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<概要>
 フランスでは、フランス電力公社(EdF)が原子力発電所を保有・運営しているので、情報の収集が容易であり、原子力防災対策も国が大きな役割を果たしている。ドイツでは、ボンに原子力緊急時体制の本庁があるものの、緊急時対応は州の責任者に委任することを第一義としており、地方分権的性格を強く有している。スウェーデンでは、この両者の中間的性格を有していて、原子力緊急時には国立放射線防護研究所(SSI)に本部が設置され、国と地方自治体の協力で原子力防災対策に取り組む体制を取っている。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
1.フランス
1.1 原子力緊急時体制
 原子力施設が設置されている県の知事は、原子力施設の緊急時において住民の防護対策について責任を有し、オフサイト緊急時計画(PPI)を作成する。知事は必要な場合、PPIを発動し、屋内退避、ヨウ素剤服用、避難等の措置を講じる。PPIの対象範囲は原子力発電所の場合で半径10kmである。
 国は環境省、産業省および厚生省の3省が共同管轄する原子力安全・放射線防護総局(DGSNR)と内務省の市民安全・防衛局(DDSC)が中央レベルで、また、3省の合同地方局(DRIRE)の原子力安全・放射線防護本部(DSNR)が地方レベルで知事を支援し、国防総局(SGDN)が事務局を努める原子力・放射線緊急時省間委員会(CICNR)が関係省間の調整を行う。DGSNRは放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の技術的支援を受ける。
 緊急事態発生時、中央レベルではパリにあるDGSNRの緊急時対応センター内に対策本部(PCD)が、また、フォントネ・オー・ローズにあるIRSNの緊急時技術対応センター(CTC)内に事故の影響を予測する解析チームが設けられる。地方レベルでは県と原子力施設のサイトに、DSNRを中心とするチームが派遣され、知事と事業者への支援を行う(図1)。
 なお、DGSNRとDSNRを合わせて原子力安全当局(ASN)と称していたが、2006年6月の「原子力分野における透明性と安全に関する法律」制定により、旧DGSNRを本部組織、旧DSNRを地方組織とする独立した行政機関としてのASN(原子力安全庁)となっている(図2)。以下の説明では、便宜上、旧組織名を用いる。
1.2 緊急時通報
 原子力施設を運用する事業者はオンサイト緊急時計画(PUI)の策定を義務付けられており、事故発生時は所定の基準に基づきPUIを発動し、事故への対応と当局への迅速な通報を行う。フランス電力(EDF)の場合、パリと現地に緊急時対応本部(PCD)を設け、国および県と緊密な連携を図る。PPIに規定されている場合、現地の管理者が一般市民への警報発令をすることもある。
 国、県、事業者(中央と現地)はそれぞれ一般市民とメディアへ情報の提供を行うが、提供情報に齟齬を来たさないよう緊密な連係を図るようになっている(図3)。
 DGSNRは国際条約や協定の窓口当局として、IAEAおよびEUとの連絡に当たる。また、DGSNRはその緊急時対応センターに、事業者からの通報がASN内だけでなく、市民安全防衛局、気象庁等の緊急時対応関係者へ直接に連絡されるシステムを備えている。
1.3 緊急時訓練
 国レベルの訓練は毎年8〜10か所の原子力施設サイトで開催されており、各サイトでは平均的に3年毎に実施されている。訓練計画はASNとSGDNによって作成され、対象の原子力施設が所在する県の知事へ送付される。訓練には「原子力安全訓練」と「住民保護訓練」があり、前者は住民参加を伴わない決定プロセス訓練で、後者は住民参加でオフサイト緊急時対策(警報、屋内退避、避難)を実際かつ大規模に実施する。これらの訓練の他、県では独自の地方レベルの訓練を適宜実施している。また、国内訓練の他、国境近くのサイトでは、ベルギー、スイス、ルクセンブルグ等の隣国と連携して訓練が実施もしくは検討されている。
 訓練評価の重要性に鑑み、訓練後に国は総合評価会議を開催し評価結果を取りまとめると共に、改善点の抽出を行っている。これを受けて、DGSNRは具体的な改善を図るため関係機関の協力で作業グループによる検討を進め、訓練のマンネリ化を防止するための訓練シナリオの多様化、住民防護の実効性を高めるためのPPIの改正、安定ヨウ素剤服用の確実化を図るためのPPI範囲での事前配布とPPI範囲外での備蓄の促進、事後対策の進め方に関する具体的検討等を実施している。
1.4 原子力防災に関する法令
 原子力異常事象または事故に対する公的機関による組織的対応は、原子力安全・放射線防護・社会秩序・民間防衛に関する首相命令において規定されており、緊急時計画についての1998年5月の政令で定められた緊急時計画でも規定されている。
2.ドイツ
2.1 原子力緊急時体制
 ドイツの緊急時対応には、介入レベル表1)以下の広範な汚染対応が中心の予防的放射線防護と、原子力施設周辺の災害対策があり、前者は主に連邦政府の責任で、主に農業対策が講じられ、後者は州政府と地域もしくは地方行政当局の責任で対応され、住民防護のための対策を講じられる。災害対策における連邦政府の役割は支援と調整であり、主に環境・自然保護・原子力安全省(BMU)によって行われる。
 州政府は原子力施設周辺(半径25km)を対象とする緊急時計画を策定し、基本的に半径10kmの地域ではモニタリング実施と住民防護対策措置を講じ、また、それ以遠ではモニタリングを実施する準備を行う。緊急時対応は州政府内の災害対策、原子力施設監督、放射線防護などに関係する当局が連携して実施される。州によっては、災害対策本部(タスクフォース)が設けられる。
 BMUは、原子炉安全委員会(RSK)、放射線防護委員会(SSK)、連邦放射線防護室(BfS)等の下部機関を活用して、州政府に対し予防的放射線防護措置と災害対策措置について勧告・意見具申するとともに、予防的放射線防護について支援する。また、BMUは連邦政府内での連絡、情報および調整の拠点としての役割を果たす(図4)。
2.2 緊急時通報
 原子力事業者は事故が発生した場合、運転マニュアルに定められている通報基準に基づいて州当局へ通報する。災害対策が必要かどうかの判断に関連する放出に関する基準の他、事故の通報が迅速に行われるように施設の状況に関する通報基準が設けられている。原子力事業者と州当局は住民へ事故通報もしくは災害警報を発する。その際、事象の比較評価を可能とする国際原子力事象評価尺度(INES)が使用される。
 一般公衆への情報提供と国内外諸機関への連絡は州政府から連絡を受けたBMUが行う。ドイツは迅速情報交換に関するEC協定とIAEAとの協定を締結するとともに、近隣9か国と緊急時における連絡と援助に関する協定を締結している。
2.3 緊急時訓練
 州および地域行政当局は数年毎に原子力発電所に係る大規模な緊急時訓練を行っている。訓練には様々な組織・機関が参加し、事業者も訓練に参加するが、住民の積極的参加は極めて少ない。訓練シナリオは、発電所の特定の事故に関連しない、放射能の放出を想定するもので、当局によって作成される。国境付近の発電所の場合、隣国の代表者も参加する。
 また、ECの定期防災訓練(ECURIE)とOECD/NEAの演習(INEX)へは、BMUが参加し、状況によっては、支援機関、連邦省庁、関連の州当局も参加する。
2.4 原子力防災に関する法令
 ドイツ憲法は、平時における災害対策の権限は州にあると定め、州の法律が州当局の災害対策の責務について定めている。予防放射線防護法は、放射性物質の異常放出時の責任について規定し、モニタリング、飲食物等の摂取制限などについて規則を定めている。
 BMUの策定した「原子力施設の環境における緊急事態準備のための基本勧告」は、原子力事業者の義務、州が策定する緊急時計画の内容、警報の説明、介入レベル、安定ヨウ素剤配布、緊急時センターの設置運営等について記述している。同じく「放射性核種の事故放出に対する住民防護についての決定のための放射線基盤」は、被ばく経路、放射線の健康影響、住民防護対策の意味等について記述している。
3.スウェーデン
3.1 原子力緊急時体制
 原子力施設からの放射線放出時に公衆を防護する必要があるか、そのような放出が起こりそうな場合の救護活動は郡の行政組織が行い、原子力発電所がある郡の行政庁が担当する。原子力施設検査局(SKI)と国立放射線防護研究所(SSI)がこれを支援する。
 郡の行政庁は国の救護庁(SRSA)の指導を受けて緊急時計画を作成し、原子力施設からの通報により所要の活動を行う。緊急組織には警察、消防、医療関係者、沿岸警備隊、所在町当局等が含まれる。
 SKIは原子力施設からの通報を受け、これを指導するとともに、郡当局に対して施設の状況について助言し、SSIは原子力施設からの通報により放射線影響と防護活動について助言するとともに、郡のモニタリング活動を支援し、調整する。気象研究所(SMHI)はSKIの放出情報に基づき、放射能影響予測を行う。
 SSIには国の緊急組織が設けられ、関係機関(SKI、救護庁、食糧庁、農業委員会、保健福祉員会、気象研究所など)が参加する。国の緊急管理庁(SEMA)は、国レベルの緊急時計画を調整する。
3.2 緊急時通報
 原子力施設から関係機関への緊急時通報基準としては次の2つがある。
1)警報:原子炉の安全性に影響を与える可能性のある異常があったが、放射性物質の放出がないか、その可能性がない場合。
2)一般緊急:オフサイトで防護対策が必要な異常(放射性物質の放出があるか、その可能性がある)が発生した場合。
 全国37か所のガンマステーションでの異常検知は24時間体制でSSIに通報される。SMHIは外国からの事故通報の連絡窓口であり、情報をSSIやSKIへ中継する(図5)。スウェーデンは、IAEAの早期通報援助条約を批准するとともに、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、ドイツ、ロシア等と早期通報情報交換協定を締結している。
3.3 緊急時訓練
 スウェーデンにある4か所の原子力発電所では毎年持ち回りで、地方と国の関係機関が参加する総合防災訓練を行っている。総合訓練は郡当局によって計画され、SRSAによって評価される。SKIとSSIは計画と評価にも参画する。この他、各発電所では毎年、小規模な防災訓練が行われており、関係外部機関も対応する。
 また、フィンランドやデンマークに近い発電所では、これらの国も訓練に参加する。
3.4 原子力防災に関する法令
 2003年に制定された「事故防護法」は、危険な活動を伴う施設の所要者もしくは運用者によって措置されるべき予防策と緊急準備を要求している。同法の施行令では通報、広報、公衆防護対策の計画と実施に対する郡の責任、防護管理者の能力要件、大規模原子力施設周辺でのモニタリングゾーン等について詳細に規定している。
 SKIの一般安全規則(1998年)では、原子力施設によるオンサイト緊急時計画の作成、要員の確保、対応センターの設置、設備機器の整備等を規定している。同規則の2004年改正では、放射性物質放出リスクとソースタームの評価が追加されている。
 SSIは、IAEAの原子力緊急時への対応に関する安全基準GS−R−2に基づく緊急時の放射線防護についての規則を2005年に規定している。
 救護活動法は、救護の組織および運用について規定している。原子力活動法は、災害対策本部長およびその権限について、また、原子力施設所有者の責務についても規定している。
 救護活動条例は、郡の行政組織が放射線医学上の緊急時計画を作成することを規定している。この条例はSRSA救護活動の監督および調整に責任があることを規定している。原子力発電所における必要な対策を決定するのはSKIおよびSSIである。また労働者安全・健康法は、作業環境への条件および事故からの防護を規定している。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 ドイツにおける住民防護のための介入レベル
表1  ドイツにおける住民防護のための介入レベル
図1 フランスの原子力緊急時組織
図1  フランスの原子力緊急時組織
図2 フランス原子力安全庁(2006年6月発足)の組織
図2  フランス原子力安全庁(2006年6月発足)の組織
図3 フランスにおける原子力緊急時の組織間連絡体制
図3  フランスにおける原子力緊急時の組織間連絡体制
図4 ドイツの原子力緊急時体制
図4  ドイツの原子力緊急時体制
図5 スウェーデンの原子力緊急時体制
図5  スウェーデンの原子力緊急時体制

<関連タイトル>
英国における原子力防災対策 (10-06-02-05)
欧州における防災のための計算機システム (10-06-03-02)
フランスの原子力安全規制体制 (14-05-02-04)
ドイツの原子力安全規制体制 (14-05-03-05)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:原子力災害への対応に関する動向等の調査(内閣府受託報告書)(平成17年3月)
(2)“3rd French national report on implementation of the obligations of the Convention on nuclear safety”issued for the 2005 Peer review meeting(July 2004)
(3)フランス原子力安全庁(ASN)公式ウェブページ(2007年8月):http://www.asn.fr/
(4)“ENVIRONMENTAL POLICY Convention on Nuclear Safety ”,Report by the Government of the federal Republic of Germany for the Third Review Meeting in April 2005
(5)ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省(BMU)公式ウェブページ(2007年8月):http://www.bmu.de/
(6)“SWEDEN’S THIRD NATIONAL REPORT UNDER THE Convention on Nuclear Safety”,Ds 2004:44
(7)スウェーデン救護庁(SRSA)公式ウェブページ(2007年8月):http://www.srv.se
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