<本文>
1.はじめに
原子力委員会は、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(原子力長期計画)を策定し、これに基づいて「原子力委員会及び原子力安全委員会設置法」第2条第3号に従って、関係行政機関の原子力研究開発に関する経費の見積及び配分について、企画、審議及び決定している。原子力委員会は平成17年に以下の文書をとりまとめた:「平成18年度の原子力関係施策の重点化の方向性」(4月)、「平成18年度の原子力関係施策の基本的考え方」(6月)、「原子力政策大綱」(10月)、「平成18年原子力関係費の見積りについて」(10月)。「原子力関係経費の見積りについて」は、関係行政機関が計画している施策の必要性や期待される成果が原子力政策大綱と「原子力関係施策の基本的考え方」に照らして妥当であるか、また、重点化・合理化・効率化が適切であるかについて評価したものである。平成18年度原子力研究、開発及び利用に関する計画」(原子力研究開発利用基本計画)は、上記の「原子力関係経費の見積りについて」の内容に関して政府部内調整が行われ、国会で成立した予算に基づき、原子力委員会によって配分計画として決定された。
同計画では、I.平成18年度における取組において、原子力政策大綱に掲げられている5つの分野ごとに原子力政策大綱の概要とそれに対応した主要な取組がまとめられている。II.具体的な施策では、個々の具体的取組が示され、III.予算総表では原子力関係予算の全体が示されている。
表1に「平成18年度原子力研究、開発及び利用に関する計画」の目次を示す。また、
表2-1、
表2-2、
表2-3、
表2-4、
表2-5、
表2-6、
表2-7、
表2-8、
表2-9に同計画において、各分野の取組の前にまとめられている原子力政策大綱の概要を示す。
2.平成18年度における取組
「平成18年度原子力研究、開発及び利用に関する計画」に述べられた上記の5分野のうち、「原子力研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化」と「原子力利用の着実な推進」分野の主要な取組内容の概略を以下にまとめて示す。
1)原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化
1-1)安全の確保
1-1-1)安全対策
(原子力安全委員会)
原子力施設の安全審査等に必要な最新の科学技術的知見等の調査。原子力安全行政の強化。安全審査指針類の体系的な見直しに係る国際的基準の調査。
(総務省)地方公共団体の消防防災対策について調査・研究し、指導を実施。
放射性物質災害発生時に備えた広域応援体制の整備促進のための資機材の整備。
(文部科学省)国が行う安全規制に係る指針・基準類の策定に必要なデータの整備。軽水炉燃料高度化に対応した燃料安全研究、炉材料等の高経年化に関する安全研究等を実施。
(経済産業省、文部科学省)原子力安全規制の着実な遂行。
原子炉等規制法に基づく保安規定の遵守状況検査。オフサイトセンター等の施設・設備、防護資機材の整備、防災訓練研修への支援。
(経済産業省)原子力保安検査官等の検査技術の向上のための実践的訓練設備の整備。自治体職員等を対象とした国民との
リスクコミュニケーション向上のための研修。原子力安全規制に関する立地地域との直接対話型コミュニケーションの展開。産学官連携の下で高経年化対策に係る基盤を整備、原子力安全対策を強化。
(国土交通省)放射性物質の輸送に係る安全規制・講習会の開催、安全基準策定に必要な調査解析。海上輸送に係る原子力災害対策の実施、環境影響評価システムの保守。
1-1-2)核物質防護
(文部科学省・経済産業省)国際動向を踏まえた核物質防護規制の着実な遂行。
(文部科学省)核物質防護施設・設備の維持管理。核物質防護システムの改善、防護設備・機器の更新。
1-2)平和利用の担保
(文部科学省)包括的核実験禁止条約の実施に係る研究開発の継続。IAEA
保障措置の強化、効率化のため、「統合保障措置」検討への積極的参画、保障措置技術の研究開発、国内保障措置制度の充実。民間機関による査察代行業務の積極的な活用を継続実施。平成16年9月より実施されている国内施設に対する統合保障措置の強化・効率化への取組。六ヶ所
再処理工場に対する保障措置実施に向けた体制整備。高速増殖炉サイクル技術等を活用したロシアの核兵器解体による余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力。国際的核不拡散体制の確立・強化に向けた核不拡散政策研究、遠隔監視技術開発、微量放射性物質の分析技術開発。
1-3)
放射性廃棄物の処理・処分
(文部科学省)東海再処理施設において、低レベル放射性廃棄物の減容・固化処理技術開発のため、低放射性廃棄物処理技術開発施設の建設を終了、試運転に
着手。RI・研究所等廃棄物の処分に関する検討。
(文部科学省・経済産業省)深地層の研究施設の建設を進め、
地層処分技術の信頼性向上と安全評価手法の高度化に向けた研究開発を継続。
(経済産業省)高レベル放射性廃棄物の地層処分に関して地層処分技術の信頼性向上技術開発を継続。最終処分地選定のための概要調査等を念頭に地質等調査技術開発を重点化して実施。地層処分基盤研究開発調整会議において地層処分技術信頼性向上研究開発について関連研究開発機関等と連携して計画的効率的推進。総合資源エネルギー調査会原子力部会において、高レベル放射性廃棄物処分対策、海外から返還される放射性廃棄物及びTRU廃棄物処分に係る制度等の検討。クリアランスレベル相当への
除染技術、検認技術及び低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分に関する技術調査。高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る安全規制制度の整備検討。クリアランスレベルの正確な測定確認のための機材整備。
廃止措置に伴って発生する放射性粉じんの挙動等の環境影響評価上必要なデータの整備、安全評価手法整備、廃止措置終了確認における検認手法調査。高レベル放射性廃棄物最終処分地確保、TRU廃棄物の処分に関する理解促進を図るためフォーラム開催、マスメディアを通じた広報の実施。
1-4)人材の育成・確保
(文部科学省)博士課程修了者等若手研究者の研究交流実施。革新的原子力システムに係る公募方式の研究開発を継続実施。RI・放射線技術者及び原子力エネルギー技術者のための研修、東京大学原子力専門職大学院への協力、連携大学院制度による原子力分野の人材育成。
(経済産業省)原子力保安検査官等の検査技術向上のための訓練設備整備。
原子力発電所等のメンテナンス人材育成について個別企業の枠を超えた先進的取組支援。
1-5)原子力と国民地域社会の共生
1-5-1)透明性の確保、広聴・広報の充実、国民参加、国と地方との関係
(原子力委員会)市民参加型の懇談会の継続開催。インターネット動画配信等を活用した広聴・広報活動。原子力政策大綱のフォローアップとして公開フォーラム等の開催。
(原子力安全委員会)シンポジウム開催等による国民との直接対話、双方向の意思疎通の推進。
(文部科学省)インターネット等を活用した国民の視点に立った情報提供、講師派遣、原子力施設見学会等の実施。日本原子力研究開発機構においては、マルチメディアによる情報発信を行い、国内外の原子力研究開発を支援。
(経済産業省)原子力安全規則に関する立地地域との直接対話型のコミュニケーションを展開。原子力発電に関する広報・広聴活動の効率化。プルサーマル計画について地元住民への講演会・シンポジウム開催。
1-5-2)学習機械の整備・充実
(文部科学省)原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金制度の着実な運用。パンフレット、インターネット等を活用した情報提供、教育現場のニーズに対応した授業等の提案などの取組支援。
(経済産業省)エネルギー教育に取り組む学校に対する支援制度拡充、副読本作成配布等による小中高等学校におけるエネルギー教育の推進。
1-5-3)立地地域との共生
(文部科学省・経済産業省)電源立地地域対策交付金の効果的な運用。
(経済産業省)高経年化炉と立地地域との共生実現、
核燃料サイクル施設の立地促進のため、立地地域の自主的・自立的発展に資する支援。
2)原子力利用の着実な推進
2-1)エネルギー利用
2-1-1)原子力発電
(経済産業省)原子力施設の高経年化対策など原子力安全対策の強化及び広聴・広報活動による国民に対する説明責任を果たす。2030年前後から始まる国内既設原子力発電所の代替需要と世界市場を踏まえて、高い安全性・経済性を備えた次世代軽水炉開発のためのフィージビリティ調査に着手。原子力発電所の給水流量計の高精度化のための技術開発推進。
(文部科学省)高速増殖原型炉「
もんじゅ」については、安全確保を大前提に改造工事を進め、運転再開に向けて計画推進。実用化戦略調査研究は第2期の取りまとめ結果を踏まえ、研究開発対象と研究資源配分の重点化を図り、研究開発を実施。
2-1-2)核燃料サイクル
(文部科学省)東海再処理施設では、新型転換炉「
ふげん」の
使用済燃料の再処理、運転・保守に関する技術開発を実施、知見を民間再処理施設に反映。MOX燃料製造技術及び関連技術(分析、保障措置、廃棄物管理等)の開発実施、製造条件確認試験を継続実施、「もんじゅ」用MOX燃料の製造開始。ウラン濃縮技術開発については、遠心機処理、工程内ウラン回収等の技術開発、施設設備の廃止措置実施。
(経済産業省)MOX燃料加工施設の安全性、信頼性向上のための調査、研究を継続実施。使用済燃料の経年変化及び健全性維持方法、長期間貯蔵するための設備及び機器の長期信頼性の確証試験。民間MOX燃料工場で採用する各種技術の適合性の確証のための試験について平成19年度まで補助。ウラン濃縮技術について国際的に比肩しうる技術レベルの新型遠心分離機の開発を平成21年度まで補助。大間原子力発電所に置いて実用化予定の全炉心MOX炉技術開発を着実に推進。プルサーマル計画について地元住民への講演会・シンポジウム開催による理解促進活動実施。核燃料サイクルに関する広聴・広報活動の効率的効果的実施。放射性物質の安全輸送に資するため、国際原子力機関の放射性物質安全輸送規則の改訂作業、国内法令への取入れ等を継続実施。
2-2)放射線利用
(文部科学省)大強度陽子加速器計画(J-PARC)では中性子利用実験装置(ビームライン)の整備に着手。放射光利用技術の高度化を目指した研究開発による原子力利用の新たな領域を開拓。RIビームファクトリーでは平成18年度の実験開始を目指す。重粒子線がん治療では、放射線医学総合研究所において、超難治性がんの治療法開発、より効果的・効率的な治療のための次世代照射法の開発を実施。荷電粒子・RI利用研究では、バイオ技術研究、環境研究、新規機能性材料開発及び食品照射データベース作成を実施。
(農林水産省・内閣府)沖縄などにおいて不妊虫放飼法による病害虫対策を継続実施。
3.各省庁における原子力関係予算の概要
表3に平成18年度の原子力関係の省庁別予算総表を示す。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)総論 (10-01-05-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)
平成16年度原子力研究開発利用基本計画 (10-02-01-14)
平成17年度原子力研究開発利用基本計画 (10-02-01-15)
平成18年度原子力研究開発利用基本計画(2) (10-02-01-17)
<参考文献>
1)原子力委員会:平成18年度原子力研究、開発及び利用に関する計画(2006年3月)
2)原子力委員会:原子力政策大綱(2005年11月)