<本文>
1.はじめに
原子力開発利用基本計画は、平成6年(1994年)6月に決定された原子力開発利用長期計画に示された基本方針を具体化するための実施計画としての性格をもっている。
本基本計画は、(1)総論、(2)各論(11項目)、(3)予算総表から構成されている。以下に総論、各論の要約を述べるととも、予算総表(
表1 、
表2 、
表3 および
表4 )を<図/表>に示す。
2.総論
総論では、現状分析とこれを踏まえて重点をおいた施策について記されている。
原子力を巡る最近の状況を見れば、資源の有限性やわが国のエネルギー供給構造の脆弱性といった資源論的観点からの必要性に加え、環境論的観点から原子力の重要性が見直されている。特に、1997年12月に京都で開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議」(COP-3)において、温室効果ガス削減に係る数値目標が盛り込まれた議定書が採択されたが、これによって課せられた国際的責務を果たすために、エネルギーを大量に消費するわが国は、広範な政策分野にわたる対策と国民各層における取り組みを必要としている。この中で、発電過程において二酸化炭素を排出しない原子力発電を一層推進することは、エネルギー供給側の対策として重要な課題であると述べている。
しかしながら、動力炉・核燃料開発事業団(動燃(現日本原子力研究開発機構))の一連の事故やその際の不適切な対応等を契機として、原子力政策についての国民の不安感、不信感が高まっており、それを払拭していくことは緊急の課題である。これを実現するためには、まず第一に、事故等の当事者である動燃の抜本的な改革を行い、国民から信頼される法人に改組することが必要不可欠である。また、国においては、もんじゅ事故後、原子力政策円卓会議を開催し、国民各層との幅広い対話を行うとともに、その議論を受けて、政策決定過程の透明性の向上や高速増殖炉開発の進め方についての再検討等を進めてきたが、今後ともこのような取り組みを着実に続けていく必要がある。加えて、原子力開発利用に携わる全ての関係者が、
原子力施設の安全確保の徹底と適切な情報の公開を行い、国民の理解を得る努力を続けていくことが重要であると述べている。
他方、電力についてより一層の効率化の要請が高まる中で、原子力発電においても他の電源と同様に技術革新や運転管理の合理化等により、安全性を向上しつつコストダウンを行う努力が行われている。
このような現状認識のもと、平成10年度は特に以下の事項に重点を置きながら、具体的施策を展開すると結んでいる。
・国民に開かれた原子力政策の展開
・安全確保対策の強化
・核燃料サイクルの着実な展開
・動燃の抜本的改革
・原子力科学技術の多様な展開
3.各論
上述の重点をおいた具体的施策にスペースを割きつつ、11項目について概要を記すが、必要に応じて実施項目の要点であるヘッドラインをa,b,c,−−−に示す。
(1) 動燃の抜本的改革
高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故及び東海
再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故やその後の不適切な対応により、国民の不信を招いた動燃に関しては、経営、事業等を抜本的に見直し、安全確保を最優先に、地元重視を基本とし、国民に対する適切な情報公開を行うなど、社会に開かれた体制を持つ新法人(核燃料サイクル開発機構(仮称)(現日本原子力研究開発機構))に改組する。
a.経営の刷新、b.安全確保の機能強化、c.社会に開かれた体制
(2) 安全確保対策の総合的強化
原子力の開発利用に当たっては、安全の確保が大前提であり、厳重な規制と管理の実施、安全研究の実施等を通じて、安全確保に最大限の対策を講じているが、今後とも行政庁において、法令に基づく安全審査、運転管理・監督体制等の実効性の向上に引き続き取り組むとともに、原子力安全委員会においても、各種安全審査指針・基準等の充実を含め、より一層の審査機能等の充実、強化に努める。また、高経年化対策等の
原子力発電所の安全性・信頼性の維持、向上のための対策の推進を図る。
一方、環境放射能調査については、環境中の放射能レベルに関する調査研究を進めるとともに、原子力軍艦の寄港に伴う放射能測定についても適切に実施する。また、防災対策については、再処理施設に係る原子力防災対策についての研修の充実強化及び原子力防災支援機能を強化するための調査検討を行うなど、その充実を図る。
(3) 核不拡散対策の強化
わが国は、原子力の開発利用を平和目的に限るとの基本原則の下、平和利用と核不拡散を両立させる枢要な国際的枠組みである核兵器の不拡散に関する条約(
NPT)の締約国として、国際原子力機関(
IAEA)の保障措置の適用など本条約に基づく国際的責務を誠実に履行するとともに、わが国の自発的努力として国際貢献を積極的に行っている。国際的な核不拡散を巡る最近の動向として、
・早期発効が期待される包括的核実験禁止条約(CTBT)の実施体制の検討
・核兵器解体により発生する核分裂性物質の処理処分の検討
・
IAEA保障措置の強化、効率化のため追加される議定書の早期締結と実施に向けての検討・北朝鮮への
軽水炉供給を行う朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の業務遂行のための支援等
があるが、このような国際的な核不拡散の強化に向けた取組みに積極的に貢献していく。
(4) 情報公開と国民の理解促進に向けた取組み
原子力の開発利用に当たっては、国民の理解と協力を得ることが不可欠であり、原子力に関する国民の正しい認識を深め、国民一人一人が原子力について考え、判断できるような環境づくりを行うことが重要である。特に、動燃の一連の事故の際の情報提供の不適切さへの反省を踏まえ、関係機関においても適切かつ迅速な情報の公開・提供についての取組みを引き続き推進するとともに、シンポジウム等の様々な場を活用した対話の促進、草の根的な広報、政策の策定過程の透明性の向上のための施策等を充実強化する。
また、国内外の理解を促進するため、諸外国との密接な情報交換、国際機関等の活動への積極的参加等を行う。
(5) 原子力施設の立地の促進
原子力発電施設等の立地に当たっては、立地地域住民の理解と協力を得ることが重要である。
電源三法に基づき、当該施設の立地の初期段階から運転終了に至るまで各段階に応じ、ソフト・ハードの両面にわたる各種の支援措置が講じられているが、さらに、立地地域への企業導入等当該地域の産業発展に対する支援を充実、強化する。この際には、地元の二ーズを踏まえ、予算措置の増額だけでなく、運用改善にも取り組んでいくことが重要である。
(6) 軽水炉体系による原子力発電の推進
軽水炉については、信頼性及び稼働率の向上、作業員の被ばく低減化等の観点から、自主技術を基本として技術の高度化を図り、わが国に適合した軽水炉を確立するため努力を継続していく。さらに、動燃の海外ウラン探鉱及び
ウラン濃縮の業務については、その廃止に向け、改革の一環として民間への移管等の具体化を検討していく。
(7) 核燃料サイクルの推進
エネルギー資源に恵まれないわが国としては、将来の世界のエネルギー需給を展望しながら長期的なエネルギーセキュリティの確保を図るとともに、放射性廃棄物による環境への負荷の低減を図っていくため、
使用済燃料を再処理し、回収されたプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの確立を原子力政策の基本としている。
このため、原子力委員会決定を踏まえ、平成9年(1997年)2月4日の閣議了解「当面の核燃料サイクルの推進について」に基づき、地元をはじめとする国民の理解の促進に努めつつ、六ケ所再処理事業、プルサーマル計画、使用済燃料貯蔵対策等について着実な展開を図る。
動燃の新型転換炉「ふげん」については、適切な過渡期間をおいて運転を停止する。なお、運転停止後の
廃止措置に備え、「ふげん」の
原子炉システム固有の廃止措置技術の開発及びこれに必要な研究を実施する。また、運転停止中の高速増殖原型炉「もんじゅ」については、安全確保を大前提に適切な維持管理に努める。
a.使用済燃料再処理、b.新型動力炉の開発、c.先進的核燃料リサイクル技術の研究開発、d.MOX燃料加工技術の開発等
(8) バックエンド対策の推進
放射性廃棄物の処理処分と原子力施設の廃止措置は、整合性のある原子力開発利用の推進及び国民の理解と信頼を得る観点から最も重要な課題である。
使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、原子力委員会高レベル放射性廃棄物処分懇談会において1997年7月に実施主体、事業資金、処分地選定プロセス等の具体策について報告書案を取りまとめ、これに対する国民からの意見募集及び全国5ケ所での意見交換会を行った。今後はこれらの意見を踏まえ、早期に報告書を取りまとめるとともに、本報告書に基づき諸制度の整備等を進める。
処分の研究開発については、2000年前までに
地層処分の技術的信頼性等を明らかにするという目標に向け、1997年9月に発足した地層処分研究開発協議会をはじめとした関係研究機関の密接な協力の下、地層処分を行うシステムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究、これら地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を推進するとともに、地層処分の事業化に向けた調査・研究を行う。また、深地層の研究施設については、わが国の地質の特性を考慮して複数の設置が望まれており、代表的な地質として結晶質岩系及び堆積岩系の双方を対象にその早期実現を図る。
RI・研究所等廃棄物やTRU核種を含む放射性廃棄物等の低レベル放射性廃棄物については、放射性物質としての特殊性を考慮する必要のないレベル(クリアランスレベル)の導入について配慮しつつ、区分に応じた合理的処分方策の検討を進める。
一方、原子力施設の廃止措置については、日本原子力発電(株)の東海発電所が1998年3月末に運転が停止されたことから、原子炉の廃止措置に対する国民の関心が高まってきている。このため、原子炉の廃止措置に係る技術開発については、原研(現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉(
JPDR)の解体撤去によって得られた成果を踏まえ、原子炉解体技術の一層の高度化を進める。さらに、実用発電用原子炉の廃止措置に備え、解体廃棄物の合理的な処理・処分方策に向けた技術開発を行う。
(9) 原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
原子力の幅広い分野において、基礎研究から応用研究までの研究開発を総合的に推進することは、エネルギー源の確保及び放射線利用の進展はもとより、科学技術全体の進歩に大きく貢献し、新産業の創出が期待されるなど、より豊かな国民生活の実現に資するものである。このため原子核・原子科学、X線レーザー等の光量子科学、中性子科学等の分野における基礎研究及び基盤技術開発を推進する。また、高温工学試験研究等の原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発を推進するとともに、医療、工業、環境保全、基礎研究等の幅広い分野に貢献する放射線利用研究を進める。さらに、人類恒久のエネルギー源として期待される核融合に関する研究開発を進める。現在、国際協力によって進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、3年間の延長が予定されている工学設計活動に引き続き主体的に参加する。
a.基礎研究及び基盤技術開発、b.原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発、c.放射線高度利用研究開発、d.核融合研究開発
(10) 国際協力の推進
原子力の開発利用に当たって、原子力安全や放射性廃棄物の処理処分等の各国に共通する問題については、国際機関等における協力活動を通じて、各国の協調のもとに問題の解決を図っていくことが重要である。
(11) 人材の養成と確保
原子力開発利用の安全確保の一層の充実や関連する先端的技術開発の着実な推進を図るためには、その担い手となる優秀な人材の養成と確保に努力することが不可欠である。このため、政府関係研究開発機関における人材の養成と確保に加え、多様な研修活動を推進する。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
平成8年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-06)
平成9年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-07)
<参考文献>
(1) 原子力委員会:平成10年度原子力開発利用基本計画(全23ページ)、科学技術庁原子力調査室提供(平成10年4月)