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本原子力開発利用基本計画は、平成12年(2000年)11月に決定された原子力開発利用長期計画に示された基本方針を具体化するための実施計画であり、「平成13年度における原子力の研究、開発及び利用の展開についての考え方」、この基本認識のもとに策定された「具体的施策」及び「予算総表」から構成されている。以下に、これらを要約して記す(予算総表は割愛する)。なお、具体的施策に対応する主な項目を
表1−1 、
表1−2 にまとめて示す。
A.平成13年度における原子力の研究、開発及び利用の展開についての考え方
世界のエネルギーを取り巻く状況を見ると、アジアを中心とする発展途上国のエネルギー消費の急速な伸びも加わり、21世紀に向けて人口増大、環境悪化等の様々な問題を抱えている。これらはエネルギー問題と密接に関連しており、エネルギ一の安定供給確保と環境保全が重要な課題である。エネルギー資源のほとんどを海外に依存しているわが国にとって、国民生活を支えるために必要なエネルギーを安定的に確保するとともに、エネルギー消費に伴う環境負荷を最小限に抑え、また経済効率性を追求していくことが不可欠である。原子力発電は、供給安定性が高く、発電過程で温室効果ガスを排出せず、環境負荷が少ないという特色を持っており、既に国内総発電量の3分の1を超える電力を供給していることから、引き続き基幹電源に位置付け、最大限活用していくことが合理的である。また、
使用済燃料中の有用資源を回収・利用することで、原子力発電の特性を技術的に向上させるとともに、長期にわたるエネルギー供給を可能にする核燃料サイクル確立への取り組みを引き続き進めていく必要がある。
わが国は、原子力の平和利用に専心して、非核三原則、核兵器の不拡散に関する条約(
NPT)に基づく義務の完全履行を果たすとともに、各国共通の関心事である原子力安全問題や放射性廃棄物処分問題の解決に向けて、わが国がもつ技術と経験を活用しつつ国際社会と協カして主体的に取り組むことが重要である。また、アジア地城における今後の原子力利用の拡大の見通しを踏まえ、わが国の役割が果たせるように国際協力を進める。
放射線は、身近な国民生活や産業活動に広く利用され科学技術の発展や国民生活の向上に役立っている。今後も着実に放射線利用の拡大を図る。原子力に関する科学技術は、核融合を始めとする新たなエネルギー技術発展の基盤であるとともに、
レーザー、
加速器、原子炉等、未踏の領域へ挑戦するための有効なツールを提供するものであり、21世紀の人類の知的フロンティアの開拓とわが国の新産業の創出等に貢献するものと考えられる。
B.具体的施策
1.国民・社会と原子力の調和
1.1 安全確保・防災対策の充実強化
(1)安全確保の取り組み
原子力利用に当たっては、安全の確保が大前提であり、厳重な規制と管理の実施、安全研究の実施等を通じて、安全確保に万全を期すことが必要である。1999年秋に起きたJCO
臨界事故を踏まえて、一部改正した原子炉等規制法を着実に施行し、
安全審査・諸検査の充実等を図る。また、故障、トラブルから得られた教訓や内外の最新の知見を安全対策に適時適切に反映させることが重要であり、原子力安全規制等に関し申請・安全管理等の情報の電子化の推進及び安全確保のための技術的知見の充実を図る。
さらに、常に最新の科学技術的知見を安全規制に反映させるとともに、安全確保に必要な科学技術的基盤を高い水準に維持するため、原子力安全委員会が決定した安全研究年次計画に沿って、関係機関の連携を図りつつ原子力安全に関する研究を着実に推進する。
(2)原子力防災対策
臨界事故を教訓として成立した
原子力災害対策特別措置法の実効性を確実なものにするため、原子力災害時における迅速な初期動作、国と地方公共団体との有機的な連携、原子力災害の特殊性に応じた国の緊急時対応体制の強化を図る。
1.2 国民の信頼確保に向けた取組
原子力に対する国民の信頼を得るため、積極的な情報公開を行い、原子力行政の透明性を一層向上させるとともに、政策決定過程に対する国民参加を進めていく。具体的には、情報の受け手側の多様なニーズを踏まえ、各種広報媒体を用いた情報提供、体験型の広報、草の根型の広報等を体系的に実施する。また、教育現場において必要とされる原子力関係の情報提供、教育現場との情報交換、教師に対する研修等を実施する。
1.3 立地地域との共生
電源三法交付金等の制度について、より地域の発展に資するように制度の見直しを進めていくとともに、立地地域の要望を踏まえ、各種交付金及び補助金の制度の拡充、弾力化を図るなど地域活性化に向けた支援を充実、強化する。
2.原子力発電と核燃料サイクル
2.1 原子力発電の着実な展開
原子力発電は、わが国のエネルギーの安定供給と二酸化炭素排出量の削減の観点からも、引き続き基幹電源として最大限活用していくことが重要である。このため、原子力発電及び核燃料サイクルの安全性、経済性を向上させるにあたって、提案公募方式により革新的、独創的な実用原子力技術開発を行う。
2.2 核燃料サイクルの推進
平成9年(1997年)1月31日付け原子力委員会決定を踏まえた同年2月4日の閣議了解「当面の核燃料サイクルの推進について」に基づき、地元をはじめとする国民の理解の促進に努めつつ、六ケ所
再処理事業、プルサーマル計画、使用済燃料貯蔵対策等について着実な展開を図ることが重要である。
核燃料サイクルを技術的に確立するため、核燃料サイクル開発機構((現日本原子力研究開発機構)以下、サイクル機構)を中核として、安全確保及び地元の理解を前提に、東海再処理施設を活用した高燃焼度燃料や
軽水炉 MOX燃料 等の使用済燃料の再処理技術の開発及びこれに必要な研究等を進めることが重要である。使用済燃料の中間貯蔵については、2010年までに操業の開始ができるよう具体化に向けた取り組みを進める。
ウラン濃縮技術開発、海外ウラン探鉱、新型転換炉「ふげん」の研究開発の業務は、2000年12月、核燃料サイクル開発機構法施行令の一部を改正し、それぞれの業務の実施期限を定めた。このうち、ウラン濃縮技術開発及び海外ウラン探鉱の業務については、適切な過渡期間を置いて廃止することとしており、遠心分離機や探鉱技術等に関する開発成果や知見、人的資源の民間事業者等への移転を着実に進めていく。海外ウラン探鉱の権益については、国内民間企業への譲渡が着実に進められており、残る権益については、今後国内企業等に移転・売却が完了するまでの間、サイクル機構が適切に保全する。新型転換炉「ふげん」については、平成15年(2003年)に運転終了する予定であり、研究開発成果の集大成を行った後、
廃止措置を円滑に行うため、「ふげん」の原子炉システム固有の廃止措置技術の研究開発を行う。
2.3 放射性廃棄物の処理及び処分
使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律に基づき、2000年10月に設立された原子力発電環境整備機構による処分地の選定等の処分事業の具体化に向けた取組を進める。
また、地層処分技術の開発及びこれに必要な研究については、地層処分の技術的信頼性並びに処分予定地の選定及び安全基準の策定に資する技術的拠り所を示す技術報告書「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ−」の評価結果を踏まえ、地層処分基盤研究施設、地層処分放射化学研究施設等を活用し、地層処分技術の信頼性の確認、安全評価手法の確立に向けて研究開発を推進する。高レベル放射性廃棄物処分の推進を図る上で技術的にも社会的にも重要な深地層の研究施設計画については、岐阜県及び北海道における計画を地元の理解を得て推進する。
分離変換技術に関する研究開発については、核燃料サイクル技術全体との整合性を考慮し、適切に評価を行いつつ着実に実施する。
低レベル放射性廃棄物については、放射能レベルの高低、核種等に応じて適切に区分し、その区分に応じて安全かつ合理的な処理処分を行うこととする。特に、RI・研究所等廃棄物の処分については、原子力研究のみならず、大学等の学術研究、研究活動全体及び医療活動等にかかわる重要な課題であり、処分の具体化に向けた取組を推進する。
また、廃棄物の安全かつ合理的な処理処分及び再利用を行う観点から、放射性物質としての特殊性を考慮する必要のないレベル(クリアランスレベル)の導入は重要であり、原子力安全委員会において検討が進められているところである。
一方、
原子力施設の廃止措置については、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉(
JPDR)等の解体実地試験の成果を路まえ、原子炉等の解体技術の一層の高度化を進める。さらに、原子力施設の廃止措置安全対策については、解体工事における環境影響評価技術、エンジニアリング及び規準化に係る調査等を行う。また、実用発電用原子炉の廃止措置に備え、解体廃棄物の合理的な処理・処分方策に向けた技術開発を行う。
3.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発
高速増殖炉サイクル技術の研究開発にあたっては、サイクル機構は、電気事業者等との協力により、高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を提示するための「FBR サイクル開発戦略調査研究」を推進する。
高速増殖原型炉「もんじゅ」については、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の中核であり、今後、発電プラントとしての信頼性実証とその運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という所期の目的を達成するため、早期の運転再開を目指す。また、「もんじゅ」及びその周辺施設については、国際協力の拠点として整備し、内外の研究者に開かれた体制で研究開発を進め、その成果を広く国内外に発信することとする。このため、地元の理解を前提に運転再開に向けた所要の改善工事を行うための準備を進めることが重要である。
4.原子力科学技術の多様な展開
物質の起源の探索、生命機能の解明、新材料の創製等に有効な手段となる大強度陽子加速器計画について、建設に着手するとともに、RIビーム加速器施設について、着実に建設を進める。また、未来のエネルギーの選択肢の幅を広げ、その実現性を高める観点から、核融合の研究開発を推進する。現在、国際協力によって進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、EU(欧州連合)及びロシアと協力し、工学設計活動を完了させるとともに、ITER建設の要件の明確化を図るための政府間協議を3極間で進めるとともに、政府間協議を技術的な面から支援する調整技術活動を実施する。
さらに、革新的な原子炉についての研究開発を行うとともに、原子核科学研究、X線レーザー等の光量子科学、放射光科学等の分野における基礎・基盤研究を推進する。
5.国民生活に貢献する放射線利用
今後も放射線の幅広い適用を目指した研究開発を推進する。一方、臨界事故等により、国民の放射線に対する不安感が増大していることを厳しく受け止め、これに応えるために、低線量放射線の人体影響について、疫学研究、動物実験、細胞・遺伝子レベルの研究、解析等の様々な研究手法を用いて、関係機関との連携を図りつつ、基礎的な研究を総合的に推進するとともに、高線量被ばく時における緊急被ばく医療に関する研究を充実させる。さらに、高齢化が進行しているわが国の状況に的確に対応するため、効果的な放射線診断・活用を目指した取り組みを強化し、このための研究開発を推進する。また、放射線利用を支える基礎・基盤的な研究を充実するとともに、その成果について実用化を図っていく。
6.国際社会と原子力の調和
わが国は、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の締約国として、国際原子力機関(
IAEA)の保障措置の適用など本条約に基づく国際的責務を誠実に履行するとともに、追加議定書の適切な実施、「統合保障措置」の検討への参画等、IAEAの保障措置の強化、効率化に積極的に取り組む。また、六ケ所再処理施設への保障措置の適用等に適切に対応できるよう国内保障措置実施体制の整備等を行う。さらに、核兵器解体により発生する余剰兵器プルトニウムの管理・処分については、サイクル機構の高速増殖炉サイクル技術等を活用して協力を行う。
国際協力の推進に関しては、アジア原子力協力フォーラム、RCA(IAEA会合での勧告に基づく「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定」)等の協力枠組みを活用し、アジア地域のエネルギー利用や原子力の安全性の向上等に資する協力を進める。また、欧米諸国等との間で、幅広い原子力科学技術分野等における協力を進める。
<図/表>
<関連タイトル>
平成11年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-09)
平成12年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-10)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)総論 (10-01-05-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)
<参考文献>
(1) 原子力委員会ホームページ:平成13年度原子力研究、開発及び利用に関する計画(案),(2001年12月20日)
(2) 原子力委員会ホームページ「第12回原子力委員会定例会議」配付資料/平成13年度原子力研究、開発及び利用に関する計画(案)について,(2001年12月20日)