<本文>
以下、要約を示す。
I 年次計画策定の基本方針
1. 環境放射能安全研究の目的及び範囲
1-1 目的
環境放射能安全研究は、今後の原子力開発利用の拡大と多様化に対応し、原子力に対する国民の関心の高まりを背景として、国民の健康の確保、環境の保全等安全の確保に関する技術及び知見のより一層の充実を図るとともに各種指針等の整備や
安全審査に当たっての判断資料となるデータの蓄積に資することを目的とするものである。
1-2 範囲
(1) 天然放射性
核種を含む一般公衆の生活環境における各種の放射線源について、そのレベル及び挙動等の特性の把握並びにそれらによる被ばく線量の測定・評価に関する研究を行う。
(2) 低線量放射線の人体に及ぼす身体的・
遺伝的影響の解明に関する研究及び高線量放射線被ばくによる急性効果の防護と治療に関する研究を行う。
(3) 各種の放射線源から人体が受ける被ばくの
リスクの評価に関する研究を行うとともに、当該リスクの低減化に資する研究を行う。
2. 年次計画策定に係る基本方針
2-1 総論等の策定に当たっての基本方針
・環境放射能安全研究のうち放射性廃棄物処分に係るものについては、生物圏における放射性物質の挙動を扱うこととし、原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会が定める「高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画」及び「低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画」との調和を図る。
・国際放射線防護委員会(ICRP)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)、国際原子力機関(
IAEA)等における国際的な活動に寄与できる研究の推進を図る。
・安全研究を効果的・効率的に行うため、二国間又は多国間による国際協力を積極的に推進する。
・原子力施設等安全研究等、他分野の安全研究と内容的に関連する研究も多いため、他分野の研究の進捗状況・成果を踏まえつつ、本研究計画を推進する。
・本分野の関係研究者が極めて少ない現状に鑑み、人材の確保には特に注意を払う必要がある。このため大学における関連分野の研究の推進及び人材の養成にも期待する。
・安全研究を人材、資金面等で効率的に実施するため施設を共同で利用する方策を検討する。
・原子力開発利用に対する国民の理解の増進のため、研究成果を分かりやすい形で一般に提供する。
2-2 個別研究課題の策定に当たっての基本方針
・環境放射能安全研究を総合的、体系的に規定するため、先ず全体的にみて必要な項目を広く拾い上げ、安全規制等の観点から重要性をも考慮しつつ、重要な研究課題を選定し、さらにそれを分類整理し研究全体を体系づける。
・核燃料サイクルの事業化に対応する研究等、社会的に緊急に要請される課題の把握、検討を行う。
・各研究課題の目的、内容、期間及び実施機関を明確にする。ただし、大学については実施が期待される機関として記載する。
・国による実証試験は、原子力施設等から放出される放射線(能)に関し、その安全性を実証するために行われているものであり、安全研究を直接目的として行うものではないが、この種の試験で得られる成果は安全研究を補う点で貴重なデータであるため、年次計画で参考として取り扱う。
2-3 重点研究分野
・核燃料サイクル施設等に関連する特定核種について、体外被ばく経路並びに食品等を通じての体内被ばくに関する量的解明研究
・各種放射線源を考慮した
国民線量の算定に関する研究
・被ばく評価を行う生物影響研究、特に最近の分子生物学を中心とするライフサイエンスの成果を踏まえつつ行う低線量放射線の生物影響研究
・種々のリスク解析手法を用いた安全評価研究
3. 研究課題の選定方法について
年次計画策定に係る基本方針を踏まえ安全研究年次計画をとりまとめるに際して、研究分野を次のように分担する三分科会を設けて作業を進めた。
環境分科会:環境・線量研究
影響分科会:生物影響研究・特定核種の
内部被ばく研究
安全評価分科会:安全評価研究
まず、年次計画に位置づける研究課題がどのような必要条件を満たしているべきかについて、次の6項目からなる判断基準を設定した。
(a) 原子力開発利用の観点から緊急に要請され、推進することが特に必要な研究あるいは、
環境モニタリングのように実施時期を限定することはできないが、今後とも、経常的に行うことが必要である研究
(b) 各種安全指針等の整備、安全審査の判断材料となるデータへの貢献が期待される研究
(c) 学問的な開拓要素の多い研究
(d) ICRP,UNSCEAR,IAEA等国際的な活動に寄与できる研究
(e) 社会的・国民的に、特に関心の高い研究
(f) 研究の裾野を広げる要素の多い、萌芽的な研究
これらの項目に関して分科会毎に研究課題個々の検討を行い、それらを集計した結果を踏まえ、さらに、他のテーマとの関連を考慮しつつ整理して、当面実施すべき重要な研究課題を最終的に選定した。
II 安全研究年次計画
環境放射能安全研究については、平成3年度から5年間に実施すべき研究計画は次の4項目に分類され(
表1 ・参照)、概要は以下のとおりである。
1. 環境・線量研究
原子力施設等に由来する放射線並びに放射性物質に主眼を置きつつ、一般公衆の生活環境にかかわる全ての放射線源について、そのレベル、特性及び挙動に関する研究を行う。すなわち、環境中における放射線(能)の分布と特性、環境に放出された放射性物質が人体に到達する移行のパラメーターの精度向上を目指す線量評価研究、社会生活環境の変化に伴う被ばく線量の算定及び環境放射線(能)の測定と
モニタリングに関する技術等について、体系的に研究を進め、日本の風土と日本人の特性を配慮した被ばく線量の総合的評価並びに被ばく線量の低減化に関する研究を行う。
なお、環境・線量研究について従来は、5分野に分けていたが、「放射線の分布と特性に関する研究」分野より「ラドン・トロン及びその
娘核種の分布と挙動に関する研究」を分離し、6つの研究分野に分けて研究課題を整理分類した。
2. 生物影響研究
低線量放射線が人体に与える影響の大きさについては、直接に知ることは出来ない。このため、放射線が生命にどう働くかという作用機構に関する基礎的研究、種々の実験動物を用いて低線量放射線の影響を定量的に明らかにする研究、ヒト集団に対する影響の把握に関する疫学的研究を行う。また、放射線の急性効果及びその防護と治療法に関する研究を行う。
なお、疫学的研究については、放射線のヒト集団に対する影響を直接把握することが重要であるとの観点から独立させた。
3. 特定核種の内部被ばく研究
核燃料サイクル事業の本格化、核融合研究の進展に応じて、超ウラン元素を中心とするα放射体及びトリチウムによる内部被ばく研究の重要性が増している。また、ラドン・トロン及びその娘核種による内部被ばくは自然界からの放射線被ばくの中でも大きな割合を占めており、これらの核種の生物学的影響の解明に関する研究は重要である。
超ウラン元素に関しては、呼吸器を介して生体内へ取込まれた後の体内分布、影響に関する研究が重要である。トリチウムに関しては、これが酸化されて水となり環境から人体へ移行する特性もあり、環境中での動態、生体内での代謝、被ばく線量算定、生物影響等に関する研究が重要である。
ラドン等に関しては、疫学的研究ばかりではなく、動物実験によりその生物影響、特に
肺がんとの関連を明らかにする研究が重要である。
4. 安全評価研究
上記の分野における研究の成果を活用し、放射線にかかわる現実の人間活動の安全性の評価につなげる安全評価研究とリスク低減策の研究は、環境放射能安全研究の終局の目標である。海外においては、従来国または国際レベルの恒常的な委員会が、研究結果をレビューし、最新のデータ・知見に基づき、科学的な基盤を数年毎にまとめてきた。わが国においても、近年の環境放射線(能)に関する安全評価研究に対する社会的・学問的重要性に鑑み、平成元年度には、本環境放射能安全研究専門部会に安全評価分科会を設置し、活動を本格的に開始したところである。
安全評価研究においては、上記研究分野の成果を基盤とし、調査、研究、解析、評価等を着実に進め、確率論的リスク評価等を含む様々な解析手法を用いた総合的な解析評価研究を進める等、信頼性の高い、我が国の評価システムを築いていく必要がある。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
<参考文献>
(1)原子力安全委員会:原子力安全委員会月報 Vol.13,No.9 1990(通巻第144号)
(2)原子力安全委員会(編集):原子力安全白書 平成6年版、大蔵省印刷局 (1995年3月)