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<概要>
 放射線遮へい設備は、外部被ばくを防護するためのもので、原子力発電所においては発電所周辺の一般公衆および発電所内の従事者に対する放射線防護を目的として設置され、運転、停止、点検、保守などすべての作業が安全に行なわれ、また、原子炉施設の想定される事故においても法令に規定された線量限度を十分下回るように設計されている。原子力発電所施設内では各区域ごとに運転員の滞在時間に基づく線量率の区分を行い、この区分ごとに必要な遮へいを設けている。原子力発電所内の主な放射線源は、核分裂で発生する中性子ガンマ線核分裂生成物から発生する崩壊ガンマ線などである。PWRの遮へい設備は原子炉一次遮へいおよび二次遮へい、外部遮へい、補助遮へい、燃料移送遮へい、中央制御室遮へい等から構成されており、PWR遮へいの最大の特徴は、二次系には放射線源がないことにある。遮へい設備に加えて、換気空調設備の設置、放射線測定器等による線量率の測定等を行うとともに、管理区域への立入り制限、適切な作業管理および個人管理によって、被ばく線量の低減を図っている。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.遮へい設計の基準
 現行法令に規定された線量限度を表1に示す。遮へい設計にあたっては、原子力発電所敷地周辺の居住者および発電所従事者が受けると予想される被ばく線量がわが国(日本)の法令に規定された線量限度を十分下回るように考慮する。
 放射線量が法令の定める管理区域に係る値を超えるか、又はそのおそれのある区域を「管理区域」とし、それより低い値のところを「非管理区域」と定めている。管理区域内は、外部放射線に起因する放射線管理区域と、空気、水および表面の放射線汚染に起因する汚染管理区域に区分されるが、遮へい設計上は外部放射線を主に考えるので管理区域を対象にしている。
 PWRの線量率区分を表2に示す。遮へい設計は、通常運転時において、発電所施設内の各区域ごとに運転員の滞在時間を推定し、この時間を基にして線量率の区分けを行い、この区分に従って設計を行っている。
2.遮へい設備の構成
 PWRの遮へい設備の構成を図1に示す。原子炉一次遮へいは、原子炉容器を直接取り囲むコンクリート遮へい(厚さ約2.8m)で、通常運転時の原子炉からの放射線を減衰させるとともに、原子炉停止時に一次冷却系統設備の補修が可能な程度に、原子炉からの放射線を減衰させる。原子炉二次遮へいは原子炉格納容器内の一次冷却系機器配管を取り囲むコンクリート遮へい(厚さ約1m)で、内部コンクリート壁、原子炉格納容器等で構成する。外部遮へいは原子炉格納容器を取り囲むコンクリート構造物で、原子炉一次遮へいと原子炉二次遮へいとの組合せにより、通常運転時に原子炉格納容器側での外部放射線に係る線量率を管理区域に係る基準線量率以下のレベルに減衰させている。
 補助遮へいは原子炉補助建屋内の放射性廃棄物廃棄施設、化学体積制御設備、試料採取設備等の放射性物質を内蔵する機器および配管を取り囲むコンクリート構造物で、当該機器室周囲の通路および隣接室を区域区分の基準線量率以下のレベルに減衰させ、隣接設備の停止あるいは除染を行わずに、各機器室における補修を可能にしている。燃料移送遮へいは、燃料取替時に原子炉キャビティに張る水、キャナル壁、使用済燃料ピットに張る水等からなり、これらにより燃料取替時、燃料移送時、使用済燃料貯蔵時に放射線業務従事者等が安全に作業できるようになっている。
 中央制御室遮へいは原子炉補助建屋内にあり、一次冷却材喪失事故を仮定した場合にも人は中央制御室にとどまることが可能である。一時的遮へいは、放射性核種を内蔵する機器および設備の補修、事故時の保守等のために一時的に使用するもので、コンクリートブロック、鉛、鉄板等でできた可搬式遮へい構造物であり、必要に応じて設置される。
3.放射線源
 PWRの放射線源と遮へいの関係を図2に示す。PWR遮へいの特徴は、蒸気発生器を介して一次系と二次系が完全に分離されていることから二次系には放射線源がないので、二次系の機器・配管に対する遮へいが不要なことにある。
3.1 原子炉通常運転時線源
 炉心部では燃料の核分裂により核分裂中性子、即発ガンマ線が発生する。また核分裂中性子は一次冷却材(軽水)で減速され、燃料、制御棒炉内構造物、軽水等に吸収される。この中性子の減速途中非弾性散乱により非弾性散乱ガンマ線が発生し、この中性子の吸収過程で捕獲ガンマ線が発生する。また中性子吸収により生成される放射性核種から崩壊ガンマ線が放出される。一次冷却材(軽水)の放射化により生成され強い放射線源となる窒素16(半減期7.1秒,O−16(n,p)N−16反応により生成)および窒素17(半減期4.2秒,O−17(n,p)N−17反応により生成)がある。
 放射化した炉心構造物は腐食して軽水中の不純物となる(腐食生成物)。燃料被覆管にピンホールがあった場合などには燃料から漏洩する核分裂生成物も一次冷却材中に入る。このようにして一次冷却材の軽水が放射性核種を含む線源となり、これが循環する一次冷却系統、化学体積制御系統の機器が遮へいの対象となる。一次冷却材の軽水はその中の不純物濃度を基準値以下に保つために浄化系を通され、浄化系の中では不純物の蓄積によりイオン交換塔、フィルター等が放射線源となる。この他にオフガス系の蓄積タンク、ドレン系タンク、原子炉納容器内換気系のフィルター等が放射線源となる。
3.2 原子炉停止時線源
 炉停止時、炉心部での主な線源は核分裂生成物の崩壊ガンマ線である。この他に、燃焼によって蓄積された超ウラン元素の自発核分裂等による中性子とガンマ線、および炉運転時の炉心構造物の放射化により生成した放射性核種から崩壊ガンマ線が発生する。これらの放射線源の強度は、炉運転時と比較して十分低いため、遮へいを追加する必要はない。一方、炉運転時には立ち入らない場所に原子炉容器の供用中検査等で立ち入る場合にはその対策が必要となる。一次冷却材(軽水)中の放射能は、N−16の半減期が7秒、N−17の半減期が4秒と短いため軽水自身の放射性核種はなくなり、軽水中に含まれる放射能を持つ不純物、燃料からの核分裂生成物および循環系統内の配管、機器に蓄積する放射性核種からの崩壊ガンマ線が放射線源の主体となる。このため一次冷却材が循環している系統、機器を配置している原子炉格納容器内、補機室内に保守、点検のために立ち入る場合には、それらの放射線に対する対策が施されている。
3.3 燃料交換時線源
 核分裂生成物等を内蔵する使用済燃料を原子炉容器から取り出し、移動し、貯蔵するまでの系統に含まれる機器に対して遮へいが必要となる。その場合、線源としては炉停止時と同じもの、一次冷却材中の放射能、炉容器上蓋および制御棒の放射化核種の崩壊ガンマ線が主な対象となる。
3.4 原子炉事故時の線源
 原子炉の重大事故時や仮想事故時に原子炉格納容器内に放出される炉心の核分裂生成物や一次冷却材中の放射性物質が主な線源となる。この場合、一般公衆に災害を及ぼさないよう原子炉格納容器外側に遮へいが設けられている。また中央制御室には事故時においても人が滞在できるように中央制御室のまわりにも遮へいが設けられている。
<図/表>
表1 現行法令に規定された線量限度
表1  現行法令に規定された線量限度
表2 PWRの線量率区分
表2  PWRの線量率区分
図1 PWRの遮へい設備の構成
図1  PWRの遮へい設備の構成
図2 PWRにおける放射線源と遮へいの関係
図2  PWRにおける放射線源と遮へいの関係

<関連タイトル>
BWRの放射線遮へい (02-03-02-02)
放射線の遮へい (08-01-02-06)

<参考文献>
(1)原子力規格委員会(編):原子力発電所放射線遮へい設計規程JEAC4615−2008、(社)日本電気協会(平成20年8月31日)
(2)日本原子力学会放射線挙動工学研究専門委員会:中性子遮蔽設計ハンドブック、日本原子力学会(1993年4月)
(3)経済産業省告示第187号:原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき許容被ばく線量等を定める件(平成13年3月21日)
(4)原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版 原子力安全委員会指針集、大成出版(2008年3月)
(5)原子力安全研究協会 実務テキスト編集委員会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、原子力安全研究協会(平成20月9月)
(6)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改定版)、火力原子力発電技術協会(平成14年6月)
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