<本文>
1.経緯
文部科学省は2001年1月の中央省庁再編の一環として、当時の文部省と科学技術庁とが統合して誕生し、両省庁の所掌業務を継承した。原子力に関しては、基礎基盤的な研究開発の推進の他に、研究施設等における安全規制の業務も担っていた。しかし、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子力安全に係る規制行政を一元的に担う原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁が2012年9月に発足し、科学技術・学術政策局の原子力安全課は廃止された。これによって、それまで文部科学省内の各関連行政組織が担っていた
放射線利用や原子力利用の規制に関する業務や核物質の安全を守る業務は、原子力規制委員会・原子力規制庁に移管された。
2.文部科学省の任務と所掌事務
文部科学省設置法の第三条に、文部科学省の任務は教育、科学技術・学術、スポーツ及び文化にわたり、教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成、学術、スポーツ及び文化の振興並びに科学技術の総合的な振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことであると述べられている。さらに、同法第四条にその所掌事務が97項目にわたり挙げられている。そのうち原子力に関連するのは、
表1に示す10項目であり、原子力利用、放射線利用、核融合等の研究開発、保障措置、
環境放射能水準調査等が含まれている。
3.文部科学省の組織と業務分担
文部科学省には
図1に示すように大臣官房、国際統括官の他、七つの局が置かれている。
表1に示す10項目の原子力関連行政事務は、科学技術・学術政策局、研究振興局及び研究開発局が分担して所掌している。なお、この中で放射線障害の防止、放射能水準の監視・測定、原子力平和利用に関する保障措置に係る業務は、平成25年4月1日に原子力規制委員会に移管される予定である。
3.1 科学技術・学術政策局
科学技術・学術政策局の所掌は、
表2の1に示すように放射線障害の防止と放射能水準の監視・測定であり、放射線対策課が担当する(詳細は
表3参照)。上記のとおり、試験研究用原子炉の規制、及び放射線障害防止の技術的基準の斉一化に係る事項は原子力規制委員会に移管された。
表3の業務を遂行するため放射線対策課には、放射線環境対策室と放射線規制室があり、そのほか3企画官と1対策官がいる(詳細は
表4参照)。その役割は以下のとおり。
(1)放射線環境対策室は環境の放射能調査と監視、それによる放射線障害の防止対策等を担当する。また、地方の放射能調査と放射能水準の把握のための監視や測定に関する専門的事項について、その処理に当たる地方
放射線モニタリング対策官3名が置かれている。
(2)放射線規制室は放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する業務を担当する。
(3)保安管理企画官は保安管理に関する重要事項についての企画・立案に参画する。
(4)国際企画官は国際関係の重要事項についての企画・立案に参画する。
(5)放射線安全企画官は放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する企画・立案に参画する。
(6)物(フォ環境放射能対策官は原子力施設の周辺等における放射能調査の重要事項に関する事務、放射性降下ールアウト)による障害の防止に関する対策の調整及び放射能水準の監視などを行う。
3.2 研究振興局
表2の2に示すように研究振興局では基盤研究課が原子力に関する事務を所掌し、放射性同位元素の利用、放射線による障害の防止に関する研究開発を分担する(詳細は
表5参照)。当課には量子放射線研究推進室、量子ビーム利用推進専門官及び加速器科学専門官が置かれている(詳細は
表6参照)。その役割は以下のとおり。
(1)量子放射線研究推進室は、
表6の1に示すように、中性子線、陽子線等の量子ビーム利用、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究開発、及び(独)放射線医学総合研究所の運営等を分担している。
(2)量子ビーム利用推進専門官は、
表6の2に示すように、
光子、イオン、
電子、中性子、
中間子、
ニュートリノ等のビーム利用の推進に関する専門的事項について企画・立案を行う。
(3)加速器科学専門官は加速器科学における学術研究の推進に関する専門的事項(
表6の3参照)を所掌する。
3.3 研究開発局
研究開発局の原子力関連業務は
表2の3に示すように多様である。原子力の科学技術、核燃料サイクルの研究開発、核融合研究開発等を、開発企画課、環境エネルギー課、原子力課等が分担している。
(1)開発企画課
表7の1に示すように、原子力の平和利用に関する保障措置、電源開発促進勘定に関連するもの等を担当する。このため、当課には核不拡散・保障措置室が置かれ、原子力平和利用の確保と国際約束に基づく保障措置の実施(
表8の1参照)を担っているが、上記のとおり、保障措置の事務は、昭和25年4月1日より原子力規制委員会に移管の予定である。
(2)環境エネルギー課
事務内容は
表7の2に示すとおりであり、原子力分野では核融合の研究開発、その国内外協力等が主であり、核融合開発室が置かれている。核融合開発室の事務は
表8の2に示すように、核融合開発に関する政策、計画、
国際熱核融合実験炉計画(ITER)などである。このため、3人の専門官が置かれ、ITER計画推進専門官はITER推進、核融合国際協力専門官は国際熱核融合実験炉の建設・研究開発、核融合科学専門官は、核融合科学における学術研究の推進を担当している。
(3)原子力課
原子力課の所掌事務は
表7の3に示すとおりで、
核分裂と核融合のサイクル技術、水戸原子力事務所、(独)日本原子力研究開発機構の運営を所掌する。当課には
表8の3に示すように4室(核燃料サイクル室、立地地域対策室、放射性廃棄物企画室及び原子力国際協力室)が置かれている。
各室の分担は以下のとおり。
・核燃料サイクル室:核燃料サイクルのうち基礎的研究開発、新技術の研究開発。
・放射性廃棄物企画室:文部科学省関連の研究施設の廃止及び放射性廃棄物の処理・処分。
・原子力国際協力室:文部科学省関連の国際協力。
・立地地域対策室:文部科学省関連の研究施設の設置・運転の円滑化。水戸原子力事務所の運営。文部科学省設置法に定める原子力事務所の事務を
表9に示す。
(4)参事官
参事官は
表7の4に示すように原子力損害賠償の事務を担当する。
4.東京電力福島第一原子力発電所事故への対応
(1)環境放射線モニタリング
文部科学省はもともと環境の放射能水準を監視し、発表する役割を担っていたが、福島第一原子力発電所事故の発生後は、全国の各都道府県並びに福島第一原発周辺を中心とした陸域、海域等の環境放射線モニタリングを計画的に進めている。この測定結果は、原子力規制委員会発足後には、原子力規制委員会が集約して公表することとなった。周辺より放射
線量の高い箇所(1μSv/時間以上)を地方公共団体や民間団体等が発見した場合には、地方公共団体とともに計測方法及び現場の状況等の確認を行い、状況に応じて(独)日本原子力研究開発機構の協力を得て、再計測や実地検証を行っている。
(2)学校・保育所等の除染
国際放射線防護委員会(ICRP)等の助言を参考に、平成23年8月に国の原子力災害対策本部が子どもの生活圏(学校、公園等)の徹底的な除染を優先し、児童生徒等が受ける放射線量について1mSv/年間を下回ることを目指すと決定したことを受け、文部科学省は「福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通知)」を発表し、児童生徒等の通学日数と屋外・屋内の滞在時間を考慮し、校庭・園庭の
空間放射線量率の目安を1μSv/時間未満として除染を行うよう通知した。また、学校内には校庭・園庭と比べて局所的に線量が高い場所も存在するので、校内を測定してそうした場所を特定し、除染活動や被曝しないための対策を講ずるよう通知した。
(前回更新:2007年6月)
<図/表>
<関連タイトル>
日本における原子力行政の新体制(2001年) (10-04-01-01)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
経済産業省と原子力行政 (10-04-06-01)
国土交通省と原子力行政 (10-04-07-01)
<参考文献>
(1)文部科学省設置法、電子政府の総合窓口
(2)文部科学省組織令、電子政府の総合窓口
(3)文部科学省組織規則、電子政府の総合窓口
(4)原子力規制委員会 パンフレット