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<概要>
 わが国の原子力発電所において非常用炉心冷却系(ECCS)が作動した事例は、1970年の軽水型原子力発電所運転開始から2003(平成15)年度までに、5件ある。これらのうち1件を除いた4件はいずれも誤操作や誤信号の発生によって作動したものである。
 事故の発生によって作動した1件は、加圧水型原子力発電所の蒸気発生器の伝熱管の一本が破断したことに伴い、ECCSのうちの一つである「高圧注入系」が作動したものであるが、原子炉本体に異常はなく、ごく微量の放射性物質が放出されたにとどまった。
<更新年月>
2004年05月   

<本文>
 非常用炉心冷却系(ECCS:Emergency Core Cooling System)は、原子炉冷却系統に配管の破断等の事故が発生して高温・高圧の状態にある冷却水が噴出してしまうような事態になっても燃料を冷やすことができるように設けられた設備である。
 ECCSとしては、冷却水が失われる各種の配管系統の事故を想定し、どのような事態になっても原子炉燃料を冷やすことが出来るように多種類のものが複数系統設置されている。
 沸騰水型軽水炉(BWR)には高圧炉心スプレイ系、低圧炉心スプレイ系、低圧注入系及び自動減圧系が、加圧水型軽水炉PWR)には高圧注入系、蓄圧注入系及び低圧注入系がそれぞれ設けられている。
 わが国で軽水冷却型原子力発電所が運転開始された1970年(昭和45年)3月14日以来、2003年(平成15年)3月までの33年間に、安全上重要な設備であるECCSが作動した事例は5件あった。それらの概要は以下のとおりである。
(1)1979. 7.14、関西電力(株)大飯1号機(PWR)
 定格出力運転中、「冷却材ポンプ遮断機トリップ」の誤信号が発生して、原子炉が自動停止した。さらに、主蒸気逃がし弁が作動して主蒸気管相互の圧力に不均衡が生じた結果安全注入信号が発信しECCSの一つである「高圧注入系」が作動した。
 しかし、系統から冷却水の流出はなかった。
(2)1981. 5.12、東京電力(株)福島第1−2号機(BWR)
 運転中、電源回路の自動切替え時に瞬断が生じたため、高圧復水ポンプ吐出圧力(低)の警報設定器が誤作動した。これにより、高圧復水ポンプが停止し、「原子炉水位低」の信号で原子炉が自動停止した。その後、所内電源切替え時に予備の高圧復水ポンプも停止して原子炉水位がさらに低下したため、ECCSの一つである「高圧注水系」と原子炉隔離時冷却系が作動した。
 ここでも、系統からの冷却水の流出はなかった。
(3)1981.11.19、東京電力(株)福島第2−1号機(BWR)
 試運転中、低圧復水ポンプに接続する弁を誤って開き、ポンプの吐出圧力が低下したため、高圧復水ポンプとタ−ビン駆動給水ポンプが停止して、「原子炉水位低」の信号で原子炉が自動停止した。その後さらに原子炉の水位が低下したためECCSの一つである「高圧炉心スプレイ系」と原子炉隔離時冷却系が作動した。
 ここでも系統からの冷却水の流出はなかった。
(4)1991. 2. 9、関西電力(株)美浜2号機(PWR)
 定格出力運転中、蒸気発生器の伝熱管が1本破断し「加圧器圧力低」信号で原子炉が自動停止した。これとともに、加圧器圧力低と加圧器水位低の二つの信号から安全注入信号が発信し、「高圧注入系」が作動した。
 この事故によって微量の放射性物質が一次冷却系統から主蒸気系統を通り放出されたが、周辺環境に対する放射能の影響はなかった。
(5)1992. 9.29、東京電力(株)福島第1−2号機(BWR)
 定格出力運転中、「原子炉水位低」の信号で原子炉が自動停止した。
 原因は、高圧復水ポンプの電源盤の点検作業の後、復帰操作を誤ったことが起因で、高圧復水ポンプ及びタ−ビン駆動給水ポンプが全て停止状態となったためである。
 原子炉停止後も、さらに原子炉水位が低下したため「高圧注水系」と原子炉隔離時冷却系が作動した。
 なお、系統からの冷却水の流出はなかった。
 以上のように、1件を除いた他の4件はいずれも誤信号の発生又は誤操作に起因した事象によって作動したもので、運転が停止された以外の影響は生じていない。
 美浜2号機で1991年2月に発生したものは、蒸気発生器の伝熱管が1本破断するという事故に起因して作動した事例である。しかし、安全審査の段階で評価されていた通りに安全系統が作動し、事故の拡大に繋がることもなく周辺への影響も無視しうる程度に収めることが確認された。
<関連タイトル>
美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管損傷事象の概要 (02-07-02-04)
軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針 (11-03-01-14)

<参考文献>
(1)通商産業省資源エネルギ−庁公益事業部原子力発電安全管理課(編):原子力発電所運転管理年報平成10年版(平成9年度実績)、火力原子力発電技術協会(1998年9月)
(2)経済産業省原子力安全・保安院原子力安全技術基盤課(編):原子力施設運転管理年報平成15年版(平成14年度実績)、火力原子力発電技術協会(2004年1月)
(3)原子力安全委員会:原子力安全白書
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