<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 原子力施設からの放射性気体廃棄物および放射性液体廃棄物の放出については、ALARAの精神に基づいて定められた線量目標値に従って、周辺公衆に対する被ばく線量の管理、並びに環境への放出放射能の管理が行われている。この目的のため、放射性廃棄物の放出源における放射性物質の測定評価(放出源モニタリング)を行うとともに、これらの放出放射性物質の周辺環境におけるレベルを測定評価(環境モニタリング)し、測定値が環境管理の基準以下であることの確認が行われている。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.原子力施設周辺公衆に対する被ばく線量の管理基準
 公衆の安全を確保するために、放射線防護の基本となる基準および考え方が、国際放射線防護委員会(ICRP)の基本勧告に示されており、各国の放射線安全規則に採用されている。環境に放出される放射能についても、このICRP勧告を取入れた法令、指針類によって規制されている。
 一般公衆の個人に対する「線量限度」のICRP勧告値は全身に対し1mSv/年、目の水晶体に対し15mSv/年、皮膚に対し50mSv/年である。これらの線量限度の値は基本的には外部被ばくと内部被ばくによる線量を加算したものである。わが国でもこの線量限度を採用している。
 わが国の原子力発電の主流を占めている発電用軽水炉に関しては、豊富な運転経験があるため、放射性廃棄物の放出低減化の具体的見通しが得られている。このことから、放射性気体廃棄物および放射性液体廃棄物の放出については、発電用軽水炉施設周辺公衆の被ばく線量をALARA(as low as reasonably achievable)の精神に基づき、合理的に達成しうる範囲で低くするための設計および運転管理の努力目標として、年間0.05mSvの「線量目標値」が定められている。この目標値は先に述べたICRP勧告値の一般公衆に対する「線量限度」の20分の1に相当する。
 図1は、放射線による被ばく線量の基準をSO2、NO2の大気中濃度に対する環境基準と対比させて示したものである。この図から、放射線被ばく線量と大気汚染物質濃度の双方ともに、医学的に検知(診断)可能なレベルが自然レベルの100倍程度であることがわかる。また、発電用軽水炉施設の周辺公衆の全身被ばくに対する「線量目標値」は自然放射線による被ばく線量(自然レベル)の約20分の1の水準にあり、自然放射線による被ばくレベルをかなり下回っていることも示されている。
 なお、発電用軽水炉以外の原子力施設においても、発電用軽水炉の線量目標値に準じて、年間0.05mSvを施設の境界における上限値として運転するよう行政指導が行なわれており、一般公衆の実際の被ばく線量がICRP勧告の線量限度よりも充分に低くなり、自然放射線による被ばく線量を下回るレベルに管理されている。
2.環境放射能の管理
 原子力施設の稼働によって放出される、気体および液体廃棄物中に含まれる放射性物質による周辺住民の被ばくが、一般公衆に対する線量限度以下で、施設稼働時に計画された被ばく線量、例えば発電用軽水炉に対する線量目標値を超えないことを確認する必要がある。そのために、放射性廃棄物の放出源における放射性物質の測定評価(放出源モニタリング)を行うとともに、これらの放出放射性物質の周辺環境におけるレベルを測定評価(環境モニタリング)し、測定値が環境管理の基準以下であることの確認が行われる。
(1)放出源モニタリング
 気体廃棄物については放出口の高さなど、放出や気象の条件、液体廃棄物については一般の排水や海水による希釈拡散の条件に応じて公衆の被ばく経路を考慮し、環境管理の基準を超えないような放射性物質放出率の管理基準が定められている。
 したがって、放出源モニタリングでは、一般に排気口または排水口等において放出される放射性物質の平均濃度または放出量が定期的もしくは放出の度に測定され、必要に応じて排気口から周辺監視区域境界外までの放射性物質の拡散等を考慮し、法令に定められた濃度限度または線量限度を下回るものであることを確認した後に排出することになっている。また、事故時においても、異常な放射性物質の放出等を検出し迅速に対策処理が行えるよう、予想される放射性物質の被ばく経路等の適切な場所をモニタリングすべきことが定められている。
(2)環境放射線モニタリング
 環境放射線モニタリングは原子炉設置者においては放出管理の一環として、地方公共団体においては地元住民の健康と安全を守る立場から、それぞれ行われる。その主な目的は次のとおり定められている。
1)周辺住民等の線量を推定、評価すること
2)環境における放射性物質の蓄積状況を把握すること
3)原子力施設からの予期しない放射性物質又は放射線の放出による周辺環境への影響の評価に資すること
4)異常事態発生の通報があった場合に、平常時のモニタリングを強化するとともに、緊急時モニタリングの準備を開始できるように体制を整えること
 環境放射線モニタリングにおいては、施設外環境における放射線量や環境試料中の放射能レベルの測定が行われる。その測定点の選定および環境試料の採取は、被ばく経路による公衆の被ばく線量の上限値の推定および長半減期核種の蓄積傾向を把握することに重点を置いて行なわれる。
 例えば、発電用軽水炉の場合には、敷地境界および周辺におけるγ線吸収線量、および空気、葉菜、牧草や生ミルク中の放射性ヨウ素が主な測定対象となる。また、環境における蓄積の傾向を知るための試料としては、土壌や海底土および放射性物質の濃縮または蓄積の能力のある指標生物、例えばホンダワラや松葉なども採取測定される。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
図1 大気中の汚染物質および放射線の全身被ばく線量に対する環境基準の比較
図1  大気中の汚染物質および放射線の全身被ばく線量に対する環境基準の比較

<関連タイトル>
放射線管理基準 (09-04-05-01)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
環境放射能安全規制の概要 (11-02-08-01)
環境放射能安全対策の概要 (11-02-08-02)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会事務局(監修):原子力安全委員会 安全審査指針集(改訂12版)、大成出版(2008)
(2)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成18年版、佐伯印刷(2007年)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ