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<概要>
 安全の確保のため次のことを行う。(1)安全確保対策の充実:最新の科学技術的知見を各種基準等へ反映させ、国内外の故障、トラブル等から得られた教訓などから予防保全に一層努める。ヒューマンエラーの可能性の一層の低減、人間工学的観点からの研究、基礎基盤に立ち返った革新的研究開発等を積極的に推進する。(2)原子力防災対策の充実:安全確保対策の充実を図るとともに、地方公共団体が実施する原子力防災活動を支援する情報システムの整備、原子力防災に関する研修の充実強化等に努める。(3)安全研究の推進:原子炉施設等の安全研究、環境放射能に関する安全研究及び放射性廃棄物処分に関する安全研究を、年次計画に沿って実施する。(4)国際的な原子力安全の確保:旧ソ連、中・東欧諸国への原子力安全支援の実施と、長期的視点からの安全確保体制の充実等に向けて、人材の派遣、研修機会の提供等を進める。本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
2.安全の確保
(1) 安全確保対策の充実
 我が国の原子力施設等は、国、民間、研究開発機関等の関係者の不断の努力によりその安全性は高い水準で維持されており、国際的にも優れた安全実績を示していますが、これに安住することなく、今後とも厳重かつ合理的な安全規制、安全管理に取り組むことにより世界に誇れる「原子力安全文化」を築いていくこととします。
 具体的には、最新の科学技術的知見を各種基準等へ反映させるとともに、今後増加する高経年原子力施設の安全確保のために、長期的視野からの方策を含め、国内外の故障、トラブル等から得られた教訓や最新の科学技術的知見を踏まえた予防保全に一層努めていきます。さらに、ヒューマンエラーの可能性の一層の低減、人間工学的観点からの研究、基礎基盤に立ち返った革新的研究開発等を積極的に進めていきます。

(2) 原子力防災対策の充実
 原子力施設から環境への放射性物質の大量放出という不測の事態に備えるための原子力防災対策については、災害対策基本法に基づき国、地方公共団体等が協力して必要な措置を講じているところです。
 万一の事態にも十分対応できるよう、またひいては地元住民に安心されるよう、今後とも、安全確保対策の充実を図るとともに地方公共団体が実施する原子力防災活動を支援する情報システムの整備、原子力防災に関する研修の充実強化等に努めます。
 また、原子力施設等に係る安全の確保、防災体制等について所要の対策を講じてきていることが国民に理解されることは原子力に対する安心感の醸成にもつながるとの認識から、原子力防災対策の現状についての理解の増進を図っていきます。
 
(3) 安全研究の推進
 原子力施設等の安全を確保するための安全基準、指針等は、最新の科学技術的知見や運転経験の蓄積を踏まえ、原子力施設等の改良等に対応して整備していく必要があります。原子力施設等に関する安全研究については、その安全性を今後とも高い水準に維持していくため、軽水炉の高度化、核燃料サイクル事業の本格化等の原子力開発利用の拡大と多様化に対応して、原子炉施設、核燃料施設、放射性物質の輸送、原子力施設の耐震、原子力施設等の確率論的安全評価等の分野について、これを実施していきます。環境放射能に関する安全研究については、環境・線量研究、生物影響研究、特定核種の内部被ばく研究、安全評価研究の分野についてこれを実施し、また、放射性廃棄物処分に関する安全研究については、放射性廃棄物の処分計画に対応してこれを実施していくこととします。
 なお、これらの安全研究は、原子力安全委員会が定める各種の安全研究年次計画に沿って実施していきます。

(4) 国際的な原子力安全の確保
 原子力開発利用に当たっては安全の確保が大前提であることやある国の原子力施設の事故等が他の国民の不安を招くことも見受けられることなどから、原子力安全の確保の問題は、国際的に共通する課題として各国が協力して取り組むことが重要になってきています。
 原子力安全の確保は、原子力活動を実施する者とその国が一義的な責任を持つべきものであることは言うまでもありません。しかし、我が国は、原子力発電所等の建設・運転に関して、豊富な経験があることから、世界における原子力安全の問題を敏感に受けとめ、その解決に積極的に協力し、安全性の向上に貢献していくことが重要です。
 具体的には、世界の原子力施設に係る故障やトラブル等の情報の収集、分析、評価等において、主導性を発揮し、国際機関を通じた協力や二国間の協力に参加して世界の原子力の安全性向上に向けて努力を続けていきます。また、安全研究や安全規制の充実の面においても引き続き積極的に国際協力を行っていきます。
 旧ソ連、中・東欧諸国における原子力安全の支援に関しては、今後とも二国間や多国間の枠組みを通じて、諸外国の実施する支援と調整しつつ、それぞれの国における経済状況、エネルギー事情等を十分勘案して、短期的な技術的改善等に係る措置を着実に進めるとともに、長期的視点から、安全確保体制の充実等に向けて、人材の派遣、研修機会の提供、規制関係情報の提供等を進めていきます。
 近隣アジア地域や開発途上国との協力に当たっても、安全確保に重点を置いて協力を進めていくこととします。これらの国においては、特に原子力安全規制体制の整備が急務となっています。このため、相手国の国情や計画に合わせて安全規制に従事する人材の養成、規制関係情報の提供等の協力を行っていきます。また、安全確保のために必要な研究基盤、技術基盤及び緊急時体制の整備にも積極的に協力していきます。
 現在、国際的な原子力施設の安全確保を目的として進められている「原子力安全条約」の策定作業については、我が国も積極的に取り組んできたところであり、実効性のある条約の早期成立のために引き続き努力していきます。
<関連タイトル>
原子力開発利用の大前提(平成6年原子力委員会) (10-01-03-02)
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
原子力施設等安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-01)
低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画(平成6年度〜平成10年度) (10-03-01-02)
高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-03)
環境放射能安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-04)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1751号(1994年7月21日)
(4)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1752号(1994年7月28日)
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