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1.原子力発電プラントにおける溶接構造
今日の原子力発電は電力供給源として重要なものになってきた。国内においても多くの軽水型原子力発電プラントが営業運転中であり、国内電力の約1/3を供給している。原子力発電プラントには、
図1に示すように、
原子炉の中で直接蒸気を発生させる
沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:
BWR)と、炉外の
蒸気発生器で蒸気を発生させる
加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:
PWR)とがある(文献1)。
図2に溶接管理系統図を示す。原子力発電プラントでは、多くの精密機器や装置が装備されているとともに各種機器は配管によって溶接接続されている。これらの機器構造物は非常に厳しい環境下(高放射線、高温、高圧)で使用されているため、安全かつ安定した状態での原子力発電プラントの運転には機器構造物の品質を厳重に管理するとともにその健全性を保証することが要求される。これらの要求に応えるために、各法規制の下で外観検査、寸法検査、破壊検査、非破壊検査、耐圧検査などの試験・検査が実施されている。とくに、各構造物を接合している部位については、原子力発電プラントの信頼性を確保する上からも極めて重要である。
2.溶接部検査
原子力発電プラントの原子炉圧力容器およびそれに接続される各種配管はその殆どが溶接構造となっているため、その健全性を十分に確保するための素材の非破壊検査に加えて、溶接部に対してはとくに厳しい非破壊検査が要求される。
溶接による欠陥としては、溶接過程および溶接後冷却過程の溶込み不足、融合不良、スラグ巻込み、ブローホールおよびクラックなどが発生するが、その種類は母材や溶接金属の材質および溶接施工条件によって異なる。溶接部の主な欠陥の特性を
表1に示す(文献2)。とくにクラックなどはその発生部位や使用条件によって異なり、構造物に加わる応力状態によっては進展し破壊に至る恐れがあるため、より厳しい検査が要求される。
図3は通産省(現経済産業省)省令第81号で規定されている原子炉圧力容器と付属配管などの継手区分を示す(文献1)。その溶接継手構造は第1種継手から第4種継手に区分されており、溶接部に適用される非破壊検査は機器の種別、溶接方法、対象となる継手および適用する段階によって各種方法が選定される。とくに溶接前後の表面や内部の非破壊検査として、主に磁粉探傷検査、浸透探傷検査、放射線透過検査および超音波探傷検査が規定されている。また、原子力発電プラントの機器構造物の製造工程中検査は、放射線透過検査による溶接部検査が主体となっている。しかし、運転開始後の供用期間中検査では、装置の取り扱い性、欠陥の検出性、記録性などの点から主に超音波探傷検査が実施されている。
図4は原子炉圧力容器(BWR)の製造段階における非破壊検査手法の適用例を示す。検査手法としては、磁粉探傷検査、超音波探傷検査および放射線透過検査などであり、上鏡、フランジ、下鏡などの各部位によって適用する手法は異なり、更に製造段階によってもその探傷手法は使い分けられている。
3.各種非破壊検査
3.1 磁粉探傷検査(MT)
鉄鋼などのような強磁性体材料では、その表面や表面近傍に欠陥が存在すると表層部の磁束が乱れる。この表面に強磁性体の微粒子からなる磁粉を散布すると、磁粉は磁化され両端に磁極を持った小型磁石となり、磁粉同士がつながって欠陥部に凝集・吸着し欠陥に相当した模様ができる(文献3)。このようにして視覚化された模様の観察によって、試験体表面や表層部に存在する欠陥を検出できる。この手法(Magnetic Particle Test)は、磁性体にのみ適用でき、試験体表面近くに存在する割れなどの検出に優れた非破壊検査方法である。原子炉圧力容器、上下鏡およびフランジの長手溶接、円周溶接、ノズル溶接およびサポートスカートの溶接部に主として適用されている(文献2)。
3.2 浸透探傷検査(PT)
浸透探傷検査(Liquid Penetrant Test)は、目では見えない微細な表面欠陥を可視化する方法で、非常に狭い隙間に進入した液体を吸い出す毛細管現象と鮮やかな液体を用いることによる知覚化を利用したものである。この方法は、ステンレス材料をはじめアルミニウム材料などの非磁性体材料にも有効である。
一般的に行われる浸透探傷検査は、試験体表面や欠陥部をまず洗浄し、浸透液を検査対象となる部分に十分に散布する。十分な浸透時間を確保した後、ウエス(汚れを拭きとる布切)や洗浄剤を用いて試験体表面に付着している余剰浸透液を除去する。最後に現像処理として試験体表面に浸透液による欠陥の指示模様を形成させるためにスプレー式の現像剤を散布する。現像剤が乾燥し、白色の現像剤皮膜が形成されると、直ぐに欠陥中の浸透液が皮膜中に吸出され指示模様が形成され、欠陥を視覚化することができる(文献3)。この検査法は、磁粉探傷検査と同様に原子炉圧力容器などの長手および円周溶接部、ノズル溶接部の表面欠陥の検出に利用されている(文献2)。
3.3 放射線透過検査(RT)
図5は放射線透過検査(Radiographic Test)の直接撮影法の概略を示す(文献3)。放射線の透過像を直接フィルムに撮影する方法で、内部に欠陥を有する試験体を透過する放射線の強さの差をフィルムなどに黒化度の差として表すものであり、この黒化度の変化から欠陥を識別する。この手法は原子力発電プラントの製造段階の検査、とくに溶接部の検査に適用されており、工場などで行われる検査では主にX線源が利用され、中でも大型構造物に対しては高エネルギーX線装置(ライナック)が使われている。また、設置場所で行う狭隘部の検査においては主にγ線源が利用されている。
3.4 超音波探傷検査(UT)
図6は超音波探傷検査(Ultrasonic Test)の概略を示す(文献3)。試験体の表面に超音波を送受信する探触子を押し当て内部に各種周波数の超音波を伝搬させる。内部の欠陥や裏面で反射して戻ってきた超音波を受信し試験体内部の状態を把握する。欠陥位置は超音波の送信から受信までに掛かる時間から測定し、欠陥の大きさは受信したエコーの高さや欠陥エコーの出現する範囲の測定によって求められる。原子力発電プラントにおいて、主に素材の板厚測定およびラミネーションの検出、溶接による溶融部と母材における溶込み不足、熱影響部に発生するクラックの検出に適用されている。また、原子炉圧力容器回りのノズル開口部、ブランチ、配管継手の補強として行う溶接肉盛に対しては、溶接肉盛部、溶融部および溶着肉盛部直下の母材に対してこの検査が適用されている(文献2)。
4.原子炉供用期間中検査システム
原子炉圧力容器や配管などの溶接による接続部は、定期的にその健全性を確認できる供用期間中検査(ISI:In Service Inspection)が義務づけられている。とくにこの検査には超音波探傷検査が採用されているが、従来行われてきた手動による超音波探傷検査の記録性を改善し、
放射線防護の点からも探傷装置や制御装置の遠隔自動化を図った超音波探傷システムの開発が進められている。
近年、原子炉圧力容器の健全性検査の遠隔自動化探傷を図った装置として、
図7に示す自動検査システムがある(文献4)。このシステムでは、装置の取扱いやすさの向上、探傷や解析の時間削減、検査作業員の放射線被ばくの低減および検査結果の信頼性向上を図っている。とくにノズルと配管溶接部の超音波探傷検査に改良を加え、被ばくを防ぐ作業時間の削減、作業性の向上が実現されている。さらに、従来のノズル部超音波探傷装置に対して永久磁石車輪を採用することにより、これまで長時間を必要とした走行用けがき作業が省けた。また、装置がノズルの肩部を走行することで装置支点と探触子間の距離が近くなり大きな剛性が不要なために、装置全体の小型・軽量化が図れている。配管溶接部超音波探傷では、これまでのデータ記録のみの自動化に加えて、検査アーム、探触子モジュールおよびガイドレールの改良を行い、更にEDAS(Enhanced Data Acquisition System)による解析手法を実用化し、被ばく低減に向けた検査装置操作・データ採取の全自動化および信頼性の高い検査記録データが取得される。
図8は原子炉圧力容器の供用期間中で放射線防護のために開発された水中で行う超音波探傷検査装置の概略を示す(文献5)。この超音波探傷装置(UTマシン)は、小型、軽量および水中自航式ロボット化により本体サイズが幅1.0×長さ1.8×高さ0.9m、本体重量が大気中で300kg、水中で0kgとなっており、1)水中での遊泳操作が容易になり、プロペラを利用して検査対象位置へ自由にアクセスでき、2)探傷検査実施時に原子炉圧力容器鋼頂部に据え付けられた位置標定装置が画像処理を利用してマシン本体を自動追尾し、レーザ光で高精度の遠隔位置決めが可能で、3)先端にUT探触子を取り付けた7軸構成の多関節マニピュレータによって自由なUT倣い走査が可能である。
5.まとめ
原子力発電プラントでは原子炉圧力容器および接続する配管などの溶接部の健全性を確認する手法として、超音波探傷検査、放射線透過検査など各種非破壊検査法が供用前および供用期間中に適用されている。とくに最近では、供用期間中検査における作業者の被ばく低減を達成するために、高精度データを遠隔操作で取得できる小型・軽量の超音波探傷検査システムの開発が進められ、被ばくの低減を実現するとともに、従来の装置や手法に比べて、装置の取扱い性が向上し、探傷や解析時間の削減がなされ、原子力発電プラントの安全運転に役立っている。
なお、
原子力発電所の自主点検記録不正問題などの再発防止のため電気事業法と
原子炉等規制法の一部が改正され、2003年10月1日から新しい検査制度等が導入された。溶接検査においては、(財)原子力発電技術機構、(財)
発電設備技術検査協会、(財)原子力安全技術センターの3公益法人の業務を新たに設立された(独)原子力安全基盤機構が行うことになり、(独)原子力安全基盤機構が溶接安全管理審査を行い、経済産業省がその審査結果を総合的に評定することになった。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電所の定期検査 (02-02-03-07)
原子力施設における溶接、接合 (02-08-01-06)
発電設備技術検査協会 (13-02-01-22)
原子力施設の検査制度の改正(平成15年改正の概要) (02-02-03-17)
<参考文献>
(1)一瀬 徹ほか:発電用原子力プラントの検査技術、検査技術、2(10)、p5?10(1997)
(2)内ヶ崎 儀一郎ほか:原子力と設計技術、大河出版、(1980)、p226?250
(3)日本非破壊検査協会(監修):非破壊検査シリーズ「非破壊試験概論1993」(1993)
(4)東海林 一ほか:最新の原子炉供用期間中検査機器、石川島播磨技法、33(4)、p1?5(1993)
(5)谷口ほか:原子炉容器新型超音波探傷試験装置(A−UTマシン)、三菱重工技報、32(3)(1995)
(6)資源エネルギー庁(編):火力原子力発電必携、火力原子力発電技術協会(1993年3月)
(7)石井 勇五郎(編著):新版 非破壊検査工学、産報出版(1993年8月)
(8)非破壊検査編集委員会(編):溶接部の非破壊検査、日本能率協会(1973年6月)
(9)原子力安全・保安院:原子力発電所の検査・点検等の不正問題への対応について(2002年11月)