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<概要>
 欧州における原子力防災のための計算機システムの代表的な例として、フランスの原子力安全防護研究所にある緊急時技術センターで開発している炉内事故進展予測プログラム、環境放射線影響予測プログラム等を包含する緊急時対応システムと、ドイツが開発整備している環境放射能測定ネットワークシステム、緊急時対応のための意思決定支援システム、及びチェルノブイル原子力発電所事故以降に欧州共同体(EC)が整備を進めている環境放射能モニタリングデータバンクが挙げられる。
<更新年月>
2001年03月   

<本文>
1.フランス
 フランス中央政府の緊急時技術センター(CTC)(*1)が、原子力安全防護研究所(IPSN)に設置されている。IPSN(*2)における緊急時対応システムとしては、早期対応のためにソースターム評価と影響予測を行うSESAMEとCONRAD、及び中長期対応のための環境中、食物中の放射性物質移行を分析するASTRALの整備を行っている。このうち、早期対応のためのシステムの概要を以下に述べる。
(1) 事故時ソースターム予測システム(SESAME)
 SESAMEは、事故時の原子力発電所プラント内の熱水力状態及びFP核分裂生成物)の移行挙動を把握しソースタームを予測するためのシステムである。エキスパートシステムの手法と簡易な計算モデルを併用することにより、種々の事故状況への迅速な対応を図っている。主な機能をプログラム別に、LOCA(原子炉冷却材喪失事故)を例にとって示す。
・あらかじめ定められた事故シナリオの中から、炉型、原子炉格納容器スプレイ作動の有無、炉心損傷の状態、原子炉格納容器損傷の状態等によって、該当するものを選択する(REJET−TYPESプログラム)。
・LOCA時の破断箇所と破断口面積を加圧器水位の低下率と臨界流モデルから求めるか、あるいは若干正確さにかけるが原子炉格納容器の内圧上昇または圧力ピークから予測する(BRECHMETREプログラム)。
・炉心露出までの時間的余裕を、破断口面積と破断場所、およびECCS(非常用炉心冷却設備)からの注入流量を与えて、質量とエネルギーバランスの関係から求める(SCHEHERASADEプログラム)。
・原子炉格納容器の内部圧力、温度と燃料損傷の推論結果から原子炉格納容器雰囲気の状況を定めて水素燃焼のリスクを求める(HYDROMELプログラム)。
・漏洩経路を格納容器隔離状況の報告内容、異なるエリアや換気ダクト内の放射線計測データに基づいて見出す(ALIBABAプログラム)。
希ガス、ヨウ素、セシウム、テルルの4種のFP核種の移行を計算する(PERSANNプログラム)。このうちヨウ素については、エアロゾル、分子,有機の3種が取り扱われる。
(2) 事故時環境放射線量予測システム(CONRAD)
 CONRADは環境中の放射性物質の移流拡散を計算し実効線量を求めるプログラムである。FP放出の初期の段階でわずかな情報しか得られない場合には、予め計算した結果(ソースタームとして単位放出量を用いる)を用いた表示を、また、より詳細な情報が得られる場合には、ガウス分布のパフモデルを用いた計算を行うなどモデルを使い分けることにしている。
2.ドイツ
 ドイツでは緊急時体制を支援する計算機利用システムとして、IMIS(Integrated Measurement and Information System for the Surveillance of the Environmental Radioactivity)、及びRODOS(An Integrated and Comprehensive Real Time Online Decision Support System)の開発、整備が行われている。これらのシステムの概要を以下に述べる。
(1) 環境放射能測定システム(IMIS)
 IMISはチェルノブイル発電所事故を契機に1986年12月に発令された「放射線被ばくに対する住民の予防措置令」を受けて開発されたものであり、ドイツ全土にわたり放射線監視を行うことにより放射線事故時対応のための基礎データを提供するものである。環境資源局安全保護省(BMU)の管理下に置かれており、その観測網は気象庁、環境局、民間防衛局、水文学研究所、水路学研究所等の連邦機関と、州の機関から構成されている。γ線量率、及び地表面沈着、大気、降水、河川、海の表水等の放射能測定は連邦のネットワークにより、またこれ以外の土壌、植物、食物、飲料水、肥料等の放射能測定は州のネットワークにより行われている。これらのネットワークから得られた観測データは、オンラインで環境放射能調査のための連邦の中央機関と連邦保健局の放射能衛生研究所の双方に集められ、それぞれ目的に応じたデータ処理が行われる。運転モードは、通常運転と集中運転に大別されており、測定データが一定値を超えると自動的に警報が発せられ、専門家の判断の後、通常運転から集中運転への切り換えが行われる。このときデータの送信頻度が1日1回から2時間に1回となる。IMISで収集したデータを基に放射線影響評価のための計算プログラムPARKが開発されており、IMISと結合される。
(2) 緊急時意思決定支援オンラインシステム(RODOS)
 RODOSは、原子力発電所サイト周辺から欧州全土へ及ぶ範囲を対象とする、オフサイト緊急時対応のためのリアルタイム、オンラインの意思決定支援システムであり、4レベルの情報処理を行う機能を持っている。
 レベル0は、放射線データの収集、チェックを行うとともに、これらを地図、人口情報と一緒に表示する。レベル1は、放射能分布状況の分析と予測を行う。すなわち、防護対策が実施されない場合の被ばく線量の時空間分布を、ソースターム情報、モニタリングデータ、気象データと移流拡散モデルを用いて求める。レベル2では、考えられる防護対策のシミュレーションを行う。例えば、屋内退避、避難、ヨウ素剤投与、移住、除染、食物摂取制限等について実行可能性の評価を行い、可能なものについて利益及び不利益の定量化を行う。レベル3では、代替防護活動の評価とランク付けを行う。この際、意思決定者の選定による社会的優先度を考慮に入れて、費用、回避線量、ストレス低減、社会的受容性、政治的受容性等の利益、不利益のバランスをとりながら評価とランク付けを行う。
3.欧州共同体(EC)
 ECではチェルノブイリ原子力発電所事故以降に欧州各地で行われた環境放射能(大気、沈着、食物等)の測定値をデータバンク化することにより、放射性物質の環境中移流拡散の研究と計算モデルの検証等に役立てることを目的として、環境放射能モニタリングデータバンクREM(Radioactive Environmental Monitoring)を開発している。

<注記>
(*1) 緊急時技術センター(CTC:Centre Technique de Crise)
(*2) 原子力安全防護研究所(IPSN:Institut de Protection et de Surete Nucleaires)
<関連タイトル>
フランス、ドイツ、スウェーデンにおける原子力防災対策 (10-06-02-02)
米国における防災のための計算機システム (10-06-03-01)
日本における防災のための計算機システム (10-06-03-03)

<参考文献>
(1) Wershofwen H.et al.:Monitering of low−level radioactivity in ground−levelair−γ spectrometric measurements within IMIS,Kerntechnik,65(4),172−175(2000)
(2) Benz G.et al.:The real time on−line decision support system RODOS for off−site emergency management,Kerntechnik,59(4/5),215−219(1994)
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