<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 新しい潮流
<タイトル>
水素エネルギー社会への胎動 (01-07-06-16)

<概要>
 水素を燃料とする燃料電池技術開発が進み、水素エネルギー社会が視野に入ってきて、各国とも、競争と協力を強化しつつある。米国ブッシュ大統領は2003年1月28日の一般教書の中で、水素燃料イニシアティブを発表し、国際協力計画を提唱した。アメリカはワークショップで研究開発の進め方を検討し、各国に、国際協力への参加を呼びかけた。国際協力作業開始にあたっての閣僚会議には15カ国とECが出席し、協定書に署名した。
 わが国でも、1993年度以来、水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)プロジェクトを進めている。現在は第2期計画を12のタスク分野にわたって進めている。また、エネルギー基本計画では、水素エネルギー社会に向けた取組を、長期的、総合的かつ計画的に推進するために重点的に研究開発のための施策を講ずべき分野と位置付けて、施策を講ずべきであるとしている。
<更新年月>
2003年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 水素を燃料とする燃料電池技術開発が進んで、水素エネルギー社会が視野に入ってきて、各国とも競争と協力を強化しつつある。
1.米国の水素エネルギー社会に関する戦略
1.1 水素エネルギー社会に関する国際協力(文献1)
 米国ブッシュ大統領は2003年1月28日の一般教書の中で、水素燃料イニシアティブを発表し、国際協力計画を提唱し、アメリカはクリーンな水素燃料自動車の開発で世界をリードするといっている。
 エネルギー、環境、経済的安全保障を改善するため、水素及び燃料電池技術の開発を加速しようとする国が増えてきている。例えば、
・米国は長期の水素のインフラ、燃料電池、ハイブリッド車開発計画の最初の5年に、17億ドルを拠出する。
・欧州連合は再生型エネルギーと水素エネルギー技術の研究開発を進めるため5年間で20億ユーロを拠出し、9つの都市で水素燃料電池バスをデモンストレーションする計画を持っている。
・日本における燃料電池と水素技術の研究開発及び実証計画は1995年以来、顕著に成長している。
・オーストラリア、カナダ、アイスランド、イタリア、イギリス及びシンガポールは水素エネルギー技術に集中した計画を持っている。中国は燃料電池車を作り、運転しようという計画を組織した。インドは水素技術ロードマップ作成に着手した。
 これらの計画は、多くの国が水素と燃料電池技術の展開を支えようという先進的な研究開発に共通の関心を持っていることを示している。水素と燃料電池技術プログラムの目標を効率的に達成するには、国際協力が不可欠である。水素の製造、貯蔵、輸送、配布及び使用のための安全で効率的な世界的なインフラストラクチャー(産業基盤)の構築は、慎重な計画と協力を必要とする多国間の努めである。
 幾つかの2国間、多国間の国際的な水素・燃料電池に関する協力が現存する。例えば、IEAは特定のトピックスについての水素・燃料電池を支援している。これらの関係は、世界を水素エネルギー社会に前進させ、空気をかなり綺麗にすることを支援する堅固で機敏な国際協力を作るための強固な基礎を与えるものである。
 水素エネルギー社会における国際協力の確立は、水素・燃料電池計画を前進させようとする効果的、効率的かつ集中的な研究、開発、配置計画を組織し実行するための仕組みである。機能本位の国際協力は、困難な問題を解決するために世界の最高の知的技術と才能を結集し、相互に操縦しやすい技術基準を開発し、そしてコスト的に競争力のある、標準化され、広くアクセスできる安全な水素エネルギー社会の発展とそれへの移行を抑制する技術的、財政的、制度的障害を容易に克服できる公的−私的協力を育てるものである。
 水素エネルギー社会のための国際協力は、水素製造、貯蔵、輸送、配布、燃料電池技術、水素燃料利用のための共通の規則、基準の研究、開発、展開を前進させる協力的努力、並びに地球規模の水素エネルギー社会を発展させる国際的に共同の努力を進めるものになると予想される。
 国際協力の究極の目標は、参加国の消費者が競争的価格の水素燃料車を買いやすく、家や職場に近いところで燃料補給できることである。
 水素エネルギー社会の国際協力は、次の条件が世界の輸送部門において成り立てば水素エネルギー社会が実現できるであろうと想像できる。
・水素燃料車が在来車と競合する。
・水素の価格と入手の可能性が在来燃料と競合する。
・水素燃料の補給と貯蔵のインフラが改善されて、水素燃料車の使用者に便利になる。
・水素エネルギー貯蔵技術が、個人でも使えて、現在のガソリン車と同程度の安全性、性能、走行距離で水素燃料車を運転することができる。
・水素利用に関係した国際的に一貫した安全規則と基準が開発され、採用される。

 水素エネルギー社会の国際協力の目標、期間、実施様式は今後の会議で検討され、組織化されていく。
1.2 水素エネルギー社会に対する基礎研究の必要性(文献2)
 2003年5月13〜15日、メリーランド州ロックビルにおいて水素の製造、貯蔵、利用に関するワークショップが開催された。
 水素エネルギー社会のためには、燃料電池のコストは1/10以下、水素の製造コストは1/4以下に下げなければならない。さらに、車及びその他の利用のための水素技術の性能と信頼性が劇的に改善されなければならない。技術の単なる漸進的な進歩では、このギャップを埋めることができない。ギャップを狭くする唯一の望みは、応用プログラムと密接に結びつき統合した、革新的かつ高いリスクと高い利益をもたらす基礎研究の包括的長期プログラムにある。大学、国立研究所からの科学者と産業界からのエンジニアと科学者が、学際的なグループの中で水素の製造、貯蔵、利用の基本問題について飛躍的な解答を見つけるようにしなくてはならない。プログラムの目的は、水素と材料物質との化学的、物理的な相互作用の解明と制御について、漸進的な進歩ではなく、革命的な解答にある。ワークショップでは競争の激しい水素エネルギー社会のために必要な研究の方向は、以下の6項目に集約されている。
(1)触媒作用、(2)ナノ構造材料、(3)膜と分離、(4)特性値と測定技術、(5)理論、モデル化及びシミュレーション、(6)安全と環境問題。
1.3 国際協力閣僚会議
・米国エネルギー省長官エイブラハム氏は、2003年4月、パリの国際エネルギー機関の閣僚会議で、国際的な水素共同研究の実施を求めた。長官は秋にはアメリカで開催される国際協力の閣僚会議でホストを勤める。多くの国が国際協力への参加に関心を示している。
・2003年10月16日、エイブラハム氏はカナダ、オタワで天然資源省大臣との会談後、カナダは水素エネルギー社会の国際協力を支持すると発表した。「われわれは、水素と燃料電池技術の研究、開発、実証活動で協同を支持するというカナダの決定を喜んでいる。国際協力は、最近の一般教書でブッシュ大統領が提唱した水素と燃料電池計画の目標を達成するための鍵である」
・水素エネルギー社会国際協力のための閣僚会議(2003年10月19〜20日)
 エイブラハム氏は、この会議のホストとして14カ国の政府の代表者、欧州連合、国際エネルギー機関の代表、アメリカ合衆国中の連邦、州、地方政府からの多数の客を迎えて歓迎の言葉を述べ、ブッシュ大統領の歓迎の辞があり、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、アイスランド、インド、イタリア、日本、韓国、ノルウェー、ロシア、イギリス、米国の15カ国と欧州委員会(EC)の代表が付託書に署名した。
2.わが国の現状
2.1 WE-NET
 わが国の水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)プロジェクトは、世界各地に未利用のまま豊富に賦存する水力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギーを用いて、水を電気分解により水素に変換し、輸送・貯蔵して、発電、輸送用燃料、都市ガス等で利用するための国際的なクリーンエネルギーシステムの構築を目的として、国際協力によって、中核となる要素技術を確立し、最適なシステム設計を推進しようとするプロジェクトである。WE-NETの概念を図1に示す。また、WE-NETプロジェクトにおいて、水素利用技術の調査・研究の対象になった全体像を表1に示す。さらに、WE-NETシステムの経済性評価の例を表2に示す。
 本プロジェクトは、ニューサンシャイン計画において、1993年度(平成5年度)から開始され、1993年度から98年度までの6年間の第1期では、全体システム、水素製造技術、水素輸送・貯蔵技術、水素利用技術等にかかる基礎的な研究及び要素技術の研究開発を行い、全体システムの最適設計に必要な基礎を確立するとともに、システム構築の鍵となる中核技術の研究・開発を推進してきた。
 1999年度以降の第2期では、水素エネルギーの導入を図るために、短期・中期で実用化を目指す、水素供給ステーション、自動車用水素貯蔵材料、純水素供給固体分子型燃料電池及び水素ディーゼルエンジンの開発を盛り込み、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:2003年10月から独立行政法人となった)が研究を推進している。2001年度の成果報告によると、開発項目は以下の12のタスクに分けて実施されている(図2)。
 システム評価、安全対策、国際協力(水素エネルギー技術標準化等)、動力発生技術、水素燃料タンクシステム、純水素供給固体高分子型燃料電池、水素供給ステーション、水素製造技術、水素輸送・貯蔵技術、低温材料、水素貯蔵材料、革新的・先導的技術
2.2 エネルギー基本計画(案)中の水素エネルギー社会
 経済産業省総合資源エネルギー調査会基本計画部会は、2003年7月18日エネルギー基本計画(案)を発表した。第3章「エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するために重点的に研究開発のための施策を講ずべきエネルギーに関する技術及びその施策」の中、3.「水素エネルギー社会の実現に向けた取組」で次のように述べている。なお、2003年10月7日、基本計画は閣議決定された。
 「水素は、その利用段階ではゼロエミッションのエネルギー媒体であり、原理的には非化石燃料からも製造が可能で、その意味で環境的に望ましい二次エネルギーである。また、水素を利用した定置用の燃料電池の開発が進めば、電気と熱のバランスの取れた併給により高効率の分散型エネルギーシステムの構築が可能となる。一方、燃料電池自動車の開発が進めば、運輸燃料の代替化・エネルギー消費効率の向上が可能となり、NOxやPM等の有害物質を発生せず、二酸化炭素の排出も抑えられることとなる。さらに、パソコン、携帯端末といった電子機器への利用等、幅広い分野で燃料電池の利用が進むことが期待される。
 今後、水素を有望なエネルギー供給手段として位置付けていくため、大幅なコストダウンや長寿命化を目指した燃料電池本体の開発に全力をあげて取り組むとともに、水素を供給するためのハード面でのインフラ整備や、水素の生産、貯蔵や輸送、利用に係る規制の見直しを含めたソフト面でのインフラ整備の在り方を探求する。
 なお、水素は利用段階ではゼロエミッションのエネルギー媒体であるものの、化石燃料から水素を製造する場合には二酸化炭素等が排出されることとなるため、化石燃料の改質による水素製造技術の改善を進める。また、製鉄所の副生ガス等の副生水素の活用、将来的には二酸化炭素を極力排出しない手段、例えば、原子力や太陽光、バイオマスを活用した水素の製造等、化石燃料に依存しない水素の製造が実用化されることが期待される。」
 これより先、2002年5月27日、燃料電池プロジェクトチーム副大臣会議は、燃料電池に対する基本認識を確認し、わが国における燃料電池の実用化・普及を加速化させるため、今後、拡充・強化すべき施策を提言し、(1)戦略的技術開発の推進、(2)実証試験、先進的モデル事業の推進、(3)普及啓発の推進、(4)ソフト面のインフラの整備をあげている。
<図/表>
表1 水素利用技術の全体像
表2 WE-NETシステムの経済性評価
図1 水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)の概念図
図2 NEDOが実施している固体分子型燃料電池/水素エネルギー利用プログラム

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
サンシャイン/ニューサンシャイン計画 (01-05-02-01)
水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術 (01-05-02-05)
一般教書の水素燃料イニシアティブ(ブッシュ大統領) (14-04-01-32)
エネルギー基本計画 (01-09-01-07)

<参考文献>
(1)International Partnerships for the Hydrogen Economy:
(2)DOE:Office of Science,,Basic Research Needs for the Hydrogen Economy,Report of the Basic Energy Sciences Workshop on Hydrogen Production,Storage,and Use,May 13-15,2003
(3)DOE:Report on Meeting of U.S.- Canada Task Force,http://www.energy.gov/engine/content.do?BT_CODE=PR_SPEECHES
(4)DOE:European Union Conference on Hydrogen,Brussels,Belgium,Remarks by Energy Secretary Spencer Abraham,June 16,2003,http://www.energy.gov/engine/content.do?BT_CODE=PR_SPEECHES&DATE_FROM=4/1/2003$DATE_TO=6/30/2003&TT_CODE=SPEECHLIBRARY
(5)資源エネルギー年鑑編集委員会編:2003/2004 資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2003年1月),p.227-233
(6)新エネルギー・産業技術総合開発機構、http://www.nedo.go.jp/,書誌情報検索,WE-NET,2001
(7)経済産業省:燃料電池プロジェクトチーム報告書
(8)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、基本計画部会:エネルギー基本計画(案)
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