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<概要>
 原子力災害特別措置法に基づき、原子力災害が発生した場合に備えて全国21か所にオフサイトセンター緊急事態応急対策拠点施設)が整備されている。これらオフサイトセンターによる原子力防災活動の技術的支援を行う活動拠点として、原子力緊急時支援・研修センターが、茨城県ひたちなか市と福井県敦賀市に建設された。これらの施設の役目と概要を示す。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されているオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)の設置基準や内外との指揮連絡系統等については、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原子力規制委員会によって見直しが行われる予定である。
<更新年月>
2011年07月   

<本文>
1.設立の背景、目的、位置付け
 1999年9月に起きたJCO臨界事故は種々の教訓を残した。原子力災害特別措置法(原災法)が策定・施行され、また災害対策基本法も改訂された。核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)及び日本原子力研究所(原研)は、改訂された災害対策基本法(防災基本計画原子力災害対策編)によって原子力関係の指定公共機関となった。サイクル機構と原研は2005年10月に統合して日本原子力開発機構となり、以降は日本原子力開発機構が指定公共機関の役割を継承した。原子力災害発生時には、日本原子力研究開発機構は、国、自治体からの支援要請に応えなければならない。
 原災法に基づき、原子力発電所等の原子力施設を有する21の道府県に、国の機関としてオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)が整備されている。災害対策基本法第2条第5号の規定に基づき内閣総理大臣が指定する指定公共機関と位置づけられている日本原子力研究開発機構は、オフサイトセンターによる原子力防災活動の技術的支援を行う活動拠点として、「原子力緊急時支援・研修センター」(以下「支援・研修センター」という)を、東日本担当として茨城県ひたちなか市に、西日本担当として福井県敦賀市に建設した(図1参照)。
 国には、原子力緊急事態に備えて経済産業省の原子力安全・保安院に「緊急時対応センター」が、地震・風水害等による自然災害、原子力災害等に備えて文部科学省に「文部科学省非常災害対策センター」が設置されている。原子力災害時には、首相官邸に首相を本部長とする原子力災害対策本部が設けられる。支援・研修センターと原子力防災組織・関係機関とのつながりを図2に示す。(注:原子力安全・保安院は2012年9月18日に廃止され、原子力規制委員会の事務局として2012年9月19日に発足した原子力規制庁がその役割を継承している。)
 支援・研修センターは、災害情報を多方面から効率的に素早く収集し、事故の情況の把握、事故進展の予測、放射線影響などの解析・評価を行い、原子力防災の具体的拠点となるオフサイトセンターや事業者に対して、助言や情報提供など技術的支援を行う。国及び自治体の要請を受け、専門家を現地に派遣し、オフサイトセンターの防災活動や自治体が実施する環境モニタリングなどを支援する。また、防災活動に必要な特殊な資機材を提供する。
2.原子力緊急時支援・研修センターの概要
2.1 平常時の活動と組織
(1)原子力緊急時対応者の育成
 オフサイトセンターやこれと連携する国、道府県、警察、消防、事業者などの防災対応組織において活動の中核となる人材育成を目的として、研修や訓練が行われている。主な研修項目は放射能と放射線、原子力防災のしくみ、原子力緊急時の防護対策、原子力緊急時の活動等である。
(2)情報収集とデータベース構築・運営
 オフサイトセンターにおける防災活動を支援するための情報を収集する。これらの情報を利用した支援が可能となるようにデータベースを構築する。
(3)原子力防災訓練への参加
 国、地方自治体及び事業者による原子力防災訓練について企画立案、訓練の運営などに参加する。具体的には、特殊車両を使用した作業訓練、防災資材・機材の提供、専門家の現地派遣などである。
2.2 緊急時の活動と組織
(1)緊急時の体制
 支援・研修センター長の下に、2つの班と緊急時に召集する指名専門家グループからなる体制が組まれ、福井支所と一体となって支援活動をする。運営班は、施設管理、出入管理、施設内環境整備、食料等物資の調達などを行なう。総括班は、グループ間の連絡・調整、事故時情報の収集、専門家の召集、オフサイトセンター・国・自治体等との連絡・調整、システム運営、システム操作などを行う。指名専門家グループは、放射線防護、臨界・放射線遮蔽の評価、環境への影響評価、プラント評価、輸送事故の対応などを行う。
(2)緊急時の活動(図3参照)
 支援・研修センターはオフサイトセンターに対し、原子力災害時の技術的支援活動を実施する。緊急時には、オフサイトセンターに設けられる原子力災害合同対策協議会に対して、技術的助言、情報の提供等を行う。また、防災作業を効果的に進めるため、専門家の派遣、防災資機材の提供、防災要員の派遣、緊急時モニタリングへの支援などを行う。また、特殊資機材を用いて、救護所等における住民の身体汚染測定(体表面測定車、全身カウンタ車)、移動式現場指揮車の現地派遣、モニタリング車の現地派遣などを行う。
3.主な設備
3.1 情報通信ネットワーク(図4参照)
 原子力防災関係者間で情報を共有し、また、連絡手段を確保するため、国、自治体、オフサイトセンター、及び支援・研修センターを結ぶ専用回線による通信ネットワークを構築している。危機管理の視点から、地上の通信系にトラブルが発生した場合を考え、衛星系の通信網でカバーされている。また、情報公開のためのWebサーバーを備えている。
3.2 情報データベースシステム(図5参照)
 情報データベースでは、GIS地理情報システム)を用いて原子力施設周辺の空間放射線量などの環境情報をコンピュータ画面に表示する。また、あらかじめ全国の原子力施設の技術的情報(建家配置図面、系統説明図など)及び事故・トラブル関連情報、地域防災の計画・地域地図などの情報もコンピュータ内に管理しておき、必要なときに迅速に検索する。
3.3 防災活動支援システム
 支援可視化情報データベースでは、原子力施設周辺の道路、建物などの情報を視覚的に表すことができ、人口分布に係る情報を得ることができる。環境拡散評価システムでは、原子力施設における事故時に環境へ放散された放射性物質の広がり分布、あるいは核燃料物質等の輸送中事故時に環境へ放散された放射性物質の広がり分布を解析・評価する。平常時には原子力防災訓練などに利用される。
 防災情報共有システムは、複数の情報源から得られる事故の進展状況を時系列に整理して、防災関係者が閲覧できるようにする機能や、事故対応策検討のための過去の情報の保存などの機能を持っている。緊急招集システムは、緊急時に支援・研修センター当直員が専門家を招集する機能を備えている。
 全国環境放射線モニタリングシステムは、全国の原子力施設周辺の環境モニタリング情報を継続的に監視している。なお、モニタリング情報は原子力安全技術センターから受信している。テレフォンサービスシステムでは、原子力災害時に一般公衆からの問合わせのうち技術的、専門的なものに対しては、専門家が電話、インターネット等で回答あるいは説明する。報道モニタリングシステムは、放射線安全に係る情報について、混乱につながらないように確認を行っている。
3.4 現地支援資機材
・放射線測定機器類
 中性子用サーベイメータ、電離箱式サーベイメータ、アルファ線用シンチレーションサーベイメータ、及びGM計数管式サーベイメータが準備されている。
遠隔情報収集ロボット
 原子力施設の事故時に、高放射線場にも立ち入って、遠隔操作で情報収集ができるロボットが整備されている。
3.5 特殊車両
 支援・研修センターには、以下に示す体表面放射能測定車、移動式全身カウンター車及び移動式現場指揮車が配置されており、事故発生時や防災訓練時に出動する。
・体表面放射能測定車
 原子力災害が発生し放射線物質が原子力施設外に放散された際、人体、物品などの表面の放射能汚染を測定できるようさまざまな放射線測定装置を搭載した車両である。
・移動式全身カウンター車
 原子力災害が発生し放射性物質が原子力施設外に放散された際、人体内部に摂取された放射性物質を測定する装置(全身カウンター)を搭載した車両である。
・移動式現場指揮車
 原子力災害が発生した場合、的確な防災対策を検討するため現場近くでの情報収集が重要である。移動式現場指揮車は、数人が数日間現場近くに留まって必要な活動ができる設備を有している。
4.サイト
(1)原子力緊急時支援・研修センター(茨城)(図6参照)
 茨城県ひたちなか市西十三奉行に位置し、茨城オフサイトセンターに隣接している。近隣には、日本原子力研究開発機構、日本原子力発電の東海発電所、三菱原子燃料、原子燃料工業などがあり、また、福島県太平洋側には東京電力の福島第一原子力発電所、第二原子力発電所がある。なお、原子力緊急時支援・研修センターの活動内容や研修に関する問い合わせ先は、同センターウェブページ内の「補足説明版」ページの「お知らせ」に掲載されている。
(2)原子力緊急時支援・研修センター(福井支所)(図7参照)
 敦賀市縄間の山間部に位置し、近隣には、関西電力の大飯原子力発電所、美浜原子力発電所、高浜原子力発電所、日本原子力発電の敦賀発電所、日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉もんじゅなどがある。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
図1 オフサイトセンターと原子力緊急時支援・研修センターのサイト場所
図1  オフサイトセンターと原子力緊急時支援・研修センターのサイト場所
図2 支援・研修センターと原子力防災組織・関係機関とのつながり
図2  支援・研修センターと原子力防災組織・関係機関とのつながり
図3 緊急時の活動
図3  緊急時の活動
図4 情報通信ネットワーク
図4  情報通信ネットワーク
図5 情報データベースシステム
図5  情報データベースシステム
図6 原子力緊急時支援・研修センター(茨城)のサイト位置
図6  原子力緊急時支援・研修センター(茨城)のサイト位置
図7 原子力緊急時支援・研修センター(福井支所)のサイト位置
図7  原子力緊急時支援・研修センター(福井支所)のサイト位置

<関連タイトル>
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設) (10-06-01-09)
原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年改定以前) (10-07-01-09)

<参考文献>
(1)野村保ほか:原子力緊急時対策支援・研修センター/サイクル機構と原研が建設へ、エネルギー、2000年6月号、p.24-29
(2)原子力安全・保安院:原子力防災体制の整備
(3)原子力安全・保安院/資源エネルギー庁:緊急時対応センターとはなんですか、原子力のページ
(4)文部科学省大臣官房文教施設部/科学技術・学術政策局:「文部科学省非常災害対策センター」の供用開始について(平成13年9月)
(5)日本原子力研究開発機構 原子力緊急時支援・研修センター、http://www.jaea.go.jp/04/shien/index.html
(6)核燃料サイクル開発機構/日本原子力研究所:パンフレット 原子力緊急時支援・研修センター、原子力緊急時支援・研修センター(茨城)
(7)原子力災害特別措置法、

(8)中央防災会議、防災基本計画(平成17年7月)
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