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<概要>
 米国の原子力規制委員会(NRC)は、原子力防災に関連する防災計算機システムとして、原子力発電所からの事故に関する情報を収集し記録する緊急時対応情報収集システム ERDS原子炉プラント内の事故状況の把握を行うための原子炉安全評価システム RSAS、および被ばく線量評価を行うための影響分析用放射線学的評価システムRASCALを開発している。連邦緊急事態管理庁(FEMA)は総合緊急時情報管理システム IEMISを、米国エネルギー省DOE)は緊急時環境放射能予測システム ARACを、また米国電力研究所(EPRI)は緊急時原子炉操作レベルモニターシステムREALMを開発している。
<更新年月>
2001年03月   

<本文>
 米国では、原子力防災対策の整備の一環として、種々の計算機システムの開発・整備が行われている。米国の原子力規制委員会(NRC)は、原子力発電所からの事故に関する情報を収集し記録する緊急時対応情報収集システムERDSを、原子炉プラント内の事故状況の把握を行うための原子炉安全評価システムRSASを、および被ばく線量評価を行うための影響分析用放射線学的評価システムRASCALを開発している。連邦緊急時管理庁(FEMA)は総合緊急時情報管理システムIEMISを、米国エネルギー省(DOE)は緊急時環境放射能予測システムARACを、また電力研究所(EPRI)は緊急時原子炉操作レベルモニターシステムREALMを開発している。
1.緊急時対応情報収集システムERDS
 ERDS(Emergency Response Data System)は、NRCが原子力発電所の緊急事態発生時に必要とする情報のうち、原子炉主要プラントパラメータ、安全上重要な工学的安全設備の作動状況、放射性物質の放出、および気象条件に関する情報( 表1 参照)を、原子力発電所からリアルタイム・オンラインで収集する計算機システムである。
 1979年3月に起きたTMI−2原子力発電所事故の教訓からERDSの開発が進められ、メリーランド州にある緊急時対応センター(EOC:Emergency Operations Center)内に設置されている。緊急事態発生時には、原子力発電所からの第1報は、原子炉プラント状態が警戒体制(Alert)に達した時点でEOCへ伝達され、EOC内等からNRC地方事務所へ伝達される。
2.原子炉安全評価システムRSAS
 RSAS(Reactor Safety Assessment System)は、最近の計算機利用技術の一つであるエキスパートシステムの手法を用いて、事故時の原子炉状態を推論するシステムである。NRCの担当者が事故時の原子炉プラントの安全状態を監視するためのもので、原子炉の安全状態の維持または回復に必要な手順が確保できる目標ツリー・成功ツリー手法で評価する。アイダホ国立工学研究所(INEEL)が実質的な開発をした。緊急時対応センター(EOC)内に設置され、原子炉プラント内の事故状況の把握と今後の推移予測のために利用される。
3.影響分析用放射線学的評価システムRASCAL
 RASCAL(Radiologic Assessment System for Consequence Analysis)は、放射性物質が環境へ放出された場合に放射線被ばく線量を評価するための計算コードシステムである。放射性物質の大気中移行拡散計算にはラグランジアンパフモデルとガウスプルームモデルを用いている。NRCの担当者が放射線緊急時対応のため利用するもので、緊急時対応センター(EOC)に設置され放射線被ばく線量の評価に用いられる。
4.総合緊急時情報管理システムIEMIS
 IEMIS(Integrated Emergency Management Information System)は、緊急時計画、訓練および実際の緊急時対策に利用することを目的とした、連邦緊急時管理庁(FEMA)の総合緊急時情報管理システムである。IEMISでは、全国地図情報システム( 図1 参照)、放射性物質拡散、被ばく線量評価、避難シミュレーション、ならびに緊急時計画と訓練の状況に関する情報のデータベース機能を持っている。
5.緊急時環境放射能予測システムARAC
 ARAC(Atmospheric Release Advisory Capability)は、大気中の放射性物質の移流・拡散・沈着の解析等の機能を持つシステムである。計算モデルとしては、サイト周辺200km程度までの詳細計算を目的とした拡散解析モデルによる気流計算コードMATHEWと、PIC法を用いた数値解拡散計算コードADPIC等を準備しており、世界規模の予測も可能である。
6.緊急時原子炉操作レベルモニターシステムREALM
 REALM(Reactor Emergency Action Level Monitor)はエキスパートシステムの手法を用いて、事故時プラント状態の把握とその状態に対応して要求される緊急時対応レベル(EAL:Emergency Action Level)の判定を行うためのシステムであり、緊急時に緊急操作レベルを正確に決定するため原子炉運転員を支援する。電力研究所(EPRI:Electric Power Research Institute)が開発した。
<図/表>
表1 ERDSで対象とするデータ項目
表1  ERDSで対象とするデータ項目
図1 IEMISの地図情報システムの出力例
図1  IEMISの地図情報システムの出力例

<関連タイトル>
原子力防災対策が発動された過去の事例 (10-06-01-03)
米国における原子力防災対策 (10-06-02-01)
欧州における防災のための計算機システム (10-06-03-02)
日本における防災のための計算機システム (10-06-03-03)

<参考文献>
(1) 森内 茂、茅野 政道:日本原子力学会誌, Vol.29, No.4, 279(1987).
(2) 石神 努、堀上 邦彦、小林 健介:日本原子力学会誌, Vol.32, No.4, 328(1990)
(3) L.E.Gordon−Hagerty : United States Department of Energy Radiological
Emergency Response Programme−A National Capability, Proc. of a Workshop on
Decision Making Support for Off−Site Emergency Management, 153(1992)
(4) Sebo D.et al.:RSAS−a reactor safety system,EGG−M−88463(1989)
(5) Sjoreen A.L.et al.:The radiological assessment system for consequence analysis−RASCAL,CONF−96415−30(1996),p7
(6) Sullivan J.J.et al.:A computerized radiological emergency response and assessment system,UCRL−92509(1985)
(7) Jaske R.T.et al.:FEMA’s integrated emergency management information system(IEMIS),CONF−860932(1987),175−180
(8) Toravato S.A.et al.:Implementation of on−line expert system in nuclear power plant −Reactor emergency action level monitor,ASME DSC(1999),p1−7
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