<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力関係法規・法令
<小項目> 各種基準等
<タイトル>
食品中放射性物質の基準濃度 (10-07-02-02)

<概要>
 放射性降下物や原子力施設の事故の影響などで食品が放射性物質によって汚染された場合、食品摂取による内部被ばくを避けるため、摂取制限などの防護措置が講じられる。防護措置は、食品中の放射性物質濃度の測定値が、あらかじめ設定された基準濃度(指標や限度)の値を超えた場合に発動される。放射性降下物や原子力施設の事故の影響で汚染された飲食物に対する摂取制限を課す際の指標として、放射性ヨウ素放射性セシウム、ウラン、プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種などがあり、それぞれ飲食物中濃度を定めている。ここでは、主に2011年3月の東電福島第一原発事故に伴う食品中放射性物質の摂取制限設定(暫定規制)及びその後の見直しによる新基準(2012年4月から施行)について紹介する。
<更新年月>
2014年11月   

<本文>
1.食品中放射性物質に関する防護措置
 あらゆる食品中に自然放射性物質が含まれており、微量ではあるが人工放射性物質を含む食品もある。したがって、食事をすることにより放射性物質が人間の体内に取り込まれ、ふだんの生活の中でも内部被ばくが生じている。しかし、何らかの理由で、食品中の放射性物質の量が通常よりも多いという状況が発生した場合、食品摂取による内部被ばくの増大を避けるための措置を講ずることが求められる。このため、食品中に含まれる放射性物質の量についての数値(指標や限度)をあらかじめ設定しておく必要がある。そして、実測や推定で得られた放射性物質の量がその数値(指標や限度)を超えた場合に放射線防護活動が行われる。大気中における核爆発実験が1950年から1960年代に盛んに行われ、実験で発生した放射性降下物(フォールアウト)の日本への影響が漸増した。これに対し、政府は1961年(昭和36年)10月に閣議決定を行い内閣に放射能対策本部を設け、同本部を中心として放射能調査、放射能対策に関する研究等の強化が図られた。対策本部は大量のフォールアウトがあった場合の緊急事態対策実施の暫定指標を定め、牛乳中の131Iの濃度が6000pCi/リットル(約200ベクレル/リットル)を超える場合には、乳幼児の生牛乳の飲用中止及び葉菜類について十分洗浄を行うよう指示した。
2.東電福島第一原発事故に伴う飲食物の摂取制限(暫定規制措置)
 原子力発電所などで事故が起こり、放射性物質の大量の放出が発生した場合、汚染した飲食物の摂取を制限して、発電所などの周辺の住民の内部被ばくをできるだけ低減する措置がとられる。原子力施設を設置している全国の自治体においても原子力に係る地域防災計画などに同様の措置が盛り込まれている。
 2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(東電福島第一原発事故)により周辺環境に放射性物質が放出されたことを受け、厚生労働省は、原子力災害対策本部と協議の上、緊急的な措置として、原子力安全委員会(時)策定の「飲食物摂取制限に関する指標」を食品中の放射性物質に係る「食品衛生法上の暫定規制値」とした。この規制値を上回る食品については食品衛生法第6条第2号に該当するものとして、食用に供することがないよう3月17日に各自治体に通知した。(表1
 「飲食物摂取制限に関する指標」は国際放射線防護委員会(ICRP)の報告書である1984年のICRP Publication 40、その後のPublication 63の勧告を参考にして纏められており、その内容は以下の通りである。
2.1 放射性セシウムについて
 放射性セシウムは、内部被ばくにより血液に溶けて筋肉に蓄積され、健康へ影響を及ぼす。これを回避するため、年間の許容線量(実効線量)を5mSvとした。この5mSvを飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他の5つの食品カテゴリーに均等に1mSvごとに割り当て、それぞれの食品ごとに食品栄養調査から得られる年代別の摂取量、摂取頻度などから食品カテゴリーごとの限度値を設定した。その結果、飲料水:200ベクレル/キログラム、牛乳・乳製品:200ベクレル/キログラム、野菜類:500ベクレル/キログラム、穀類:500ベクレル/キログラム、肉・卵・魚・その他:500ベクレル/キログラムに規制値を設定した。
2.2 放射性ヨウ素について
 放射性ヨウ素は、甲状腺に集中して蓄積し、健康へ影響を及ぼす。このため、年間の許容線量を2mSvとした(ただし、甲状腺の被ばく量である等価線量ベースでは50mSv)。この値を基礎として飲料水、牛乳・乳製品、野菜類の3つのカテゴリーについて規制値を設定した。さらに、3つの食品カテゴリー以外の食品の摂取を考慮して、等価線量ベースで50mSv/年の2/3に相当する線量(約33mSv)をそれぞれに均等に1/3(約11mSv強)ずつ割り当てた。そして、飲料水:300ベクレル/キログラム、牛乳・乳製品:300ベクレル/キログラム、野菜類:2000ベクレル/キログラムに規制値を設定した。また、当初、魚については、規制値を設定していなかったが、きびなごに汚染が見られたことから追加で暫定規制値を設定した。
2.3 ウラン、プルトニウム及び超ウラン元素のα核種について
 ウラン、プルトニウム及び超ウラン元素のα核種についても、年間の許容線量を5mSvとした。これを5つの食品分野ごとに1mSvずつ割り当て、ウランについては乳児用食品:20ベクレル/キログラム、飲料水:20ベクレル/キログラム、牛乳・乳製品:20ベクレル/キログラム、野菜類:100ベクレル/キログラム、穀類:100ベクレル/キログラム、肉・卵・魚・その他:100ベクレル/キログラムに設定した。また、プルトニウム及び超ウラン元素のα核種については、乳幼児用食品、飲料水、牛乳・乳製品について、各1ベクレル/キログラム、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他については、各10ベクレル/キログラムを設定した。
3.暫定規制措置に係る食品安全委員会の評価
 2011年(平成23年)3月20日、厚生労働大臣は「暫定規制措置は、緊急を要するため食品健康影響評価を受けずに定めたものである」点を明確にし、内閣府の食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼した。これを受けて3月29日に食品安全委員会から「放射性物質に関する緊急とりまとめ」として次の点が指摘された。
 1)食品中の放射性物質は、可能な限り低減させるべきものであり、特に妊産婦や妊娠の可能性のある女性、乳幼児に関しては十分留意すべきであること。
 2)放射性ヨウ素について、暫定規制値が根拠とした1988年のWHO(世界保健機構)の50mSvの甲状腺等価線量(実効線量として2mSvに相当)に基づき規制を行うことは、健康影響の観点から不適当とはいえないこと。
 3)年間5mSvの被ばくを限度として定めた放射性セシウムの暫定規制値について、ICRPの実効線量として年間10mSvという値については、緊急時にこれに基づきリスク管理を行うことが不適切とまでいえる根拠は見出せていないこと。
 4)今回、発がん性のリスクについては詳細な検討をしていないので、今後、諮問を受けた範囲について継続して食品影響評価を行う必要があること。
4.食品中の放射性物質の新基準
 上記2.に述べた暫定規制値に適合している食品については、健康に影響はないと一般的に評価され安全は確保されている。しかし厚生労働省は、より一層の食品の安全と安心を確保するため、食品から許容することのできる放射性セシウムの線量を、年間5mSvから1mSvに引き下げることを基本に、厚生労働省薬事・食品衛生審議会において新たな設定のための検討を進めた。
 食品安全委員会は、食品中の放射性物質(ウランを除く)についてのリスク管理を行う場合、評価結果が各年の線量ではなく、生涯における累積線量で示されていることを考慮し、食品からの放射性物質の検出状況、日本人の食品の摂取実態を踏まえて管理を行うべきとした。これにより、2012年(平成24年)4月1日から新しい基準値が導入された。(表2
 その骨子は次の通りである。
 1)介入線量レベル(介入レベル)として年間1mSvに引き下げる。
 2)規制対象の放射性物質は半減期1年以上のものとする。具体的には、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム及びルテニウム106とする。
 3)半減期が約8日で平成23年7月15日以降の食品からの検出報告のない放射性ヨウ素や、一般環境への放出量が極めて少ないと判断されるウランについては、基準値を設定しない。
 4)原発事故以降の放射線量の推移を考慮し、基準値は放射性セシウムを中心として年間1mSvに設定する。
 5)食品の分類を現在の5分類から飲料水、乳児用食品、牛乳、一般食品の4分類に改訂する。介入線量1mSvをまず飲料水と一般食品に分割して配分し、基準値を決定する。
 6)子供向けの乳児用食品と牛乳については一般食品より厳しい基準を設定する。
5.輸入食品中の放射能濃度の暫定限度
 1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故に伴い、放出された大量の放射性物質が世界規模で拡散し、高レベルに汚染された食品が日本に輸入される恐れがあることから、134Cs及び137Csに関し暫定限度が設定されていたが、福島第一原発事故に伴う新しい基準が輸入食品にも適用された。
<図/表>
表1 飲食物摂取制限に関する指標(食品衛生法上の暫定規制値)
表2 食品中の放射性物質の新基準値

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<関連タイトル>
食品中の放射能 (09-01-04-03)
各種食品中の放射性核種の種類と濃度 (09-01-04-04)
輸入食品中の放射能の濃度限度 (09-01-04-07)
内部被ばく (09-01-05-02)
飲食物摂取制限 (09-03-03-06)
年摂取限度(ALI) (09-04-02-14)

<参考文献>
(1)山県 登:放射能対策の考え方、公衆衛生院研究報告、16巻 3号、p134-139(1967)
(2)岩島 清、大久保 隆:日本における輸入食品の放射能汚染に関する暫定限度、保健物理 Vol.23 、p63-67(1988)
(3)原子力規制委員会:「旧原子力安全委員会」より提供された情報、「平成5年版原子力安全白書、第3節 放射性降下物等の放射能調査」、

(4)原子力安全委員会:原子力施設等の防災対策について、

(5)遠藤 保雄:原発事故と食品安全、農林統計出版、2012年3月15日
(6)消費者庁:食品と放射能 Q&A、

(7)日本保健物理学会:専門家が答える暮らしの放射線 Q&A、
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8699165/radi-info.com/wadai/w-5/
(8)厚生労働省:薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 資料一覧(平成23年4月4日)、
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018iyb.html
(9)厚生労働省:医薬食品局食品安全部、放射能汚染された食品の取り扱いについて(福島原子力発電所事故関連)平成23年3月17日、
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018iyb-att/2r98520000018k1z.pdf
(10)厚生労働省:薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 放射性物質対策部会報告書、食品中の放射性物質に係る規格基準の設定について(資料第121-2-2号)平成23年12月22日、

(11)厚生労働省:薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会及び薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会放射性物質対策部会合同会議 資料一覧(平成24年2月24日)、
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000023pe7.html
(12)厚生労働省:医薬食品局食品安全部、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令別表の二の(一)の(1)の規定に基づき厚生労働大臣が定める放射性物質を定める件及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について(食安発0315第1号)平成24年3月15日、
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/tuuchi_120316.pdf
(13)厚生労働省:医薬食品局食品安全部基準審査課、食品中の放射性物質の新たな基準値について、http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kse/sho/ris/shiryou2.pdf
(14)文部科学省:食品中の放射性物質への対応(資料2-2-1)2012年3月、
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/018/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2012/03/23/1318881_5.pdf
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