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<概要>
 国際原子力機関(IAEA)の活動には、国際的な評価基準の策定と原子力利用の安全に関する条約の締結がある。安全基準には、国際原子力事象評価尺度(INES)と国際基本安全基準(BSS)がある。INESは原子力施設の事故や故障の度合いを・簡明・客観的に判断できる。また、BSSは、放射性廃棄物の再利用に役立つものである。原子力利用の安全関連の条約(安全条約)には、原子力安全条約、放射性廃棄物等安全条約、早期通報条約、相互援助条約、及び損害補償条約(CSC)がある。このうち日本は、政情と地理的な条件から損害補償条約(CSC)には参加していない。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 国際原子力機関(IAEA)は、原子力の平和利用と、原子力の軍事利用への転用を防止するため、1957年に発足した。原子力の平和利用には、利用の安全確保、経験と情報の共有、及び相互信頼の構築は不可欠である。このため、IAEAは、必要な基準を策定し、また原子力利用に関する安全、放射性廃棄物の安全、事故時の早期通報、及び相互援助等について関連各国と条約締結を進めている。
1.国際的な安全評価の基準
1.1 国際原子力事象評価尺度(INES:International Nuclear Event Scale)
 原子力施設で発生した事故・故障等の度合いを、簡明かつ客観的に判断出来るように示した評価尺度である。IAEA及びOECD/NEAが取決め、1992年に採用を勧告し、同年日本も採用した。図1に示すように、事故・事象を安全上重要ではないレベル0から、重大な事故レベル7までの8段階に分けている。発生した事象が、レベル2以上、またはレベル0〜1でも内外で関心を惹くと判断した際には、原則として24時間以内にIAEAに報告し、IAEAは加盟各国に知らせることになっている。
1.2 国際基本安全基準(BSS:Basic Safety Standard)
 IAEAは、個人の実効線量10μSv/年を基に、BSSに関する安全指針TECDOC-855を見直し、2004年に規制免除と規制除外の考え方を安全指針RS-G-1.7に示した。この指針の規制除外レベルは、原子力安全委員会で詳しく検討された。表1(表1-1表1-2表1-3)に示すように、IAEAの規制除外レベルと原子力安全委員会のクリアランスレベルはほぼ一致している。今後は、この値を基に原子力発電所の解体等にむけて、検認制度の整備が進められる。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
2.原子力利用の安全に関する条約
2.1 原子力の安全に関する条約(原子力安全条約)
(Convention on Nuclear Safety)
 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故を契機に、原子力施設の安全を守る国際的な協力の必要性が認められ、原子力安全条約が1996年に発効した。61ヵ国と1機関が参加している(2008年現在)。日本は、本条約策定の主旨に賛同し当初から積極的にこの作業に係わってきている。
 本条約の目的は、陸上の原子力発電施設を対象に、高い水準で原子力施設の安全の達成・維持、障害に対する防護措置の確立・維持することである。そのため、原子力発電施設の立地計画から設計、運転、停止にわたる安全措置の諸要件、人材の確保、品質保証活動、放射線防護措置及び緊急時対策に関する必要事項、法令・規制の要件が規定されている。
 本条約の下に、3年に一回開催される締約国検討会合では、条約を履行するためにとった措置について国別に報告書を出し締約国間で相互に評価している。
2.2 使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(放射性廃棄物等安全条約)
(Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management)
 条約の目的は、使用済燃料や放射性廃棄物の管理の安全を保つ法令上の枠組みを定め、使用済燃料および放射性廃棄物の高い水準の管理を世界的に達成・維持することである。日本は2003年に加入した。45ヵ国と1機関が参加している(2008年現在)。
 締約国は、この条約に基づく義務を履行するためにとった措置に関する報告を3年毎に提出し、当該報告を検討するための会合を開催している。
2.3 原子力事故の早期通報に関する条約(早期通報条約)
(Convention on Early Notification of a Nuclear Accident)
 1986年チェルノブイル原子力発電所事故を契機に、1987年結ばれた多国間国際条約である。原子力事故の際は、直接またはIAEAを通じて、影響を受けるか受けるおそれがある国に対して、原子力事故の事実、その種類、発生時刻などの必要事項を直に通報することを取り決めている。98ヶ国と4機関が参加している(2008年現在)。
2.4 原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約(相互援助条約)
(Convention on Assistance in the Case of a Nuclear Accident or Radiological Emergency)
 1986年のチェルノブイル原子力発電所事故を契機に、「早期通報条約」と同じ経緯で採択され,1987年に発効。97ヵ国と4機関が参加している(2008年現在)。
 本条約では,締約国は本条約の規定に基づき、必要に応じ他の締約国、IAEA等に援助を要請できる。
2.5 原子力損害の補完的補償に関する条約(損害補償条約CSC)
(CSC:Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage)
 1997年にIAEAで採択された損害補償条約CSCには、これまで4ヵ国が参加した(2008年現在)。しかし、発効の要件(5ヵ国以上の締約国、4億kW以上の原子炉熱出力合計)は、未だ満たされてない。
 日本は、既に国内法が整備され、他国と陸続きで国境を接することなく、越境損害の課題は特になく、中国、韓国等の姿勢が不明なことから参加してない。しかし、世界的な原子力産業の連携・再編等をふまえ、検討は続けられている。
<図/表>
表1-1 原子力安全委員会とRS-G-1.7の計算値の比較(文献(2)より)
表1-1  原子力安全委員会とRS-G-1.7の計算値の比較(文献(2)より)
表1-2 原子力安全委員会とRS-G-1.7の計算値の比較(文献(2)より)
表1-2  原子力安全委員会とRS-G-1.7の計算値の比較(文献(2)より)
表1-3 原子力安全委員会とRS-G-1.7の計算値の比較(文献(2)より)
表1-3  原子力安全委員会とRS-G-1.7の計算値の比較(文献(2)より)
図1 国際原子力事象評価尺度(INES)
図1  国際原子力事象評価尺度(INES)

<関連タイトル>
原子力発電および核燃料サイクルに関するIAEAの活動 (13-01-01-15)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
原子力安全条約(原子力の安全に関する条約:Convention on Nuclear Safety) (13-03-01-08)
原子力損害賠償に関する条約の概要 (13-04-01-04)

<参考文献>
(1)文部科学省:原子力施設等の事故・故障等に係る事象の国際原子力事象評価尺度(INES)の運用について(2004)
(2)原子力安全委員会:原子炉施設及び核燃料使用施設の解体等に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について(2004、2005)
(3)法庫:原子力の安全に関する条約(原子力安全条約)
(4)外務省:使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(放射性廃棄物等安全条約)
(5)法庫:原子力事故の早期通報に関する条約
(6)法庫:原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約
(7)通商産業省:原子力損害賠償に関する国際条約の概要
(8)電気事業連合会:国際原子力事象評価尺度(INES)、原子力・エネルギー図面集(2008)
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