<本文>
1.BWR(沸騰水型原子力発電所)の放射線遮へいの特徴
図1にBWRにおける原子炉建屋内遮へい配置図の例を示す。BWRにおける放射線遮へい設備は、
放射線源に対応して、原子炉本体・原子炉冷却設備を取り囲む「原子炉周り遮へい(原子炉1次遮へい、原子炉2次遮へい)」、原子炉周辺機器・廃棄物処理系・タービン系に対する「補助遮へい」、および「燃料取扱遮へい」と「中央制御室遮へい」等から構成されている。BWRの場合は、原子炉冷却材を蒸気に変えて直接タービンを駆動させているので、放射性物質を含む蒸気からの放射線対策としてタービン建屋についても放射線遮へいがされている。
1.1 放射線源
図2にBWRにおける放射線源と放射線遮へいの関係を示す。原子力発電所の放射線遮へいで考慮しなければならない放射線は
中性子線とガンマ線であるが、放射線遮へいで対象となる放射線源は以下の通りである。
(1)原子炉の運転により炉心から発生する放射線(中性子線、ガンマ線)および中性子と構造材が反応して生成する捕獲ガンマ線ならびに非弾性散乱ガンマ線。
(2)原子炉冷却材自体が原子炉で放射化されて生成する放射化生成物からの放射線。
BWRの場合には、原子炉冷却材中の酸素-16が放射化されて生成する窒素-16(O-16(n,p)N-16)のガンマ線エネルギー(6.1
MeV,7.1MeV)が高く、蒸気と一緒にタービンに運ばれるので重要な放射線源となる。また、この窒素-16は
半減期が7秒程度と非常に短いことから原子炉の運転が停止するとすぐ減衰して無視できる。
(3)原子炉冷却材に燃料から漏洩する
核分裂生成物および炉心構造物が放射化され、その
腐食生成物からの放射線。
(4)
使用済燃料からの放射線。
1.2 放射線遮へい材
遮へい材には、対象となるガンマ線や中性子線に対する遮へい効果が高く、施工が容易なことから、ほとんどの部分にコンクリートが使用されている。実質的には、これらのコンクリートは
原子炉格納容器や原子炉建屋等の構造材として用いられており、このコンクリートの壁・床等の厚さを調整して遮へいに利用している。また部分的には、鉄・鉛・パラフィン・水等で補うこともある。コンクリートは、高温度と高放射線による温度上昇により、亀裂が生じたり水分が失われて遮へい効果が減少しないように、必要に応じて冷却装置が設けられている。具体例としては、原子炉格納容器内には冷却ファンが設けられている。
1.3 放射線遮へい設計基準
表1に現行法令に規定された線量限度を示す。原子力発電所の放射線遮へい設計にあたっては、周辺の一般公衆および発電所従事者が受けると予想される
被ばく線量がこの法令に規定された線量限度を十分下回るように考慮される。外部放射線による被ばく線量が法令の定める
管理区域にかかわる値を超えるか、または超えるおそれのある区域を「放射線管理区域」とし、それより低い値のところを「非放射線管理区域」と定めている。遮へい設計上は外部放射線を主に考えるので放射線管理区域を対象としている。
表2にBWRにおける区域区分別遮へい設計基準の例を示す。遮へい設計上の基準として、周辺の一般公衆に対しては、発電所の運転に伴い原子炉建屋、タービン建屋等からの直達ガンマ線および空気中で散乱されて到達するスカイシャインガンマ線を考慮する。これらを人が居住する敷地境界外において十分小さな値(具体的には空気吸収線量で年間50マイクログレイ以下)になるように設計を行なうとともに、原子炉施設の想定される事故においても、周辺の一般公衆に対して著しい放射線被ばくの
リスクを与えないように遮へい設計されている。また、従事者に対しては、発電所の機器室・通路等の区域における遮へい設計において、従事者の線量をできる限り低減できるように各区域への運転・保守のために必要と予想される立入頻度・立入時間を考え、この滞在時間を基本として区域を区分して基本的な遮へい設計基準を設けている。
2.遮へい設備の構成
BWRの遮へい設備は、以下の5つに分類される。
(1)原子炉1次遮へい
(2)原子炉2次遮へい
(3)補助遮へい
(4)燃料取扱遮へい
(5)中央制御室遮へい
2.1 原子炉1次遮へい
原子炉1次遮へいは、
図1に示されているように、原子炉圧力容器を取り囲むコンクリート壁と原子炉格納容器の外側を取り囲むコンクリート壁からなり、後者の厚さは約2mである。その他の遮へい効果をもたらすものとして、原子炉圧力容器、原子炉格納容器がある。主として通常運転中の原子炉格納容器内のガンマ線および中性子線を減衰させ、また、停止時において保守点検などのため原子炉格納容器内に従事者が立入ることを可能とするために、原子炉からのガンマ線を遮へいする。
2.2 原子炉2次遮へい
原子炉2次遮へいは、原子炉建屋原子炉棟側面のコンクリート壁で構造材を兼用する。通常運転時に原子炉2次遮へい外側での線量率を、放射線管理区域設定基準値以下に減衰させる。また、事故時に原子炉格納容器内および外に放出される核分裂生成物による放射線を、原子炉1次遮へいとともに、発電所周辺の一般公衆の外部被ばくを防護するための遮へいとなる。
2.3 補助遮へい
原子炉建屋、タービン建屋、廃棄物処理建屋の各設備からの放射線に対して、従事者の不必要な外部被ばくを防止するための遮へいである。また、高放射線レベルの機器が隣接するような場合には、隣接設備からの放射線寄与をできるだけ少なくして、機器の保修等を可能にするために機器間に遮へい体を設けている。
2.4 燃料取扱遮へい
燃料取扱遮へいは、燃料取替時・燃料移送時および使用済燃料貯蔵時に従事者の不必要な外部被ばくを防止するため、水深を確保して使用済燃料等を水中で移動させるもので、原子炉ウェルと
使用済燃料貯蔵プールの水遮へい、コンクリート壁等から構成されている。
2.5 中央制御室遮へい壁
中央制御室遮へい壁は、通常運転時に中央制御室を放射線管理区域設定基準値以下の線量率とするための遮へいであるが、事故時にも中央制御室に留まり各種操作を行なう従事者の放射線被ばくを防止するために、外部からの放射線を減衰させる設計となっている。
3.原子炉運転時、原子炉停止(定検)時、事故時の遮へい設計
原子炉運転時の遮へい設計は、設計条件として定格出力運転時を対象とし、原子炉冷却材中の核分裂生成物の濃度は設計上想定した燃料からの漏洩率を考慮している。
原子炉停止(定検)時には、燃料取替などの作業を実施するが、この際は、従事者の被ばくが十分低く抑えられる水深を確保して高放射線の
気水分離器、使用済燃料等を水中で移動させる。また、蒸気乾燥器、気水分離機を蒸気乾燥器・蒸気乾燥器ピットに保管する場合には、ピット内の水による遮へいとなる。
事故時の周辺一般公衆の防護のための遮へいは、原子炉格納容器内および外に放出される核分裂生成物による放射線に対して、原子炉1次遮へいと原子炉2次遮へいにより発電所周辺の一般公衆の外部被ばくを「
原子炉立地審査指針」および「発電用軽水型原子炉施設の
安全評価に関する評価指針」(原子力安全委員会)に示される基準値(全身に対して、各種事故5ミリシーベルト、重大・仮想事故250ミリシーベルト)を満足する設計としている。
また、中央制御室遮へいは、平常時に管理区域外としての基準を満足することに加えて、事故時に中央制御室に留まり事故対策操作などを行なう従事者が、緊急作業にかかわる実効線量限度である100ミリシーベルトを超えないことを目標に設計がされている。
<図/表>
<関連タイトル>
BWRの原子炉格納容器 (02-03-04-02)
PWRの放射線遮へい (02-04-02-02)
放射線の遮へい (08-01-02-06)
<参考文献>
(1)原子力規格委員会(編):原子力発電所放射線遮へい設計規程 JEAC 4615-2008、(社)日本電気協会(平成20年8月31日)
(2)経済産業省告示第187号:原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき許容被ばく線量等を定める件(平成13年3月21日)
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、平成20年9月
(4)内閣府原子力安全委員会事務局(監):改定12版 原子力安全委員会指針集、大成出版(2008年3月)
(5)火力原子力発電技術協会(編):「原子力発電所」講座(全体計画と付属設備)、火力原子力発電技術協会(1982年5月)
(6)志賀原子力発電所 原子炉設置変更許可申請書 添付書類八 変更後における原子炉施設の安全設計に関する説明書(平成9年5月)