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<概要>
 食品中の放射能は、食品の原料である動植物が成長の過程でからだの中に取り込んだ自然放射性物質や人工放射性物質が起源である。食品中の主要な自然放射性核種は、天然カリウム中の40Kであり、すべての食品に多少とも含まれている。ウラン系列トリウム系列核種の土壌中含有量が高い地域で生産された食品では、これらの核種の食品中濃度も高くなっている。人工放射性核種の例としては、大気中核爆発実験に由来する90Srおよび137Csがある。日本人の日常食中のこれらの核種の量は、1960年代以降年々減少する傾向にあったが、1986年のチェルノブイル原子力発電所事故のために一時的に増加した。
<更新年月>
2004年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.食品中の放射能の起源
 食品中の放射能、つまり食品中に含まれる放射性物質は、食品の原料や素材である動物や植物に含まれる放射性物質が起源である。放射性物質には、自然放射性核種と人工放射性核種があり、自然放射性核種には地球起源のもの(40K、87Rb、ウラン系列・トリウム系列の核種)と宇宙線と大気中の元素が反応して生成されるもの(3Hや14C、7Be)が、人工放射性核種には主に原子力発電に伴い発生する放射性核種と核実験により生じた放射性核種(90Sr、137Cs)がある。動植物は成長に必要なさまざまな元素を生育環境中からからだの中に取り込む。取り込まれる元素の中には、水素、炭素、カリウムなどのように放射性同位体をもつものがあり、これらを区別されることなく取り込まれるので、動植物のからだには、わずかではあるが放射性物質が存在する。たとえば、3Hや14Cは、自然界の水や大気のどこにでも存在する放射性同位体である。3Hは水とともに根を通して吸収され、14Cは光合成の過程で二酸化炭素の形で空気中から取り込まれて、植物中に入る。また、植物にとって必須元素のひとつであるカリウムが取り込まれるときには天然の放射性同位体である40Kも一緒に植物に移行する。
 一方、必須元素ではないが、土や岩石の中などに含まれている放射性物質が土壌中の雨水や地下水などに溶け、根を通して吸収されたり、空気中の塵の中の放射性物質が葉の表面に付着した後、植物のからだに吸収されることもある。このような経路で植物が取り込む放射性物質には、自然放射性核種と人工放射性核種がある。自然放射性核種には7Be、ウラン系列・トリウム系列の核種(238U、232Th、226Ra、228Ra、210Pb、210Poなど)や87Rbがあり、人工放射性核種には、過去の大気中核爆発実験で生成され、環境中に残留している90Sr、137Cs、プルトニウムなどがある。これらは植物から検出されている。原子力施設からの放射性気体・液体廃棄物中の放射性物質も植物に取り込まれる可能性がある。
 これら植物中の放射能は、その植物が陸上の動物(たとえば家畜)によって餌として摂取されることにより動物のからだに移行する。また、動物が他の動物を食べたり、水を飲んだり、呼吸したりすることによっても体内に放射能が移行する。
 上に述べた放射性核種は水中にも存在するが、水棲動物(魚類、甲殻類、軟体類など)の放射性物質の取り込みは、放射性物質を含む餌(プランクトン、海藻など)の摂取、水中の放射性物質のえら、体表、消化管からの吸収などにより行われる。
2.食品の製造・加工・調理と放射能のレベル
 動植物を材料として製造・加工された食品を人間が摂取することによって、動植物中の放射性物質が人間の体内に取り込まれ、内部被ばくの原因となる。動植物中の放射能は、食品として製造・加工される過程や調理の過程で、水洗い、皮むき、煮炊きによる溶出などのためにいくらか失われる。したがって、放射能の濃度は、原材料である動植物中、生の(調理前の)食品中と摂取されるときの食品中のそれぞれで、異なったレベルになるのが普通である。例えば137Csは水に溶けやすいため、乾物を水で戻す、灰汁を抜く、茹でる、煮る等の調理の過程で大部分が食品から抜けてしまう。また、乾燥すると水分が抜けた分、軽くなるため、単位重量あたりの放射能が高くなる。輸入制限にひっかかる食品で乾物が多いのはそのためである。放射性物質の中には、動植物の特定の部位だけに取り込まれるものがあることも知られている。例えば、海洋生物が210Pbを取り込むとき、この核種は筋肉よりも内臓に多く集まる。したがって、この場合、海洋生物の、どの部位を食品として摂取するかによって、人間のからだに入り込む210Pbの量が異なってくる可能性がある。
3.食品中の放射能の例
 食品中の主要な自然放射性核種は、天然カリウム中の40Kであり、すべての食品に多少とも含まれている。その放射能濃度表1に示す。40K以外の主な自然放射性核種について、世界規模で見た場合の標準的な濃度レベルを表2に、また、濃度が高い食品の例とその生産地を表3に示す。
 表3は、世界規模での調査結果として報告されているもので、表2の標準的な濃度レベルを数桁上回っているものがある。これらの食品の生産地は、ブラジルのミナス・ジェラスの火山地帯、インドのケララ州の鉱砂地帯および中国広東の花崗岩地帯で、いずれも土壌中のウランやトリウムの含有量が高い地域として知られている。スウェーデンの北極圏では、大気中から沈着した210Pbと210Poが地衣類に高濃度に蓄積され、それを餌にするトナカイやカリブーの肉の放射能レベルが高くなっている。
 食品中の人工放射性核種の例として、日本の日常食1人1日分の中の90Srおよび137Csの濃度の推移を図1および図2に示す。ここで日常食と呼んでいるのは、1人1日分の朝食、昼食、夕食および間食をすべて集めたもので、試料の採取は、47都道府県の各5世帯について年2回ずつ実施された。これらの核種は大気中核爆発実験に由来するもので、1960年代以降、年々減少する傾向にあったが、1986年のチェルノブイル原子力発電所事故による大気中放出のために1987年に一時的に増加した。
 人工放射性物質の濃度も食品の種類および核種の種類により差がある。わが国で食料に供せられている主な食品中の90Srと137Csの測定例を表4に示す。この表から分かるように、90Srは野菜で高く、魚や肉で低い傾向ある。137Csについてはキノコで特に高い値が見られる。キノコは植物に比べセシウムを濃縮する性質があるため137Csの濃度も高くなると考えられている。種々のキノコ中の137Csの平均的な値とそれらを食べることによる137Csの年間摂取量を表5に示す。我々がキノコを食べる量は米や野菜に比べそれほど多くないので、安全面から見て通常は問題にならないレベルである。このように食品からの放射性核種の摂取量を推定する時は食品中の濃度だけではなく一日の摂取量を考慮する必要がある。キノコ以外で137Csの含有量が高いことが知られている食品にトナカイの肉がある。これは、トナカイの餌になる地衣類中に137Csが蓄積されているためである。
<図/表>
表1 食品中のカリウム40のおおよその放射能
表1  食品中のカリウム40のおおよその放射能
表2 主な自然放射性核種の標準的な濃度
表2  主な自然放射性核種の標準的な濃度
表3 自然放射性核種の濃度が高い食品の例
表3  自然放射性核種の濃度が高い食品の例
表4 主な食品中のセシウム137とストロンチウム90
表4  主な食品中のセシウム137とストロンチウム90
表5 キノコ中のセシウム137の平均的濃度とキノコを通したセシウム137の年間摂取量
表5  キノコ中のセシウム137の平均的濃度とキノコを通したセシウム137の年間摂取量
図1 日本の日常食中の
図1  日本の日常食中の
図2 日本の日常食中の
図2  日本の日常食中の

<関連タイトル>
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
人工放射線(能) (09-01-01-03)
放射能の牛乳への移行 (09-01-03-04)
各種食品中の放射性核種の種類と濃度 (09-01-04-04)
日常の食生活を通じて摂取される放射性核種の量 (09-01-04-05)
調理・加工による放射性核種の濃度の変化 (09-01-04-06)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会(編):生活環境放射線データに関する研究、原子力安全研究協会、p.63-66(1983年8月)
(2)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、実業公報社、p.74-75(1995年10月)
(3)日本分析センター:日本における環境放射能レベルの推移、JCAC M-9101、日本分析センター、p.13(1991年9月)
(4)渡利 一夫、稲葉 次郎、今井 靖子、村松 康行、西村 義一、明石 真言:放射能と人体、研成社(1999)
(5)村松 康行、吉田 聡:キノコと放射性セシウムRadioisotopes,46,p.450-463(1997)
(6)Ban-nai,and Yoshida,S. : Concentrations of 137Cs and 40K in edible mushrooms collected in Japan and radiation dose due to their consumption Health Physics,72,384-389. 1997.
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