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<概要>
 原子力開発利用基本計画は、原子力開発利用を計画的かつ効率的に推進させることを目的として毎年度策定される計画であり、原子力開発利用長期計画において示された基本方針を具体化するための現実に則した実施計画としての性格を有する。この計画は、原子力委員会及び原子力安全委員会がそれぞれの所掌に応じて策定する計画に基づき、内閣総理大臣が決定するものである。本稿は、平成9年(1997年)3月に策定された平成9年度原子力開発利用基本計画を要約したものである。
<更新年月>
1998年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 原子力委員会では、昭和31(1956年)年の原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(原子力開発利用長期計画:長期計画)策定以降、ほぼ5年毎、数次にわたる改定を行い、その直近のものは、平成6(1994)年6月に決定されている。平成9年度における原子力の開発および利用に関する基本計画(平成9年度原子力開発利用基本計画:平成9年3月決定)は、原子力委員会が平成6年6月に決定した長期計画に示された基本方針を具体化するための現実に即した実施計画としての性格を有する。また、この基本計画は、原子力委員会及び原子力安全委員会がそれぞれ所掌に応じて策定する計画に基づき、内閣総理大臣が決定するものである。なお、この基本計画は、日本原子力研究所法第24条に規定された基本計画にあたるものである。本基本計画は、(1)総論、(2)各論(10項目)、(3)予算総表から構成されており、以下に、総論、各論(各項目の主文を除く)はその要約を、予算総表(4枚: 表1表2表3 および 表4 )を #FIGTBL に示す。

2.総論
 平成7(1995)年12月に起きた動力炉・核燃料開発事業団(動燃団(現日本原子力研究開発機構))の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故、平成9(1995)年3月に起きた動燃団の東海再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故を契機に、原子力政策に対する国民の不安、不信感が高まった。これに関連し、原子力と深い関わりのある福島、新潟、福井の三県知事からの原子力政策の合意形成等について提言があり、原子力委員会は平成8(1996)年3月に原子力政策円卓会議を設置し、また、規制当局が設けた事故調査委員会、原子力安全委員会による事故に関する調査審議が行われた。これにより、原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加について一定の前進が図られ、また、事故の背景となった安全規制との関係、事故対応のあり方等にまで踏み込んだ検討を行うこととしている。動燃団の体質及び組織・体制の問題については、動燃改革委員会で、事故を抜本的に見直して、部分的に整理縮小し、必要と考えられる部分で再出発させる方針の下で、動燃団を改組し、安全性と社会性の確保を条件として、明確な裁量権と責任をもった新たな特殊法人を組織することが提案された。これに関連し「科学技術庁の自己改革について」が公表された。
 また、原子力委員会が平成9(1997)年1月に決定した「当面の核燃料サイクルの具体的施策について」をうけて、政府は2月に核燃料サイクルの確立の重要性等についての閣議了解、3月のアスファルト固化処理施設の事故発生に伴う状況変化を踏まえても、原子力委員会では6月に、2月の閣議了解の方針に則って諸般の施策の推進を図っていくことが重要である旨の委員長談話をとりまとめた。この施策の推進に当たっては、地元をはじめとする国民の理解が基本であり、国及び事業者による地元での説明会開催等の努力が必要であるとしている。
 原子力にはこの他に、基礎研究、放射線利用の分野もあり、核不拡散等の国際的視野も必要であり、これらを踏まえ具体的施策を以下の各論に示す。

3.各論
 以下に10項目の主文を原文どおりに、各項目のポイントをa,b,c,・・・で、ヘッドラインのみを示す。
(1) 安全確保対策の総合的強化
 原子力の開発利用を進めるに当たっては、これまでも厳重な規制と管理を実施し、安全の確保に万全を期してきたところであるが、原子力発電所の高経年化が進みつつあること等を踏まえ、原子力の安全確保対策を充実し、安全性の一層の向上を図る。さらに、原子力発電所の建設・運転、再処理施設等核燃料サイクル施設の建設・運転、放射性廃棄物処理処分対策の推進、放射性物質の輸送の増大・多様化等今後の原子力の開発利用の推進に対応し、万全の安全確保対策を講じていく必要がある。
 平成7(1995)年12月に発生した「もんじゅ」事故については、平成9(1997)年2月に、科学技術庁により原因究明結果に関する報告書が取りまとめられた。今後、「もんじゅ安全性総点検」を着実に実施していくとともに、運転管理の充実強化等事故の教訓を踏まえた対応及び改善策を実行していく。原子力安全委員会は、上記報告書の内容を踏まえ、2次系ナトリウムの漏えいに関する安全評価の調査審議を進めるとともに、科学技術庁等の安全性総点検等の検討状況を踏まえつつ再発防止対策等について調査審議を進める。その結果は広く国民に公表する。
 平成9(1997)年3月11日に発生した動力炉・核燃料開発事業団東海事業所再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故については、科学技術庁に設置された事故調査委員会において、公開の下徹底した原因究明と安全対策の検討が進められるとともに、事故時の情報伝達等の対応の問題も含めて、改善策について検討が行われる。原子力安全委員会は、事故調査委員会の検討状況について随時科学技術庁から報告を受けるとともに、検討結果について報告があった段階でその内容について調査審議を行う。今後とも、地元住民をはじめ国民の原子力の安全確保に対する不安感・不信感の払拭に全力をあげて取り組んでいく。
 a.原子力安全規制行政の充実、b.原子力防災対策の充実・強化、c.安全研究の推進、d.環境放射能調査の充実・強化、e.国際的な原子力安全の確保
(2) 情報公開と国民的合意形成に向けた取組
 原子力の開発利用を円滑に進めていくためには、まず国、原子力事業者に対する国民の信頼感、安心感を得ることが必要である。原子力委員会は、平成8(1996)年3月に原子力政策円卓会議を設置し、公開の下で、11回の会議を重ね、国民各界各層からの意見を伺い、今後の原子力政策に的確に反映していくよう具体的施策を実施・検討している。今後とも、情報の公開、原子力政策決定過程への国民参加を充実していく。
 特に、今回の動力炉・核燃料開発事業団の火災爆発事故において、情報公開の不適切さ、国民の原子力の安全性に対する不安感、その推進体制に対する不信感の増大が指摘されており、改めて情報公開および安全確保の重要性について、原子力関係者一同、肝に銘じて地元をはじめとする国民の信頼を得ていくための努力が必要である。
 a.情報の公開、b.国民の理解増進、c.政策決定過程への国民参加の促進
(3) 原子力施設の立地
 原子力施設等の立地等にあたっては、施設の安全性、信頼性を高めることはもちろんのこと、立地地域住民の理解を深め、立地にかかる不安の解消に努めるとともに、立地地域の振興を図っていくことが重要である。このため、発電用施設周辺地域整備法等の電源三法制度を活用し、既設地域を含めた立地地域がその特性に応じた自立的・長期的な発展を図っていくこととなるよう、立地地域及び事業者の取組に対する施策を充実・強化し、施設の立地の一層の推進を図る。
 特に、動力炉・核燃料開発事業団の火災爆発事故に関し、その原因究明の状況、他の原子力施設での廃棄物固化処理施設の安全性等について、他の立地自治体等へも積極的に説明していくことにより、不安の解消に努めていくことが重要である。
(4) 軽水炉体系による原子力発電の推進
 エネルギーセキュリティの確保と地球環境問題への対応の観点から、原子力発電は今後とも有力なエネルギー源であり、安全確保と平和利用の堅持を大前提に、着実に開発利用を進めることが必要である。特に、今後とも相当長期にわたり軽水炉が主流を担うと予想されることから、安全性、信頼性の向上を図っていく。また、安定的にウラン資源を確保していくため、ウラン濃縮技術開発等を進める。本年度は以下の施策を行うこととするが、これらの事業のうち、動力炉・核燃料開発事業団が実施するものについては、これたの事業に対する政府内の検討結果等を踏まえながら、立地地元自治体等の協議をしつつ、事業の整理縮小に向け、検討を進める。
 a.軽水炉の高度化、b.ウラン資源の確保と利用
(5) 核燃料サイクルの技術開発の着実な展開
 原子力委員会は、平成9(1997)年1月31日付け「当面の核燃料サイクルの具体的施策について」において、我が国のおかれている資源的な制約や環境保護の観点から、原子力発電を長期に安定的に進めていく上で、核燃料サイクルを円滑に展開していくことは不可欠であることを改めて確認するとともに、プルサーマル使用済燃料の管理などについて考え方を取りまとめた。また、さらにその主旨を改めて政府として明確にするため、平成9(1997)年2月4日、閣議了解が行われた。
 それらを踏まえ、以下の諸施策により核燃料サイクル計画の具体化、将来の核燃料サイクル体系の確立に向けた技術開発等を行う。なお、その展開にあたっては、地元をはじめとする国民の理解が十分図られるよう努める。また、動力炉・核燃料開発事業団のアスファルト固化処理施設の火災爆発事故の原因究明等を踏まえつつ、国民の信頼を回復するために適切な対応策を講じていくことが必要である。
 a.核燃料サイクル計画の具体化、b.将来の核燃料サイクル体系の確立に向けた技術開発
(6) バックエンド対策の推進
 放射性廃棄物の処理処分及び原子力施設の廃止措置(バックエンド対策)を適切に実施するための方策を確立することは、整合性のある原子力発電体系という観点から残された最も重要な課題であり、原子力発電による便益を享受する現世代の責務でもある。
 特に、高レベル放射性廃棄物の処分については、研究開発を推進するとともに、処分の円滑な実施に向けて処分対策の全体像を明らかにする。
 また今後見込まれる原子力発電施設の廃止措置が適切に行われるよう、所要の制度整備を進める。
  a.放射性廃棄物の処理処分対策、b.原子力施設の廃止措置
(7) 原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 原子力は、総合的な科学技術として新たなブレークスルーをもたらす基礎的な研究分野をもち、多様な分野への展開が期待される。
 このため、各研究機関の連携の下に基礎研究や基盤技術の開発に取り組んでいく。また、高温工学試験研究炉等、原子力エネルギーの生産や原子力利用分野の拡大に関する研究開発を行うとともに、各研究機関の特性を生かし、各種加速器を利用して放射線に関する研究開発を行う。さらに、実用化された場合には人類の恒久的なエネルギー源として期待される核融合に関し、国際協力の下に研究開発を推進する。
 a.基礎研究及び基盤技術開発、b.原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発、c.放射線に関する研究開発、d.核融合研究開発
(8) 核不拡散対応の強化
 原子力の平和利用を確保し、国際的な核不拡散体制に貢献していくことは、原子力の利用を進めていく上での基本である。特に、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づく国際的責務を誠実に履行するとともに、同条約に関する再検討会議に向けた準備委員会会合が本年から開始されることを踏まえ、我が国としても、再検討プロセスに積極的に参加していく。
 また、平成8(1996)年、核兵器のない世界に向けた歴史的な一歩となる包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連総会において採択され、我が国も平成9(1997)年7月に同条約を批准したところである。今後、同条約による国際的な核実験禁止条約の枠組みが早期かつ円滑に実現するよう努力していくとともに、我が国としても、批准後の国内体制の整備を図る。
 a.保障措置核物質防護の充実・強化、b.我が国の不拡散努力
(9) 国際協力の推進
 旧ソ連における核兵器の削減に伴う非核化、保障措置制度の強化・効率化、包括的核実験禁止条約の成立、旧ソ連型原子炉の安全性問題等、国際的に協力して取り組むべき課題が顕著になってきている。このため、二国間、多国間を通じた政策対話が一層求められている。我が国は、平和利用先進国として、平和目的に限った原子力利用を図り、各国の原子力開発利用の安全性の向上に貢献することを基本に、主体的に国際協力を進める。
 a.先進諸国との国際協力、b.近隣アジア諸国との協力
(10) 人材の養成と確保
 原子力開発利用の安全確保の一層の充実や関連する先端的技術開発の着実な推進を図るためには、その担い手となる優秀な人材の養成と確保に努めることが不可欠である。
 このため、青少年を対象として公開実験教室など科学技術に親しむ機械を積極的に設けるなど、原子力を含む科学技術への関心を高めるよう努める。また、科学技術基本計画をも踏まえ、若手研究者の養成、研究開発システムの整備など、研究者の研究環境整備を図る。
 特に、今回の動力炉・核燃料開発事業団の火災爆発事故を踏まえ、原子力関係者に対する安全管理と危機管理に関する教育・訓練の徹底に努める。
 a.青少年の原子力に関する学習機会の確保等、b.ポストドクター等若手研究者の支援・活用と研究開発機関間の連携の確保、c.原子力関連研究者・技術者等への研修の実施
<図/表>
表1 平成9年度原子力関係予算総表
表1  平成9年度原子力関係予算総表
表2 科学技術庁一般会計予算総表
表2  科学技術庁一般会計予算総表
表3 平成9年度各省庁(科学技術庁を除く)一般会計予算総表
表3  平成9年度各省庁(科学技術庁を除く)一般会計予算総表
表4 平成9年度電源開発促進対策特別会計原子力関係予算総括表
表4  平成9年度電源開発促進対策特別会計原子力関係予算総括表

<関連タイトル>
平成8年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-06)
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)

<参考文献>
(1) 内閣総理大臣:平成9年度原子力開発利用基本計画(全20ページ)、科学技術庁原子力局政策課提供(1997(平成9)年8月発行)
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