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<概要>
 わが国は戦後間もない時期には石炭、水力等の国産エネルギーを利用していたが、その後輸入石油の大量消費を基盤として高度経済成長を成し遂げた。石油危機は、輸入石油に過度に依存した供給体制の脆弱性を明らかにし、これを契機として省エネルギーの促進、石油代替エネルギーの開発利用が図られ、エネルギー源を多様化するとともに、石油の依存度が低減してきた。しかし、1980年代半ば以降の好景気の下で石油の消費は再び増大し、1990年代後半には減少に転じたものの、2005年度においても石油依存度は約50%の水準に留まっている。石油代替エネルギーの中心となったのは原子力、天然ガス、および石炭である。特に、原子力と天然ガスは石油危機の後に利用規模が急増し、2005年度にはそれぞれ一次エネルギーの12%、14%を占めるに至った。また、石炭も発電分野での利用が大幅に増大した。自然エネルギーは水力を除くとまだ一次エネルギーに占める割合はきわめて小さいが、環境保全やエネルギー自給率向上等の公益的観点に立って、国による技術開発と普及支援が行われている。
<更新年月>
2007年12月   

<本文>
1.概況
 わが国(日本)の一次エネルギー供給の長期的な推移(1950年度から2005年度まで)と供給構成の変化を、それぞれ図1および図2に示した。
 わが国は第二次世界大戦後しばらくの期間、石炭、薪炭、水力などの国内資源を主なエネルギー源としていた。その後、1960年代に入って経済の高度成長が始まると、石油の輸入が急増した。1973年の第一次石油危機に至るまで、わが国のエネルギー消費は未曾有の増加を続けたが、増加分の大部分は輸入石油によって賄われた。その結果、一次エネルギー全体に占める石油の比率は1973年度には77%に達した。
 第四次中東戦争を契機として1973年10月に勃発した第一次石油危機は、第二次世界大戦後に廉価で豊富な石油に依存して経済成長を遂げた先進諸国全体に、エネルギー供給体制の脆弱性を強く認識させた。先進諸国は、省エネルギーを推進するとともに、石油代替エネルギーの開発導入に全力をあげた。1979年に起こった第二次石油危機は、先進諸国の危機感をさらに強めさせ、こうした取り組みに拍車をかけさせた。
 石油危機は、わが国の高度経済成長が終わる契機ともなったが、同時にエネルギー多消費型の素材産業から、加工組立型産業、さらには第三次産業への構造転換を促した。また、素材産業を中心に省エネルギー設備の導入やエネルギーの効率的利用に向けて設備、機器の改善が進められた。これらは、経済活動のエネルギー依存体質を大幅に改善した。1973年度から1986年度までの期間に、わが国の国内総生産は年率3.5%で増大したが、エネルギー消費はほとんど増加せず、エネルギー原単位(単位国内総生産に必要なエネルギー供給量)は実に年率3%を超える速度で低下した。
 エネルギー消費の低減に向けた努力とともに、石油代替エネルギーの開発導入も強力に進められた。当初、石油代替エネルギーの中心となったのは、原子力、天然ガス、および石炭である。原子力と天然ガスは主として発電用に使用されていた石油を代替した。石炭は、発電のほか、素材産業(紙・パルプ、セメント等)の燃料として利用が増大した。これらによって、石油消費量は絶対量でも徐々に低下し、一次エネルギーに占める構成比でも1980年代半ばには60%を切る水準にまで低下した。
 1980年代半ばから内需を中心とした好景気が始まった。また、原油のだぶつきによる国際市場の原油価格の低落、さらに円高によって、円建て輸入原油の価格は石油危機前に近い水準まで下落した。こうした背景の中でエネルギー全体の消費、また石油の消費も再び増大し始めた。1990年代半ばには、石油の消費量は絶対量で石油危機当時の水準にまで増大した。しかし、代替エネルギーの導入を継続的に進めた結果、一次エネルギーに占める石油の比率は微増に留まり、60%以下の水準が維持された。
 1990年代半ば以降には、景気の低迷、産業構造変化、省エネルギーの進展などの幾つかの要因が絡み合い、エネルギー消費の総量は概ね横ばいで推移してきた。また、石油の消費量は1996年度をピークに減少に転じ、一次エネルギーの石油依存度も低減傾向となった。しかし、2000年度以降は、石油依存度が約50%の水準に留まっており、石油に依存する供給構造はあまり改善されていない。
 こうした状況の中で、経済産業省が2006年5月に策定した「新・国家エネルギー戦略」では、エネルギー安全保障の確立、およびエネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立などを目指し、2030年までに達成すべき重点目標として、少なくとも30%の効率改善、一次エネルギー供給の石油依存度を40%を下回る水準に低減、運輸部門の石油依存度を80%程度に低減、原油の自主開発比率を現在の15%から40%程度に上昇することを掲げるとともに、2030年以降においても発電電力量に占める原子力発電の比率を30〜40%程度以上にするとの数値目標を設定した。
 その後、2007年3月に改訂されたエネルギー基本計画では上記の長期重点目標などを踏まえて、当面各分野で実施すべき具体的施策が取りまとめられた。改訂の基本方針の中には、自立した環境適合的なエネルギー需給構造を実現するため、原子力発電を積極的に推進し、新エネルギーの着実な導入拡大を図ること、また、石油等化石燃料の安定供給確保に向けて資源外交を積極的に展開することなどが含まれている。
2.エネルギー源ごとの推移
(1)石油
 上記のとおり、日本の高度経済成長の原動力となり、現在でもなお一次エネルギーの約半分を占めている。わが国は、石油の大部分を輸入に依存しているが、さらに輸入石油の約9割は中東からのものである。中東地域の政治的不安定は今後も続くと予想され、エネルギー供給の安定化のためには、引き続き石油依存度を低減させる必要がある。
 用途別には、かつては発電や産業ボイラ、加熱炉などの燃料に大量に用いられたが、現在では輸送用が需要の中心となりつつある(図3および図4)。第一次石油危機の起こった1973年度における石油製品消費量の内訳は、最終需要が77.3%、電力が22.7%で、最終需要の内訳は産業が55.8%、民生が16.5%、輸送が23.2%、非エネルギーが4.5%であった。2005年度の内訳は、最終需要が89.4%、電力が10.6%で、最終需要の内訳は産業が38.9%、民生が16.7%、輸送が41.8%、非エネルギーが2.6%であった。輸送用の比率が大きく伸びている。輸送部門では2005年度のエネルギー消費の約98%(電気を一次エネルギー換算した場合でも約95%)が石油製品で賄われており、今後の石油消費量の変動には輸送部門の動向が大きく関わっている。
(2)石炭
 化石燃料資源としては国内で最も大きく、高度経済成長が始まるまではエネルギー供給の中で中心的役割を果たした。しかし、輸入石油の増大とともに、ボイラ用などの一般炭は石油に代替され、国内生産が急速に減少した。コークス製造用の原料炭は粗鋼生産の増大とともに需要が急増したが、その増加分は輸入で賄われた。
 第一次石油危機の後には、原料炭の消費量は粗鋼生産量が頭打ちとなったために、ほぼ横這いで推移してきたが、石油代替エネルギーの一つとして、一般炭の輸入は大幅に増大した。特に、図5に示すように、1979年の第二次石油危機の後に電気事業、セメント製造、紙・パルプ製造などで石炭転換への取り組みが本格化した。最近では、電気事業による一般炭の消費量は鉄鋼業の原料炭消費量を上回る規模にまで拡大し、一般炭の輸入量は1億トンを超えるに至った。これによって、一次エネルギーの中で石炭(一般炭と原料炭合計)が占める比率も上昇し、20%を越える水準になっている。
(3)天然ガス
 石油危機の後に原子力と並ぶ石油代替エネルギーの中心として、発電用および都市ガス原料用として急速に利用が拡大した。国内でもわずかに採掘されているが、現在使用されている天然ガスの大部分は、東南アジア諸国からLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)の形で輸入されたものである。2005年度には、わが国は約5800万トンのLNGを輸入しており、その内訳はインドネシアが約1380万トン、マレーシアが約1310万トン、オーストラリアが約1050万トン、カタールが約640万トン、ブルネイが約620万トンなどとなっている。なお、同年度の国内天然ガス生産量は発熱量ベースでLNG輸入量の4%相当であり、一次エネルギー総供給量に占める比率は0.5%である。
 天然ガスは、すでにわが国の一次エネルギーの約14%を占めるに至っている。この消費量を用途別に見ると、図6に示すように、かつては発電用が全体の4分の3を占める時期があったが、都市ガス消費量の堅調な伸びもあり、2005年度には発電用が約63%、残りがほぼ都市ガス用である。将来的には、複合サイクル発電設備やコージェネレーション設備の増設などを通じて利用がさらに増加すると予想される。
(4)原子力
 わが国で商業的な原子力発電が開始されたのは1970年であり、第一次石油危機当時のエネルギー供給への寄与はまだきわめて小さかったが、その後順調に発電所の建設が進み、1990年代始めには一次エネルギーの10%を超え、最近では約12%(2005年度)を供給している。また、発電電力量全体に占める比率も大きくなり、一般電気事業者(10電力会社)の合計でみた場合には、約35%(2005年度)となっている。
 このように、原子力は天然ガスとともに石油依存度の低減に大きく貢献してきたが、一方で、大きな被害を出したチェルノブイリ発電所事故や近年における国内の事故、不祥事の頻発、さらに地震による被災などもあり、原子力利用を拡大することへの社会的な合意形成は難しい状況にある。今後、わが国が二酸化炭素等温室効果ガスの排出量を大幅に削減していくためには、非化石エネルギーへの転換を促進することが必要であるが、原子力利用をさらに推進するためには、リスクコミュニケーション活動を普及するなど、国民の十分な理解と協力を得られる政策の強化が不可欠となっている。
(5)水力
 高度経済成長期以前には、石炭とともに貴重な国内エネルギー資源として、エネルギー供給に重要な役割を果たしていた。その後も水力発電の開発は徐々に進められ、発電容量は少しずつ増大してきているが、一次エネルギー全体の供給量が急増する中で、その構成比は大幅に低下し、最近では3〜4%の水準まで低下した。有望な資源はほぼ開発しつくされて、大型発電所を設置できる可能性のある所が少なくなり、今後の伸びはあまり期待できない。
(6)その他のエネルギー
 家庭用のエネルギーとしてかつては薪炭がエネルギー供給に一定の役割を果たしていたが、最近では廃棄物エネルギー(都市ごみ、黒液・廃材等)、太陽熱の利用が進んでいる。また、太陽光発電の普及にも拍車がかかっている。このほか、資源的に豊富な地熱の利用、欧米で普及しつつある風力発電の開発にも力が入れられている。
 これらのエネルギーは非化石エネルギーであり、資源枯渇の心配がない上、二酸化炭素の排出削減にも貢献する。そこで、将来的な役割に大きな期待が寄せられているが、現状ではすべて合わせても一次エネルギーに占める割合は1〜2%程度であり、しかもそのうち約半分が黒液・廃材(パルプ製造における回収エネルギー)である。自然エネルギーの多くはまだ経済的競争力が乏しいため、環境保全やエネルギー自給率向上等の公益的な観点に立って、国による技術開発と普及支援が行われている。
(前回更新:2004年1月)
<図/表>
図1 日本の一次エネルギー供給の長期推移
図1  日本の一次エネルギー供給の長期推移
図2 日本の一次エネルギー供給構成の長期推移
図2  日本の一次エネルギー供給構成の長期推移
図3 石油製品の部門別需要の推移
図3  石油製品の部門別需要の推移
図4 石油製品の部門別需要の構成
図4  石油製品の部門別需要の構成
図5 石炭の産業別販売量の推移
図5  石炭の産業別販売量の推移
図6 LNGの用途別販売量の推移
図6  LNGの用途別販売量の推移

<関連タイトル>
日本のエネルギー供給とその推移 (01-02-02-01)
石油危機と日本 (01-02-03-04)
新・国家エネルギー戦略 (01-09-09-09)

<参考文献>
(1)(財)日本エネルギー経済研究所計量分析部(編):EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2007年版)、(財)省エネルギーセンター(2007年2月15日)
(2)経済産業省:新・国家エネルギー戦略について−報道発表(2006年5月31日)
(3)経済産業省:エネルギー基本計画の変更について−報道発表(2007年3月9日)
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