<大項目> 基礎基盤研究および先端的研究
<中項目> 原子力利用分野拡大に関する研究開発
<小項目> 新概念の原子力システム
<タイトル>
PRISM (07-02-01-05)

<概要>
 PRISMは米国アルゴンヌ国立研究所ウェスト(ANL-West、アイダホ州)が中核となり、1980年代から90年代にかけて開発を進めた高速炉である。米国の高速炉計画(ALMR/IFR計画)は米国議会の決定によって1994年に中止となったが、その後も米国GE社は研究開発を進めた。GE Hitachi Nuclear Energy社(GEH)は2009年3月に、自社が提案している先端リサイクル・センター(ARC)と組み合わせたPRISMの設計申請を、2011年半ば又は2012年には原子力規制委員会(NRC)に提出する予定であることを公表した。ここでは、ALMR/IFR計画の中で行われたPRISM開発について述べるともに、PRISMに関する最近の動向をまとめた。コスト低減の観点からPRISMでは、格納境界となる中間熱交換器を除いた中間熱輸送系以降は非安全系とし、習熟技術を適用している。原子炉構造・機器、原子炉保護設備、崩壊熱除去設備、非常用電源設備、及びタービン/発電機設備に従来の高速炉とは異なる設計上の特徴を持っている。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
 PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)は米国エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所ウェスト(ANL-West、アイダホ州)が中核となり、1980年代から90年代にかけて開発が進められた高速炉である。研究開発は国のALMR/IFR(Advanced Liquid Metal Reactor/Integral Fast Reactor)計画の一環として行われた。NRCの申請前安全評価報告は1994年2月に提出された(NUREG-1368)。しかし、同計画は米国議会の決定により同年、中止となった。ただし、同報告はPRISMの設計には明らかな欠点は認められないとしている。
 議会による開発中止決定の後も米国GE社は研究開発を進めた。GE Hitachi Nuclear Energy社(GEH)は2009年3月に、自社が提案している先端リサイクル・センター(ARC)と組み合わせた使用済み核燃料の利用を強調するPRISMの設計申請を、2011年半ば又は2012年にはNRCに提出する予定であることを公表した。ここでは、ALMR/IFR計画の中で行われたPRISM炉について述べるともに、最近のPRISM開発の動向をまとめた。
1.ALMR/IFR計画におけるPRISM
 PRISMは、安全性・信頼性の向上、建設コストの低減、運転の簡素化などを狙った革新的な高速炉である。初期の設計では、熱出力471MWtの原子炉3基を1台の蒸気タービンに接続して発電を行うことが考えられていた。その標準プラントは、発電容量480MWeのパワーブロック3つ(合計1440MWe)で構成されていた。最適化研究を実施した結果、1993年に、受動的安全性の特長などを保持したまま、原子炉単基の出力をほぼ倍増させて熱出力を840MWtとした。この原子炉2基を1台の蒸気タービンに接続して、パワーブロックを構成する。標準プラントは3つのパワーブロック(電気出力は1866MWe)で構成される。地震防護対策として、NSSS(原子力蒸気供給システム)全体の免震を採用している。
 PRISMは、炉心・原子炉構造、原子炉保護設備、崩壊熱除去設備、非常用電源設備、及びタービン/発電機設備に以下のような設計上の特徴を持っている。
1.1 炉心・原子炉構造
 図1に原子炉構造の鉛直断面図を示す。原子炉モジュールは、直径9.6m、高さ19.5mであり、原子炉容器、格納容器、内部の永久構造物、上部の蓋より構成され、これらは工場で組み立てられ、現地に輸送される。
 炉心、中問熱交換器、1次主循環ポンプなどを収納したタンク型炉である。炉心はバーナー炉心(プルトニウム燃焼炉心)が標準で、転換比は0.8である。図2に炉心構成を示す。10本の制御棒と3本の最終炉停止棒を持っている。通常運転時の炉心出入口温度は、それぞれ499℃、360℃である。1原子炉当たりの中間熱交換器の数は2基で、水平断面の形状は、原子炉容器の径を小さくするために非円形としている。1次主循環ポンプの数は4基で、電磁ポンプを採用している。
1.2 原子炉保護設備
 従来の高速炉設計では設計基準を越える事象であるが、異常な過渡変化時に原子炉スクラムに失敗する事象(ATWS:Anticipated Transient Without Scram)に至った時の影響が軽水炉に比べて大きいと予想されることから、原子炉停止系の信頼性を図る上で、急速自動原子炉停止系を2系統備えた設計としている。しかし、PRISMでは安全クラスの動的原子炉停止系は1系統であり、第2の原子炉停止系は金属燃料炉心の固有の安全性を活用した静的炉停止としている。静的炉停止とは、ATWS時においても、熱伝導が良い金属燃料は燃料平均温度が上昇することで大きな負の反応度が投入され、核分裂連鎖反応が低出力で整定停止する現象を意味する。NRCの安全評価でも指摘されているが、静的炉停止では高温で整定するため、最終的には低温停止に移行させる必要があり、そのための手動操作による最終炉停止装置(Ultimate Shutdown System)を備えている。
 PRISMは10本の制御棒を有する。この制御棒を操作する動的原子炉停止系は、安全クラスのRPS(Reactor Protection System)と非安全クラスのPCS(Plant Control System)より構成される。互いの制御関係では、RPSの方が上位に位置する。PCSとRPSの概要は次のとおりである。
(1)PCS:プラント全体の制御を行うシステムである。原子炉スクラム時の熱過渡を緩和することを狙い、中間熱輸送系を含むこれ以降のシステムに起因する、運転様式とプラントの運転過渡時対応事象(duty cycle event)が発生した場合には、出力/流量比をほぼ一定に保ちつつ、シムモーターを用いて制御棒をゆっくりと挿入し、原子炉出力を低下させるfast runbackと呼ばれる操作を行う。
(2)RPS:安全保護系の信号により、制御棒を落下させ原子炉を停止する。スクラム論理回路以降は各制御棒は独立な設計となっている。ラッチの解放と同時に挿入モーターの起動も行い、何等かの原因で制御棒が途中で止まっていても全挿入できる機構としている。
 原子炉停止系ではないが、シビアアクシデントの発生頻度をさらに低減するために、GEM(Gas Expansion Module)とRod Stopperを設けた設計としている。GEMは、1次ポンプの吐出圧変化でガスを収縮・膨張させる機器で、冷却材ボイド反応度が負の集合体位置に6基設置されている。LOF(Loss of Flow)時には膨張により、負の反応度が投入される。Rod Stopperは、制御棒の最大引き抜き位置を制限するもので、TOP(Transient over Power)時に投入される反応度を制限する。
1.3 崩壊熱除去設備
 PRISMでは、以下の3つのシステムにより、崩壊熱を除去する設計としている。
(l)常用の水/蒸気系による除熱(非安全系、動的)
(2)蒸気発生器(SG)の胴を介した自然通風除熱:ACS(Auxiliary Cooling System)(非安全系、静的)
(3)原子炉安全容器を介した自然通風除熱:RVACS(Reactor Vessel Auxiliary Cooling System)(安全系、静的)
 図3にRVACS(炉容器自然通風冷却型崩壊熱除去系)の空気流路構成などを示す。RVACSは静的システムであるが、安全容器からの熱放射を利用するため、ある程度高温プレナムの温度が上昇しないと必要除熱量に達しない。瞬時2次系断熱事象の解析結果によれば、この時の高温プレナム最高温度は約570℃である。設計基準内の安全評価で安全系の機器・系統のみしか期待できないとすると、PRISMの場合、ほぼ全ての事象でこの温度に到達すると考えられる。ただし、この条件でもわが国の実証炉設計用の状態3までの出口配管部(ホットレグ)目安温度制限値は満たされている。
1.4 非常用電源設備
 PRISMでは、静的安全性を活用することで、動的な安全系設備を簡素化する設計としている。そのため、安全系に給電する非常用電源設備も小規模なものとなっている。安全系の電源設備を以下に示す。動的な非常用交流電源は備えていない。
(1)RPS(炉保護システム)用無停電直流電源
(2)バッテリーより供給される交流電源(非常用オイルポンプ、安全系計測制御用など)
(3)1次電磁ポンプフローコーストダウン制御システム(下の注を参照)
(4)制御棒挿入モーター駆動用直流電源
(注)フローコーストダウン:運転中の高速炉で異常が発生した場合には制御棒が急速に挿入され、炉心出入口の冷却材に過渡的な温度差を生じて周辺構造材に大きな熱衝撃を与える可能性があるので、ナトリウムポンプを停止させる。しかし、熱過渡現象を緩和し構造材を保護するためには、ポンプ停止後もしばらくの間、冷却材を流し続けることが必要であり、これをフローコーストダウンという。現在では、従来の機械式とは異なり、円滑な流量制御の可能な電磁ポンプが開発されている。
1.5 タービン/発電機設備
 パワーブロックごとに1台のタービン発電機を有し、これに2基の原子炉モジュールが接続されている。原子炉モジュールは、給水調節弁と主蒸気隔離弁を境としている。中間熱輸送系までの原子炉モジュール側の故障に対しては、当該モジュールのみを停止し、N-1モジュール運転を行う設計としている。
 共通要因故障としては、各原子炉モジュールの水・蒸気系の異常による、他原子炉モジュールの圧力変化、主給水系、主蒸気系、蒸気タービン並びに負荷変動、パワーブロックコントローラの異常などがある。こうした除熱異常事象は、中間熱輸送系瞬時断熱事象に包絡できると考えられ、安全面からタービン共有化は問題にならない。共通要因故障の代表事象としては、全原子炉モジュールに影響の及ぶ36時間の全交流電源喪失が課されている。メンテナンスの観点からは、タービン/発電機の保守・補修時には、パワーブロック単位での計画停止となる。
2.PRISM開発に関する最近の動向
 GEH社が2009年6月にDOE及び米国議会に提案したPRISMでは、燃料の95%を軽水炉の使用済燃料(金属プルトニウム及び劣化ウラン)とし、自社の先端リサイクルセンター(ARC)と組み合わせて運転するものとしている。また、燃料中にはすべての超ウラン元素が含まれる。設計上の特徴は簡素化であり、例えば残留熱の大気中への放出、能動的安全システムの除去、ポンプから可動部品の除去等が挙げられている。燃料は炉内に6年間保持されるが、2年ごとに1/3ずつが交換される。転換比は0.8である。建設期間は事前許認可設計や標準化モジュールや工場における組立等により36ヵ月と短期間である。一基のPRISM電力ブロックで622MWe(311MWe×2)の電力を発電する。図4にGEH社のPRISMパワーブロック概略図を示す。GEH社はNRCへのPRISM設計申請を2011年半ばあるいは2012年に提出する予定である。
 上記のPRISM建設計画に加えて、PRISM原型炉をDOE傘下のサウスカロライナ州サバンナリバーサイトに建設する動きもある。GEH社とサバンナリバー・ニュークリア・ソリューションズ(SRNS)は2010年10月、PRISMの設計についての覚書に調印した。この覚書はPRISMの設計認証と299MWの炉の建設をサバンナリバーで行うことについてNRCと検討を継続することとしているが、サバンナリバーは連邦政府の所有地であるため、NRCの通常の許認可過程に全面的には従わずに建設することも可能であるという指摘もある。なお、SRNSは、Fluor社、Northrop Grumman社及びHoneywell社が共同参加している企業である。
<図/表>
図1 原子炉構造の垂直断面図
図2 炉心構成
図3 RVACSの空気流路構成
図4 GE Hitachi社が計画中のPRISMパワーブロック概略図

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<関連タイトル>
IFR(一体型高速炉)/MFC(金属燃料サイクル)の開発の現状 (07-02-01-04)

<参考文献>
(1)P. Magee, C. Cockey, A. Dubberley, A. Lipps and T. Wu:Performance Analysis of the 84 0MWt PRISM Reference Burner Core, Proc.3rd JSME/ASME Joint Inter. Conf. on Nucl. Eng., Apr.23-27, 1995, Kyoto, Japan
(2)M. R. Patel and W. Kwant:ALMR Reactor Design for Actinide Burning, Proc. of 3rd JSME/ASME Joint Inter. Conf. on Nucl. Eng., Apr.23-27, 1995, Kyoto, Japan
(3)R. C. Berglund. et al.:Performance and Safety Design of the Advanced Liquid Metal Reactor, Proc. of Inter. Conf. on Fast Reactor and Related Fuel Cycles, Oct.28-Nov.1, 1991, Kyoto, Japan
(4)R. Tupper, et al.:Reactivity Control and Shutdown System for the U. S. ALMR. Proc. of Inter. Conf. on Fast Reactor and Related Fuel Cycles, Oct.28-Nov.1, 1991, Kyoto, Japan
(5)A. Hunsbedt, et al., ALMR Shutdown Heat Removal Operation under Degraded Condi tons, Proc. of Inter. Conf. on Fast Reactor and Related Fuel Cycles. Oct.28-Nov.1, 1991, Kyoto, Japan
(6)”General Safety Design Criteria for a Liquid Metal Reactor Nuclear Power Plant”, ANSI/ANS-54.1-1989
(7)”Draft Preapplication Safety Evaluation Report for Power Reactor Inherent Safe Module Liquid Metal Reactor”, NUREG-1368,(1989)
(8)W. K. Wagner, et.al.:Design of a Fast Runback Feature for PRISM Control, Safety of Next Generation Power Reactors, May1-5, 1988, Seattle, U.S.A.
(9)GE Energyホームページ,

(10)World Nuclear Associationホームページ,
http://www.world-nuclear.org/info/inf33.html
(11)米国原子力規制委員会ホームページ,
http://www.NRC.gov/reactors/advanced.html
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