<本文>
1.はじめに
1999年(平成11年)9月30日に発生した株式会社ジェー・シー・オーのウラン加工工場臨界事故に対応して、原子力安全委員会に設置されたウラン加工工場臨界事故調査委員会(調査委員会)は、1999年12月24日、最終報告を原子力安全委員会へ提出した。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)調査委員会は、広範な分野の多数の専門家によって、膨大で緻密な調査審議を行い、この最終報告で臨界事故の原因を明らかにするとともに、再発防止等のための多くの有用な提言が示された。原子力安全委員会は、2000年1月17日に、最終報告の提言を踏まえ、必要な措置を講じるとともに、原子力安全確保に対する国民の強い要請をも踏まえ、「原子力安全員会の当面の施策の基本方針について」を決定した。
なお、参考に、上記決定に関係した1999年11月5日付け調査委員会の「ウラン加工工場臨界事故調査委員会緊急提言・中間報告」のポイントを
表1に、また、この中間報告を受けて、原子力安全委員会が1999年11月11日に決定した「原子力の安全確保に関する当面の施策について」を
表2に示す。
2.原子力安全員会の当面の施策の基本方針について
以下に、原子力安全委員会決定の全文を原文のとおり示す(
図1参照)。
原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について
平成12年1月17日
原子力安全委員会
平成11年12月24日、ウラン加工工場臨界事故調査委員会(以下「調査委員会」という。)から、最終報告(以下「報告」という。)が当委員会に提出された。調査委員会が、広汎な分野の多数の専門家によって、膨大かつ緻密な調査審議を行い、臨界事故の原因を明らかにするとともに、再発防止等のための多くの有用な提言を示したことを、多としたい。
報告は、我が国の安全確保体制に対し、多くの厳しい指摘と問題提起をした。また、当委員会を含め国の原子力安全関係機関等において実施すべきもの、原子力関係事業者において対応すべきもの、さらには広く社会に対応を呼びかけたものなど100項目を超える提言を行い、その実施を強く求めており、また当委員会に対し、適切な時期にフォローアップすべきことを求めている。
当委員会は、報告を真摯に受け止め、提言について早急に十分な検討を行い、適切な行動をとっていく考えである。また報告に示された提言を、速やかかつ確実に実施するよう関係規制行政庁等関係機関に求めるとともに、関係事業者が、安全確保の第一義的責任は事業者にあることを強く認識し、適切な対応をとることを期待する。
また報告では、我が国の原子力について、
リスクを基準とする安全の評価を重視すべきことを改めて指摘しており、さらに調査委員会委員長所感は、安全をめぐる二律背反の問題、権限と責任の問題など長期にわたって取り組むべき基本的課題があることを示唆している。
当委員会は、報告の提言を踏まえ、また上記委員長所感の意を十分に汲み取りつつ、必要な措置を確実に講じるとともに、原子力安全確保に対する国民の強い要請を踏まえ、安全確保の要としての役割を果たし、期待に応えていく決意である。
当委員会は、平成11年11月11日、調査委員会の「緊急提言・中間報告」、当委員会の発足以来の施策の経緯等を踏まえつつ、当面の施策について、の決定(以下「先の決定」という。)を行ったが、今般の報告を受け、安全確保体制、安全目標等の当面する施策の基本について、改めて明らかにすることとし、下記のとおり決定する。
記
1.安全確保体制について
報告は、我が国の「多重補完的安全規制体制」のあり方の検討を提言している。当委員会は、国民に対する責任を如何に果たすかという観点から、規制行政庁との間で意見交換をしつつ、互いの役割及び責任関係を一層明確にすることを含め、これに対応していく。
(
安全審査指針類の整備)
ウラン加工施設の
安全審査指針については、現在核燃料安全基準専門部会において調査審議を行っており、速やかに結論を得て、指針類の改訂を行う。技術的能力に関する審査の指針化については、適切な調査審議体制を速やかに決定する。また重要指針類の総合的見直しについては、既に一部着手しているところであるが、「安全目標」の検討及び国際的観点を踏まえつつ、安全審査指針類の総合的・斉一的整備のため、適切な体制を整備して、一層強力に取り組む。
(安全審査のあり方)
当委員会のダブルチェックのあり方については、これまで累次の委員会決定で示してきたところであるが、「多重補完的安全規制」の実効性向上の観点から、ダブルチェックのあり方について、さらに踏み込んだ検討が要請されていると認識する。このため、関係方面の意見及び審査の実態を踏まえつつ、より一層国民に信頼されるようなダブルチェックのあり方を追求していく。
核燃料施設のような施設については、その多様性を踏まえた運転管理面での対応が必要であるが、先の決定において、
原子力施設の安全審査体制において運転管理の専門家を加えることとし、順次実施に移しつつある。安全審査における重要事項の指摘は、特に後続規制における安全確保上の着眼点を示す上で重要であり、安全審査において施設の特徴を踏まえつつ一層緻密な指摘を行うよう努める。
(設置許可以降の後続規制に対する対応)
規制行政庁による後続規制の把握と確認については、先の決定で基本的事項を示し、現在その具体化について検討を行っているところであるが、今般の原子炉等規制法改正をも踏まえつつ、所要の準備を経て、本年度内に試行的な実施を行い、要員の整備がなされる新年度から本格的に実施する。
(安全研究の推進)
今回の臨界事故の終息及びその後の科学的評価には、多くの優れた研究者、技術者が力を発揮したが、これには関係研究機関が安全研究で培った能力が大いに寄与した。安全研究は、安全審査指針類の整備・充実に貢献するのみならず、優れた人材の育成にも貢献する。当委員会は、安全研究関係の専門部会において、現在、第6次安全研究年次計画の策定作業を行っているところであり、関係機関と協力しつつ、今後とも安全研究の推進に努力する。
2.安全目標等について
当委員会は、これまでも原子力のリスクを十分低くするための安全確保対応を行ってきた。リスクの概念に基づく安全評価に関しては、いわゆる「安全目標」策定が重要であり、すでに平成10年版原子力安全白書の中で提起し、その準備的検討を進めてきた。報告におけるリスク評価に関する指摘を踏まえ、当委員会として安全目標のあるべき方向性を示し、速やかに適切な専門部会を設置して、検討する。もとより安全確保に当たっては、定量的予測に基づくリスクの管理が重要であり、リスク評価の概念を、必要に応じ適切に取り入れ、これに基づく安全管理がなされるよう検討する。
原子力に係る「安全社会システム」の構築については、その総合設計を具体的にどのように進めるべきか、幅広い分野の有識者の参加を得て基礎的な調査研究を実施することとし、その成果を踏まえて検討する。また
安全文化の定着については、当委員会自身、関係行政機関や原子力事業者への積極的な働きかけや対話を行うこととするが、その際、安全文化を効果的に定着させる方途について、併せて検討する。
3.事故・緊急時対応等について
緊急時対応については、
原子力災害対策特別措置法(以下「特別措置法」という。)が制定されたが、情報の伝達、国、地方自治体等関係機関間の連携、緊急被ばく医療など、今回の事故で得られた教訓を基に、さらに具体化に向けた細部にわたる検討が必要である。これらを含め、原子力発電所等周辺防災対策専門部会において、原子力防災対策の実効性の向上をさらに確実なものとすべく、鋭意検討中であり、速やかにその結論を得ることとする。また特別措置法において、当委員会の役割が法定されるとともに、緊急事態応急対策調査委員が法定されたが、関係機関との円滑な連携の下で、これらが一層有効に機能するよう検討を進め、必要な体制の整備、所要の訓練、設備の整備等を進める。
また、先の決定で示したとおり、事故・故障調査と関連情報の体系的管理・評価を行う専門部会を速やかに設置することとし、その際既存部会の関係部門の整理を併せて行う。
4.情報公開について
当委員会は、平成8年12月の委員会決定等に基づき、情報公開を鋭意実施してきており、これまでも、公開ヒアリング時、各種報告書の調査審議時はもとより、これに限らず、国民の声を聴き、これに応え、施策に反映してきた。今後さらにこの動きを進めることとし、事務局機能の総理府移管後速やかに「原子力安全目安箱(仮称)」を開設し、寄せられた意見の反映を図るとともにホームページで随時回答する。また、「地方原子力安全委員会(仮称)」や公開シンポジウムの開催を、必要に応じ関係機関との協力の下に、東京以外の地域で実施することを検討するとともに、様々な機会を活用し地域や原子力事業の現場の声の把握に努める。これらを含め今後とも当委員会関係活動の情報公開の促進に努力し、一層国民に開かれた委員会となるよう努める。
5.専部会の再編と事務局の移管について
(専門部会の再編)
当委員会は、平成13年1月の内閣府への移行を視野に入れつつ、調査審議の一層効果的かつ効率的な実施及び安全確保の総合性の観点から、専門部会の体制を再編成することとする。再編は、大きく2段階に分けて行うこととし、第1段階は、平成12年4月までを目途に、可及的速やかに整備すべきものを対象に行い、また第2段階は、残余の専門部会を含め、内閣府移行後の体制を総合的に構築すべく、平成13年1月までを目途に順次行うこととする。その際、人文社会科学系の人材を含む専門家の拡充に努める。
(事務局の移管に伴う強化)
平成13年1月の省庁再編に伴って、安全規制行政体制の再編が行われ、当委員会には、内閣府への移行に当たり、独立事務局が設けられることとなっているが、報告では、当委員会の事務局体制の強化が指摘された。この方向に沿って、平成12年4月より、これまでの科学技術庁原子力安全局を中心とする事務局体制から、当委員会の専任の事務局機能を総理府に移管・整備することとなっている。これは、内閣府への移行までの過渡的な体制であるが、職員を増員し、外部の幅広い専門家を技術参与として配置するなど、人的な強化、事務局の専門的調査能力の向上を図り、内閣府移行後の独立事務局に期待される機能の発揮を展望しつつ整備を図る。
また事務局機能の総理府への移管後においても、当委員会として、安全研究の実施や安全規制への情報提供等に関し、日本原子力研究所等の原子力関係機関や大学との連携が重要であると考えており、関係機関に対し適切な協力を要請する。
6.自己点検と報告のフォローアップ等について
(自己点検)
報告は、変動する時代や社会の要請への適応とともに、自己点検の仕組みを求めているが、当委員会自身が、常に自己点検することはもとより、当委員会の安全確保活動に幅広い立場の有識者や国民の声を反映し、評価する機関(「原子力安全委員会活動評価委員会(仮称)」)を速やかに設置することを検討する。またその様な機関に対し、当委員会の考えを積極的に述べていくこととする。
(フォローアップ)
当委員会は、調査委員会の報告後においても、引き続き事故現場の処理の対応、臨界事象の科学的評価、放射線被ばくを受けた方々への対応等について、適切に把握していくこととする。また健康管理検討委員会において、早急に結論を得るよう努め、これを受け関係行政機関において速やかに対応がなされることを要請するものである。
報告内容のフォローアップについては、当面、当委員会が直接行うこととし、関係行政機関から、報告への当面の取り組み方針について早急に聴取することとする。また関係機関による提言内容の具体的な取り組みの進捗を踏まえ、適当な期間の後、適切な体制を整備して総合的なフォローアップを実施することとする。
(以上)
<図/表>
<関連タイトル>
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
原子炉等規制法の一部改正及び原災法の制定について(1999年11月) (10-02-02-06)
原子力安全委員会の当面の規制調査の実施方針について(2000年6月) (10-03-02-10)
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)
<参考文献>
(1) 原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成11年版、大蔵省印刷局(2000年9月)、p.1-30,58-86
(2) 原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成12年版、財務省印刷局(2001年4月)、p.201-205
(3) 原子力安全委員会HP:原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について(2002年1月21日)
(4) 内閣府原子力安全委員会(編・発行):3.原子力安全委員会の活動、4.原子力安全委員会の当面の施策、パンフレット「原子力安全委員会〜安全確保に向けての積極的な取組み〜」(2001年12月)、p.9-22