<本文>
1.「原子力安全条約」に関する経緯(
表1参照)
1986年のチェルノブイリ原発事故を契機に、国際的に旧ソ連、中・東欧諸国の原子力発電所の安全が課題となった。1991年に国際原子力機関(IAEA)主催の「原子力安全国際会議」で、各国の
原子力施設の安全確保を目的とした「原子力の安全に関する条約」の策定が提案された。1992〜1994年の一連の専門家会議の検討を経て条約の草案は合意を得、1994年6月の外交会議で「原子力安全条約(原子力の安全に関する条約:Convention on Nuclear Safety)」が採択された。当条約は1994年10月の総会で署名のため開放され、日本を含む38ヵ国が署名した。日本は1995年に批准し加盟国となり、1996年に当条約は発効した。
条約の規定により、1999年から3年毎に検討会議(Review Meeting)が開催され、2011年末まで5回を数える。検討会議の事務局はIAEAが勤める。
2011年6月末の締約国はEUを含め74ヵ国で、原子力発電所を有する国は全て締約国である。
2.「原子力安全条約」の概要
表2に条約の概要を示す。条約は35条からなり、前文、第1章:目的、第2章:義務、第3章:締約国の会合、及び第4章:最終条項・その他の規定、に大別される。
2.1 前文
ここでは、以下のように条約の必要性を述べている。原子力は、安全利用こそ重要であり、安全技術を高め、社会に
安全文化を醸成しながら利用する。この条約は、その為の基本的原則に関するものであるが、より高い安全のため逐次更新される。また、その基本的原則は
放射性廃棄物の管理や、
核燃料サイクルの安全と技術を高めるのに有用である。
2.2 第1章 目的、定義及び適用範囲、第1条〜第3条
当条約の目的は、1)国際協力により原子力の安全の世界的な達成・維持、2)原子力施設による
放射線被ばく量とその影響の低減、3)放射線事故の防止とその影響の緩和、である。当条約を適用するのは、民生用の原子力発電所と所内の燃料貯蔵施設、廃棄物管理施設等である。
2.3 第2章 義務、第4条〜第19条
締約国(Contracting Parties)は、原子力施設に関する「国別報告書(National Report)」(第5条)を検討会議(Review Meeting)(第20条)に提出し、その検討により指摘・推奨された事項について原子力施設の停止を含め適切に対応する。会議の最終日に議長報告(Summary Report)をまとめる。
検討会議は国際的な安全向上のための会議であり、締約国は原子力施設とデータの品質保証、所要の財源と人材の確保、労働者と大衆の
放射線防護、緊急事態の準備等、に関し措置する。締約国は、原子力施設の立地、設計、建設及び運転に関し適切な方法を講じる義務がある。
2.4 第3章 締約国会合、第20条〜第28条
締約国が3年に一度開催される検討会議(第20条)に予め提出する「国別報告書」(第5条)について、その手続き、報告書の内容、報告書内容の秘密性等について定めている。2.5 第4章 最終条項・その他の規定、第29条〜第35条
締約国間の意見の相違の解決法、条約への加盟、条約の改廃等について定める。
3.日本の「国別報告書」と「福島原発事故」
表3に2011年までに開催された検討会議と国別報告書を提出した国を示す。報告書は形式に従って作成されており、検討会議の前年にIAEA事務局に提出される。日本は全検討会議に国別報告書を提出している国の一つである。
3.1 2010年「国別報告書」と検討会議
表4に日本が2011年の検討会議で提出した「国別報告書」の概要を示す。報告書は形式に従い、A 序論:国の方針、B 概論:前回の会議で指摘・推奨された事項の実施状況の説明、C 各論:条約第6〜19条に関する事項の状況説明と改良・改訂の説明、及びD 付属書:添付資料、で構成される。
会議では、原子力利用の拡大と法律制定と人材養成、原子力発電所の設計、情報伝達の透明性、長期運転と定期的な安全レビュー、サイト問題、原子力発電を開始する際の問題、緊急時への準備と対応、人的因子と組織等、に関して検討された。
3.2 福島原発事故に関する2012年「臨時検討会合」
2011年検討会議の議長報告の中で、福島原発の事故に関して今後さらに詳細な事故報告を期待された。また、福島原発事故から安全を学び、学んだ事柄を共有し、関連する条文をレビューする為に、2012年に「臨時検討会合(Extraordinary Meeting)」の開催が予定された。この会合に各締約国は、以下の9課題を含めた簡潔な「国別報告」の提出が求められている。
1)外的要因による事故に対する原子炉施設のデザイン、
2)緊急時のオフサイトの役割・責任、
3)緊急時に対する備え、
4)同一サイトに複数の原子炉を設置する際の安全の考え方、
5)緊急時の
使用済燃料の冷却、
6)緊急時に対応するオペレーターの訓練、
7)緊急時の放射能漏れを含む
放射線モニタ、
8)民衆の保護、
9)緊急時の連絡・通報
(前回更新:2003年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の概要 (02-07-04-01)
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)
原子力施設の設置(変更)に係る安全審査 (11-01-01-04)
原子力安全の基本原則 (11-01-02-01)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
国際原子力規制者会議(INRA) (13-01-03-23)
<参考文献>
(1)法庫、「原子力安全条約」の訳文 Convention on Nuclear Safety,
(2)IAEA、ホームページ、Convention on Nuclear Safety,
http://www-ns.iaea.org/conventions/nuclear-safety.asp
(3)原子力安全条約、「国別報告書」平成22年、
(4)原子力安全条約の検討会議、2011年議長報告
http://www-ns.iaea.org/downloads/ni/safety_convention/cns-summaryreport0411.pdf