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<概要>
 原子力施設から環境へ放出される放射能の低減化対策は、法令、指針類によって定められている。このため一般公衆の被曝線量基準または線量目標値が設定され環境への放出量の一層の低減が図られている。
 万一原子力発電所等から大量の放射性物質が放出された場合に対しては、防災対策が決められていて、地域住民の健康と財産を守り、周辺の住民がそれによる放射線を受けるのをできるだけ少なくさせる対策が図られている。
 また、1999年9月30日のJCO事故における対応の反省を踏まえ、原子力発電所等周辺の防災対策についての改訂が行われた。
<更新年月>
2002年01月   

<本文>
 原子力施設から環境へ放出される放射能の量は、法令、指針類の定めるところにより一層の低減が図られており、一方、万一原子力発電所等から大量の放射性物質が放出された場合は、災害対策基本法等に基づき必要な防災対策が実施されることになっている。
1.放射能放出低減化対策
(1) 原子力施設の放射性気体及び液体廃棄物に関しては、運転に伴い発生する放射性廃棄物の処理施設は、適切な処理等により、周辺環境に対して、放出放射性物質の濃度及び量を合理的に達成できる限り低減できる設計であることが定められている。
(2) 実用発電用原子炉の運転に伴い発生する放射性気体及び液体廃棄物については、それぞれの廃棄物処理設備により濃度及び量を低減するための処理を行い、気体及び液体廃棄物の一部については「線量目標値」に関する指針で年間0.05ミリシーベルト(5ミリレム)以下を満足するように年間放出管理目標値が定められており、放射能レベルを監視しつつ、周辺環境に排出されている。
 気体廃棄物については、その発生源に応じて分離回収し、ガス減衰タンク等に貯留して放射能を減衰させた後、さらに粒子状のものについては高性能エアフィルタによりろ過し、ガス状のものについては活性炭フィルタにより吸着し放射性物質の濃度を監視しながら排出されている。
 一次冷却水等については、その性状に応じて分離回収し、フィルタ、蒸発器及び脱塩塔でろ過、脱塩、濃縮等適切な処理を行い、処理水については再使用されている。また処理水の一部については、液体廃棄物として試料を採取し分析を行って放射性物質の濃度が十分低いことを確認した後、放射性物質の濃度を監視しながら排出されている。
(3) 試験研究用原子炉及び研究開発段階にある原子炉の運転に伴い発生する放射性廃棄物の管理については、「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則」に規定されている基本的事項について規制が行われている。気体状及び液体状の放射性廃棄物については、法令に定める濃度限度以下であることを確認し周辺環境へ排出されている。
(4) 原子炉解体に伴い発生する放射性気体及び液体廃棄物については、原子炉設置者に対し解体届等の提出を義務付けており、運転時と同様に万全の規制が行われている。
(5) 核燃料施設の運転に伴い発生する放射性気体及び液体廃棄物については、一般に排気口又は排水口等において放出される放射性物質の平均濃度又は放出量が定期的又は放出のつど測定され、必要に応じ、排気口から周辺監視区域境界外までの放射性物質の拡散等を考慮し、法令に定められた濃度限度又は線量限度を下回るものであることを確認したのち排出されている。
2.原子力発電所等周辺の防災対策
(1) 原子力発電所等に係る災害は、災害対策基本法施行令に定める「放射性物質の大量の放出」により生ずる災害に該当し、国、地方公共団体、事業者等は、同法等に基づき必要な防災対策を実施することとなっている。
(2) 万が一原子力発電所等における事故の影響が周辺地域に及び、又は及ぶおそれがある場合には、国は、直ちに事故対策本部を設置し、原子力安全委員会緊急技術助言組織の専門家の技術的、専門的助言を受け、防災対策を講じることになっている。
さらに、都道府県や市町村でも災害対策本部を設置し、広報、退避、緊急医療等の災害対策を実施することとなっている。この際、国は、原子炉や放射線防護の専門家をはじめモニタリングチ−ム、緊急医療チ−ム等を現地の災害対策本部と事故が発生した原子力発電所等へ派遣して、技術的アドバイス、防災活動支援等を行うことになっている。
(3) 原子力安全委員会の緊急時環境放射線モニタリング指針に基づいて、第一段階の測定を行い、周辺住民がどのくらいの放射線を受けたかを予測し、迅速に必要な防護対策が講じられることになっている。第二段階では、さらに詳細な測定が実施され、人体や環境への放射線の影響が評価される。(4) 原子力安全委員会の「原子力発電所等周辺の防災対策について」の報告書の中で環境放射能に関係する事項の概要は次の通りである。
a) 防災対策一般
 原子力防災において特に考慮すべき核種は希ガス(クリプトン、キセノン)及び揮発性核種(ヨウ素)である。
b) 防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲
  防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲として、原子力発電所等を中心として半径約8〜10kmの距離をめやすとして用いる。
c) 緊急時の環境放射線モニタリング
  緊急時の環境放射線モニタリングとして、第一段階のモニタリング、第二段階のモニタリングという2段階に分類し、モニタリングを実施する。
d) 災害応急対策の実施のための指針
  防護対策の準備のためのめやす及び防護対策のための指標(屋内退避、コンクリート屋内退避及び避難等に関する指標、飲食物の摂取制限に関する指標)を示す。
e) 緊急時医療
 傷病を3群に分類し、各々採るべき措置について示すとともに、医療体制の整備、各機関の果たすべき役割及びヨウ素剤の適用についてその基本的な考え方を示す。
(5)原子力発電施設等周辺の防災対策の一環として、緊急時において放出された放射性物質の拡散やそれによる線量を迅速に計算予測できるSPEEDIネットワ−クシステムを1985年度より科学技術庁(現・文部科学省)において整備し、関係各機関の間のネットワ−クを維持・管理している。
3.原子力発電所等周辺の防災対策についての改訂
 1999年9月30日のJCO事故においては、わが国で初めて周辺住民の避難が実施された。この事故対応の反省を踏まえて、初期対応の迅速化、国及び地方公共団体の連携強化、国の対応機能の強化や原子力事業者の責務の明確化等を柱とする原子力災害対策特別措置法が1999年12月に制定され、関係機関において、新しい仕組みによる原子力防災対策の充実強化に向け、各種計画等の策定、改訂作業が進められることとなった。
 このため、原子力発電所等周辺防災対策専門部会(以下「防災専門部会」という)では、原子力防災対策の技術的、専門的事項を扱う「原子力発電所等周辺の防災対策について」(以下「防災指針」という。)について、JCO事故対応での教訓や原子力災害対策特別措置法との整合性等を踏まえ、改訂した。
 改訂に当たっては、以下の点を特に留意した。
(1)新しい原子力災害対策特別措置法の仕組みに対応すること
(2)従来の原子力発電所、再処理施設等に加え、対象施設として研究炉、その他の核燃料施設にも対応できること
(3)従来の希ガス及びヨウ素対策に加え、核燃料物質の放出や臨界事故にも対応できること
 さらに、原子力災害対策特別措置法の制定により、防災の対象施設が原子力施設一般に広がり、また、原子力事業者の責務が明確化されたことから、防災指針の表題を「原子力施設等の防災対策について」に変更するとともに、防災対策の内容をより実効性のあるものとなるよう、必要な修正を行った。
 防災専門部会では、これらについて審議を行い、2000年4月に原子力安全委員会に審議結果を報告した。
 これを受け、原子力安全委員会では、一般からの意見募集を行い、その結果を踏まえて、2000年5月に防災指針を決定した。
 また、原子力災害対策特別措置法の制定及び防災指針の改訂にともないう環境放射線モニタリング中央評価専門部会は、緊急時及び平常時における環境放射線モニタリングの具体的な事項に関する「緊急時環境放射線モニタリング指針」及び「環境放射線モニタリングに関する指針」の一部改訂について審議を行い、2000年6月に原子力安全委員会に報告した。これを受け、原子力安全委員会は、一般からの意見募集を行い2000年8月に両指針を一部改訂した。
<関連タイトル>
放射線管理基準 (09-04-05-01)
施設周辺環境モニタリングの概要 (09-04-08-01)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
環境放射能安全規制の概要 (11-02-08-01)

<参考文献>
(1) 内閣総理大臣官房原子力安全室(監修):改訂10版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版(2000)
  ・原子力発電所等周辺の防災対策について
  ・緊急時環境放射線モニタリング指針
(2) 原子力安全委員会(編):平成12年度 原子力安全白書、財務省印刷局(2001)
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