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1.事故・故障・トラブルの分析統計
関西電力(株)・美浜発電所1号機が、日本では初めての
加圧水型軽水炉(PWR)として1970年11月28日に、営業運転を開始した。2005年度末、営業運転している加圧水型原子力発電所は23基である。トラブル等発生器機の所属システムを
図1に、トラブル等の原因を
図2に、トラブル等発生時の運転状況を
図3に、およびトラブルの発見方法を
図4に示す。またPWR発電所概要図を
図5に示す。
2.主な事故・故障トラブル
PWRプラントで過去に起きた大きな故障・トラブルとしては、1978-1979年頃に集中した制御棒クラスタ案内管支持ピンやたわみピンの
応力腐食割れ、そして
蒸気発生器伝熱管の損傷などがある。つぎの2.1項に述べるような1991年2月に発生した美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管の破断事故はその典型である。
主要な事故・故障・トラブルの内容、原因等について以下に述べる。
2.1 関西電力(株)美浜発電所2号機(50万kW)
発生年月日:1991.2.9(ATOMICAデータ参照)
内容・原因等:
定格出力で運転中、復水器空気抽出器ガスモニタの警報が発信したため出力を降下させたところ、警報から10分後に
原子炉が自動停止するとともに、
非常用炉心冷却装置(ECCS)が作動した。調査の結果、蒸気発生器伝熱管の1本が完全に破断していることが確認された。この損傷により
一次冷却材が二次冷却系へ流出し、「一次冷却系加圧器圧力低」と「加圧器水位低」の信号が発信した。
損傷した蒸気発生器の二次側へ一次冷却材が約5トン(推定)流出、また微量の
放射性物質が外部に放出したが、発電所敷地内外に設置されている放射線監視装置の指示値は通常と変化なく、周辺環境への
放射能による影響は認められなかった。国際評価尺度:2相当
2.2 関西電力(株)美浜発電所1号機(34万kW)
発生年月日:1991.9.6(
図6参照)
内容・原因等:
出力5.1万kWで運転中、「B−蒸気発生器水位異常低」の信号により原子炉が自動停止した。原因は、B−蒸気発生器の主給水バイパス制御弁の駆動用空気を制御するブースター・リレーの感度調整用絞り弁にシールテープ屑が残留していたため制御系の特性が変化し、蒸気発生器の水位変動が大きくなり、原子炉が自動停止した。
本事象は、「蒸気発生器水位異常低」の信号により、
安全保護系が正動作して原子炉が自動停止したものであり、原子炉施設の安全性に影響を与えものではないが、これに関係する事象なので、レベル2と評価された。国内評価尺度:2
2.3 関西電力(株)大飯発電所2号機(117.5万kW)
発生年月日:1995.2.25(
図7参照)
内容・原因等:
定格出力で運転中、「B−高感度型主蒸気モニタ」等の指示値が上昇したため、原子炉を手動停止した。原因は、B−蒸気発生器伝熱管のうち1本の最小径U字管の曲り始め部位に、加工に伴なう
残留応力と運転時の作用応力の重畳により、応力腐食割れが発生したためである。また、原子炉停止後の常用母線の切替えの際、一部の遮断器が動作せず、循環水ポンブ等が停止し、主蒸気圧力が上昇したため主蒸気逃し弁が作動した。原因は、過去に行われた起動変圧器の点検後、運転員が「投入電源」スイッチを復旧し忘れたものと推定された。
このトラブルは、安全上の機能を有する機器である蒸気発生器伝熱管に漏えいが発生したものであるが、漏えいは軽微であり、原子炉施設の安全性に影響を与えない事象であるので、レベルは0と評価されるところであるが、品質保証計画に欠陥が認められたので、レベル1と評価された。国際評価尺度:1
2.4 関西電力(株)高浜発電所2号機(82.6万kW)
発生年月日:1996.3.15(
図8参照)
内容・原因等:
定格出力で運転中、昇圧変圧器の「内部故障リレー」の作動により発電機およびタービンが
トリップし、原子炉が自動停止した。原因は、
定期検査中の1号機の昇圧変圧器の定期検査のために当該変圧器の保護継電器用変流器回路の隔離作業を行った際、作業員が誤って運転中の2号機の回路を隔離したため、2号機の「内部故障リレー」が作動した。
このトラブルは、安全上重要ではないが、原子炉施設の安全性に影響を与え得る事象であるので、レベル0+とされるところであるが、教訓の習得が不十分であったので、レベル1と評価された。国際評価尺度:1
2.5 関西電力(株)大飯発電所2号機(117.5万kW)
発生年月日:1999.1.29(
図9参照)
調整運転中、引抜き操作中の制御棒1本が落下し炉心に再挿入したので、点検調査のため原子炉を手動停止した。また、さらに停止操作中において、他の制御棒1本もスリップした。国際評価尺度:1
2.6 日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機(116万kW)
発生年月日:1999.7.12(
図10参照)
定格出力にて運転中、
格納容器サンプ水位上昇率高を示す警報が発生し、原子炉格納容器内じんあい放射線モニタ等の指示値に上昇が確認されたため、原子炉を手動停止した。
原因は、
再生熱交換器の構造に起因する高サイクル熱疲労である。国際評価尺度:1
2.7 関西電力(株)美浜発電所3号機(82.6万kW)
発生年月日:2004.8.9(
図11参照)
内容・原因等:定格熱出力一定運転中の3号機において、15時22分、「火災報知器動作」警報等が発生した。運転員が現場確認したところ、タービン建屋内に蒸気が充満していた。このため、15時26分から緊急負荷降下を開始して操作を行っていたところ、15時28分、「3A SG 給水<蒸気流量不一致トリップ」警報が発報し、原子炉が自動停止した。運転員の点検の結果、17時30分、タービン建屋2階の脱気器側の天井付近にある第4給水加熱器から脱気器への給水ラインであるA系の復水配管に破口を確認した。この蒸気および高温水の影響を受け、定期検査の準備作業等のため現場にいた協力企業の社員5名が死亡し、6名が負傷した。
原因調査の結果、当該配管は炭素鋼であり破損箇所は偏流の発生しやすいオリフィスの下流部で、破損箇所周辺の復水は140℃程度とエロージョン・コロ—ジョンの発生しやすい温度であった。当該配管内面は、大きく減肉しており概ね全体にわたりエロージョン・コロージョンに見られる鱗片状模様を呈していた。また、破口部の代表的波面において、
延性破壊特有のディンプルが観測された。
これらの破損メカニズムは、原子力安全基盤機構、日本原子力研究所などの協力を得て技術的検討を行った結果、これまでの種々のプラントでの運転経験、実験データ等で得られた知見の範囲内であることが確認された。それを回避できなかった原因は、関西電力(株)、三菱重工(株)、(株)日本アームによる
原子力施設の不適切な管理であった。すなわち、当該配管の点検対象箇所への登録漏れにより、当該配管がエロージョン・コロージョンにより減肉していた事実を長年見落としてきたことが直接的原因であり、さらには、各社の不適切な
保守管理・品質保証活動が根本原因であり、その背景には社内での安全文化の綻びがあったことが判明した。なお、発電所外および発電所内における放射性物質の影響はなかった。国際評価尺度:1(安全文化の欠如が認められたため)
(前回更新:2003年12月)
<図/表>
<関連タイトル>
日本の原子力発電所における事故・故障・トラブルの推移(2005年度まで) (02-07-01-01)
日本におけるBWR原子力発電所の主要な事故・故障・トラブル(2005年度まで) (02-07-01-02)
わが国においてECCSが作動した事故・故障 (02-07-02-01)
美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管損傷事象の概要 (02-07-02-04)
軽水炉蒸気発生器伝熱管の損傷 (02-07-02-14)
軽水炉における応力腐食割れ (02-07-02-15)
原子力施設の故障・トラブル・事故の国際評価尺度 (11-01-04-01)
<参考文献>
(1)経済産業省 原子力・安全保安院 原子力保安管理課(編):原子力発電所運転管理年報 平成14年版(平成13年度実績)、火力原子力発電技術協会(2002年9月)
(2)原子力安全委員会(編):原子力安全白書
(3)(財)原子力発電技術機構安全情報研究センター:平成3年度の我が国の原子力発電所における故障・トラブル等について(1992年11月)、p.27-28
(4)(財)原子力発電技術機構安全情報研究センター:平成6年度の我が国の原子力発電所におけるトラブルについて(1995年10月)、p.37-38
(5)(財)原子力発電技術機構安全情報研究センター:平成7年度の我が国の原子力発電所におけるトラブルについて(1996年9月)、p.49-50
(6)通商産業省資源エネルギー庁(編):原子力発電所のトラブルの国際評価尺度−トラブルの大きさをみんなが理解できるように−、原子力発電技術機構(1996年3月)、p.12
(7)(独)原子力安全基盤機構:JNES−トラブル等情報データベース
(8)(独)原子力安全基盤機構(編集発行):原子力施設運転管理年報 平成18年版(平成17年度実績)(2006年9月)、p.464-465、p.641