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<概要>
 2011年3月の福島第一原子力発電所事故を経て、原子力規制委員会は2013年7月に、原子力発電所の重大事故対策、最新の技術的知見の導入、運転期間延長認可制度の導入等の新規制基準を決定した。そして、原子力事業者は、事業運営において世界最高水準の安全性を追求し、確立することが求められた。事業者の自主規制機関の役割を担っていた(一社)日本原子力技術協会(JANTI)は解消され、2012年11月15日により強い独立性と牽引・牽制機能を持った(一社)原子力安全推進協会(JANSI)が発足した。JANSIは日本の原子力利用を進める「JANSIの安全文化」の7原則を基本に、原子力事業者の安全性向上対策の評価と提言・勧告及び支援、原子力施設の評価と提言・勧告及び支援、及びそれらを支援する安全文化の醸成、技術情報の分析・周知、人材の育成等の共通的な基盤活動を進めている。JANSIの活動は、評価の信頼性を高める「多層評価」、その評価による「提言・勧告」を最終的に承認するJANSI代表の「専決権限」、及び提言・勧告の実効性を高める「事業者社長会議」等の仕組に特長がある。
<更新年月>
2014年08月   

<本文>
1.(一社)原子力安全推進協会(JANSI)の概要
1.1 JANISIの目的
 JANSIは、日本の原子力産業が世界最高水準の安全性(エクセレンス)を追求するよう、事業者に対して客観的に評価、提言・勧告を行うことをミッションとしている。
 このため、JANSIは、日本の原子力事業者の自主規制と自主改善の機関として事業者の意向に影響されない独立性のある評価の仕組と体制を構築し、原子力産業界の安全文化の醸成、人材の育成等に努めるとともに、事業者のエクセレンスの追求を支援する。
1.2 設立の経緯
 2011年3月の福島第一原子力発電所事故は、内外に大きな社会的及び経済的影響を与えた。政府、国会等の事故調査報告では、原子力安全に関する日本と世界の考え方や規制基準の差異が明らかにされた。原子力安全・保安院原子力安全委員会に代わって原子力規制委員会が発足し、2013年7月に、原子力発電所の1)重大事故対策、2)最新の技術的知見の導入、3)運転期間延長認可制度の導入等の新規制基準を決定した。また、安全規制は原子炉等規制法電気事業法の規定に基づいて行われていたが、原子炉等規制法に一元化された。原子力事業者は、新規制基準に対応し、世界最高水準の安全性を追求することが求められることとなった。
 上記の事故以前には、(一社)日本原子力技術協会(JANTI)が、事業者の原子力技術に関する自主規制機関の役割を担っていた。しかし、「世界最高水準の安全性(エクセレンス)を確立した事業経営」を目指すためには、より強い独立性と牽引・牽制機能を持った新たな自主規制機関が必要と考えられた。これを承けJANTIは発展的に解消され、2012年11月15日に(一社)原子力安全推進協会(JANSI:Japan Nuclear Safety Institute)が発足した。
1.3 JANSIの安全文化7原則
 JANSIが原子力事業者に求める安全の基本的考え方、「JANSIの安全文化7原則」を表1に示した。7原則のうち 1)〜6)は国際原子力機関IAEA)の提案する安全文化と一致している。JANSIは、さらに、従事者が職場、施設、装置等のリスクを認識し、また、意思疎通の滑らかな活気ある職場環境を創ることを求めている。職員の切磋琢磨と職場の融和は、安全に密接に関連するとの考え方である。
1.4 JANSIの組織
(1)経営組織の概要
 2014年4月時点でJANSIの職員は、代表1名、理事会(理事長と理事)11名、幹事2名、評議委員16名、認定資格者87名等の約160名である。
 会員(一般法人法では「社員」という)は、原子力発電事業、核燃料サイクル事業及び関連事業の122社(2013年)である。毎年開催される社員総会では、事業計画、事業報告、財務諸表等が報告される。
 評議員会は、会員以外の有識者、評論家、ジャーナリスト等の第三者で構成され、活動内容や活動結果に対する客観的な評価と意見を徴取する。
 理事会は代表と11名の理事とで構成されるJANSIの意思決定機関である。理事の半数以上は事業者以外から選ばれている。
 代表は専決権限を有し、事業者への提言、勧告等を最終的に承認する。
 JANSIの業務は8部が分担する。
(2)業務組織の概要
 JANSIの業務組織と主要業務の概要を表2にまとめた。
A.企画部:原子力事業者との意識の共有、総合評価システムの構築、対外連携等を進める。
B.安全性向上部:シビアアクシデント(SA:重大事故)対策、火災防護、事業者の自主安全評価書(SAR)の開発と運用、確率論的リスク評価(PRA)、国内データベースの整備、国際比較、技術検討等、及び提言・勧告の検討を担当。
C.プラント評価部:施設等のピアレビュー(専門家評価)、エクセレンスガイドの作成、安全文化評価・支援等を担当。
D.プラント(施設)運営支援部:ピアレビューの課題解決の支援、品質マネージメントシステム(QMS)課題検討会、ヒューマンファクター検討会、原子力防災訓練検討委員会等の活動等を支援。
E.情報分析部:リソース(資源)利用の適正化、運転経験情報の処理と有効性向上、原子力情報公開ライブラリー(NUCIA)情報の効果的運用、原子力規制庁等との情報交換の仕組確立等を推進。また、JANSIの質的向上と内部情報の共有・活用を図る。
F.技術支援部:事業者の安全性・信頼性向上活動の技術支援、民間規格の整備・共通技術基盤の拡充支援、JANSI各部の活動支援
G.人材育成部:リーダー研修、人材育成、海外連携等を担当。
H.業務部:JANSIの庶務(運営、内部統制、職員サービス、IT関連)、人材確保、広報・情報管理等を担当。

2.JANSIの業務計画及び評価、提言・勧告の仕組
2.1 5ヵ年計画(2013‐2017年)
 JANSIの活動は、原子力事業者と施設の安全性向上対策の評価と提言及び支援、及びそれらを支援する共通的な基盤活動である。今期計画の目標は、原子力安全に対する高めの指標(エクセレンス)を提示し具体化を求めるとともに、その対策と運営を評価し継続的向上を求める等の活動を5年以内に軌道に乗せることである。2015年に中間見直し、2017年に計画の改定を予定している。
2.2 JANSIの評価、提言・勧告の信頼性の仕組
(1)評価の水準・独立性・客観性を高める仕組
 JANSIは安全性向上対策及び原子力施設の評価、提言・勧告、支援等について事業者の意向に左右されない多層評価の体制を整えている。まず、事業者は、定期的又は必要性によりJANSIの専門家によるピアレビュー(専門家評価)を受ける。評価結果は必要に応じて国内外の専門家による「技術評価グループ」の評価を経る。経営等に関しては、「国際アドバイザリー委員会」において海外機関と意見を交換する。また、JANSIは内外関連機関と様々な連携を図っている。
(2)評価・提言の実効性を高める仕組(図1
 ピアレビューから得られた事業者の「評価」と「提言・勧告」は、最終的にJANSI代表の専決権限による決済を経る。1)提言・勧告は代表から「事業者社長会議」で事業者社長に伝えられる。2)事業者社長はこの提言/勧告を尊重し改善策を約束する(社長のコミットメント)。業界は問題を共有し安全文化の浸透を図る。
 その他、JANSIは連絡代表者(SR)を置いて様々な支援の窓口としている。

3.JANSIの活動
3.1 JANSIの主な活動
(1)炉内構造物等点検ガイドラインの検討
 原子炉圧力容器内の様々な構造物について、点検、評価、補修等に関する要領(ガイドライン)を調査検討し、提案する。検討には学識経験者、電力やメーカ関係者等も参加する。
(2)事業者の安全性向上計画の評価
 施設の安全性向上のため、内外の調査、公開情報、現地調査等を基にシビアアクシデント(SA)対策に関するデータベースを整備し、対応を検討する。この成果等を基に、事業者の安全性向上計画を評価し、必要に応じて提言・勧告し、また安全性向上対策の実施を支援する。
(3)高経年化対策の充実
 原子力施設の長期運転と高経年化の安全性対策について、改善事項等に関する国内情報、米国NRC、IAEA等からの情報を入手・分析して、情報データベースを拡充し、対策課題毎の必要な手順等を整備する。
(4)ピアレビュー(専門家評価)による発電所等の評価と提言・支援
 原子力発電所等の安全性(原子力安全、放射線安全、労働安全等)と信頼性の確保に係わる業務を支援するために、現場観察を主体とした実態調査等によりピアレビューする。米国INPOやWANOと連携し、国際的な安全情報を共有しながら、発電所等の運営向上を支援し世界最高レベルの安全性、信頼性の達成を目指す。
(5)安全文化の現場診断
 事業者の安全文化を、事業所訪問、職員との面接等により調査・診断する。
(6)トラブル情報分析
 内外から集めた運転、不都合、事故・事象等の情報を分析・評価し、軽度の参考情報、中度の共有情報及び重要情報に分類し、その周知を図る。
(7)民間規格(学協会規格、自主ガイドライン)の整備促進
 民間規格整備5ヵ年計画により、機械学会、原子力学会、電気協会、保物学会、建築学会、土木学会等の学協会規格の審議会と協力し、事業者の安全性・信頼性向上活動の基盤となる民間規格(学協会規格、自主ガイドライン)の整備を推進する。
(8)電力共通技術基盤の構築・運用
 原子力発電所の保全活動の最適化のために、「現場技術者のネットワーク活動」を支援し、「保全情報ライブラリー」の充実を図り、また、「保全技術基盤情報の共有」を進める。
(9)諸活動を支えるための人材育成
 世界最高水準の安全性を達成するため、事業者等の主体的な人材育成の充実・強化を図る。
(10)原子力発電所等の保安活動の充実・改善の支援
 品質マネージメントシステム(QMS)課題検討会を設置し、共通課題を抽出し方策を検討して事業者の自主的な保安活動(運転管理、保守管理、燃料管理、廃棄物管理等)を支援する。
3.2 主な活動実績
 これまでの主な活動実績を、1)福島第一原発事故、2)原子力文化、3)施設の運転、4)施設・装置の設置・トラブル等、5)原子力防災・放射線防護、及び6)広報などに分類して表3に示した。
 表4は公表した技術レポートとガイドラインのリストである。多くの活動が前身の日本原子力技術協会(JANTI)から引継がれた。
<図/表>
表1 原子力安全推進協会(JANSI)の安全文化7原則
表1  原子力安全推進協会(JANSI)の安全文化7原則
表2 原子力安全推進協会(JANSI)の部署別の主な業務
表2  原子力安全推進協会(JANSI)の部署別の主な業務
表3 原子力安全推進協会(JANSI)の主な活動実績
表3  原子力安全推進協会(JANSI)の主な活動実績
表4 公表された技術レポートとガイドライン
表4  公表された技術レポートとガイドライン
図1 提言・勧告の実効性を高める仕組としての「事業者社長会議」
図1  提言・勧告の実効性を高める仕組としての「事業者社長会議」

<関連タイトル>
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
安全文化の醸成 (10-03-02-17)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
原子力発電運転協会(INPO) (13-01-03-10)
世界原子力発電事業者協会(WANO) (13-01-03-15)

<参考文献>
(1)原子力安全推進協会:協会案内パンフレット、
http://www.genanshin.jp/association/data/guide_jp.pdf
(2)原子力安全推進協会、「5ヵ年計画 2013-2017」の概要
http://www.genanshin.jp/association/data/5yearplan2013-2017.pdf
(3)原子力安全推進協会:「JANSIの活動と安全文化」、平26年4月22日、
http://www.genanshin.jp/news/data/docu_20140422.pdf
(4)原子力安全推進協会の主な活動概況、平成26年2月12日
http://www.genanshin.jp/news/data/docu_20140212.pdf
(5)原子力安全推進協会:「事業者の安全性向上に向けた原子力安全推進協会の取組について」、第2回原子力委員会 資料1、2013年1月15日
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2013/siryo02/siryo1.pdf
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