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<概要>
 原子力開発利用基本計画は、原子力開発利用を計画的かつ効率的に推進させることを目的として毎年度策定される計画であり、原子力委員会が平成6年(1994年)6月に決定した「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」(原子力開発利用長期計画)において示された基本方針を具体化するための現実に即した実施計画といえる。本計画は、原子力委員会及び原子力安全委員会がそれぞれの所掌に応じて策定する計画に基づき、内閣総理大臣が決定するものである。本稿は、平成11年(1999年)4月に策定された平成11年度原子力研究、開発及び利用に関する計画を要約したものである。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 本原子力開発利用基本計画は、平成6年(1994年)6月に決定された原子力開発利用長期計画に示された基本方針を具体化するための実施計画としての性格をもっている。
 本基本計画は、(1)平成11年度の原子力の研究、開発及び利用の展開についての考え方 (2)具体的施策(10項目)、(3)予算総表から構成されている。以下に、考え方および具体的施策を要約して述べるととも、予算総表( 表1表2表3 および 表4 )を示す。

2.平成11年度の原子力の研究、開発及び利用の展開についての考え方
 産業革命以来、人類は化石燃料の利用により飛躍的に発展したが、人口問題や地球環境問題等により大量消費、大量廃棄の文明からリサイクル文明へ脱却することを求められている。このような状況の中で、原子力については、人類社会と自然環境との調和のためにどのように貢献することができるのかを問い直す必要がある。
 この問いかけを念頭において、21世紀の社会を展望するとき、資源論的観点のみならず、環境論的観点からもエネルギー源としての原子力の持つ意義は大きいと考えられる。特に、平成9年の「気候変動に関する国際連合枠組み条約第3回締結国会議」(COP-3)において温室効果ガス削減目標が合意されたことを受けて、世界的に省エネルギー、非化石エネルギーの開発導入等の取組が進められているが、その中で発電過程において二酸化炭素を排出しない原子力発電の重要性も認識され、我が国においては、エネルギー供給側の対策の柱の一つとして位置付けられているところである。
 このような意義を持つ原子力の研究、開発及び利用について、今後、人類社会と自然環境との調和という観点から更に追及されるべき方向は、安全性の確保を大前提として、エネルギー需要を長期にわたって満たすことができ、かつ、環境負荷の低減に配慮したシステムを構築することである。そのためには、使用済み燃料に含まれるプルトニウム等をリサイクルすることにより、ウラン資源を有効利用するとともに、放射性廃棄物の持つ環境への負荷を低減する核燃料サイクルの確立に取り組むことが必要である。また、放射性廃棄物は原子力の利用に伴い必然的に発生するものであり、その対策を着実に進めなければならない。
 一方、我が国が国際的な信頼を得つつ核燃料サイクルを推進していくためには、原子力の平和利用に徹する我が国の姿勢を常に国際社会に明らかにし、理解を得ていくことが必要である。
 また、原子力は、光、荷電粒子、中性粒子を利用するミクロ世界の先端科学技術でもあり、重粒子線を用いたガン治療や新元素合成といった基礎物理研究など先進的な研究開発を進めるとともに、食品照射、品種改良、医療、環境保全など生活に密接な放射線利用を推進することにより、人類の福祉の向上や将来を支える知的基盤の形成に貢献していくことが重要である。

3.具体的施策
3.1 原子力安全対策の推進
 原子力の開発利用に当たっては、安全の確保が大前提であり、厳重な規制と管理の実施、安全研究の実施等を通じて、安全確保に最大限の対策を講じているが、一連の事故等の教訓を踏まえ、行政庁において法令に基づく安全審査、運転管理・監督体制等の実効性の向上に引き続き取り組むとともに、原子力安全委員会においても、各種安全審査指針・基準等の充実を含め、より一層の審査機能等の充実、強化に努める。
 一方、核燃料サイクル開発機構((現日本原子力研究開発機構)以下「サイクル機構」という)や日本原子力研究所((現日本原子力研究開発機構)以下「原研」という)等においては、施設、設備の老朽化・安全性向上対策や職員の安全意識の向上といったソフト面の対策を引き続き推進する。
 また、環境放射能調査については、環境中の放射能レベルに関する調査研究を進めるとともに、原子力軍艦の寄港に伴う放射能測定についても適切に実施する。防災対策については、その実効性を高める観点からの調査を行うなど、その充実を図る。
3.2 国民の理解促進に向けた取組み
 原子力の開発利用に当たっては、国民の理解と協力を得ることが不可欠であり、原子力に関する国民の正しい認識を深め、国民一人一人が原子力について考え、判断できるような環境づくりを行うことが重要である。特に、旧動燃(核燃料サイクル開発機構を経て現日本原子力研究開発機構)における一連の事故の際の情報提供の不適切さへの反省を踏まえ、関係機関においても適切かつ迅速な情報の公開・提供についての取組みを引き続き推進するとともに、前年度に引き続き、原子力政策円卓会議の開催、シンポジウム等の様々な場を活用した対話の促進、草の根的な広報等の施策について充実、強化を図る。
3.3 原子力施設の立地の促進
 原子力発電施設等の立地に当たっては、立地地域住民の理解と協力を得ることが重要である。このため、地域住民の福祉の向上等を目的として、電源三法に基づき当該施設の立地の初期段階から運転終了に至るまで各段階に応じ、ソフト、ハードの両面にわたる各種の支援措置が講じられているが、さらに、立地地域の要望を踏まえつつ、若年層の雇用機会の創出等、産業振興による地域活性に向けた支援を充実、強化する。
また、リサイクル燃料資源中間貯蔵施設の初期的な立地促進策を講じる。
3.4 軽水炉体系による原子力発電の推進
 軽水炉については、今後も相当期間にわたって引き続き我が国の原子力発電の主流を担っていくと考えられることから、信頼性及び稼働率の向上、作業員の被ばく低減化の観点から、自主技術を基本として技術の高度化を図り、我が国に適合した軽水炉を確立するため努力を継続し、将来の軽水炉のさらなる高度化に向けた技術開発を行う。
 今後、設置が予定される世界初の改良型加圧水型軽水炉(APWR)に対しては、国が安全審査を行う上で不可欠な安全解析コードの改良を図るとともに、燃料の高燃焼度化等に対応した燃料集合体の信頼性実証試験等を行う。
 ウラン濃縮技術開発及び海外ウラン探鉱の業務のうち、ウラン濃縮については、新素材高性能遠心機の高度化の共同研究を継続・完了する。また、ウラン濃縮原型プラントの役務運転を平成10年度から3年を限度に継続し、技術成果の取りまとめを行うとともに、ウラン濃縮技術及び人材の適切かつ円滑な移転を図っていく。
 海外ウラン探鉱については、成果の取りまとめを行うとともに、要員については、探鉱技術の応用を図る観点から適切な配置換えを行う。さらに権益については、原則として探査経費を拠出せず維持できる範囲内において維持しつつ、適切に売却を進める。
3.5 核燃料サイクルの推進
 エネルギー資源に恵まれないわが国としては、将来の世界のエネルギー需給を展望しながら長期的なエネルギーセキュリティの確保を図るとともに、使用済燃料再処理し、回収されたプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの確立を原子力政策の基本としている。
 このため、原子力委員会決定(1997.1.31)を踏まえ、1997年2月4日の閣議了解「当面の核燃料サイクルの推進について」に基づき、地元をはじめとする国民の理解の促進に努めつつ、六ケ所再処理事業、プルサーマル計画、使用済燃料貯蔵対策等について着実な展開を図る。また、サイクル機構は、核燃料サイクルを技術的に確立するため、安全確保及び地元の理解を前提に、高速増殖炉及びこれに必要な研究、高燃焼度燃料や使用済MOX燃料をはじめとする使用済燃料の再処理技術の開発・研究等を進めるとともに、先進的な核燃料サイクルの技術課題に長期的観点から取組むことにする。
 サイクル機構の新型転換炉「ふげん」については、1998年から5年間運転した後、運転を停止する。なお、運転停止後の廃止措置を円滑に行うため、「ふげん」の原子炉システム固有の廃止措置技術の開発及びこれに必要な研究を実施する。また、運転停止中の高速増殖原型炉「もんじゅ」については、安全確保を大前提に、適切な維持管理に努める。
3.6 バックエンド対策の推進
 放射性廃棄物の処理処分と原子力施設の廃止措置は、整合性のある原子力開発利用の推進及び国民の理解と信頼を得る観点から最も重要な課題である。
 使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、原子力委員会・高レベル放射性廃棄物処分懇談会の報告書及びそれを踏まえた原子力委員会決定につづき、実施主体の設立等処分事業の具体化に向けて諸制度の整備等を進める。また、地層処分技術の開発及びそれに必要な研究は、サイクル機構を中核的推進機関として、原子力バックエンド対策専門部会報告書に基づき、2000年前までに地層処分の技術的信頼性並びに処分予定地の選定及び安全基準の策定に資する技術的根拠を明らかにするために、関係研究機関の密接な協力の下、地層処分システムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究、これら地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を推進するとともに、地層処分の事業化に向けた調査・研究を行う。また、高レベル放射性廃棄物処分の推進を図る上で技術的、社会的に重要な深地層の研究施設については、岐阜県及び新たに提案された北海道における計画を地元の理解を得て促進する。
 その他の超ウラン(TRU核種を含む放射性廃棄物、ウラン廃棄物等、低レベル放射性廃棄物については、区分に応じた合理的処理処分方策の検討を進める。なお、廃棄物の安全かつ合理的な処理処分及び再利用の観点から、放射性物質としての特殊性を考慮する必要のないレベル(クリアランスレベル)の導入は重要であり、これについては原子力安全委員会において検討を進める。
 原子力施設の廃止措置については、日本原子力発電(株)の東海発電所が1998年3月末に運転が停止されたことから、国民の関心が高まってきている。このため、原子炉の廃止措置に係る技術開発については、原研の動力試験炉(JPDR)の解体撤去によって得られた成果を踏まえ、実用発電用原子炉の廃止措置に備えて、解体廃棄物の合理的な処理・処分方策に向けた技術開発を行う。
3.7 核不拡散対策の充実強化
 我が国は、原子力の開発利用を平和目的に限るとの基本原則の下、平和利用と核不拡散を両立させる枢要な国際的枠組みである核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の締約国として、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の適用など本条約に基づく国際的責務を誠実に履行するとともに、わが国の自発的努力として国際貢献を積極的に行っている。国際的な核不拡散を巡る最近の動向として、
・インド・パキスタンの核実験を踏まえた国際的核不拡散体制の検討
・核兵器解体により発生する核分裂性物質の管理・処分の検討
IAEA保障措置の強化・効率化のため追加議定書の早期締結と実施に向けての検討
等がある。我が国は、原子力平和利用国家としてこのような国際的な核不拡散の強化に向けた取組みに積極的に貢献していくとともに、効果的かつ効率的な査察活動の実施に向け、国内体制の整備等を行う。
3.8 原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 原子力の幅広い分野において、基礎研究から応用研究までの研究開発を総合的に推進することは、エネルギー源の確保及び放射線利用の進展はもとより、科学技術全体の進歩に大きく貢献し、より豊かな国民生活の実現に資するものである。このため原子核・原子科学、X線レーザー等の光量子科学、中性子科学等の分野における基礎研究及び基盤技術開発を推進する。また、高温工学試験研究等の原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発を推進するとともに、医療、工業、環境保全、基礎研究等の幅広い分野に貢献する放射線利用研究を進める。さらに、核融合について研究開発を着実に推進する。現在、国際協力によって進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、本年夏以降の米国の参加が困難である状況の下、引き続きEU(欧州連合)・ロシアとの協力により工学設計活動を着実に進めるとともに、ITER建設の要件の明確化等について関係極間で積極的に協議を進める。
3.9 国際協力の推進
 原子力の開発利用に当たって、二国間の協力はもとより、各国に共通する問題については、国際機関等における協力活動を通じて、各国の協調のもとに問題の解決を図っていくことが重要である。我が国は、平和利用先進国として各国の原子力利用の適切な推進に貢献することを基本に、主体的に国際協力を進める。
3.10 人材の養成と確保
 原子力利用の安全確保の充実や関連する先端的技術開発の着実な推進を図るためには、その担い手となる優秀な人材の養成と確保に努力することが不可欠である。このため政府関係研究開発機関における人材の養成と確保に加え、多様な研修活動を推進する。
<図/表>
表1 平成11年度原子力関係予算総表
表1  平成11年度原子力関係予算総表
表2 平成11年度科学技術庁一般会計原子力関係予算総表
表2  平成11年度科学技術庁一般会計原子力関係予算総表
表3 平成11年度各省庁(科学技術庁を除く)一般会計原子力関係予算総表
表3  平成11年度各省庁(科学技術庁を除く)一般会計原子力関係予算総表
表4 平成11年度電源開発促進対策特別会計原子力関係予算総表
表4  平成11年度電源開発促進対策特別会計原子力関係予算総表

<関連タイトル>
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
平成8年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-06)
平成9年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-07)
平成10年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-08)

<参考文献>
(1)原子力委員会:平成11年度原子力研究、開発及び利用に関する計画(全25ページ)、科学技術庁(平成11年4月)
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