<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力防災と原子力損害賠償制度
<小項目> 原子力賠償制度
<タイトル>
原子力損害賠償に関する国際条約と諸外国の国内制度 (10-06-04-02)

<概要>
 原子力利用を進める各国は、原子力事業者の無過失責任と責任集中、賠償責任限度額、政府による損害賠償保障措置等を考慮した損害賠償制度を整えている。一方、多くの国は、原子力利用規模の拡大、事業の国際化、地理的条件、原子力事故の被災地域は広範に及ぶ可能性があることなどを考慮し、その損害賠償の責任、範囲、裁判権等を明確にできる国際条約に加盟している。
 原子力損害賠償に関する国際条約には、パリ条約、ウィーン条約及び原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)の三系統がある。OECD/NEAで採択されたパリ条約は、欧州のOECD加盟国を中心に15カ国が加盟している。ブラッセル補足条約はパリ条約を補足するもので12カ国が加盟している。IAEAが採択したウィーン条約には38カ国が加盟し、賠償措置額を増額した改正ウィーン条約には9カ国が加盟している。国内法による賠償措置を補完するためにIAEAが採択した原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)には、米国を含む5カ国が加盟しているが未発効である。どの条約の加盟国も、条約と国内法制の一貫性を図る必要がある。
 日本は、陸続きの国境を持たず、世界水準の賠償制度を整備しているなどの理由で国際条約に加盟していないが、世界の原子力産業における役割等を考慮して国内法と適合しやすいCSCの加盟が検討されている。合わせて、欧米と日本の近隣諸国の原子力損害賠償制度の概要を述べる。
<更新年月>
2014年01月   

<本文>
 原子力事故による損害賠償に関し、国際的な背景、国際条約の必要性と特徴、欧米と日本近隣の国々の損害賠償制度の概要を述べる。
1.原子力損害賠償制度の国際的背景
 世界のエネルギー消費は増大し続け、2030年には石油換算で168億トンに達すると予測されている。それに伴い、二酸化炭素の排出等による気候変動が進み、地球規模の環境問題が深刻化することが危惧されている。他方、再生可能エネルギーの本格的利用には時間がかかると予想され、原子力発電の利用を継続、もしくは拡大する方針の国も多い。
 原子力産業界では、技術の成熟と共に国際的な再編と連携が進行している。原子力利用の増大と原子力産業の国際化は、技術協力、原子力機器・機材の輸出入、核燃料の国際輸送等の増大につながり、それに伴い原子力事故に関する統一的な考え方と明確な規定が必要となっている。
 原子力利用を進める際には、原子力技術の開発と人材育成を進めるとともに、原子力事故による国内の原子力損害賠償制度の充実が必要である。しかし、原子力事故による損害は、事故が起きた国だけに止まるものではない。近隣諸国の損害賠償には、適切な原子力損害賠償条約に加盟し、賠償責任と範囲、賠償に関する裁判権(管轄)等を明確にできることが望ましい。
2.原子力損害賠償に関する条約
 原子力損害賠償に関する条約には、パリ条約、ウィーン条約及び原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)の三系統がある。
 原子力損害賠償に関する国際条約の構成の概要を図1に示す。これら条約と日本の「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」を比較して表1に示した。各条約及び原賠法は、次のような共通の内容を備えている:1)原子力事業者の無過失責任及び責任集中、2)賠償責任限度額の設定、3)賠償責任限度額までの損害賠償措置(民間保険等)、4)専属裁判管轄の設定と判決の承認・執行の義務。
2.1 パリ条約・ブラッセル補足条約
(1)歴史など:原子力分野の第三者責任に関するパリ条約(パリ条約)は、旧西側先進諸国の原子力損害賠償制度のバランスを取るため、1960年にOECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)で採択されて1968年に発効、欧州のOECD加盟国を中心に15カ国が締約国となった。2004年に「改正パリ条約」が採択され、旧条約締約国15カ国に加えスイスが署名したが、署名国が同条約に対応する国内法を整備中のため未発効である。
 ブラッセル補足条約は、パリ条約の賠償額を増額・補強するものでフランス、ドイツ、イタリア、イギリス等の欧州のOECD加盟国のうち12カ国が加盟し1974年に発効した。2004年の「改正ブラッセル補足条約」は「改正パリ条約」に並び未発効である。
(2)責任賠償限度額(賠償措置額)など:パリ条約では、責任賠償限度額は1,500万SDR(22.5億円)であり、「ブラッセル補足条約」で1.75億SDR(262.5億円)である。賠償の免責事項には、戦闘行為、敵対行為、内戦又は反乱及び異常な巨大天災地変が含まれる。(注:SDRはSpecial Drawing Rightの略で、国際通貨基金(IMF)の資金引出権、及びその単位を指す。SDRの価格はIMF主要加盟国の通貨を加重平均して評価されている。)
 改正パリ条約(未発効)では責任賠償限度額は7億ユーロ(約750億円)に増額されたが、異常に巨大な天災地変は免責事項から除かれている。
2.2 改正ウィーン条約
(1)歴史など:「ウィーン条約(原子力損害の民事責任に関するウィーン条約)」は原子力施設を有する広範囲の国の参加を目指して、1963年にIAEA(国際原子力機関)で採択され1977年に発効した。2011年には中東欧、中南米等のIAEA加盟国38カ国が加盟しているが、その大半は原子力発電所を保有していない。1997年には賠償措置額を増額した「改正ウィーン条約」が採択され、アルゼンチン、ベラルーシ等の9カ国が加盟し2003年発効した。
(2)責任賠償限度額(賠償措置額)など:改正ウィーン条約の責任賠償限度額は3億SDR(約450億円)である。賠償の免責事項には、戦闘行為、敵対行為及び内戦又は反乱は含まれるが、異常に巨大な天災地変は含まれない。
2.3 原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)
(CSC: Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage)
(1)歴史など:CSCの目的は、パリ条約・ブラッセル補足条約や改正ウィーン条約の加盟国等を含め、各国の国内法による賠償措置を補完することにある。この条約は、1997年にIAEAで採択され米国、アルゼンチン、モロッコ及びルーマニアが批准したが、5カ国の加盟及び原子炉熱出力4億kW以上という発効条件を満たされていないため未発効である。当条約の特徴は、1)国内法による賠償措置額を超える賠償の一部は加盟国の拠出金で援助される、2)原子力事業者の賠償責任の免責事項には「異常に巨大な天災地変」を含む、3)原子力利用・開発で日本と関連が深い米国が批准している等である。近い将来には中国、韓国等のアジア諸国が加盟する可能性がある。
(2)責任賠償限度額(賠償措置額)など:責任賠償限度額は3億SDRである。大規模な原子力事故による損害が3億SDRを超えた際には、加盟国は規定により拠出金を分担・援助する。
2.4 ウィーン条約及びパリ条約の適用に関する共同議定書
 パリ条約とウィーン条約の加盟国間で発生し得る越境損害について、1986年のチェルノブイリ原発事故後の1988年に共同議定書(ジョイントプロトコール)が採択され、1992年に発効した。締約国は両条約の24カ国である。締約国での原子力事故の際は、事故を起こした国が加盟している条約が優先して適用され、越境損害の賠償を受けることができる。
2.5 日本と国際条約
 原子力産業で日本と密接な関係にある米国は、2008年にCSCを批准した。日本は、世界的水準の原子力損害賠償制度を有しており、また、他国と陸続きの国境が無い等の地理的条件等から、これまで原子力損害賠償制度の国際条約への加盟は必要ないと考えられていた。
 しかし、新規の原子力発電国の増加等の国際的な動向の中で、日本の原子力産業の国際的展開の期待、CSCと原賠法との整合性の考慮等から、CSCへの加盟の是非が検討されている。加盟のためには表2に示すように、拠出金の出所、研究炉等の賠償措置、裁判権、国内法との整合等を検討する必要がある。
3.欧米と近隣諸国の原子力損害賠償の概要
 原子力を利用する国々では、国内で起きた原子力事故に関する国内法と損害賠償制度が整備されているので、商取引や技術協力では、相手国の国内法と損害賠償制度(法制)を知る必要がある。また、国際条約に加盟する際には、条約と法制の整合を図る必要がある。
 表3は、日本と原子炉技術等で関連の深い米国、ヨーロッパのイギリスとフランス、旧ソ連時代にチェルノブイリ事故を経験したロシア及び近隣の中国、韓国と台湾の原子力賠償制度の概要を示す。
3.1 諸外国の原子力損害賠償に関する法律
(1)損害賠償法を有する国々
 日本の原子力損害賠償制度は、民法の特別法である「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」、「原子力損害補償契約に関する法律(補償契約法)」等に規定されている。また、韓国は「原子力損害賠償法」、台湾は「核子損害賠償法」を有している。
 フランスは、パリ条約及びブラッセル補足条約と整合する「原子力分野における民事責任に関する法律」を有している。
(2)原子力法に規定が有る国々
 米国の原子力損害賠償は、「原子力法」の一部としてプライス・アンダーソン法(原子力法170条、PA法)に規定されている。また、ロシアは「原子力エネルギーの利用に関する連邦法」、イギリスは「原子力施設法」に規定がある。
(3)法制化されていない国
 中国は原子力賠償制度が法制化されていないが、国務院は特に外国の原子炉メーカー(アレバ、ウェスチングハウス)の懸念に対し、「原子力事故に伴う損害賠償責任に関する質問の回答」(2007年回答)」を示している。
3.2 諸外国の免責事項に関する考え方
 地震多発地域であるとともに、毎年台風被害がある日本と台湾の原子力事業者の免責事項には、「社会的動乱」のほかに「異常に巨大な天変地変」が含まれている。フランスの現行法では「異常に巨大な天変地変」に対しては免責されるが、改正パリ条約(未発効)の発効後は免責の対象から除かれる。
 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故では、想定を超えた15m高さの津波による未曾有の原子力損害が発生したが、原子力事業者の賠償責任は免責されていない。
(前回更新:2000年2月)
<図/表>
表1 原子力損害賠償に関する国際条約と日本の原賠法
表2 原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)加入の主要な検討課題
表3 日本と諸外国の原子力損害賠償制度の比較
図1 原子力損害賠償に関する国際条約

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<関連タイトル>
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
核燃料加工に関する賠償制度の概要 (10-06-04-03)
再処理施設に関する賠償制度の概要 (10-06-04-04)
廃棄物処理処分に関する賠償制度の概要 (10-06-04-05)
輸送に係る原子力賠償制度の概要 (10-06-04-06)
原子力損害賠償に関する条約の概要 (13-04-01-04)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会、原子力損害賠償に関する調査・研究、シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【16,19,20,21,35,37,38,39,42,44】、
http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/genbaihou_activity.html
(2)原子力委員会、平成23年、第45回、資料1、原子力損害賠償に関する条約について、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2011/siryo45/siryo1.pdf
(3)文部科学省、原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会、平20年、第4回、資料4-4、原子力損害賠償に関する国際条約への対応の方向性について、

(4)文部科学省、世界の損害賠償制度の概要、平成23年、原子力委員会、原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会、資料集2、p.28-29、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/seimei/111110_2.pdf
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