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1.概観
中華人民共和国(中国)は、世界で最も人口が多く、二番目に大きいエネルギー消費国(アメリカ合衆国に次ぐ)である。主要な燃料、石炭の生産は世界最大である。石油需要と輸入の増加は、世界石油市場の動向を左右するものとなっている。中国はまた、2003年に世界で2番目に大きい石油消費国となり、日本を追い越した。中国は、経済が急速に進展し、特に、南東部の都市海岸地域で、経済開発が他地域以上に進んだ。中国は国営企業と民間企業の組合せからなる混合経済である。多くの国営企業は、近年部分的又は完全な民営化がなされた。2001年WTO加盟以降も中国経済の多くは、大型の国営企業(State Owned Enterprises:SOE)によって統制され、その多くは効率が悪く、利益を生まずそのリストラが政治的課題となっている。
2003年現在、中国の実質国内総生産(
GDP)は、2002年の年率8.0%より高く、年率9.1%で成長した。2004年の第1四半期の
実質GDPは、年率9.8%であったが、持続できずに、全体として2004年は8.1%に低下との予測である。
2.石油部門
中国は、2003年、石油の全需要556万bbl/dで、初めて日本を追い越して、石油製品の世界2番目の消費国となった。EIA(Energy Information Administration)は、中国の石油需要は、2025年に940万bbl/dの正味の輸入を含む1280万bbl/dに達すると予想している。過去4年間の世界石油需要成長の約40%に相当する中国の石油需要の成長は、世界石油市場において非常に重要である。
世界第7位の大産油国である中国の石油産業は、最近の10年間にわたって大きな変化を被った。1998年に中国政府は、大部分の国営の石油と天然ガス資産を2つの垂直統合型の一貫操業を行う二大企業、中国石油天然気総公司(China National Petroleum Corporation:CNPC)と中国石油化工総公司(China Petrochemical Corporation:Sinopec)に再編成した。再編前は、CNPCは主に上流部門の石油と天然ガス探査および生産に携わり、Sinopecは下流部門の精製と流通に携わっていた。CNPCは依然として原油生産、Sinopecは精製という意味の名を表しているが、この再編は2つの地域に焦点を絞った企業−CNPCは北部と西部、Sinopecが南部−を作った。他の大きい国営部門の企業に中国海洋石油総公司(China National Offshore Oil Corporation:CNOOC、これは沖合の探査と生産を取り扱い、国内原油の10%以上を生産する)及び中国スター石油(China National Star Petroleum:Star、1997年につくられた新しい会社)がある。
(1)埋蔵量と油田
石油の
確認可採埋蔵量は2000年で、14〜15億トンと推定されている。年間生産量が1億6000万トンとすると、2000年末での
可採年数は9年程度となるが、これは現在のアメリカと同程度でかなり少ない。石油の確認可採埋蔵量と可採年数は、不確定の要素が多い。石油の埋蔵されている油田は概ね中国の東部と西部に分かれる。
図1に中国の油田、天然ガス田を示す。全土に石油埋蔵の堆積盆地は30以上あり、その合計面積は433万km^2である。約90%に近い大部分の中国の石油生産施設は、陸上にある。北東部の大慶は、約340万bbl/dの全原油生産の内、100万bbl/dを産出する。大慶は1963年に生産を開始した成熟した油田である。2番目に大きい生産油田は北東部の遼河で、CNPCは外国企業と契約して、石油回収を強化し、これら油田の延命を図っている。中国の当局者は新疆での生産が2008年までに100万bbl/dに達するのを期待すると言うが、しかし、東部の消費者への石油の輸送が主な障害のまま残っている。
沖合の開発にも、高い優先度がある。最近の探査の関心は渤海地域(天津の東、15億
バレル以上の埋蔵と信じられている)及び珠江河口地域に集中している。2004年4月、中国政府は北東で既存の勝利油田地区に大きい新油田発見を発表したが、まだ評価中である。
(2)供給と消費
下流部門の基盤開発は、現存の過剰設備のために既存の精油所をグレードアップすることに集中している。1990年代後半に、中国政府は、低品位の石油製品を生産していた110の小さい精油所を閉鎖した。地方政府所有の何十もの小さい精油所は、CNPCとSinopecに合併された。
下流部門のもう一つの問題は重質の中東原油に適した精油能力の欠如であり、近い将来の中国の輸入需要増加に伴い必要となる。既存のいくつかの精油所は、より重い、より酸性の高い等級の原油を取り扱うために改良されている。石油製品の急速な消費増のため、田園地域により近代的な精油所建設が検討されている。
中国の石油消費は増大の一途にあり、1990年代の10年間に2倍以上に増加した。石油消費量は1990年の230万bbl/dから1995年には336万bbl/dになり、2000年には480万bbl/dになった。これに対し石油生産量は1990年の277万bbl/dから1995年には306万bbl/dになり、2000年には338万bbl/dになった。すなわち、1992年頃には国内生産と消費がほぼ均衡していたのが、1993年以後、原油と石油製品の両者の輸出量よりも輸入量のほうが年毎に大きくなり、今や中国は完全に石油輸入国となったのである(
図2)。中国の石油輸入は原油と各種石油製品とに分かれ原油輸入が圧倒的に多いが、近年、国内精油所にて生産される製品の供給不足のため石油製品の輸入も増えている。しかも、この統計には南部沿海地域における石油密輸入は含まれないので、これを加えれば石油製品の輸入とその消費量はより大きくなる。2000年での中国の原油輸入量は年間7026万トン、石油製品輸入量は1805万トンであった。これに対し輸出量は、原油1044万トン、石油製品827万トンである。同年の7000万トンの原油輸入量は対前年比ほぼ倍増で、このまま中国が原油輸入を増大させると世界の石油市場にどのようなインパクトを与えることになるのか危倶された。しかし、2001年には石油輸入が減少した。2001年1〜9月期の原油輸入量は4801万トンで、対前年比7.7%の減少である。これは、前年に多量の石油輸入をしすぎたことが原因で、中国の石油関連諸施設の充実はいまだ十分でなく、石油貯蔵タンクが不足している。
石油輸入国となった中国は、石油の安定供給のために様々な手を打っていて、海外での石油自主開発と石油国家備蓄の構築という日本が行った政策を踏襲している。中国当局者の話として伝えるところによると、戦略的な
石油備蓄の意向を持ち、2003年2月、石油備蓄を支持する政策決定をし、いくつかのオプションを研究したという。新聞報道によれば、既に4基の初期的な備蓄施設で、2008年までに30日の輸入をカバーする予定という。
3.天然ガス
(1)天然ガスの役割
中国の天然ガスの埋蔵量は豊富である。中国において、現在の技術及び経済条件で採取可能な天然ガスの量、つまり推定可採埋蔵量は約10.5兆m^3であり、このうち約14%の2.3兆m^3が確認されている。現在、天然ガスは主に西部の四川、オルドス、タリム、チャイダム盆地、海洋では南シナ海や東シナ海等で生産されている。また油田の随伴ガス及び水溶性ガスの存在する地区(松遼、新彊ジュンガル盆地、渤海)においても生産されている。2000年の生産量は約280億m^3である(
表1)。
天然ガスの1次エネルギー消費に占める割合はわずか3%に過ぎない。中国のエネルギー消費の約7割を占めているのは石炭である(
図3)。中国において天然ガスは石炭の補完という位置付けである。しかし、近年中国において石炭に起因する大気汚染が深刻な環境問題を引き起こしている。天然ガスはメタンが主成分であり、石炭に比べCO2排出量が約55%、窒素酸化物(NOx)の排出量は約40%、硫黄酸化物(SOx)は全く発生しないので、クリーン燃料として関心が高まっている。中国政府はすでに石炭抑制政策を実施し、1995年からの第9次5か年計画期にかけ、1次エネルギーに占める石炭消費量の割合は77%から14%減少している。代わりに石油の比率が11%増加、天然ガスの比率は1%増加している。政府は今後天然ガスの増産をさらに加速させ、天然ガスの1次エネルギー消費に占める割合を2010年までに現在の3%から10%に増加させ、石炭の消費量を段階的に抑制していく計画である。
環境問題の他に天然ガスの増産を急ぐもう一つの原因は、原油の国内増産が頭打ちになっていることである。中国は石油の生産国であるが、1993年に純輸入国に転じて以来輸入量は年々増加している。現在は需要の約3割を輸入に頼っている。このため、天然ガスの開発が重視されている。
(2)インフラ整備
天然ガスの導入を促進するためには、大規模なインフラの整備並びに市場の開拓が不可欠である。これまで中国ではインフラが整備されていないため、天然ガスは原則生産地で消費しており、パイプラインや市場は生産地の周辺に集中していた。西部など経済が未発達で、インフラが整備されていない地域では、ガスをフレア(焼却処理)していた例もある。1997年に初めて生産地と消費地を結ぶ長距離ガスパイプラインが完成した。陳甘寧(オルドス)盆地のガス田から消費地の北京を結ぶ総延長約918kmの陜京パイプラインである。その後西部各地や海洋においても生産地と消費地を結ぶパイプラインが建設され、2000年末現在、中国国内の天然ガスパイプラインの総延長は11800kmに達している。しかし、全国的なガスパイプライン網形成には至っていない。天然ガスは潜在的な需要が高く、発電需要を筆頭に工業用燃料や都市ガスなどの需要が大幅に増加すると見込まれている(
図4)。しかし、インフラ整備の遅れが天然ガス市場の発展を阻害する要因になっている。現在消費の大部分を占めるのは化学肥料原料及び工業用燃料である。政府は今後10〜15年かけて天然ガス産業を全国に展開するよう全国的なガスパイプライン網を整備する計画である(
図5)。
4.
原子力発電
「2010年に中国の原子力発電設備容量を2000万kWに、2020年には4000万kWにする」。1990年代に入って
原子力発電所の新規発注はほとんどアジア地域だけとなった時代に、この中国の野心的な目標は世界の注目を集めた。実際中国では、1993〜99年までの5年間に8基683万kWの原子力発電所が矢継ぎ早に発注されたため、中国の原子力市場は600億ドルの価値があると、欧米諸国の原子炉メーカーの注目を集めた。欧米各国とも政府首脳が音頭をとって、中国への原子力発電所売り込みに走った。
一見順調に見える原子力開発も、様々な問題を抱えていることが明らかになってきた。第一に炉型戦略の一貫性のなさである。導入されているのは、自主開発炉(PWR2タイプ)、フラマトム製PWR(2タイプ)、ロシア型PWR、
カナダ型重水炉と、炉型・サプライヤーが多岐にわたっている。将来、燃料、スペアパーツ、取替用機器の円滑な供給、運転・保守員の訓練、安全規制等に影響が出ないか懸念されるところである。
第二に政治・経済情勢の変化である。朱首相が主導する改革により、1997年7月、旧CNNCは、政府・対外機能を中国国家原子能機構(CAEA:China Atomic Energy Authority)として分離、現業部門は
中国核工業総公司(CNNC:China National Nuclear Corporation)と核工業建設集団公司(CNEC:China Nuclear Engineering and Construction group)に分割され、CAEAは国防科学技術工業委員会の下に置かれることとなった。原子力安全規制を担当する国家核安全局(NNSA)は、科学技術部から環境保護総局に移管された。CNNCの人員も大幅に削減されている。朱首相による国官企業改革は、原子力発電計画の大幅なスローダウンをもたらした。2001年3月に全人代で採択された第10次5か年計画(2001−2005年)では、原子力発電に関する記述が大幅に下方修正され、原子力発電計画の大幅なスローダウンは避けられないものとなっている。
5.石炭
石炭は中国の1次エネルギー消費の大半65%を生産する。そして、中国は世界最大の石炭消費・生産国である。2002年の中国の石炭消費は14億2000万トンで、世界合計の27%になる。中国政府は、この数年間の石炭生産と消費の数字を上方修正した。新しい数字では石炭消費は1997〜2000年までの下降に反して2001−2002年で急激に上昇した。1990年代後半、中国の石炭産業は深刻な供給過剰問題があり、政府は、将来の民営化の準備行為として、大型の国有鉱山の収益性を回復し、供給過剰を削減し、鉱山事故を減らすことを目的とした大改革に
着手した。1998年に、政府は本格的に小鉱山の閉山に取りかかり、多くの小さい炭鉱は、閉鎖を命令された。しかし、「閉鎖」鉱山全てが実際に操業を終わったわけではない多くの証拠がある。中国統計局の数字改訂は、このことを反映しているものと思われる。
中国は過剰な生産の処理法として石炭の輸出市場を捜しており、2002年、世界第2の石炭輸出国であった。日本と韓国は主要な市場である、中国は日本の石炭輸入に向けて、オーストラリアの競争相手として動き始めている。インドも、多量の中国石炭を輸入していた。しかし、2004年の火力発電用石炭の中国国内需要増は石炭輸出の急激な減少につながり、中国の輸出の拡大に応じて起こったアジアの石炭市場での価格低下と逆の現象を引き起こしている。
<図/表>
<関連タイトル>
中国のエネルギー資源、エネルギー需給、エネルギー政策 (14-02-03-01)
中国の電力事情と発電計画 (14-02-03-02)
中国の原子力発電開発 (14-02-03-03)
中国の核燃料サイクル (14-02-03-04)
中国の原子力国際協力 (14-02-03-05)
中国の原子力開発体制 (14-02-03-07)
<参考文献>
(1)EIA:Country Analysis Briefs,China Country Analysis Brief,
(2)「特集」中国のエネルギー事情、エネルギーレビュー,VOL.253,NO.2(2002年2月)