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<概要>
 資源エネルギー庁・総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)は「商業用原子力発電所廃止措置に向けて」と題する報告書を1997年1月公表した。同報告書は、12年前に公表された「商業用発電炉の廃止措置についての基本方針」のその骨子について、現在でも妥当であると是認しつつも、当面早期に対応すべき課題を提起した。
 その後、原子炉等規制法の改正が2005年5月行われ、解体届けに変わる原子炉施設の廃止措置認可制度、また、解体物の大部分を占める非放射性廃棄物と放射性廃棄物を区別するクリアランス・レベルに係る制度が導入された。
<更新年月>
2007年02月   

<本文>
 日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構(JAEA))の動力試験炉(JPDR)の解体撤去終了(1996年3月)、多くの国内諸機関の廃止措置関連開発および海外における原子力発電施設の廃止措置事例の蓄積、さらに東海発電所の運転終了計画の公表等を踏まえ、資源エネルギー庁・総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)は「商業用原子力発電所の廃止措置に向けて」と題する報告書を1997年1月14日に公表した。
 同報告書では、商業用原子力発電施設の廃止措置をめぐる環境、廃止措置に係る技術水準および標準行程について検討評価し、1985年7月報告に公表された「商業用発電炉の廃止措置についての基本方針」を標準工程等その骨子については、現在でも妥当と是認しつつも、当面早期に対応すべき課題を提起している。この提言を受け、原子炉等規制法の改正が2005年5月(施行同12月1日)行われ、解体届けに変わる原子炉施設の廃止措置認可制度、また、解体物の大部分を占める非放射性廃棄物と放射性廃棄物を区別するクリアランス・レベルに係る制度が導入された。
 クリアランス・レベル値の設定には、国際的な整合性が必要であることからIAEAの指針RS−G−1.7の値が施行規則に取り入れられた。また、原子炉設置者も自ら実績を積み重ねることなどにより、国民の理解を得つつ廃棄物の有効利用を進めることを求めている。
 また、原子炉の廃止措置について国民には漠然たる不安感があるため、廃止措置中の安全性がいかに確保されるかなど、正確かつ詳細で分かりやすい情報の提供を必要としている。
 次に各項目の要点を記述する。
1.商業用原子力発電設備の廃止措置をめぐる環境
(1)廃止措置の決定:安全性を原子炉等規制法および電気事業法により国が担保しつつ、廃止時期を電気事業者たる原子炉設置者の経営判断により決定されるという現在の体制は合理的である。
(2)廃止措置の経験:海外における原子力発電所の廃止措置の状況を表1−1および表1−2に、代表的な廃止措置の実績を表2に示す。これまでに15基程度の原子力発電施設の解体撤去が実施されており、このうちアメリカのシッピングポート2、ドイツのニーダーアイヒバッハ、わが国のJPDR等は既に原子炉施設の解体撤去を終了し、跡地の整備や敷地の解放を完了している。この過程において技術面、安全面いずれにおいても特段の問題なく廃止措置工事を終了したと報告されている。また、一部の解体廃棄物について再利用も図られている。
 その後、わが国では、東海発電所および「ふげん」発電所の廃止措置が開始された。なお、「東海発電所(GCR)の廃止措置の計画」<05−02−06−02>参照のこと。また、最新の海外の状況については、「海外主要国における原子力発電所の廃止措置の実績」<05−02−03−05>を参照のこと。
2.廃止措置に係る技術水準および標準工程
(1)技術開発の状況:(財)原子力発電技術機構では、「実用発電用原子炉廃炉設備確証試験」、日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構(JAEA))および(財)原子力施設デコミッショニング研究協会(現 原子力研究バックエンド推進センター(RANDEC))では、「原子炉解体技術の高度化」、「金属廃棄物の再利用の開発」等を行っており、技術的基盤は確保されているが、より合理的な高度化技術が引き続き進められている。
(2)JPDRの解体:JPDRの解体においては総量24,440トンの廃棄物が発生し、うち20,670トンが非放射性廃棄物であった。JPDRの解体撤去作業による作業者の集団線量等量は0.3人・シーベルトと計画値の1/3に抑えられ、多くの解体技術開発に成果を上げるとともに、原子炉の解体を実施できることを明らかにした。
(3)標準工程:1985年に策定した標準工程に沿って廃止措置を実施することは十分可能で標準工程の妥当性は損なわれておらず、特段の変更は要しないと認められる(図1参照)。
3.廃止措置における安全確保の手続きの明確化
(1)廃止措置作業中の安全確保:定期検査中の工事と同様に、工程管理、放射線管理放射性物質の拡散防止、作業従事者の被ばく低減、放射性廃棄物の管理に関する項目に重点を置くことが適切である。
(2)手続き整備について:解体届け、保安規定等の法規制は、整備するとともに、その審査に必要となる基準、要領等もこれらの記載内容と整合を取りつつ今後整備することが必要であると指摘された。
 その後、原子炉等規制法の改正が2005年5月(施行同12月1日)行われ、廃止措置認可制度が導入され、東海発電所(2006年3月)および「ふげん」発電所(2006年11月)の廃止措置認可申請が行われた。新しい廃止措置規制の概念を図2に示す。
4.解体廃棄物の処理処分に係る課題
(1)解体廃棄物の発生量:炉型の違いや出力規模により差異があるものの、110万kW級の軽水炉であれば、約50〜55万トンとなる(表3参照)。これを、一定の前提(IAEAクリアランス・レベル)をおいて解体廃棄物の放射性物質濃度に応じた区分別発生量を試算すると、低レベル放射性廃棄物は約1万トンである。この中には炉内構造物等の低レベル放射性廃棄物の中でも比較的放射性濃度が高いため、現行の低レベル放射性廃棄物埋設施設の政令上の埋設濃度上限値を超えるもの(高βγ低レベル廃棄物)が数百トン含まれると推定される。
 なお、東海発電所の廃棄物の最新の試算値は、「東海発電所(GCR)の廃止措置の計画」<05−02−06−02>を参照のこと。
(2)高βγ低レベル廃棄物:この廃棄物については、現行のコンクリートピット(低レベル放射性廃棄物埋設施設)の埋設濃度上限値を超えるため、その処分制度を早急に整備すべきである。
(3)放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物:本来、放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物が低レベル放射性廃棄物と混在されて処分されたり、再利用可能な資源が廃棄されることとなることから、環境負荷を増大させるのみならず、放射性廃棄物の処分コストも不必要に上昇させることとなる。
 諸外国においては、ドイツ、イギリス、スウェーデン、フィンランドにおいて既に汎用的な基準を定めている(表4削除する)。また、アメリカ、ベルギー、フランスにおいては、個別申請および審査においてクリアランス・レベルを設けている。最新の諸外国のクリアランスに係わる動向は、「各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向」<11−03−04−05>を参照のこと。
 わが国でも、クリアランス制度の確立が要望された。その後、2005年5月の原子炉等規制法の改正により、最初のクリアランス認可申請が東海発電所から2006年9月行われた。
(4)放射性廃棄物の有効利用:ドイツ、スウェーデン、ベルギー、米国、英国等多くの国において、放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物に関しては、金属スクラップの一般リサイクル市場への流通、コンクリートの道路舗装材への再利用等が行われているほか、放射性金属廃棄物については放射性廃棄物容器、遮へい体等に用途を限定した再利用が既に行われている。
 わが国でも、環境負荷の低減、資源の有効利用等の観点から、再利用が可能かつ合理的なものについては、その有効利用を図ることが今日的な課題である。
 そのためには、原子炉設置者自ら実績を積み重ねる等により、国民の理解を得つつ廃棄物の有効利用を進めていくことが重要である。
5.透明性の確保と情報の提供
 原子力開発を国民に理解されるには、廃止措置についても、原子力に関する専門的な知識を有さなくても理解できる分かり易い、情報提供・広報活動が行われるべきである。
 制度整備が遅れている放射性廃棄物の処分対策については、国が安全を確保するための基準をあらかじめ整備しておくことが国民の安心と理解を得る第一歩であることを強調する。今後クリアランス・レベルに係る制度の定着後、再利用等を円滑に進めていくためには、関係者および国民の理解促進のために情報提供、広報活動を広く行うことが極めて重要である。
<図/表>
表1−1 海外の原子炉の廃止措置の状況(1/2)
表1−1  海外の原子炉の廃止措置の状況(1/2)
表1−2 海外の原子炉の廃止措置の状況(2/2)
表1−2  海外の原子炉の廃止措置の状況(2/2)
表2 海外の代表的な原子炉廃止措置実績
表2  海外の代表的な原子炉廃止措置実績
表3 解体廃棄物の試算例(1基当たり)
表3  解体廃棄物の試算例(1基当たり)
図1 商業用原子力発電施設の廃止措置の標準工程
図1  商業用原子力発電施設の廃止措置の標準工程
図2 廃止措置規制の概要
図2  廃止措置規制の概要

<関連タイトル>
JPDRの解体 (05-02-04-09)
東海発電所(GCR)の廃止措置計画 (05-02-03-14)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)
各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)

<参考文献>
(1)総合エネルギー調査会原子力部会:「商業用原子力発電施設の廃止措置のあり方について」 報告書、(1985年7月15日)
(2)総合エネルギー調査会原子力部会:「商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて」 報告書、(1997年1月14日)
(3)総合エネルギー調査会原子力部会、原子力安全・保安部会:廃止措置安全小委員会「原子力施設の廃止措置規制のあり方について」(平成16年12月9日)
(4)東海発電所廃止措置計画認可申請書(平成18年3月10日)
(5)げんでん:東海発電所「クリアランス制度」対象物に係わる放射能濃度の測定及び評価方法の認可について(平成18年9月8日、日本原子力発電株式会社発表)
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