<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 わが国の原子力の研究、開発及び利用に関する施策が計画的に遂行されるように原子力委員会は「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」を策定し、これに基づいて、関係府省の原子力研究開発利用に関する経費の見積及び配分計画について企画、審議し、「原子力研究、開発及び利用に関する計画」として決定してきた。平成19年度の計画は、平成17年10月に取りまとめられた「原子力政策大綱」に掲げている5つの分野ごとに原子力政策大綱の概要とそれに対応した主要な取組がまとめられている。具体的な施策では、各取組に対応した各省庁機関の施策と平成19年度及び前年度予算額が示されている。ここでは平成19年度計画に基づき、原子力政策大綱の概要及び「原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化」と「原子力利用の着実な推進」分野の主要な取組をまとめるともに、府省別に区分された原子力関係予算を示す。
<更新年月>
2007年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 原子力委員会は、「原子力委員会及び原子力安全委員会設置法」第2条第3号の規定に基づき、毎年、関係府省の原子力の研究、開発及び利用に関する経費の見積り及び配分計画について企画、審議、及び決定している。平成19年度の原子力関係経費の見積りに際して、原子力委員会は、原子力政策大綱(表1-1表1-2表1-3表1-4表1-5表1-6表1-7表1-8、及び表1-9参照)に対応した重点的事項を示す「平成19年度の原子力の研究、開発及び利用に関する経費の見積りに関する基本方針」(以下、「基本方針」)を決定、関係府省に通知した(平成18年5月23日)。以降、関係府省からの聴取などを経て評価を行った結果、平成19年度において概算要求されている関係府省の各施策は原子力政策大綱に沿って計画的に行われるものであり、また、「基本方針」で示した「特に重点的に取り組むべき事項等」に適切に対応していると判断され、同年10月3日に「平成19年度原子力関係経費の見積りについて」を取りまとめ決定した。この「見積りについて」に記載した平成19年度原子力関係経費の概算要求については、更に政府部内で調整が行われた上で、国会に提出され、平成19年3月26日に予算として成立した。原子力委員会は、成立した平成19年度予算に基づいて関係府省の原子力関係経費の取りまとめを行った。
 表2に「平成19年度原子力研究、開発及び利用に関する計画」(以下、「計画」)の目次を示す。
 平成19年度の原子力関係経費では、「特に重点的に取り組むべき事項等」に係わる施策に対し厚く配分される。具体的には、重点的項目に対して前年度比5.7%増、その他の施策については2.8%減、特別会計を含む全体で1.6%増となっている。

2.平成19年度における取組
 「計画」に述べられた5分野 1)原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化、2)原子力利用の着実な推進、3)原子力研究開発の推進、4)国際的取組の推進、5)原子力の研究、開発及び利用に関する活動の評価の充実)において、「基本方針」が重点的に取り組むべき事項及び着実に取り組むべき事項とした26項目を表3に示す。
 以下に平成19年度における上記5分野に関する主要な取組の骨子を示す(紙数の制限のため一部省略)。
2.1 原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化
1)安全の確保
1-1)安全対策
原子力施設の安全審査等に必要な最新の科学技術的知見等に係る調査を実施。原子力安全行政の充実強化。新たな耐震設計審査指針等の内容に照らして事業者及び規制行政庁が行う既設の原子力施設の耐震安全性の評価結果の確認等を実施。(原子力安全委員会)
◎原子力保安検査官等の検査技術の更なる向上を図るため、実践的な訓練設備を整備。(経済産業省、以下「経産省」)
◎発電所立地地域に存在する大学、研究開発機関を中心とした産学官連携の下、関連情報のネットワーク化の推進などの高経年化対策に係る基盤を整備し、原子力安全対策を強化。(経産省)
1-2)核物質防護
原子炉等規制法に対応した国際動向を踏まえた核物質防護規制の遂行。(文部科学省、以下「文科省」・経産省)
○日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)における核物質防護施設・設備の維持管理と原子炉等規制法の改正を踏まえた防護対策の強化。(文科省)
2)平和利用の担保
○包括的核実験禁止条約に関連して、核実験の実施に係る検知に関する研究開発等を引き続き実施。IAEA保障措置の強化、効率化のため、「統合保障措置」の検討への積極的な参画等。(文科省)
3)放射性廃棄物の処理・処分
◎研究施設等から発生する放射性廃棄物の処分の推進に関する制度化の検討。(文科省)
◎深地層研究施設の建設、地層処分技術の信頼性向上などの研究開発。(文科省・経産省)
◎関連研究開発機関等と連携を取り、研究開発全体の計画的かつ効率的な推進。(経産省)
◎高レベル放射性廃棄物最終処分地の選定や処分事業に向けた広聴・広報活動を強化。(経産省)
4)人材の育成・確保
◎産業界で活躍しうる優秀な人材確保のため、「原子力人材育成プログラム」を構築。基盤的技術分野まで含め、大学・大学院等における人材育成・研究活動の充実・強化を支援。(文科省・経産省)
◎原子力保安検査官等の検査技術の更なる向上を図るため、実践的な訓練設備を整備。(経産省)
原子力発電所等のメンテナンス人材の個別企業の枠を超えた育成への先進的取組支援。(経産省)
5)原子力と国民地域社会の共生
5-1)透明性の確保、広聴・広報の充実、国民参加、国と地方との関係
◎市民参加懇談会を開催するなど、国民との相互理解に向けた取組。(原子力委員会)
◎政策の妥当性を定期的に評価し、評価結果案について「ご意見を聴く会」を開催。(原子力委員会)
◎国民との直接対話を進め、原子力安全に関する国民との対話を促進。(原子力委員会)
◎放射性廃棄物の最終処分に係る広聴・広報活動を強化。(経産省)
5-2)学習機会の整備・充実
◎「原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金制度」の着実な運用。立地道府県にある小、中、高等学校等を対象とした人材育成の取組に対する支援。インターネット等を活用した教育の支援。(文科省)
5-3)立地地域との共生
◎電源立地地域対策交付金の地域の実情を踏まえた効果的運用。(文科省・経産省)
2.2 原子力利用の着実な推進
1)エネルギー利用
1-1)原子力発電
◎「もんじゅ」の早期運転再開を目指し、工事確認試験、プラント確認試験等を実施。(文科省)
◎高速増殖炉サイクル技術の実証・実用化段階に向けて、高速増殖炉サイクル実用化研究開発に着手。(文科省・経産省)
◎高い安全性・経済性等を備えた次世代軽水炉開発のためのフィージビリティ調査。(経産省)
◎提案公募方式により、原子力発電、核燃料サイクル放射性廃棄物対策の各分野について、新たなシーズ発掘に資する革新的原子力技術開発への支援を実施。基盤的技術分野(材料、溶接等)について大学等で行われる研究プロジェクトに対する支援枠「基盤的技術強化枠」を新たに設置。(経産省)
1-2)核燃料サイクル
◎高速増殖炉サイクル技術を確立するため、高速増殖炉サイクル実用化研究開発、「もんじゅ」、「常陽」、MOX燃料製造技術開発等を計画的に進める。(文科省)
◎東海再処理施設では、「ふげん」の使用済燃料の再処理を実施。ガラス固化技術開発施設の運転を継続、運転手法の高度化に係る研究等を実施。また、得られた知見を民間再処理施設に反映。(文科省)
◎世界の天然ウラン供給量拡大に貢献し、わが国のウラン資源安定供給を確保するため、石油天然ガス・金属鉱物資源機構を通じ、わが国民間事業者による海外ウラン探鉱事業を支援。(経産省)
◎MOX燃料加工施設の安全性、信頼性を高めるための調査及び研究を実施。使用済燃料貯蔵施設について、貯蔵期間中の施設、使用済燃料の経年変化及び健全性を評価するための確証試験等を実施。民間MOX燃料工場で採用する各種技術の適合性の確証等のための試験を補助。わが国におけるウラン濃縮技術の維持・向上と経済性の向上を目指して、新型遠心分離機の開発について補助。(経産省)
◎大間原子力発電所で実用化予定の全炉心MOX炉の技術開発を着実に推進。(経産省)
◎提案公募方式により、原子力発電、核燃料サイクル及び放射性廃棄物対策の各分野について、新たなシーズ発掘に資する革新的原子力技術開発への支援を実施。(経産省)
2)放射線利用
◎大強度陽子加速器計画については、50GeVシンクロトロン本体、原子核・素粒子実験施設、中性子利用実験装置(ビームライン)等の建設・整備を継続。(文科省)
◎放射線腫瘍医、医学物理士等人材育成のためのカリキュラムを策定。(文科省)
2.3 原子力研究開発の推進
1)原子力研究開発の進め方
1-1)基礎的・基盤的な研究開発
◎「重点安全研究計画」等に基づく安全研究。安全規制指針・基準類用データの整備。(文科省)
◎材料照射試験炉については、再稼働に向け、必要な原子炉機器の一部更新等に着手。(文科省)
1-2)革新的な技術概念に基づく技術システムの実現可能性を探索する研究開発
◎ITER計画を推進。わが国が分担するITERの機器の製作、ITERの建設・運転等の実施主体となるITER国際核融合エネルギー機構の運営支援。幅広いアプローチの着実な進捗。(文科省)
◎臨界プラズマ試験装置等を用い、プラズマ研究開発及びITERのための研究開発等。(文科省)
◎高温工学試験研究炉では、高温連続運転に必要な機器の整備、改良。異常事象等を模擬した試験運転等により、安全性等に関するデータの取得・蓄積。ISプロセスの研究等を推進。(文科省)
1-3)革新的な技術システムを実用化候補まで発展させる研究開発
◎「もんじゅ」の運転再開を目指し、工事確認試験、プラント確認試験等を実施。(文科省)
◎「常陽」は、高速増殖炉サイクル実用化研究開発に必要な材料、燃料等の照射データを取得。(文科省)
◎「常陽」の運転に必要なMOX燃料を製造、燃料製造技術を開発。「もんじゅ」の燃料製造も視野に入れ、安定的な燃料製造に必要な設備整備。日本原燃(株)への技術移転。(文科省)
◎高速増殖炉サイクルの実証・実用段階へ向けて、「高速増殖炉サイクルの研究開発方針について」に従い、「原子力立国計画」を踏まえ、高速増殖炉サイクル実用化研究開発に着手。(文科省・経産省)
1-4)革新技術システムを実用化するための研究開発
◎JAEAにおいて、RI・研究所等廃棄物の処分に関する研究開発。(2.1、3参照)
◎深地層研究施設を建設、地層処分技術の信頼性向上等。(2.1、3参照)
◎次世代軽水炉開発のためのフィージビリティ調査。(2.2、1-1参照)
◎大間原子力発電所で実用化予定の全炉心MOX炉の技術開発。(2.2、1-2参照)
◎提案公募方式の新たなシーズ発掘に資する革新的原子力技術開発への支援。(2.2、1-1参照)
1-5)既に実用化された技術を改良・改善するための研究開発
◎ウラン濃縮事業の経済性の向上を目指す新型遠心分離機の開発。(2.2、1-2参照)
2)大型研究開発施設
◎高速増殖原型炉「もんじゅ」の早期の運転再開。(2.3、1-3参照)
◎高速実験炉「常陽」による高速増殖炉サイクル実用化研究開発。(2.3、1-3参照)
◎高温工学試験研究炉(HTTR)の高温連続運転。(2.3、1-2参照)
◎材料照射試験炉(JMTR)の再稼働。(2.3、1-1参照)
◎基礎研究から産業応用に至る幅広い分野での貢献を目指した大強度陽子加速器施設の建設・整備。(2.2、2)参照)
3)知識・情報基盤の整備
○JAEAにおいて、内外の原子力科学技術情報の収集・整理及び提供。(文科省)
○原子力施設等の安全に資するデータベース構築や安全に係る基盤情報整備等。(経産省)
4)日本原子力研究開発機構(JAEA)における原子力研究開発
◎JAEAは、原子力の基礎・基盤研究からプロジェクト研究開発までを実施。平成19年度は、事業の見直しや研究施設の合理化などを進め、主要な研究開発事業へ選択と集中を図る。(文科省)
2.4 国際的取組の推進
1)核不拡散体制の維持・強化
○包括的核実験禁止条約の実施に関連して、核実験の実施に係る検知に係る研究開発。IAEA保障措置協定等の着実な履行、国際的核不拡散体制の強化への貢献、IAEAへの技術支援等。(2.1、2)参照)
2)国際協力及び原子力産業の国際展開
◎わが国の原子力政策や原子力の研究開発利用の現状等を諸外国に積極的に発信。(原子力委員会)
◎アジア地域における原子力の平和利用に関するパートナーシップを強化。(原子力安全委員会)
◎旧ソ連諸国の原子力安全関連プロジェクトの支援。(外務省)
◎IAEA、OECD/NEA等の国際機関の活動について引き続き協力。(外務省・文科省・経産省)
◎アジア原子力国際フォーラム、原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協定等の枠組みを活用、アジア地域の原子力利用、安全性向上に資する協力を実施。(外務省・文科省)
◎国際的な安全確保のため、技術的基盤を提供するための国際会合等に関与。(文科省)
◎第四世代原子力システムに関する国際フォーラムの原子力研究・開発の国際的な協力の枠組みに参画。ナトリウム冷却高速炉を始め、超高温ガス炉等における協力を積極的に進める。(文科省)
◎国際原子力エネルギー・パートナーシップにおける協力について、高速増殖炉サイクルに関連する技術の積極的提案。日米政府間協議及び専門家によるワーキンググループ活動等。(経産省・文科省)
◎アジア諸国の原子力安全規制当局職員等を対象とした国際研修を実施。(文科省・経産省)
◎アジア諸国の原子力発電所の運転員、補修員を対象とした国際研修を実施。(文科省・経産省)
◎中国及び韓国との間に創設された地域協力の枠組みにおける規制機関間の連携を強化。(経産省)
◎原子炉導入を目指す国(ベトナム、インドネシア、カザフスタン)への制度整備支援。(経産省)
2.5 原子力の研究、開発及び利用に関する活動の評価の充実
◎原子力の研究開発利用に関する政策の妥当性の定期的な評価と意見聴取。(2.1、5-1参照)
3.各省庁における原子力関係予算の概要
 表4に平成19年度の原子力関係の省庁別予算総表を示す。
<図/表>
表1-1 原子力政策大綱の概要(1/9)
表1-1  原子力政策大綱の概要(1/9)
表1-2 原子力政策大綱の概要(2/9)
表1-2  原子力政策大綱の概要(2/9)
表1-3 原子力政策大綱の概要(3/9)
表1-3  原子力政策大綱の概要(3/9)
表1-4 原子力政策大綱の概要(4/9)
表1-4  原子力政策大綱の概要(4/9)
表1-5 原子力政策大綱の概要(5/9)
表1-5  原子力政策大綱の概要(5/9)
表1-6 原子力政策大綱の概要(6/9)
表1-6  原子力政策大綱の概要(6/9)
表1-7 原子力政策大綱の概要(7/9)
表1-7  原子力政策大綱の概要(7/9)
表1-8 原子力政策大綱の概要(8/9)
表1-8  原子力政策大綱の概要(8/9)
表1-9 原子力政策大綱の概要(9/9)
表1-9  原子力政策大綱の概要(9/9)
表2 平成19年度原子力研究、開発及び利用に関する計画の目次
表2  平成19年度原子力研究、開発及び利用に関する計画の目次
表3 「特に重点的に取り組むべき事項及び着実に取り組むべき事項」一覧
表3  「特に重点的に取り組むべき事項及び着実に取り組むべき事項」一覧
表4 平成19年度一般会計 原子力関係経費予算額 総表
表4  平成19年度一般会計 原子力関係経費予算額 総表

<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)
平成17年度原子力研究開発利用基本計画 (10-02-01-15)
平成18年度原子力研究開発利用基本計画(1) (10-02-01-16)
平成18年度原子力研究開発利用基本計画(2) (10-02-01-17)
原子力立国計画(2006年8月、総合資源エネルギー調査会原子力部会報告) (10-02-02-15)

<参考文献>
(1)原子力委員会:平成19年度原子力研究、開発及び利用に関する計画(2007年3月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2007/kettei/kettei070327.pdf
(2)原子力委員会:原子力政策大綱(2005年10月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1.pdf
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ