<大項目> 原子力発電
<中項目> 技術の改良・高度化
<小項目> 技術開発
<タイトル>
原子力施設における溶接、接合 (02-08-01-06)

<概要>
 原子力発電プラント等の原子カ施設における信頼性、安全性確保の見地から、溶接施工技術はキーテクノロジーのーつである。初期のプラントでは、サブマージアーク溶接法及び被覆アーク溶接法が主体であったが、継手性能向上等を目的に開発を進め、現在では、開先幅を狭くして小入熱・低ひずみの施工が可能な狭開先ガスメタルアーク(GMA)溶接法及び狭開先ガスタングステンアーク(GTA)溶接法、さらには、高エネルギー密度溶接(電子ビーム溶接法、レーザ溶接法)が主要機器に広く実用化されている。また、配管の溶接においても施工法に改善が加えられ、今日では大部分の継手が、自動GTA溶接法または自動GMA溶接法により施工されている。これらを概説するとともに、経年プラント等における補修溶接技術の新展開を紹介する。
<更新年月>
2004年01月   

<本文>
1.はじめに(文献1、2参照)
 原子力発電プラント等の原子力施設には、高い信頼性のもとに安全性を確保し、安定かつ高稼働率運転が要求されており、機器の製造・据付け・運転・保守においては、基本となる溶接施工技術が機器の信頼性に大きく影響する。表1に代表的溶接方法の比較、図1に溶接施工法の変遷を示す。初期のプラントでは、サブマージアーク(SAW)溶接法(*2)と被覆アーク溶接法(*1)が主流であったが、継手性能の向上及びヒューマンエラーの低下を目指して溶接入熱・パス数の低減、溶接の自動化を進め、現状では開先幅を狭くして小入熱・低ひずみの施工が可能な狭開先アーク溶接法[狭開先ガスメタルアーク(GMA)溶接(*4)、狭開先ガスタングステンアーク(GTA)溶接(*3)、さらには高エネルギー密度溶接[電子ビーム溶接(EBW)、レーザ溶接(LBW)]が、主要機器に広く実用化されている。1990年後半からは、超狭開先化、全自動化へと発展している。また、配管の溶接においても施工法に改善が加えられ、現在では大部分の継手が、自動GTA溶接法または自動GMA溶接法により施工されている。これらを概説するとともに、経年プラント等の保守・補修溶接技術の新展開の例を幾つか紹介する。
2.主要機器の溶接(文献3参照)
 原子炉圧力容器蒸気発生器等における低合金鋼、炭素鋼の溶接には、開先の狭い1パス1層の狭開先GMA溶接法が適用されている。本方法は、サブマージアーク(SAW)溶接法に比べ、溶接熱影響部の幅が狭く、靭性が高い、溶接金属量が少ないので溶接ひずみが小さい、拡散性の水素量が少ないので低温割れが生じにくいなどの利点がある。このため、高品質、高信頼性の溶接部を得ることができる。図2原子炉容器の長手溶接を狭開先GMA溶接法により施工している状況を示す。
 また原子カ発電プラントでは、多くのオーステナイト系ステンレス鋼の容器がある。これら大径薄肉容器の溶接に際しては、図3に示すように、従来の横置き式組立工法に比べ自重の影響が少なく、大がかりな補強を要しなくても溶接ひずみを抑制できる縦置き式組立工法を開発し、適用している。この縦置き式組立工法では、立向姿勢、横向姿勢において安定に溶接できるGTA溶接法により施工されているが、GTA溶接法の溶着速度が低く、施工能率が劣る欠点を、狭開先にし、溶接ワイヤに通電・加熱して溶着速度を高めたホットワイヤ式自動GTA溶接法が採用されている。
3.配管の溶接(文献3、4参照)
 原子力発電プラントの配管は、原子炉を冷却する一次冷却材用ステンレス鋼大径厚肉管(外径約900mm、厚さ約80mm)から、ドレン用炭素鋼小径管(外径17mm、厚さ約2mm)に至るまで多岐にわたっている。これら継手の一層の信頼性向上をはかるため、図4に示すような継手数の低減を図っている。すなわち、(a)2力所のすみ肉溶接を必要とするソケット継手から突き合わせ継手への変更、(b)小半径曲げ加工法の適用によるエルボの省略、(c)分岐管つば出し加工法の適用によるTピースの省略等である。これらの溶接継手は、製造時に検査され健全性が確認されるが、重要配管については供用期間中にも検査され、監視される。従って、溶接継手の減少による信頼性向上に加えて、供用期間中検査時の放射線からの被ばく低減効果も期待できる。初期プラントにおいては、被覆アーク溶接法が多く用いられていたが、現在では大部分の継手が自動GTA溶接法及び自動GMA溶接法により施工されている。
 また、使用済み燃料の再処理工場においては、膨大な数のステンレス鋼小径管の現地溶接が実施されたが、自動GTA溶接機が投入されている。
4.高エネルギー密度溶接
4.1 電子ビーム溶接(EBW)(文献1、5参照)
 電子ビーム溶接は、最初に1950年代の後半、原子炉の燃料被覆管(ジルカロイ)の溶接法として成功をおさめ、以後、原子力や航空宇宙産業を中心に活性材料の溶接や精密品の溶接に実用化されてきた。電子ビーム溶接は、真空中で高速に加速された電子ビームを被溶接物に衝突させ、その運動エネルギーを熱源として利用している。電子ビーム溶接では、高エネルギー密度を得るために電子ビームを収束させアーク溶接の約50倍のエネルギー密度になっている。この高密度のために、溶け込み比(溶け込み深さ/ビード幅)が大きく、厚板を1パスで施工できる。
 原子力プラントにおいては、前述のように燃料被覆管や炉内構造物の精密高精度溶接に初期から使用されていたが、最近では大型構造物の溶接に適用されており、オーステナイト系ステンレス鋼製容器(炉心槽、補機タンク類)、炭素鋼製容器(蓄圧タンク)、低合金鋼製容器(蒸気発生器)等に実用化されている。
4.2 レーザ溶接(LBW)(文献1、6及び7参照)
 レーザ溶接は、誘導放射によって生じたコヒーレント光を集光させて熱源として用いるもので、レーザも電子ビームと同程度のエネルギー密度が得られる。
 1960年にメイマンがルビーレーザの発振に成功して以来、種々のレーザが開発されているが、溶接に適用するには、キロワット級の出力が必要であり、大出力の得やすい炭酸ガスレーザとYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザが実用化されている。
 レーザ光は大気中でも伝送可能であることから、EBWの場合のような真空チャンバを必要とせず、大型構造物にも適用しやすい特徴がある。厚板を取り扱うことが多い原子力機器の製造工程では、5〜10kW級の炭酸ガスレーザが広く用いられている。適用例として、制御クラスタ案内管の溶接、蒸気発生器伝熱管のふれ止め金具の溶接等が挙げられる。
 一方、YAGレーザの波長は炭酸ガスレーザのそれよりも約1桁小さい。このため、炭酸ガスレーザは大出力を伝送できないが、YAGレーザは石英系ファイバーで伝送できる大きな特徴がある。これを生かして、再処理プラントにおけるステンレス鋼製容器、既設原子力プラントにおける蒸気発生器伝熱管の補修溶接、小口径配管内面のクラッド(肉盛り)溶接等に実用化されている。
5.経年プラント等の保守・補修溶接
5.1 シュラウド溶接(文献8参照)
 シュラウドにひび割れの見つかった幾つかのBWRプラントにおいて、シュラウドの取り替え工事が行われている。図5に取り替えの順序を示すように、直径約4.5m、全高7mの旧シュラウドを切断して取り出し、新シュラウドを据え付け、内外面から溶接している。この際、1パス多層の突き合わせ、完全溶け込み溶接とし、変形の少ない高精度の溶接部を得るため、低入熱、開先角度6°の狭開先溶接法が開発、採用されている。
5.2 配管取替溶接(文献9参照)
 1970年代半ば頃から、BWRプラントのステンレス鋼配管に応力腐食割れSCC)が発生した。対策の一つとして、取替えが比較的容易な部位においては、SCCの発生しにくい低炭素ステンレス鋼管(SUS316L)への取替工事が実施されている。この場合の配管取替溶接施工法としては、図6に示すように、遠隔自動GTA溶接法が開発され、適用されている。
5.3 水中溶接ロボット(文献10参照)
 人間系では困難であった作業環境下における放射性廃棄物処理設備のタンク、槽類の点検が出来、点検作業の効率化が図られ、水中での検査及び補修溶接が可能な遠隔水中点検補修装置(ロボット)が開発、実機適用されている。これは、水中移動技術と水中YAGレーザ溶接技術を組み合わせたものである。図7に水中溶接の原理を示す。
 レーザビームとシールドガスが溶接トーチ内に同軸で供給され、溶接部は不活性ガス雰囲気になっている。溶接ワイヤも同様にシールドガスにより周囲の水に接触しないよう保護されている。本装置の全体構成を図8に示す。最大出力4kWのYAGレーザ発振器を使用し、補修ロボットは駆動部と溶接ユニットから構成されている。
6.おわりに
 以上、原子力施設における溶接,接合について代表例を取り上げ概説した。今後の原子力分野の溶接は、信頼性確保とともに合理化技術の開発が進み、技術維持・継承、3K作業対応等の観点からもセンサを用いての画像処理による溶接適応制御、全自動溶接システム化に向かうと考えられる。

[用語解説]
(*1) 被覆アーク溶接
 被覆アーク溶接棒を用いて、アークの熱で行う溶接。
(*2) サブマージアーク溶接(SAW)
 フラックス中において、溶接ワイヤと母材との間のアークから生じるアーク熱で溶接する方法。
(*3) ガスタングステンアーク(GTA)溶接
 アルゴンガスをシールドガスとして用い、非溶極式のタングステン又はタングステン合金を電極とする溶接。
(*4) ガスメタルアーク(GMA)溶接
 アルゴンガスをシールドガスとして用い、溶極式の溶接ワイヤを電極とする溶接。
<図/表>
表1 代表約溶接方法の比較
図1 溶接施工法の変遷
図2 原子炉容器の狭開先GMA溶接状況
図3 オーステナイト系ステンレス鋼大型圧力容器の組立工法の概念図
図4 配管ブロック割りの変遷
図5 炉心シュラウド取替の順序
図6 遠隔操作式配管自動溶接システム概念図
図7 水中溶接の原理
図8 水中溶接ロボットの全体構成


<関連タイトル>
原子力発電所の溶接検査 (02-02-03-11)

<参考文献>
(1)高野:原子力プラントの溶接施工技術、原子力工業、38(9)、53-64(1992)
(2)小出、辻村、関:原子力機器製作における溶接プロセスのシステム化、溶接技術、50,(12),72-77,(2002)
(3)青木、名倉:原子力プラントの高品質・高能率溶接技術、原子力工業、42(8)8-14,(1996)
(4)今泉:特集 配管溶接最前線 現場配管溶接施工と自動溶接機 核燃料六ヶ所再処理工場建設にパイプ自動溶接機を適用して、配管技術、44(8),28-34,(2002)
(5)高野、名倉、下楠:原子力プラントへの電子ビーム溶接の実用化、原子力工業、32-36,(1996)
(6)森:原子力分野における最新のレーザ加エ技術、原子力工業、42(9)、14-17(1996)
(7)下楠:先端レーザ用光学部品 原子力機器への高出力YAGレーザ溶接の適用、レーザ加工学会誌、10(1),43-50,(2003)
(8)宮野、佐藤、小林:原子力プラントの大型保全技術−シュラウド取替工法、東芝レビュー、53(9),57-60,(1998)
(9)小林:溶接の世紀(20世紀総括)2.原子力分野と溶接、溶接技術、48(3),99-105,(2000)
(10)三輪、佐藤、小嶋、大脇、廣瀬:原子力発電所 遠隔ロボットを用いた水中溶接大出力YAGレーザを用いた遠隔水中溶接技術の開発、検査技術、7(3),7-14,(2002)
(11)東芝電力・社会システム社:技術紹介 シュラウド取り替え工法
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