<大項目> 国際協力・原子力関連機関
<中項目> 国際条約・協定等
<小項目> 国際条約
<タイトル>
核物質防護条約 (13-04-01-02)

<概要>
 核物質の防護に関する条約(核物質防護条約、PP条約)は、核物質の不法な取得、使用から守ることを目的に、国際原子力機関(IAEA)による2年間の策定作業を経て1979年10月に採択され、1987年2月に発効した。日本は1988年にこの条約に加入している。2005年5月現在の締約国は111か国と1国際機関(ユーラトム)である。
 この条約の締約国は、(1)国際輸送中の核物質につき一定水準の防護措置を確保すること、および(2)そのような防護措置が取られる旨の保証が得られない限り核物質の輸出入を許可してはならないこと、といった義務を負う。
 2005年7月に条約の適用範囲を、国内輸送・使用・貯蔵中の核物質および原子力施設に拡大し防護措置の強化、条約上の犯罪の拡大等を骨子とする改正がコンセンサスで採択され、現在批准等の締結手続きが行われている。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
1.条約発効までの経緯
 1970年代に入り原子力の平和的利用が本格化する一方で、ハイジャックなどの国際テロが増加するという情勢のもと、1974年5月のインドの核実験をきっかけに、同年9月の第29回国連総会における米国代表で、当時の米国務長官キッシンジャーの演説など、一連の国際会議において、核物質防護に関する国際協力の必要性が説かれた。これを契機に、1977年2月に、1975年の「国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)の核物質防護に関する勧告(INFCIRC/225)*」の見直しが始まり、核物質の国際輸送時の核物質防護措置や核物質が関係する国際間の犯罪の取扱いに関する国際協力が重要議題になった。
(注)*:INFCIRC:Information Circularの略。インフサークといい、IAEA発行の文書。
これを受け、国際原子力機関は1977年10月から4回の2年にわたる核物質の防護条約に関する政府間会議を開催し、1979年10月26日、第4回会議において「核物質の防護に関する条約」(Convention on the Physical Protection of Nuclear Material:PP条約、核物質防護条約)が採択された。
 政府は、この条約の重要性に鑑み、その作成作業に積極的に参加するとともに、その締結のために必要な国内法制面での問題点の検討を従来より鋭意進めてきた。他方、この条約は、核物質に係る犯罪行為(国内犯によるものを含む。)の処罰義務等刑罰関係の規定があるので、この義務の履行のため、どのような国内法体制を整備すべきかについては、他の締約国の国内法制等の調査を含め慎重に検討する必要があり、本条約の締結に時間を要していた。こうした中、1980年3月にこの条約が署名のため開放され、1987年1月9日のスイスの批准により同年2月8日に所定の要件(21か国による批准)を満たして発効した。 わが国(政府)は、締約国の条約実施状況に関する調査を含め条約の内容の検討を終えたので、必要な国内法整備を行い、これを踏まえて条約の締結について1988年5月11日に国会の承認を終え、1988年11月27日にこの条約に加入した。2005年5月現在、締約国は111か国と欧州原子力共同体(ユーラトム、EURATOM)の1国際機関となっている。
 2002年8月23日現在における核物質防護条約の締約国を表1に示す。また、わが国が核物質防護条約に関する国際約束を法制化するまでの経緯を図1に示す。
2.条約締結の意義
 この条約は、締約国に対し、国際輸送中の核物質について警備員による監視等の防護措置がとられるようにすることを義務付けることにより、国際輸送中の核物質を不法な取得および使用から守ることを目的とするものである。
 この条約は、また、核物質の窃取等の行為を犯罪とし、その容疑者が刑事手続を免れることのないように、締約国に対して裁判権の設定および容疑者の引渡しまたは当局への付託を義務付けている。このような核物質防護のための国際的な協力体制により、核物質の不法な取得および使用を防止する上で大きな効果が期待でき、わが国としてもこの条約を締結することにより、このような体制に参加することとした。
 なお、この条約は核物質防護の国際的な枠組みを定めた唯一の多数国間条約であり、核物質防護のガイドラインである国際原子力機関の勧告(INFCIRC/225)(図1参照)とともに、原子力の平和的利用を進める国の間で高い評価を得ている。
3.条約の概要
 この「核物質の防護に関する条約」は、前文、全23条の本文、末文、二つの附属書から成り、次の目的をもっている。
(1)締約国に対し、平和利用核物質として「国際輸送」される核物質について、条約の附属書に規定される防護措置をとることを義務づけ、不法な核物質の取得や使用を防止する。
(2)核物質に関係する犯罪を特定し、締約国に対して裁判権の設定、容疑者の引渡し、検察当局への付託などを義務付けている。
 核物質防護条約の概要を表2に、附属書(1)、附属書(2)を表3および表4に示す。
 この条約で規定する内容の概要は以下のとおり。
3.1 適用対象(第2条)
 この条約は、平和的目的のために使用されている核物質であって、国際核物質輸送中のものについて適用する。ここで「国際核物質輸送」とは、最初の積み込みが行われる国の領域外への核物質の運送であって、当該国内の荷送人の施設からの出発をもって開始し、最終仕向国内の荷受け人の施設への到着をもって終了するものをいう。
3.2 国際核物質輸送中の核物質の防護義務(第3条および第4条)
(1)国際核物質輸送中の核物質が、当該国の領域内にある間または当該国の管轄下にある船舶もしくは航空機上にある間(当該国の出入に携わる場合のみ)適切な防護措置を講じる。
 注:付属書1では、付属書2(核物質の区分表:表4参照)に区分する核物質の国際輸送において適用される防護の水準(表3参照)を規定している。
(2)適切な防護措置が講じられていない場合、輸出入の許可を行わない。(締約国が輸出国の場合は輸出の許可、締約国が非締約国から輸入する場合は輸入の許可)
(3)適切な防護措置が講じられていない場合、空港・海港への入港又は陸地・内水の通過の許可を行わない。(非締約国間輸送の場合のみ)
3.3 相互協力義務(第5条および第6条)
(1)核物質の防護、回収等に関する協力等(「中央当局」および「連絡上の当局」の登録)
 わが国は、1991年1月「中央当局」を科学技術庁(現文部科学省)、「連絡上の当局」を外務省として登録した。2002年現在、「中央当局」は経済産業省、文部科学省および国土交通省に、「連絡上の当局」は外務省になっている。
(2)秘密情報の保護
 他の締結国から受領する秘密情報については、その秘密性の保護のため、国内法に適合する範囲内で適当な措置をとる。また国際機関に対し情報を秘密のものとして提供する場合には、その情報の秘密性が保護されるための措置をとる。
3.4 犯罪人処罰義務(第7条〜第13条)
(1)核物質の不法な取得および使用等に関連する殺人、障害、窃盗、脅迫、強要等の犯罪は、自国内はもとより国外において行う場合も含め当該国内法で裁判権を設定するために必要な措置をとる。
(2)上記犯罪は、犯罪人引渡し条約において引渡しのあるべき犯罪とする。(上記犯罪を犯した外国人は、引渡し請求国に引渡すことができるものとする。)
(3)引渡しを行わない場合は、当該国において裁判権を確立するために必要な措置をとる。
4.核物質防護条約の改正
 核物質防護条約は、条約発効後の1992年に見直しのための会合が行われたが、特段の改定はなかった。しかし、国際情勢に鑑み米国など一部の国の要請に基づき、1998年にIAEA事務局長の諮問を受け、条約の改正の要否を検討するための非公式専門家会合が1999年11月に開催された。この会合では、条約改正要否の検討の前に、核物質防護を取り巻く状況などについて調査することとなり、2000年2月から2001年2月まで4回のワーキング・グループ(WG)が開催され、調査結果がまとめられた。2001年5月には第2回専門家会合が開催され、WGの調査結果を基に条約の改正に向けたドラフトを作成することなどが勧告としてまとめられた。それを受けて、IAEAは2001年12月から2003年3月にかけて「核物質防護条約改訂に関する非公式専門家会合」が開催され、本条約の適用範囲を、国内輸送・使用・貯蔵中の核物質および原子力施設の妨害破壊行為からの防護を含む防護措置の強化、条約上の犯罪の拡大等を骨子とする最終報告が採択された。2005年7月の締約国会議において、一部の論点(軍隊行為の適用除外、犯罪化規定等)について、調整が必要とされる局面もあったが、最終的には、改正がコンセンサスで採択された。改正後の主な規定振りを表5に示す。現在、各国において国内手続きが行われており、改正はすべてての締約国の3分の2が批准書等を寄託した日の後30日目の日に発行する。2001年9月11日、米国で惹起した同時多発テロ事件により、この条約の重要性が益々高まっている。
<図/表>
表1 核物質の防護に関する条約締結国
表2 核物質防護に関する条約(核物質防護条約)の概要
表3 附属書1:附属書2に区分する核物質の国際輸送において適用される防護の水準
表4 附属書2:核物質の区分表
表5 改正後の[核物質および原子力施設の防護に関する条約(仮称)」
図1 わが国が核物質防護に関する国際約束を法制化するまでの経緯

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<関連タイトル>
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)
核物質防護とは(世界と日本の現状) (13-05-03-01)
防護すべき核物質と対象となる施設 (13-05-03-02)
核物質防護のための設備と管理 (13-05-03-03)
罰則と適用 (13-05-03-05)
核物質の車両運搬時の防護措置 (13-05-03-07)
核物質の船舶運送 (13-05-03-08)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議(編集発行):原子力年鑑平成4年版(1992年11月2日)p.240
(2)(財)核物質管理センター(編集発行):核物質防護シリーズ6、特定核燃料物質と輸送中の核物質防護措置、核物質管理センターニュース、Vol.18、No.9(1989年9月)
(3)(財)核物質管理センター(編集発行):核物質防護シリーズ7、原子力施設の核物質防護措置、核物質管理センターニュース、Vol.18、No.10(1989年10月)
(4)(財)核物質管理センター:完全な核物質防護を目指して−日本の核物質防護−、核物質管理センターニュース、Vol.19、No.6(1990年6月)
(5)外務省原子力課(監):原子力国際条約集、(社)日本原子力産業会議(1993年6月10日)p.49−51、p.589−609、p.793−804
(6)(財)核物質管理センター開発部(編):核物質管理ハンドブック2001年版(2001年6月15日)p.31−33、p.369−415、p.509−618、p.619−631、p.638
(7)国際原子力機関(IAEA):WORLDATOM
(8)(社)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック2001年版(2001年8月7日)p.354−357
(9)(財)核物質管理センター:やさしい核物質管理読本「原子力の平和利用のために」2001年版(2001年9月)、p.42−59
(10)科学技術庁原子力安全局(監):試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則、核燃料物質の加工の事業に関する規則、使用済燃料の再処理の事業に関する規則、核燃料物質の使用等に関する規則、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則、実用船舶用原子炉の設置、運転等に関する規則、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.205−250、p.543−584、p.589−629、p.636−669、p.736−786、p.871−898
(11)外務省ホームページ:軍縮・不拡散、原子力関連条約、核物質の防護に関する条約(概要)(平成17年9月)
(12)科学技術庁原子力安全局保障措置課(監)、(財)核物質管理センター(編):核物質管理ハンドブック・1995年版(1995年7月)
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