件のみである。しかし、経済性向上のためにさらなる高燃焼度利用等が求められており、更なる燃料の性能改良が必要である。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 米国におけるBWR燃料破損原因の最近の推移
図1 BWR燃料構造の変遷
図2 CILCにより生じたクラッド付着とノジュラー腐食
図3 CILCにより貫通しかけた燃料被覆管
図4 被覆管水素化による燃料破損例と水素化進行の模式図
図5 ペレット内温度分布によるつづみ型変形

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<関連タイトル>
BWRの水質管理 (02-02-03-02)
軽水炉(PWR)燃料の損傷 (02-07-02-16)
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 昭和59年版(1984)
(2)長谷川正義、三島良績(監):原子炉材料ハンドブック、日刊工業新聞社(1977)
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい 第4版(1998年7月)
(4)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい 改定新版(1990年7月)
(5)R.L.Yang et al. ’Current Challenges and Expectations of High Performance Fuel for the Millennium’,Proceedings of 2000 International Topical Meeting on LWR Fuel Performance,April10−13,(2000)
(6)M.O.Marlowe et al:’Nuclear Fuel Cladding Localized Corrosion’,Proceedings of ANS Topical Meeting on LWR Fuel Performance,Orland,April 21−24,(1985),p.3−73−p.3−90
(7)D.H.Locke:’The Behaviour of Defective Reactor Fuel’,Nucl.Eng.Design.21(1972),p.318−330
(8)D.O.Pickman:’Design of Fuel Elements’,Nucl.Eng.Design.21(1972)、p.303−317
(9)越後谷寛法ほか:「最近の米国軽水炉燃料の信頼性」,日本原子力学会35(1993)p.718−724.
(10)原子力安全委員会:平成18年度安全白書 第3編第2章 平成18年の事故・故障等,
(11)日本原子力学会「軽水炉燃料の高度化に必要な技術検討」特別専門委員会:燃料高度化技術戦略マップ2007(平成19年7月),
(12)田辺朗、広瀬勉、土井荘一;連載講座 核燃料工学の基礎—軽水炉燃料を中心に 第3回軽水炉燃料(2)、日本原子力学会誌、Vol46,No.7(2004),
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