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<概要>
 エアロゾルとは「分散相は固体または液体の粒子からなり、分散媒体は気体からなるコロイド系である」と定義されている。通常エアロゾルと呼ぶときは、大気中に浮遊する粒子径が比較的小さく、全体としてかなりの時間、その状態が持続されるようなものを対象にする場合が多い。特に、分散相の粒子が放射性である場合、放射性エアロゾルと呼ばれる。エアロゾルは、吸入されたとき、その粒子の大きさ、形状、密度などによって呼吸器官各部位への沈着の割合が異なる。
 核燃料サイクル施設においては、そこで取扱われている物質がエアロゾル化する可能性が十分ある。実際にエアロゾルの発生が起るものとして、火災・爆発、研磨、切断、溶接、溶断、粉体の飛散・落下あるいは表面汚染物質の舞上がりなどがある。エアロゾルの測定では捕集によって粒子分布を測定したり、モニターなどによって放射能濃度を測定する。
<更新年月>
1998年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.分類
 エアロゾルは、発生過程やその性状に着目して、a)粉塵(ダスト):粉砕、研磨、穿孔・爆破など、主として物理的破砕過程で生じる、b)フューム:金属の加熱溶融、溶接、溶断、スパークなどの場合に生じる、c)煙(スモーク):燃焼の場合に生じるいわゆる「けむり」に類するもの、d)ミスト:一般には微小な液体粒子を総称していい、液体の蒸発凝縮、液滴の飛散で生ずる、等に分類することができる。各種エアロゾルの粒径(エアロゾル粒子を球形とみなしたときの直径)範囲を 図1 に示す。この図1は、多くの経験的データに基づいて作成されたものである。
 エアロゾル粒子の大きさを表すには、幾何学的な定め方と、これと同等の物理的性状を示す球形粒子の大きさに換算する方法とがある。前者は大きな粒子を顕微鏡で観察しながら測定する場合に有用であり、後者は粒子の動力学的性質などから間接的に粒径を求めるときに有用である。単に粒径という場合は、球形粒子については直径をさすことが多い。 多くの異なった粒子からなる粒子群の大きさとその分散の状態(粒子径分布)は、平均径と大きさのばらつきの度合いを示す種々の統計値で表される。その定義には、粒子の個数を基準としてCMD(個数中央径)、重量を基準としてMMD(質量中央径)が用いられ、とくに空気力学についての重量中央径にはMMAD(空気力学的質量中央径)が用いられる。また、放射能を基準とした径が同様の考え方でAMAD(空気力学的放射能中央径)として定義される。
2.呼吸器官への沈着
 人体呼吸器は大別すると、鼻とのど(N−P)、上部呼吸器官(T−B)、下部呼吸器官(P)から構成され、吸入されたエアロゾル粒子は 図2 のような経路を通って体内に摂取され、または体外に排出される。図2のモデルは、ICRP Publ.30(1979)に示されるものであるが、ICRPは本「呼吸器系に関する線量算定モデル」を改定して「放射線防護のためのヒトの呼吸気道モデル」を1994年にICRP Publ.66として刊行した。Publ.66はPubl.30と比べ線量評価の基本については変わらないが、残留量を算定する呼吸道の領域の区分や各領域からの沈着物質の除去(クリアランス)経路等が多様化され、より詳細になっている。
3.粒度分布の測定
 どのような捕集方法を用いるかはその目的によって異なり、粒径別の捕集効率、捕集可能な量、あるいは捕集時間などが捕集方法選択の重要な因子である。主な捕集方法には、慣性力による捕集(慣性力を利用して粒子を捕集板などの表面に分離沈着させる方法)、熱泳動による捕集(捕集面近傍に、捕集面を低温側とする温度勾配をつくり、エアロゾル粒子を沈着させる方法)、ろ紙による捕集(ろ紙面に空気などを流通させ、粒子を捕集する方法)、静電集塵方式による捕集(捕集電極側に金属箔などをはりつけ、荷電粒子を沈着させる方法)などがある。
 一般に用いられる粒径測定法の種類とその粒径別適用範囲は、 図3 に示されるとおりであるが、粒子の物理的、化学的性質および粒子数濃度などによっても制限される。主なエアロゾルの粒度分布測定法には、幾何学的な粒径の測定(光学顕微鏡または電子顕微鏡)、動力学(慣性力)的な粒径の測定(カスケード・インパクター)、電気移動度による測定(静電式粒度分布測定器(EAA))、光散乱法による測定(パーティクル・カウンタ)、拡散沈着による測定(拡散バッテリー)、断熱膨張による方法(凝縮核測定器(CNC))などがある。
4.放射性エアロゾル濃度の測定
 原子力施設、とくに核燃料取扱施設や非密封の放射性物質を取扱う化学実験室などで、作業中に放射性エアロゾルを吸入すると、そこに含まれる放射性核種の一部または全部が肺あるいは体内の各臓器に移行摂取されて、その放射線により内部被ばくする。その量が多くなると放射線障害を誘発することがある。
 作業環境における放射性エアロゾル濃度の測定目的は、a)放射性物質吸入摂取量の最大値の推定、b)作業者の防護と予期しない空気汚染を検出すること、c)個人内部被ばく線量の測定の必要性の有無を判断できる資料を得ることである。
 放射性エアロゾル濃度の測定には、ダストモニタなどを用いて大気中の放射性物質の濃度を連続的に測定する方法と、空気サンプラなどにより捕集した試料を放射能測定装置により測定し濃度を知る方法とがある。空気試料の採取には、室内に可搬型のサンプラまたはモニタなどを置いて行う方法と、吸引ポンプを別室に置き配管を通して行う方法がある。
5.原子力施設における発生源と測定例
 原子力施設におけるエアロゾルの発生源としては、核燃料サイクル施設のどの段階においても、作業に伴ってそこで取り扱われている物質がエアロゾル化する可能性がある。そのため、施設特有の物質からなるエアロゾルが発生し、エアロゾルの特性(組成、質量濃度、個数濃度、粒子径分布、密度、化学・物理性状など)が施設ごとに異なる。実際にエアロゾルの発生を伴う現象として経験されているものに、火災燃焼(種々の物質の穏やかな燃焼、急激な燃焼(爆発))、切断(機械的燃料切断、装置や建物の解体)、研磨(汚染表面の除去)、溶解(溶接、溶断)、バブリング(飛沫)、表面汚染の舞い上がり(再浮遊)によるもの、および粉体の取扱、加工、成型時に発生するもの、などがある。原子力施設での事故という観点からは、火災・爆発、臨界事故、シビアコアアクシデント、閉じ込め系(ケーブ、グローブボックス、フードなど)の不測の開放ということになる。エアロゾルの発生が予測される作業では、閉じ込め系内で作業することが原則であり、軽微な場合には局所排気を設置して作業を行うことによりエアロゾルの閉じ込めが行われる。
 被ばく評価上では、上記のエアロゾル特性のほか、事象に伴う物質のエアロゾル化速度とエアロゾル化割合(飛散率)が重要である。一般に、エアロゾルの質量濃度、個数濃度および粒度分布は発生源からの距離と発生後の経過時間により大きく変化するため、特定の作業と発生するエアロゾルの特性を関係づけることは非常に困難であり、そのため、過去の事例が重要視される。以下に、原子力施設における発生源と発生エアロゾルの測定例を示す。
 ホットラボにおける照射燃料切断時における核分裂生成物FP)の飛散率測定例として、試験燃料の照射歴および8回の切断実験で得られた結果が 表1 に示されている。Mg合金(Magnox AL80)被覆の金属ウラン中空燃料棒が、水溶性切削油と砥石カッターの刃厚1mmを用いて直径方向に輪切りにされた。その結果、同一核種間においても飛散率は大きな変動を示した。大きさの順は、125Sb、137Cs、144Ce+144Prであり、核種間において約1桁の相違が認められた。125Sbの飛散率の大きい理由は、核燃料およびFP中のハロゲン物質と化合し、揮発性になるためと推定されている。以上を総合すると、燃料切断試験時の安全評価に用いる飛散率として、サンプリング上の変動や、評価上安全側の値を採用すべきことを考慮すると、125Sbは10−1、、137Csは10−2144Ce+144Pは10−3のそれぞれ最大値が妥当であると考えられている。
 原子炉の解体では、解体対象物を放射化または放射性汚染した原子炉圧力容器、炉内構造物、一次冷却系配管などの構造物(低合金炭素鋼、ステンレス鋼)と、生体遮蔽体などのコンクリート構造物の2つに大別することができる。これらは、機械的切断、熱的切断、衝撃的切断または破砕などの種々の解体工法によって撤去される。さらに、熱的切断は大気中だけでなく、水中でも実施される。このため、発生する放射性エアロゾルの特性は解体対象物と解体工法に大きく依存すると考えられている。 図4 に、炉内構造物の水中および大気中切断により発生したエアロゾルの放射能基準粒子径分布を示す。水中切断は大気中切断に比べて、1〜10μm径のエアロゾル粒子の量が少ないことがわかる。これらの結果から、JPDRの解体で発生するエアロゾルの粒径は、大体次の3つに分類される。
  0.1μm 未満 超微粒子 : 鋼構造物の熱的切断時
  0.1〜10μm  微粒子  : 鋼構造物の機械的切断時
  10〜100μm  粗大粒子 : コンクリート構造物の解体や除染時
 また、切断時の質量濃度と飛散率の測定結果が 表2 に示されている。ここでも水中切断による方が全般にわたって質量濃度、飛散率ともに小さいことが明らかである。
 プルトニウム・エアロゾルを伴う作業としては、加工施設では研削、成型などの機械的な加工操作、溶解、沈殿などの化学操作がある。研究施設ではこれらの2種類の操作を含む多様な作業が行われている。これらのプルトニウム取扱施設で発生するプルトニウム・エアロゾル粒子径分布の実測例を 表3 に示す。プルトニウム・エアロゾルの粒径(AMAD,MMD)は発生の条件によって異なっていることがわかる。一方、排気系ダクト内に流入するエアロゾル粒子の平均粒径は、大別して、回収施設のように溶液状態のプルトニウムを取り扱う施設では0.5μm(AMAD)程度(表3、例14)、加工施設のように固体状態のプルトニウムを扱う施設では3μm(AMAD)前後(表3、例12、13)であることがわかる。なお、データに関する測定時の詳しい条件については、それぞれ出典文献を参照されたい。
<図/表>
表1 照射燃料切断時におけるFPの飛散率
表1  照射燃料切断時におけるFPの飛散率
表2 質量濃度、飛散率測定結果
表2  質量濃度、飛散率測定結果
表3 施設内で発生するプルトニウム・エアロゾル粒子の粒径
表3  施設内で発生するプルトニウム・エアロゾル粒子の粒径
図1 粒子状物質の粒径範囲
図1  粒子状物質の粒径範囲
図2 吸入エアロゾル粒子の人体内経路
図2  吸入エアロゾル粒子の人体内経路
図3 粒径測定法の範囲
図3  粒径測定法の範囲
図4 水中および大気中切断時における飛散粒子の粒度分布の比較
図4  水中および大気中切断時における飛散粒子の粒度分布の比較

<関連タイトル>
ナトリウム燃焼挙動に関する研究 (06-01-02-06)
放射性物質の放出移行挙動に関する研究 (06-01-02-07)
空気中濃度限度 (09-04-02-15)
空気汚染モニタ (09-04-03-09)
甲状腺・肺モニタ (09-04-03-12)
作業環境モニタリング (09-04-06-01)

<参考文献>
(1)高橋幹二:基礎エアロゾル工学、養賢堂、(1982)
(2)諌早典夫、中江茂、平成紘介(編):空気清浄のための浮遊微粒子の計測・制御総合技術、R&Dプランニング、(1987)
(3)泉幸男ほか:照射燃料切断時におけるFPの飛散率とサンプリング用捕集材の捕集効率、保健物理,13,p295-299(1978)
(4)池沢芳夫:原子炉解体とエアロゾル、エアロゾル研究,5,p212-216(1990)
(5)山本英明ほか:核燃料施設におけるプルトニウム・エアロゾルの粒径分布(文献調査)、保健物理,19,p25-32(1984)
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