<本文>
1.核融合炉の安全性の特徴
核融合炉は
核分裂炉と比べて次のような特徴を有している。
(1)核融合炉では
連鎖反応に起因する核的暴走はない。その理由は、プラズマ中に存在するD−T燃料の量は0.1g程度であり、出力が数倍になると燃料不足に陥って温度が低下し、燃焼が継続できなくなるからである。
(2)D−T核融合反応により生成するものは、中性子と安定なHe原子であり、
核分裂生成物や
アクチノイドは生成しない。
(3)問題となる程度の環境放出の可能性がある
放射性物質は、燃料となるトリチウムだが、これは以下の特徴を有する。
・水素の
同位体であるので、移動性、透過性が高い。
・水素と同様に可燃性気体である。
・気体状の場合は人体に取り込まれにくいが、酸化してトリチウム水となると吸収されやすくなるので、
安全評価ではトリチウムは100%トリチウム水として放出されるものとして線量評価を行っている。
・環境中、及び人体内での希釈が早く濃縮することがほとんどない。
・弱いエネルギーのベータ線を放出するだけなので体内被ばくだけが問題となる。
・極微量(100ccの水に約1億個)であるが自然にも存在する。
(4)
崩壊熱密度は低く、その熱除去は比較的容易と考えられる。
(5)核融合炉では、反応しないで残ったTを排気から回収することを核融合炉の付属施設で行うので、別個の再処理工場は不要である。トリチウムのフローがシステム内に存在する。
(6)核融合炉システムは、放射性物質と潜在的なエネルギー源がシステム内に分散して存在する。
核融合炉の安全確保には、このような特徴を十分に反映したものとしている。このような特徴をまとめて言うと、核融合炉においては、「(反応を)止める」、「(崩壊熱を)冷やす」は容易だが、「(放射性物質の)閉じ込め」が主要な点である。
2.核融合炉の安全の中心課題
安全性の中心課題は、
図1にも示すように、次の放射線及び放射性物質に関するものである。
(1)14MeV中性子及びガンマ線
(2)トリチウム
(3)放射化生成物
(1)14MeV中性子及びガンマ線
遮へい設計によって通常運転時及び異常時の、施設周辺の一般公衆及び従事者(放射線業務従事者)等の
線量限度を、適切な遮へい対策により、ALARA(As low as reasonably achieva ble)の精神に則ってできるだけ低くする。その際、特に貫通孔及び間隙等からの放射線ストリーミング対策に配慮する。
(2)トリチウム
トリチウム取扱いの基本方針は次の通りである。
a)各機器・施設内の保有量をできるだけ少なくする。
b)通常運転時及び異常時の炉室内への漏洩量を極力少なくする。
c)環境への漏洩量を極力少なくする。
トリチウム取扱い上の一般的注意を以下に記す。
・トリチウムインベントリーを可能な限り低くするとともに、機器、グローブボックスやセル等格納室を多重格納とすること。
・グローブボックスやセル等、格納室については、必要に応じて換気空調/雰囲気トリチウム浄化系を設けること。
・機器・配管類はトリチウムの漏洩防止を考慮するとともに、必要に応じてトリチウム透過対策を講じること。
・機器・配管類は通常時のみならず、地震などの異常時にも隔離対策などによりトリチウムの漏洩防止を考慮すること。
・トリチウムは可燃性であるから、着火源や酸素の混合比等、トリチウムの燃焼条件が成立しないように設計するとともに、機器などには必要に応じて防爆対策を施すこと。
(3)放射化生成物
放射化生成物の量は多いが、その大部分は金属中に出来るのでその可動化(金属が炉室や環境に移動し得る状態になる)のプロセスに関する対策が重要である。想定される可動化のプロセスとしては、
・第1壁等のスパッタリング、エロージョンなどによる放射化ダストの生成、
・
冷却材への
腐食生成物の溶け込み、
・高温時の酸化等
が考えられている。
放射化生成物対策としては
a)放射化生成物の可動化を防止して炉室内や環境に放散されないようにする。
b)なるべく低放射化材料を使用して核融合炉を構成し、生成量を減らす工夫をする。
3.核融合炉の安全の基本的考え方
安全確保の基本的な考え方としては、核分裂炉の場合と同様に「
深層防護」の考え方を採用している。すなわち、異常時における、公衆及び作業従事者の安全を確保するためには、いわゆる「深層防護(Defense in Depth)」を基本的な考え方として採用することになる。これは、
(1)異常発生の防止
(2)異常拡大の防止
(3)放射性物質放散の抑制
の三つのレベルで安全を確保する考え方であり、安全確保の段階を深層化してその確実性を高めようというものである。
(1) 異常発生の防止
異常発生を防止するためには、QA(品質保証)/QC(品質管理)、使用材料の選定、各種の試験検査、システムの自己制御性、配置設計、立地選定等が重要である。
(2) 異常拡大の防止
異常拡大の防止には、まずシステムの自己制御性、監視系統、及び安全系統の整合性のとれた設計が大切である。また核融合炉システムが分散型であることからサブシステム間の異常の伝播を防ぐことが重要である。すなわち、エネルギー、放射性物質の解放の時定数の増大、あらかじめ決めておいた所への放出(ダンプ)、あるいは隔離、配置設計などにより異常の伝播を適切に遮断することが重要となる。これらの機能は、自然現象等を有効に利用する受動的な安全系(Passive Safety System)や能動的な安全系(Active SafetySystem)を合理的に組み合わせて実現する。
(3) 放射性物質放散の抑制
核融合炉システムにおいて、異常時の放射線影響のうち最も重要なものは、拡散性の高いトリチウムによる影響と考えている。この影響を緩和するには、核融合炉システムにおいて、放射性物質の静的及び動的な閉じ込め機能を備えた格納系が必要である。具体的設計においては、核融合炉システムが分散型であることを反映して、エネルギー及び放射性物質の分布、流れなどを考慮して部分格納の考え方も有効である。
以上に述べた深層防護の考え方に立脚した安全確保においては、各レベルを独立に維持するだけでなく、核融合炉システムの機能、特徴を踏まえて、全体として合理的なバランスを追求した
安全設計が求められる。
<図/表>
<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(4)第一壁工学 (07-05-02-04)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)
核融合炉工学の研究開発課題(9)炉構造・遠隔保守 (07-05-02-09)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
<参考文献>
(1)小澤由行、関 泰:「磁気閉じ込め核融合炉の実現と支える先端技術」安全確保の方法、日本原子力学会誌, Vol.33, No. 1,31−34 (1991)
(2)斉藤正樹:機械の研究、47(1),213(1995)
(3)日本原子力研究所・那珂研究所・炉心プラズマ研究部:核融合をめざして−核融合研究開発の現状1997年、日本原子力研究所(1997年11月)
(4)ジョセフ・ヴァイス 本多 力(訳):「核融合エネルギー入門」文庫クセジュ(2004)