<本文>
I.平成12年(2000年)度における原子力の研究、開発及び利用の展開についての考え方
1999年9月に発生したウラン加工工場における
臨界事故は、安全確保や防災対策にとどまらず、エネルギー・セキュリティの観点からみたわが国の核燃料加工等のあり方、国内の原子力産業のあり方、経済的効率性の追求に伴う課題等、今後当委員会が原子力政策を審議するに当たって考慮すべき課題を投げかけている。原子力のエネルギー供給に果たす役割や意義について国民の理解を一層深め、原子力攻策への信頼を得ていくとともに、原子力の長期的な定着のために
原子力施設と立地地域の共生を図っていくことがますます重要な課題となっている。
人類が将来にわたって経済社会の健全な発展を図り豊かな生活を実現するにはエネルギーの長期的安定供給が必要であり、エネルギーの安定供給確保は国家の重要な政策課題となっている。原子力は、供給安定性が高く、発電過程で炭酸ガスを発生しない等の特徴を有する最も有力なエネルギー源の一つであり、わが国では既に総発電電力量の3割以上を担う重要なエネルギー源となっている。また、ウラン資源の有効利用、放射性廃棄物の環境への負荷の低減を図るため、放射性廃棄物対策を含めた核燃料サイクルの確立に向けた取組を引き続き進めていく必要がある。また、エネルギー需要や供給の在り方は国民生活に直接的に関連する問題であり、エネルギー源としての原子力利用は、今後のエネルギー需要と供給構成に関し政府や国民が様々な場において行う検討を踏まえて進めることが重要である。なお、「核兵器の究極的廃絶」と「原子力の平和利用」は、国際社会が取り組むべき共通の課題であり、わが国としては原子力の平和利用に徹しつつ、国際的な核不拡散体制の維持・強化に貢献するとともに、これまで培ってきた平和利用技術をもとに国際的な核不拡散の取組に積極的に協力していくことが重要である。さらに、原子力の分野でフロントランナーとなった今日、世界に対してその成果を発信していくとともに、技術的蓄積や経験をもとに、国際協力において中核的な役割を担うことが求められている。一方、原子力の研究開発は物質やエネルギーの根源に対する知識をもたらし先端的な研究開発を牽引するとともに、放射線の利用は健康の増進や生活の利便性向上に大きな貢献を果たしてきた。今後も医療をはじめとする国民生活に身近な分野における放射線利用や未来を拓く先端的な研究開発の展開には大きな期待が寄せられており、科学技術創造立国を目指すわが国としては、研究者・技術者のポテンシャルを結集し、社会的・経済的ニーズに対応した研究開発を推進していかなければならない。
II.具体的施策
平成12年度の具体的な施策について、政府予算を踏まえ、個々の施策の概要を記述するとともに、当該施策の主な項目を
表1 、
表2 、
表3 に示した。
1.原子力安全対策の推進
1) 原子力安全規制の抜本的強化
原子力利用に当たっては、安全の確保が大前提であり、厳重な規制と管理の実施、安全研究の実施等を通じて、安全確保に万全を期すことが必要である。1999年9月30日に(株)ジェー・シー・オー東海事業所のウラン加工工場で発生した臨界事故を受け、可決成立した
原子炉等規制法の一部改正を着実に施行し、
安全審査・諸検査の充実等を図る。また、原子力安全委員会については、中央省庁等改革による2001年1月からの内閣府への移行に先立ち、2000年4月からその事務局機能を科学技術庁より総理府(現内閣府)に移管し、独立性を高めるとともに人員の拡充等事務局機能の充実強化を図る。
2)
原子力災害に係る防災対策の抜本的強化
上述の臨界事故への対応を教訓として、わが国における原子力災害に対する対策について、迅速な初期動作、国と地方公共団体との有機的な連携、原子力災害の特殊性に応じた国の緊急時対応体制の強化、原子力事業者の責務の明確化等の必要性が明らかとなった。このような現状に鑑み、原子力災害に係る対策に特別な措置を講ずるため、1999年12月に原子力災害対策特別措置法が可決成立した。今後、同法を適切に運用することによって原子力災害対策の抜本的強化を図る。
2.国民の理解促進に向けた取組
原子力利用に当たっては、国民の理解と協力を得ることが不可欠であり、原子力に関する国民の認識を深め、国民一人一人が原子力について考え、判断できるような環境づくりを行うことが重要である。具体的には、適切かつ迅速に情報を公開・提供し、国民各界各層の意見を十分に聞き、シンポジウム等の様々な場を活用した対話を促進するなど、政策の決定過程の透明性の向上のための施策等の充実を図る。また、諸外国との密接な情報交換、国際機関等の活動への積極的な参加から得られる成果により、わが国における原子力ヘの理解の促進を図る。
3.原子力施設の立地の促進
原子力発電施設等の立地に当たっては、立地地域住民の理解と協力を得ることが重要である。このため、原子力発電施設等の立地地域住民の福祉の向上等を目的として、電源三法に基づき、当該施設の立地の初期段階から運転終了に至るまで各段階に応じ、ソフト・ハードの両面にわたる各種の支援措置が講じられているところであるが、さらに、立地地域の要望も踏まえ、予算措置の増額だけでなく、各種交付金・補助金の統合等による地域活性化に向けた支援を充実・強化する。
4.
軽水炉体系による原子力発電の推進
軽水炉については、今後も相当期間にわたって引き続きわが国の原子力発電の主流を担っていくと考えられることから、信頼性及び稼働率の向上、作業員の被ばく低減化等の観点から、自主技術を基本として技術の高度化を図り、わが国に適合した軽水炉を確立するため努力を継続し、将来の軽水炉のさらなる高度化に向けた技術開発を行う。一方、軽水炉の安全性を確保する観点から、
燃料集合体の信頼性実証試験等を行う。
核燃料サイクル開発機構(サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))における
ウラン濃縮技術開発及び海外ウラン探鉱の業務については、適切な過渡期間を置いて廃止することとしている。
このうち、ウラン濃縮については、ウラン濃縮原型プラントの役務運転を平成12年度で終了し、技術成果の取りまとめ等を行うとともに、濃縮機器の廃棄に係る技術の開発及びこれに必要な研究等を行う。
海外ウラン探鉱については、適切に成果の取りまとめを行う。権益については、適切に売却を進める。ただし、国内企業による承継の意志の最終確認のための期間を考慮した、保全のための必要最低限の探査経費については拠出する。以上の基本的考え方に基づき、権益を適切に取り扱うこととする。
また、提案公募方式により安全性・経済性を向上させる革新的・独創的な実用原子力技術開発課題を大学等から発掘し、原子力発電及び核燃料サイクルの安全性・経済性を向上させるための技術開発について補助を行う。
5.核燃料サイクルの推進
エネルギー資源に恵まれないわが国としては、将来の世界のエネルギー需給を展望しながら長期的なエネルギーセキュリティの確保を図るとともに、環境への負荷の低減を図っていくため、
使用済燃料を
再処理し、回収されたプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの確立を原子力政策の基本としている。このため、1997年1月31日付け当委員会決定を踏まえた同年2月4日の閣議了解「当面の核燃料サイクルの推進について」に基づき、地元をはじめとする国民の理解の促進に努めつつ、六ケ所再処理事業、プルサーマル計画、使用済燃料貯蔵対策等について着実な展開を図ることが重要である。また、核燃料サイクルを技術的に確立するため、サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)を中核として、安全確保及び地元の理解を前提に、高速増殖炉及び先進的な核燃料リサイクル技術の開発及びこれに必要な研究、東海再処理工場を活用した
高燃焼度燃料やMOX燃料等の使用済燃料の再処理技術の開発及びこれに必要な研究等を進める。なお、英国におけるMOX燃料製造データ問題については、一刻も早く適切な対策が講じられ、地元を始めとする国民の信頼を回復していくことが重要である。また、使用済燃料の貯蔵については、貯蔵の事業に関する規制の整備に伴い、中間貯蔵施設の安全性確認を行うクロスチェックに用いる解析コードの改良及びこれ必要な試験を実施する。
サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)では、これまでの研究開発で得られた知見を踏まえ、電気事業者の協力をもとに、FBRサイクルの開発戦略を明確にする上で必要な判断材料を整備し、安全性の確保を前提として、軽水炉サイクルに比肩する経済性等を達成し得る実用化概念の構築及び実用化に向けた研究開発シナリオの策定(FBRサイクル開発戦略調査研究)を行う。また、運転停止中の高速増殖原型炉「もんじゅ」については、安全確保を大前提に適切な維持管理に努める。新型転換炉「ふげん」については、平成10年度から5年間運転した後、運転を停止する。なお、運転停止後の
廃止措置を円滑に行うため、「ふげん」の原子炉システム固有の廃止措置技術の開発及びこれに必要な研究を実施する。
6.バツクエンド対策の推進
放射性廃棄物の処理処分と原子力施設の廃止措置は、整合性のある原子力利用の推進及び国民の理解と信頼を得る観点から最も重要な課題である。使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、当委員会の高レベル放射性廃棄物処分懇談会報告書等に基づき、2000年目途の処分実施主体の設立をはじめとする処分の具体化に向けた取組を進める。処分事業の具体化については、2000年3月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律案」が国会に提出されたところであり、引き続き処分事業の具体化に向けた取組を進める。また、
地層処分技術の開発及びこれに必要な研究については、地層処分の技術的信頼性並びに処分予定地の選定及び安全基準の策定に資する技術的拠り所を示す技術報告書「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ−」をサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)が1999年11月に作成しており、その評価を行うとともに、引き続き地層処分技術の信頼性の確認、安全評価手法の確立に向け、関係研究機関の密接な協力の下、地層処分システムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究、これら地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を推進する。
また、高レベル放射性廃棄物処分の推進を図る上で技術的にも社会的にも重要な深地層の研究施設については、岐阜県及び北海道における計画を地元の理解を得て推進する。その他、ウラン廃棄物等、低レベル放射性廃棄物については、区分に応じた合理的処理・処分方策の検討を進める。また、RI・研究所等廃棄物の処分については、原子力研究のみならず、大学等の学術研究等わが国の研究活動全体にかかわる重要な課題であり、適切な処分対策を推進する。なお、廃棄物の安全かつ合理的な処理処分及び再利用を行う観点から、放射性物質としての特殊性を考慮する必要のないレベル(クリアランスレベル)の導入は重要であり、これについては、原子力安全委員会において検討が進められているところである。
一方、原子力施設の廃止措置については、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉(JPDR)の解体撤去による解体実地試験で得られた成果を踏まえ、原子炉解体技術の一層の高度化を進める。また、実用発電用原子炉施設の解体撤去工事の具体的方法を確立するため、廃止措置のエンジニアリング開発調査を行う。さらに、実用発電用原子炉の廃止措置に備え、解体廃棄物の合理的な処理・処分方策に向けた技術開発を行う。
7.核不拡散対策の充実強化
わが国は、核兵器の不拡散に関する条約(
NPT)の締約国として、国際原子力機関(
IAEA)の保障措置の適用など本条約に基づく国際的責務を誠実に履行するとともに、国際的な核不拡散の強化に向けた取組にも積極的に貢献していく。
8.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
原子力の幅広い分野において、基礎研究から応用研究までの研究開発を総合的に推進することは、エネルギー源の確保及び放射線利用の進展はもとより、科学技術全体の進歩に大きく貢献し、新産業の創出が期待されるなど、より豊かな国民生活の実現に資するものである。わが国は、原子核科学、X線レーザー等の光量子科学、中性子科学等の分野における基礎研究及び基盤技術開発、および、高温工学試験研究等原子力利用分野における研究開発を推進するとともに、医療、工業、環境保全、基礎研究等の幅広い分野に貢献する放射線利用研究を進める。さらに、現在国際協力によって進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、引き続き EU(欧州連合)・ロシアとの協力により、工学設計活動を着実に進めるとともに、ITER建設の要件の明確化等について関係極間で積極的に協議するなど必要な検討等を進める。(国際協力の推進以下の内容については
表4 を参照されたい)
<図/表>
<関連タイトル>
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
平成9年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-07)
平成10年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-08)
平成11年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-09)
<参考文献>
(1) 原子力委員会:平成12年度原子力研究、開発及び利用に関する計画(全24ページ)、科学技術庁(2000年3月)