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<概要>
 発電用軽水炉が通常運転時に環境に放出する放射性物質によって、周辺の公衆が受ける線量を合理的に達成できる限り低く保つための努力目標として定めた線量目標値およびその適用について説明している。
(昭和50年5月13日原子力委員会決定、平成13年3月29日一部改訂;原子力安全委員会

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている線量目標値に関する指針については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
1.線量目標値
 発電用軽水炉が通常運転時に環境に放出する放射性物質によって、周辺の公衆が受ける線量をできるだけ低く保つ努力目標として、周辺の公衆の受ける線量目標を実効線量で、年間50マイクロシーベルトとする。ただし、線量の評価をする際に、気体廃棄物については放射性希ガスからのガンマ線による外部被ばくおよび放射性ヨウ素の体内摂取による内部被ばくを、また液体廃棄物中の放射性物質については、海産物を摂取することによる内部被ばくを実効線量で評価する。なお線量の評価は、施設周辺の集落での食生活等が標準的である人を対象として現実的な計算方法とパラメータを使って実施する。
 線量目標値は、周辺監視区域外の線量限度や周辺監視区域外の放射性物質の濃度限度といった規制値に代わるものではなく、「as low as reasonably achievable(合理的に達成可能な限り低く)」の考え方に立って周辺公衆の受ける線量を低く保つための努力目標値であるので、この目標値を達成できないからといって、ただちに原子炉の運転停止や出力制限などの措置を必要とするようなものではない。
2.線量目標値の適用
(1)発電用軽水炉の設計にあたって、施設周辺の将来の集落形成を考慮して被ばく線量を評価した結果が線量目標値以下になるよう努力する。
(2)発電用軽水炉の通常運転時における放射性物質の放出の管理にあたっては(1)と同様な方法で線量を評価した場合、線量目標値を達成できる範囲で年間の放出量や平均放出率を放出管理の目標値(これを管理目標値という)として定め、この放出管理目標値を超えないように努力する。万一、管理目標値を超えるような放出があった時は、次の措置をとる。
 i)その期間内における気象条件、人の居住状況、環境モニタリング試料の測定結果等、実際の状況を必要に応じて加味した現実的と考えられる計算方法とパラメータを使って、施設周辺にある集落で食生活等が標準的である人について線量を評価する。
 ii)i)の評価の結果、標準的な年の気象条件下でも線量目標値を超える場合で、しかも、その後も繰り返し線量目標値を超えるおそれがある場合には、線量目標値を達成できるように放射性物質の放出方法の改善や設備の改善等に努力する。
3.「線量目標値」についての解説
(1)線量目標値は、法的規制値である「線量限度」等を変更するものではない。法令によって定められている線量限度は、周辺監視区域外において実効線量で1mSv/yである。これは高い線量を被ばくした場合にみられる障害の発生頻度と線量との間に成立する直線関係が低線量の被ばくの場合にも成立するという厳しい考え方に立って国際放射線防護委員会が勧告した値に基づいたものである。
(2)線量目標値は、発電用軽水炉を設置し、運転するものに、環境への放出をできるだけ少なくする努力を進めさせるための定量的な目標値である。(1)で述べたような低線量の被ばくについての厳しい考え方に立つと、人工的な放射性物質の環境への放出はできるだけ少ないにこしたことはない。現代では医療をはじめとして、各種の放射線を被ばくする機会が多いので、法的規制値以下であれば良いと満足せず、積極的に低減への努力が必要と思われるので、定量的な目標値を示すことによって、環境への放出低減を推進することにした。
(3)「線量目標値」として示された「線量」は、放射線障害の可能性の点から定められたものではなく、その実現の難易度を評価し、努力目標としての妥当性を判断して定められたものである。
 線量目標値はas low as reasonably achievableの考え方に基づいて、発電用軽水炉のこれまでの設計、運転と経験からみて実現の可能性の難易度を評価して定めた。実現可能性の難易度の評価に際しては、原子力発電を推進しなければならない我が国のエネルギー事情を考えて国民の原子力発電に対する理解と協力を得るため、とくに厳しい立場に立って評価した結果、国際放射線防護委員会が公衆に対して勧告している線量限度や日本の自然放射線による線量に比べて十分小さい値を採用した。
(4)「線量目標値」が達成されない状態であれば、改善の余地があるものと見なして放出方法や設備の改善が要請される、直ちに運転を止めなければならないという性質のものではない。
 線量目標値は法令による規制値ではなく、また線量と放射線障害との関係から定めたものではないので、線量目標値が達成されないからといって安全上支障があると考えるべきではない。しかし、線量目標値が達成されない場合には、施設の設計、運転または放射性物質の放出管理において、改善すべき余地があるとして、改善のための努力が要請される。
(5)この「線量目標値」は、発電用原子炉施設に関するものであって、他の原子力施設については、別途必要に応じ、各々の実現可能性の難易度をもとに設定されるべきものである。
 「線量目標値」の決定には、その実現可能性の難易度が大きな比重を占めている。今回決定した線量目標値は発電用軽水炉施設についての実現可能性の難易度をもとに定めたものなので、他の原子力施設について適用されるものではない。
(前回更新:1996年3月)
<関連タイトル>
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針 (11-03-01-07)
発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針 (11-03-01-09)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)
発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針 (11-03-01-23)

<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂11版 原子力安全委員会指針集、
大成出版社(2003)
(2)日本アイソトープ協会:2002年度版 アイソトープ法令集、ICRP Publ.60
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