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発電用軽水型原子炉施設の平常運転時における環境への放射性物質の放出に伴う周辺公衆への
被ばく線量を低く保つための努力目標として、
線量目標値が「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」に定められている。
原子力発電所における気体廃棄物及び液体廃棄物の放出に際しては、上記指針に基づき線量目標値を満足するような
放出管理目標値を定め、この値を超えないように
放出管理を行うこととしている。以下に本指針の概略を示す。
1.目的
本指針は、発電用軽水型原子炉施設の平常運転時において、環境に放出される気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性物質の放射能量を測定するための標準的な方法を定めたものである。
2.測定対象
核種、測定下限濃度及び計測頻度
発電用軽水型原子炉施設から放出される気体状及び液体状放出放射性物質は、それらの放出状況、放射性物質の物理的・化学的性状、放出管理の方法等を勘案し、
表1 に示す測定対象核種、測定下限濃度及び計測頻度により測定するものとする。
3.試料採取方法
試料の採取は、放射性物質が放出する
放射線の種類、放射性物質の物理的・化学的性状、放射能計測方法及び測定下限濃度との関係を考慮し、かつ、放出される放射性物質の濃度を代表できるような方法を用いて行うものとする。また、試料採取装置は、使用中に不具合が生じた場合でも採取を連続的に行いうるように配慮しなければならない。
(1)気体状放出放射性物質
・試料採取は原則として連続とし、試料採取場所は、原則として最終ダクト又は排気筒とする。
・サンプリングノズルは、放出される気体状放出放射性物質が十分に混合された位置に配置し、必要に応じて複数個設置するものとする。また、その大きさと形状は、試料の必要量、最終ダクト又は排気筒内の流速等を考慮して決定するものとする。サンプリングノズル部の流速は、原則として最終ダクト又は排気筒内の流速と同等とする。
・試料採取配管は、放射性物質の配管への沈着を避けるため、できるだけ短く、また、急激な屈曲部を少なくし、かつ、沈着が少ない材質とする。
・ガス状物質は、測定容器に連続的に導き、これを直接計測するものとし、測定容器の大きさは、放射能計測装置の性能を考慮し、測定下限濃度の測定が可能な大きさとする。
・揮発性物質は、活性炭カートリッジ等の補集材を用いて補集するものとする。この場合、補集材は、揮発性物質の物理的・化学的性状、ろ過速度等を考慮して、特別な補正を必要としないような適切な補集効率を有するものを選択するものとする。また、採取空気量は、放射能計測装置の性能を考慮し、測定下限濃度の測定が可能な量とする。ただし、
トリチウムについては、冷却凝縮法により補集してよいものとする。
・粒子状物質は、集塵ろ紙を用いて補集するものとする。この場合、集塵ろ紙は、粒子状物質の物理的・化学的性状、粒径分布、ろ過速度等を考慮して特別な補正を必要としないような補集効率を有するものを選択するものとする。また、採取空気量は、放射能計測装置の性能を考慮し、測定下限濃度の測定が可能な量とする。
・補集材は、補集効率の低下、目詰まり等が著しくならないような頻度で交換するものとする。
(2)液体状放出放射性物質
・試料採取は、液体状放出放射性物質の放出の都度行うものとし、試料採取場所は、各放出系統の最終タンクとする。
・試料採取を行う放出系統の最終タンクは、代表試料が採取されるよう十分な撹拌が行える設備とする。また、試料採取配管は、放射性物質の配管への沈着を避けるためできるだけ短くし、試料採取前に十分な洗浄が行える設備とする。
・試料採取量は、放射能計測装置の性能を考慮し、測定下限濃度の測定が可能な量とする。また、長半減期核種の測定等のため、コンポジット試料を作成する場合には放出量に比例した量を採取するものとする。
4.放射能計測方法
(1)気体状放出放射性物質
・
放射性希ガスは、オフライン方式又はインライン方式により、Nai(Tl)シンチレーション計数装置、
電離箱、プラスチック・シンチレーション計数装置、GM計数装置等を用い、連続的に計測するものとする。なお、貯留タンク等により減衰後放出する場合には、タンク等から採取された試料の放射能計測に基づき放出放射能量を決定してもよい。
・よう素131及びよう素133は、試料を採取後すみやかにGe半導体検出器・
多重波高分析器(以下「Ge半導体スペクトロメータ」という。)等を用いて計測するものとする。
・トリチウムは、試料を液体シンチレーション計数装置を用いて計測するものとする。
・粒子状物質中の放射性物質は次により計測するものとする。
(1) ガンマ線放出核種は、試料を採取後すみやかにGe半導体スペクトロメータを用いて計測する。
(2) ストロンチウム89及びストロンチウム90は、試料から放射化学的に分離し、GM計数装置等を用いて計測する。
(3) 全ベータ放射能は、試料をそのまま、又は適切に処理し、ガスフロー型GM計数装置、ガスフロー型比例計数装置等により計測する。
(4) 全アルファ放射能は、試料をそのまま、又は適切に処理し、ガスフロー型比例計数装置、ZnS(Ag)シンチレーション計数装置等を用いて計測する。
(2)液体状放出放射性物質
・ガンマ線放出核種は、放出の都度採取した試料又はコンポジット試料をGe半導体スペクトロメータを用いて計測するものとする。
・ストロンチウム89及びストロンチウム90は、採取試料をもとにコンポジット試料を作成し、放射化学的に分離した後、GM計数装置等を用いて計測するものとする。
・トリチウムは、採取試料をもとにコンポジット試料を作成し、適切に処理した後、液体シンチレーション計数装置を用いて計測するものとする。
・全ベータ放射能は、採取試料をもとにコンポジット試料を作成し、蒸発乾固等により適切に処理した後、ガスフロー型GM計数装置、ガスフロー型比例計数装置等を用いて計測するものとする。
・全アルファ放射能は、採取試料をもとにコンポジット試料を作成し、蒸発乾固等により適切に処理した後、ガスフロー型比例計数装置、ZnS(Ag)シンチレーション計数装置等を用いて計測するものとする。
(3)放射能計測装置の校正
放射能計測装置は、適切な標準線源又は校正用試料を用いて校正するものとする。これらの校正線源等は、対象核種と同種類の核種又は着目エネルギを含むようなエネルギ範囲の放射線を放出する他の核種とし、形状は、計測試料と同一又は類似したものとする。校正は、少なくとも1年に1回の頻度で行うものとする。
(4)放射能計測装置の
バックグラウンド及び感度限界
計測装置のバックグラウンドは、適切な頻度で把握するものとし、感度限界は、実際の使用条件におけるバックグラウンドの変動に基づいて定めるものとする。
5.放出放射能量の算出
放出放射能量は、放射能計測装置から得られる計測結果のうち感度限界値以上のものについて計測試料の放射能量又は
放射能濃度への換算係数、放出量、必要な補正係数等を用いて求めるものとする。
・正味の計数値は、放射能計測装置から得られる試料の計数値から、バックグラウンド値を差し引いて求めるものとする。計数値は、計数率[cps]又は電離電流値[A] とする。
・前章4.(3)の校正の結果と計測に用いた試料採取量とから測定対象ごとに計測値[cps又はA]を試料放射能濃度[Bq/立方cm]へ換算するための換算係数を定めるものとする。
・補集期間中及びコンポジット試料の作成期間中の減衰については、期間を通じて一定の濃度で放出されたものとして補正を行うものとする。採取から計測開始までの期間中の減衰及び計測中の減衰については、それぞれの時間記録に基づき適切な補正を行うものとする。オフライン方式による放射性希ガスの放射能測定については、測定容器内の圧力に対する補正を行うものとする。
・放射能計測装置の感度限界の値に基づき、検出限界濃度を算出するものとする。
6.記録方法
測定結果の記録にあたっては、測定の状況を確認しうるような事項もあわせて記録し、保存するものとする。また、放出放射能量の集計は、
表2 のとおりとする。ただし、全ベータ放射能については必要に応じて集計するものとする。
<図/表>
<関連タイトル>
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針 (11-03-01-06)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂第8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994)