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<概要>
 2004年8月9日の美浜発電所3号機における事故では、11名の死傷者が発生した。原子炉運転中に、原子炉建屋の外とはいえ、死傷者が発生したことは、わが国初の事態であり、極めて残念、かつ憂慮されるべき事態であった。全ての原子力関係者は、死傷者が発生したことを重く受け止めなければならず、原子力安全委員会としても、今回の事故から得られる教訓を安全確保活動に十分に活かさなければならない。
 近年の安全確保の状況を踏まえ、2004年9月13日原子力安全委員会は(1)現行の安全確保活動:諸活動の質の向上・充実強化、(2)将来を見通した活動:安全規制システムの一層の高度化、(3)安全確保の基盤強化の3項目を基軸として、「当面の施策の基本方針について」を決定した。なお、本方針では当面3年程度を念頭に取り組む事項とともに、長期的な視点に立ち着実に検討を進めるべき課題も併せて示している。これらの事項の検討に当たっては、原子力の安全確保に係る事項が国際的な広がりの中で検討されている状況をも十分踏まえ、従来以上に国際的な動向に積極的に対応していくこととしている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力安全規制に関する考え方や具体的な対策・指針類についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会および原子力安全・保安院は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力安全委員会は、2000年1月の「当面の施策の基本方針」の決定を基に、安全確保の向上のための諸施策を実施するとともに、緊急課題に対する所要の対応を行い、わが国における原子力の安全確保活動の一層の向上に努めてきた。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)表1-1および表1-2に示すように、所期の内容をほぼ実施しつつある。一方、近年の安全確保に係る状況を踏まえると、安全規制の更なる充実を図る新たな段階に来ていると考えられることから、2004年9月13日原子力安全委員会(以下、「委員会」)は、「当面の施策の基本方針について」を決定した(表2参照)。
 なお、本方針では当面3年程度を念頭に取り組む事項とともに、長期的な視点に立ち着実に検討を進めるべき課題も併せ示している。これらの事項の検討に当たっては、原子力の安全確保に係る事項が国際的な広がりの中で検討されている状況をも十分踏まえ、従来以上に国際的な動向に積極的に対応していくこととしている。また、表3に新方針に基づく委員会の2004年度の取り組みを示す。

1.現行の安全確保活動:諸活動の質の向上・充実強化
(1)安全確保活動の質の向上
イ.規制調査の充実
 規制行政庁の規制活動をより効果的に監視・監査する観点、規制活動の質の向上を継続的に図る観点、安全規制の高度化を目指す観点等から、2004年度中に新たな調査手法を確立するとともに、規制調査活動の実施要領等を逐次策定し、規制調査の充実を図る。
 さらに、規制調査での成果を踏まえ、効果的な安全規制システム構築等を念頭に置いて、わが国の安全規制の課題について委員会としての考え方をとりまとめるため、必要な検討を行う場を、2004年度内を目途に設ける。(2.(3)イ.参照)
ロ.安全審査指針類の整備
 委員会が行う安全審査の基礎をなす安全審査指針類について、個別事項の技術的な見直しとともに、指針類全体の体系的な整備を、関係学協会等との連携を図りつつ、計画的に実施する。具体的には、以下の事項について調査審議を行い、その成果をとりまとめる。
・指針体系化の推進については、リスク情報の活用等、国内外の最近の動向をも踏まえつつ、多重防護、ALARA(as low as reasonably achievable)の原則等、わが国としての安全確保・安全規制の基本的考え方を、2004年度内を目途に改めて整理・明確化する。これとともに、民間指針等の策定状況を踏まえ、指針類のうち「手引き」等についての取扱いを検討し、指針類の体系化に努める。
・個別指針等の見直しについては、現行指針の再確認作業を進め、新たに定める必要のある指針類を特定し、順次、指針化作業を図るとともに、最新の科学技術的知見や学協会基準等に照らし、必要な指針類の見直しを行う。
ハ.監視・監査機能の充実
 委員会の行う監視・監査活動が、継続的に質の高い信頼性のある公正な業務プロセスとなるよう、また併せて自らの活動の透明性と、活動記録の事後的な確認可能性(トレーサビリティ)の継続的向上等を目指し、ISO-9001の認証を取得する。具体的には、2005年度内を目途に規制調査業務を単位とする認証取得を目指し、その後委員会全体に展開する。
ニ.放射線防護対策の充実
 今後3年程度の間において、まず、放射線利用の現場における放射線管理の実態を詳細に把握し、放射線防護専門部会における評価を踏まえ、必要に応じ関係行政機関等への提言を行う。さらにまた、わが国の原子力発電所における放射線業務従事者の集団線量が国際的な実績に比して相対的に高いとされていることから、同従事者の被ばくについて、その実態を精査、評価し、必要に応じ関係行政機関等への提言を行う。
(2)バックエンド分野等の安全確保の充実
イ.再処理
 再処理施設安全調査プロジェクトチームが2004年4月にとりまとめた六ヶ所再処理施設に係るウラン試験における安全確保上考慮すべき事項について、適切に実施されていることを確認する。また、使用済燃料を用いた総合試験段階において安全確保上考慮すべき事項の検討を行い、総合試験前に意見・見解をとりまとめ、また、操業開始前には、総合試験段階において摘出された安全確保上考慮すべき事項の検討を行い、意見・見解をとりまとめる。
ロ.高レベル放射性廃棄物処分
 特定放射性廃棄物処分安全調査会において、高レベル放射性廃棄物処分にかかる安全確保に必要な安全審査指針策定に向け、「高レベル放射性廃棄物の処分に係る安全規制の基本的考え方について(第1次報告)」(2000年11月)で言及されている項目について研究開発等の状況を把握、整理し、今後の方向性を検討する。2005年度内を目途に、基本的考え方の見直しを行う。
ハ.余裕深度処分等
 放射性廃棄物・廃止措置専門部会において、研究所等から発生する放射性廃棄物の浅地中処分の安全規制に関する基本的考え方を、2004年度内を目途にとりまとめる。また、炉内構造物等の低レベル放射性廃棄物の埋設処分について、安全審査指針や放射線防護基準についての検討等を進め、今後2年程度でとりまとめる。
ニ.廃止措置
 放射性廃棄物・廃止措置専門部会において、運転を終了した原子炉施設の安全規制に係る規制調査の成果のとりまとめを踏まえ、その後1年程度で規制の在り方等についてとりまとめる。
ホ.クリアランスレベル
 放射性廃棄物・廃止措置専門部会において、委員会がとりまとめた原子炉施設等のクリアランスレベル(放射性廃棄物として規制しないレベル)に関する考え方について、最近の国際原子力機関(IAEA)における検討の動向等を踏まえ反映すべき事項の有無を含め検討を行い、2004年度内を目途に検討結果をとりまとめる。
(3)事故・故障対応、防災対応等の充実
イ.事故・故障情報の収集と分析
 2004年度内を目途に、国内外の原子力施設で発生した主要な事故・故障に関する情報、特に再発事象、経年化事象に係る情報を重点的に収集・整理するとともに、原子力施設の安全確保上重要と考えられる事象を抽出する。その結果等を踏まえ、原子力事故・故障分析評価専門部会において、わが国の安全確保対策に反映すべき事項を検討し、2005年度に必要な提言を行う。
 特に、2004年8月9日に起きた美浜3号機事故については、原子力事故・故障分析評価専門部会の美浜3号機2次系配管事故検討分科会における多面的な調査検討結果を踏まえ、今回の事故から得られる教訓を今後の安全確保の活動に十分に反映させることとする。
 また、放射性物質および放射線の利用に関係した事故やトラブルについても、情報の把握のあり方等について検討を行う。
ロ.原子力防災対策等の充実
 原子力防災分野に係る安全研究の成果を活用するとともに、IAEA等の国際機関や諸外国における防災分野の取組みも参考に、わが国の防災体系を検証し、この分野において委員会に課された役割の遂行に万全を期す。
 具体的には、今後、IT技術を活用した緊急時における情報収集システムの充実強化を図る(2004〜2005年度)とともに、事故後の災害復旧に係る長期的対策、線量評価・障害低減化(体内除染等)・治療技術に関する安全研究の成果等について検討、検証を行う。また、IAEAにおけるガイドラインの策定の動きや、諸外国における防災・被ばく医療の取組みについて、情報を収集し、必要に応じ、防災に関する指針を改訂すること等により、原子力災害対策の実効性の更なる向上を図る。
 緊急被ばく医療については、原子力施設等防災専門部会において、「緊急被ばく医療のあり方について」のとりまとめ、および「原子力施設等の防災対策について」(防災指針)の改訂(2005年7月)を踏まえ進められている、地域における緊急被ばく医療体制の整備や、関係機関のネットワーク構築の進捗状況を、2005年度内を目途に調査し、評価結果を2006年度内を目途にとりまとめる。
 また、2004年6月に成立した「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」により規定された委員会の技術的助言に関し、委員会が適切に実施できるよう、常日頃より情報収集等を行う。

2.将来を見通した活動:安全規制システムの一層の高度化
(1)安全目標の確立
 「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」(2003年12月)に基づき、安全目標専門部会において、安全目標案の社会定着に係る活動、実用発電用原子炉に係る確率論的安全評価(PSA:Probabilistic Safety Assessment)手法のレビューを含む性能目標の検討等を、2005年度内を目途に実施し、成果を得る。
 いわゆるレベル3PSAの結果の検討や地震などの外的事象の考慮等については、関連する安全研究の成果をも踏まえつつ検討を行う。なお、安全目標案の安全規制システムへの適用に関する検討は、次項「リスク情報の活用」に関する検討の成果を踏まえ、改めて検討する。
(2)リスク情報の活用
 リスク情報を活用した安全規制システムのあり方については、リスク情報を活用した安全規制の導入に関するタスクフォースにおいて、委員会、規制行政庁、事業者、学協会等のそれぞれの取組みの役割分担と相互の連携のあり方の検討、これら各機関並びに他産業および他国の取組み状況の調査を行う。
 具体的な調査審議に当たっては、まず発電用軽水冷却型原子炉施設を中心的な検討対象とするが、その他の原子力施設についても必要に応じ適宜調査審議する。
 同タスクフォースは、2006年度内を目途に各機関の取組み状況を評価し、委員会はその評価結果を踏まえ、関連する指針類の整備等、その後の進め方を決定する。
(3)安全規制体系の方向性の検討
イ.原子力安全規制法体系の検討
 原子力施設の高経年化、廃止措置、放射性廃棄物処分に係る課題の顕在化等、現行原子力安全規制法体系が原子力活動の開始当初必ずしも十分には予見していなかった事項を念頭に、リスク情報の活用等最新の科学技術的知見をも踏まえ、法令間の連携・整合を含め、原子力安全に係る法体系の俯瞰的な検討に着手する。
ロ.パフォーマンス指標の検討
 上記2.(2)(リスク情報の活用)の検討状況等を踏まえつつ、規制行政庁に対し、技術的な安全に係るいわゆるパフォーマンス指標の整備に向けた取組みを促し、発電用軽水冷却型原子炉施設の健全性を具体的に明らかにするよう(例えば、個別原子炉のパフォーマンス評価を公表する等)求める。

3.安全確保の基盤強化
(1)安全研究の推進
 「原子力の重点安全研究計画」とりまとめを踏まえ、原子力安全研究専門部会の場を活用し、委員会および規制行政庁のニーズと研究実施機関の具体的活動との橋渡し機能の充実を図る等同計画でまとめられた安全研究推進体制の実効性を高める。このニーズの検討は、当面、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合により設立される予定の新法人の中期目標、中期計画の策定に資することを念頭に2004年度中に行う。また、2007度内を目途に同計画に基づく安全研究活動について、安全研究を推進する観点から評価を行う。
(2)人材の養成・確保
 原子力安全の分野に他の産業分野の有能な人材が参入しやすい環境を整備する等、原子力安全を支える人材を計画的に養成・確保するよう関係方面に要請するとともに、委員会自らも原子力の安全確保活動、安全研究に功績があった者を顕彰する等、人材の養成・確保の動機づけに必要な施策を検討する。
(3)安全文化の醸成
 今後とも、原子力安全委員による「安全文化意見交換会」を継続的に実施する。その成果を踏まえ、各事業実施主体が自らの安全文化を評価することが可能となるガイドラインの検討を行う。その検討成果に基づき、IAEA 等における安全文化の指標化に関する検討に積極的に貢献する。
(4)透明性、トレーサビリティの確保
 「原子力安全に係る透明性の確保に向けた電気事業者の取組みについて」(2003年6月)に基づき、広報活動の延長としてではなく、原子力活動の透明性とトレーサビリティを一層向上させる観点から、その実施状況を確認し、必要な指摘等を行う。さらに、同様の観点から、核燃料サイクル関係事業者における状況についても調査し、必要な指摘等を行う。
 また、委員会としても、自らの活動に関する透明性、トレーサビリティを向上させる観点から、引き続き情報公開に係る委員会決定「原子力安全委員会における情報公開等について」(2004年5月)を履行する。
(5)国際対応の拡充
 IAEA等における国際的な原子力安全の動向を確認し対応していくのみならず、わが国が国際的な原子力安全を巡る動向に積極的に対応していくため、関係各省と連携し、わが国全体としての原子力安全確保に係る情報収集、分析体制を整える。
 特に、放射線防護分野については、今後1年程度の間、国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告案の動向を把握しつつ、関係機関と連携し、適時、的確な対応を図る。
(6)社会とのコミュニケーションの推進
 安全目標やリスク情報の活用に関する事項など、委員会の施策の中でも、当面特に一般社会との関係性を重視すべき事項について、原子力安全シンポジウム等を開催し、一般の人々との対話を通し、また学協会の場における専門家との討論等を通して、社会とのコミュニケーションを一層密にする。
<図/表>
表1-1 2000年の「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針」の実施状況(その1)(2004年8月末現在)
表1-1  2000年の「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針」の実施状況(その1)(2004年8月末現在)
表1-2 2000年の「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針」の実施状況(その2)(2004年8月末現在)
表1-2  2000年の「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針」の実施状況(その2)(2004年8月末現在)
表2 原子力安全委員会の当面の施策の基本方針(2004年9月)
表2  原子力安全委員会の当面の施策の基本方針(2004年9月)
表3 新方針に基づく原子力安全委員会の取り組み(2004年度)
表3  新方針に基づく原子力安全委員会の取り組み(2004年度)

<関連タイトル>
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
原子炉等規制法の一部改正及び原災法の制定について(1999年11月) (10-02-02-06)
原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について(2000年1月) (10-03-02-09)
原子力安全委員会の当面の規制調査の実施方針について(2000年6月) (10-03-02-10)
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会HP:平成17年版 原子力安全白書、

(2)原子力安全委員会HP:原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について、
(2004年9月13日)
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