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<概要>
 「確率的影響」:全身均等照射による放射線誘発癌(身体的影響)の死亡リスクは、男女、全年齢平均でSv当り、約100人中1人である。遺伝的影響の平均リスクは、被曝後の最初の2世代については約1000人中4人である。その後の全世代の遺伝的影響は、2世代までのリスクの約2倍である。放射線作業従事者と一般公衆との年齢構成の差異は、放射線防護の立場からは無視される。
 「非確率的影響」:線量当量限度以内の被曝では現れない。
<更新年月>
1998年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 国際放射線防護委員会(ICRP)は、1977 年の勧告(ICRP Publication 26)およびその後の何度かの声明の中で、放射線防護基準の基礎となる放射線リスクを次のように評価している。
1.確率的影響
 放射線による確率的影響には、被曝した人自身に発現する身体的影響(発癌)と子孫に現れる遺伝疾患、発癌などの遺伝的影響がある。遺伝的影響が、放射線による生殖腺の損傷と密接に関連しているように、それぞれの影響、疾患には主たる決定身体組織(器官)が決められる。ICRPでは、決定器官として生殖腺、赤色骨髄(白血病)、骨(癌)、肺および肺リンパ組織(癌)、甲状腺(癌)、乳房(癌)、その他の全ての組織(癌)を挙げている。
 現在推定されている放射線の生物影響リスクの値は、主に原爆被曝者や医療被曝者のデータや、動物実験などの研究から得られている。これらの研究対象の放射線被曝線量は、放射線防護の対象となる線量から見てはるかに高い。低線量、低線量率での放射線影響は、高線量、高線量率での影響に比べ、単位線量当りのリスク(リスク係数)が小さいことも知られている。ICRPでは低減係数(DREF)として2を採用し、放射線防護のためのリスク係数を与えている。
 乳癌の発生や遺伝的疾患の誘発などのように、明らかに年齢あるいは性に依存する影響もある。また、悪性腫瘍(癌)の場合、発現するまでの潜伏期が長いため、年長の人ほど生涯を通したリスクは小さい。この様に、放射線被曝による個人の全リスクは、年齢、性によって幾らか変動するが、年齢、性についての平均値からの変動は、それほど大きなものではない。このため、ICRPでは防護の目的には、すべての放射線作業者、一般公衆について、上に述べた各組織、器官ごとに単一の平均的リスクを与えることで充分であるとしている。
(1) 生殖腺
 放射線による確率的影響には、被曝した人自身に発現する身体的影響(発癌)と子孫に現れる遺伝疾患、発癌などの遺伝的影響がある。遺伝的影響が、放射線による生殖腺の損傷と密接に関連しているように、それぞれの影響、疾患には主たる決定身体組織(器官)が決められる。ICRPでは、決定器官として生殖腺、赤色骨髄(白血病)、骨(癌)、肺および肺リンパ組織(癌)、甲状腺(癌)、乳房(癌)、その他の全ての組織(癌)を挙げている。
 現在推定されている放射線の生物影響リスクの値は、主に原爆被曝者や医療被曝者のデータや、動物実験などの研究から得られている。これらの研究対象の放射線被曝線量は、放射線防護の対象となる線量から見てはるかに高い。低線量、低線量率での放射線影響は、高線量、高線量率での影響に比べ、単位線量当りのリスク(リスク係数)が小さいことも知られている。ICRPでは低減係数(DREF)として2を採用し、放射線防護のためのリスク係数を与えている。
 乳癌の発生や遺伝的疾患の誘発などのように、明らかに年齢あるいは性に依存する影響もある。また、悪性腫瘍(癌)の場合、発現するまでの潜伏期が長いため、年長の人ほど生涯を通したリスクは小さい。この様に、放射線被曝による個人の全リスクは、年齢、性によって幾らか変動するが、年齢、性についての平均値からの変動は、それほど大きなものではない。このため、ICRPでは防護の目的には、すべての放射線作業者、一般公衆について、上に述べた各組織、器官ごとに単一の平均的リスクを与えることで充分であるとしている。
(1)生殖腺
 生殖腺の放射線照射で起こる有害な影響は、照射を受けた個人の腫瘍の誘発、受胎能力の低下、および子孫における遺伝的影響である。人間の生殖器官での発癌効果の明瞭な報告は少なく、放射線に対する感受性は比較的低い。また、受胎能力の低下は、低LET放射線照射の場合、40歳の女性で約3Gyの吸収線量で永久停止すると考えられているが、20歳では、一時的な無月経を引き起こすだけのようである。男性では、0.25Gyで一時的な精子減少がみられるとされている。永久不妊を引き起こす線量は、これより少なくとも1桁高いと考えられている。いずれにしても、放射線防護の立場からみると極めて高線量での影響である。
 放射線照射の結果生じる遺伝的変化については、小哺乳動物、下等生物について多くのデータが得られている。また、人についての観察から、両親のどちらかの被曝後最初の2世代までに現れる遺伝的疾患(発癌も含む)のリスクはSv当り約1×10-2である。3世代以降の全世代の遺伝的影響のリスクも、ほぼ同じ値である。放射線防護の立場からのリスク評価は、全年齢平均として第2世代まではSv当り4×10-3、第3世代以降についても同様である。
(2)赤色骨髄
 赤色骨髄は放射線による白血病発現の決定器官である。原爆被曝者および医療被曝者の観察から、人の白血病発現のリスクレベルが求められている。放射線防護の目的には、低線量域での効果を考慮してリスク係数は2×10-3である。
(3)骨
 骨組織のうち、内骨細胞、骨表面の上皮細胞が放射線に対する感受性が最も高いが、多の組織、例えば乳房、赤色骨髄、肺などに比べて低い。防護の目的のリスク係数は、Sv当り5×10-4である。
(4)肺および肺リンパ組織
 肺および肺リンパ組織は、ラドンおよびその壊変生成物やプルトニウムなどの粒子状放射性物質の吸入による被曝の発癌決定器官である。また、体外被曝によっても発癌を誘発しうる。この器官でのリスクはSv当り白血病リスクと同じ2×10-3である。
(5)甲状腺
 この器官の放射線による癌の誘発に対する感受性は、白血病誘発に対する赤色骨髄の感受性より高いらしい。しかし、甲状腺癌による死亡率は、治療の成功率の高さやや癌の進行が遅いため、白血病の死亡率よりはるかに低い。放射線防護上のリスク評価は、Sv当り5×10-4である。
(6)乳房
 放射線による乳癌発現は、女性のみに限られているが、前述したように放射線防護の立場からは、男女平均値としてSv当り2.5×10-3のリスク評価値を用いる。生殖可能期間中の女性の乳房は、放射線感受性が高いようである。
(7)他の全ての組織
 上記の決定器官以外の全組織の放射線発癌リスクは、Sv当り5×10-3を越えない。また、どの単一組織のリスク係数も、この値の1/5を越えないと仮定する。
(8)皮膚
 皮膚は、高線量、高線量率の被曝に伴う非確率的影響の発現する組織であるが、集団の被曝による損害の算定を行う際には、皮膚癌による死亡のリスクも考慮する必要がある。このリスク係数は、皮膚全表面にわたる平均線量当量に対してSv当り1×10-4程度である。
(9)全身均等照射による確率的リスクの合計は、上に述べたリスクをまとめて次のようになる。放射線防護の目的には、放射線誘発癌の死亡リスクは男女および全年齢での平均値として、Sv当り約1×10-2である。遺伝的影響のリスク評価は、被曝を受けた個人から最初の2世代までの間で、Sv当り約4×10-3である。ある集団全体での被曝による全損害の算定には、被曝3世代以降の全世代でのリスクも考慮する必要があり、このリスク評価は、2世代までと同じSv当り約4×10-3である。

2.非確率的影響
 線量当量限度は、放射線の非確率的影響例えば水晶体混濁などのしきい値より低く、非確率的影響は発現せず、リスクは0である(ICRPによる線量限度を参照せよ。)
 ICRP勧告以降も放射線のリスクに関する研究が続けられている。特に広島、長崎の原子爆弾による被爆者の線量再評価が進み、1988年のUNSCEAR(原子放射線による影響の国際科学委員会)報告や、1989年のアメリカBEIR委員会の報告(BEIR-V)などの放射線リスクに関する科学的再評価が行われている。この結果は、従来のリスク評価にも影響を与えると思われる。例えば、 表1 に示すようにUNSCEARのリスク評価値はICRPのものに比べ、幾分高いのが分かる。ICRPでも近い将来、この様な科学的評価を基に、新しいICRPリスク評価を行うことになろう。
 表1にはICRP-26とUNSCEAR'88の放射線発癌のリスク評価の比較を示す。
低LET放射線の低線量、低線量率照射による生涯リスク(10,000人、Sv当り)。UNSCEAR'88のリスクは、ICRPと比較のため、もとの生涯リスク値から全年齢平均値を求め、さらにDREF(2)で補正してある。また、UNSCEARのリスク評価のうち、ICRPの決定器官以外の組織、器官についての値はすべて「その他の組織、器官」にまとめた。
<関連タイトル>
国連科学委員会(UNSCEAR)によるリスク評価 (09-02-08-02)
放射線の晩発性影響 (09-02-03-02)
放射線の遺伝的影響 (09-02-03-04)

<参考文献>
(1)ICRP Publication 26,1977. Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. Annals of the ICRP,1,(3). Pergamon Press,Oxford
(2)Statement from the 1978 Stockholm Meeting of the International Commission on Radiologocal Protection. Annals of the ICRP,2,(1). Pergamon Press,Oxford
(3)Statement and Recommendations of the 1980 Brighton Meeting of the International Commission on Radiologocal Protection. Annals of the ICRP,4,(3/4). Pergamon Press,Oxford
(4)Statement from the 1984 Stockholm Meeting of the International Commission on Radiologocal Protection. Annals of the ICRP,14,(2). Pergamon Press,Oxford
(5)Statement from the 1985 Paris Meeting of the International Commissionon Radiologocal Protection. Annals of the ICRP,15,(3). Pergamon Press,Oxford
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