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1.IAEAの技術協力の概要
国際原子力機関(IAEA)による原子力の平和利用促進の活動は、(1)原子力局、(2)原子力安全局、(3)原子力科学・利用局および(4)技術協力局で進められている。このうち、技術協力局は、開発途上国の原子力の平和利用技術の普及を支援する組織である。図1に技術協力局の組織を示す。年間70M$(US)の予算で、4地域(アフリカ、アジア・太平洋、ヨーロッパ、ラテンアメリカ)、100以上の国で原子力の平和利用の促進活動を展開し、2008年には800以上のプロジェクトがある。
技術協力の形式は、国別協力、地域協力、地域間協力に分かれる。
(1)国別協力(National Project):メンバー国−IAEAで協力協定を結ぶ方式である。
(2)地域協力(Regional Project):地域−IAEAで協力協定を結ぶ協力方式である。アフリカ地域の協力にはAFRA、ラテンアメリカ地域にARCAL、アジア・太平洋地域にRCA、そしてアラブ地域にARASIAがある。
(3)地域間協力(Interregional Project):いくつかの地域にまたがった協力である。2.IAEAのアジア・太平洋地域協力協定(RCA)
正式には「原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定」(RCA:Regional Co-operative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology for Asia and the Pacific)である。
(1)歴史と加盟国
アジア地域における当初のIAEA協力は、1960年代の「インド−フィリピン−IAEA協力」である。この協力ではインドがIAEAの資金でスペクトロメータを製作し、フィリピンの一号研究炉に設置・運転したのが始まりである。この協力がRCAの基になった。
1972年にアジア・太平洋地域の10ヶ国が原子力科学と技術に関する協力協定を結び、期限を5年として発効し、IAEAの資金で活動を開始した。それ以降、協定は5年毎に更新されている。当初の10ヶ国は、インド、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン、シンガポール、パキスタン、韓国、バングラデシュ、およびスリランカであった。
日本は1978年に加盟した。加盟国とIAEAが参加して1979年に日本で開催された第1回RCA加盟国の政府専門家会合では、従来のRCA活動全般を再検討し、協力関係のあり方などが討議された。これを機にRCAが本格的に動き出した。
1987年には、共同研究等の推進・調整をより効果的に行う枠組みを盛り込んだ新協定に切り換えられ、その後、1992年、1997年、2002年、2007年に更新された。
2009年時点で加盟国は17ヶ国、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイおよびベトナムである。このうち最近年の加盟国は、1994年に加盟したミャンマーとニュージーランドである。
(2)運営
RCAの事務局は、当初IAEAの技術協力局に置かれ、プロジェクトの調整にあたった。2005年からは韓国にRCA地域事務所(RCARO)が置かれ、専門家会議と運営会議がプロジェクトを支援することとなった。IAEAは、技術協力局アジア太平洋部にRCA活動を調整する専任職員を一名配置し、RCAのパートナーを務めているが、パーティ(加盟機関)ではない。加盟国は、年1回、持ち回りで政府代表者会合(3月)とウィーン総会(9月)を開催し、状況と成果を報告し、プロジェクトを評価、計画する。
RCAの協力は、原子力科学技術の研究・開発および訓練を、加盟国が主体的に加盟国間の相互協力やIAEAとの協力により、適当な加盟国内の機関により調整し促進する。日本は、「人間の安全保障」の観点から、特に医療分野における協力を重視し、その分野のプロジェクトのリード・カントリー・コーディネーターを務める。
3.RCAの協力分野
2009年のRCAのプロジェクトは(1)農業、(2)医療・健康、(3)環境、(4)工業、(5)エネルギー、(6)研究炉、(7)放射線防護、(8)途上国間の技術協力の8分野である。これまでに336件のプロジェクトがある。表1に2009〜10年の23件のRCAプロジェクトを示す。農業、医療・健康、環境および工業分野のプロジェクトが多い。
4.RCAの成功例
2001〜06年のRCAプロジェクトのうち主な例を挙げる。
(1)優良な水資源の探索に関する研究開発
同位体を利用する水文学的研究から、地下水の挙動を推定評価ができるようになり、優良な飲用地下水脈の探索と管理が可能になった。この成果は、地域の水利用の制御と水資源の政策決定に利用できる。
(2)大気汚染の軽減
RCAプロジェクトで得られた技術は、大気汚染物のモニタリングや工場からの排出制御により、大気汚染の軽減に役立っている。このプロジェクトによって、汚染発生源、距離、広範囲の汚染拡散などの情報を得るデータベースの構築が進んだ。
(3)医療サービスの充実
RCAは、放射線グラフト重合技術を活用した医療用資材製造技術とその周辺技術の開発への途を拓き、医療技術の向上に役立っている。これは、典型的な成功例である。
(4)物質の改質・改良技術
RCAは工業的な放射線利用技術の移転を進めており、新規製品の開発と市場への参入を援助している。代表的なものは、医療で利用されるキチン質ポリマー製品の製造技術である。
(前回更新:2002年3月)<図/表>